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第3章:君は居る、わたしはルーイ(2)

 リバスタリエル帝国は大きい。領土も、国力も、戦力も。

 これだけ大きい国なら、人も多い。人の数だけ諍いも起きて、不満はたまってゆく。そんな臣民のストレス発散に、いつかの皇帝がおっ立てたのが、このコロシアムだ。

 報奨金目当てに集う猛者。騎士に取り立ててもらう事を夢見て飛び込む冒険者。そして、帝国が侵略した国から連れてきた捕虜を中心とした奴隷剣闘士。様々な戦士達が、お金を、あるいは地位を、あるいは自由を目指して戦う。

 観客達は、対戦する戦士の誰が勝つか、賭けを行う。お金が飛び交う事でコロシアムは潤い、人々のストレス発散にもなる。


「お前が皇帝になった時、このコロシアムをどうするかは、お前が決めると良い」


 対戦相手に斬られて大怪我を負い、担架に乗せられ運ばれてゆく冒険者を見ながら、皇帝は言う。


「お前なら、この血生臭い施設に代わる娯楽を見出せるかも知れぬと、儂は期待しておるぞ」


 そうか。帝国にとってコロシアムは、えーと何て言うんだっけ、あああれだ、必要悪な訳だ。

 フラグ回避の為にはさっさと取り潰したいとこだけど、これだけ多くの人が一斉に鬱憤を晴らせる場所の代わりになる施設って、何だ? アイドルでも歌わせるか?

 口元に拳を当てて考え込んでしまったわたしを、皇帝は、アーリエルーヤが本気で思案していると受け取ってくれたらしい。こちらを向いて、ゆるりと微笑む。


「そうやって真剣に考え込む姿も実に愛らしいな。本当にお前は、儂の跡継ぎの『光吟士』として、立派に育ってくれたものじゃ」


 はいお父様。そこでさり気なく惚気を混ぜ込んでくるのやめましょう?

 これが「向こう」だったら、貴方のデレッデレ言動は『萌えキャラ』だって言われちゃいますよ。可愛いおっさんは、最近人気ですからね。


 とか何とか言いつつ、わたしも近頃はこの父皇帝に絆されつつある。

 破滅フラグ全力回避の一環というのもあるが、「アーリエルーヤ」がすぐには皇帝にならないように、長生きして欲しい、とまで思っている。

 それに何と言うか、親に大事にしてもらえるのも、悪い気分ではない。

「わたし」には、何かにつけて人の揚げ足取って、ヒステリックに怒鳴ってくる母親と、見もしないテレビをつけて新聞で顔を隠し、我関せずを貫く無責任な父親。その記憶しか無いから。

 くすぐったい感じもするが、嬉しくないって言ったら、嘘になるんだよね。


「さーあ! お待たせしました観客の皆様! 本日の大一番!!」


 コロシアムの司会が大声を張り上げて、観客がわっとわいた事で、わたしの意識は現実に返ってくる。


「流浪の大剣士コゼ・バートラムが挑むは、現在無敗の奴隷剣闘士! 我らが帝国騎士団が東方遠征の際に捕らえてきた若き達人、『無銘』!!」


 ……えっ。

 あっ。

 マジで?


 後者の呼び名を聞いたわたしが完全に固まる前で、名前の主が姿を現す。

 背はそんなに大きくない。東方諸国の人間は、その小柄さを活かして敵を翻弄する戦い方が得意だから。

 そして、その人物を特徴付けるのは、東方の人間のほとんどが有する黒髪黒瞳ではなく、明るい銀髪と、血をそのまま映し込んだような、赤い瞳。


 ナダ。


『セイクリッディアの花輪』では、その名前になる少年が、遂にわたしの前に姿を見せた。

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