表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/62

第2章:ヒールじゃなくなったんだからヒールは要らなくない?(7)

 またも場に静寂が落ちる。その間に、わたしは彼女の靴を放り出し、自分の靴も脱ぐと、同じようにヒールをバキバキにする。

 そして。


「お父様!」


 良く通るアーリエルーヤの澄んだ声で、凍った空気を貫いた。


「わたくし、踊っていて思いましたの。女性ばかりが、このように動きづらい服や靴を強制されるのは、よろしくないのではなくて?」


 失敗してはいけない。皇帝を怒らせないように慎重に言葉を選びながら、しかし確実にわたしの気持ちが届くように、先を続ける。


「踊りが上手い下手で家柄や人柄が決まる訳ではありませんわ。ましてやそれを笑いものにするなど、もってのほか! 今後は女性も身軽に過ごせる格好を解禁した方が、誰もが宴を楽しめると思いますの!」


 視線の先で、椅子に座った皇帝は、銀の瞳を見開いて絶句している。さあ、どう出る「お父様」? 五年間溺愛した娘の主張に、どう反応する!?

 やがて皇帝は、肘掛けに置いた手をぷるぷる震わせたかと思うと。


「アーリエルーヤちゃーーーーーん!!」


 がばりと席を立って、わたしに駆け寄り、ぎゅむむむむーっと抱き締めてきた。


「怪我を負わせた相手を怒るでなく、気遣いまでするとは! 流石は我が愛娘! 儂の天使!!」


 やばいやばい。お父様、下着が胸に食い込んでおります。本当に締まってます死ぬ死ぬ。

 貴方はめっちゃ笑顔だけど、わたしは笑っている場合ではない。


「お前の言う通りだな。これからは、公式の場での女性の服装を改めさせよう。そうと決まれば明日、いや今夜にも、国中の服飾師に、衣装改造の触れを出さねばな!」


「う、嬉しゅうございますわ、お父様……!」


 何とかその言葉を吐き出して、視線を横に転じる。処刑されない、とまだはっきりわかりきっていないのだろう。震えていた少女は、唖然と目を瞠ったまま、完全に固まっている。


 安心しなよ。

「わたし」と同じ思いを、貴女にはさせないから。


 上手く微笑めているだろうか。それだけを思ったまま、わたしは意識を手放した。


 次に目が覚めた時は、そろそろ慣れてきた寝室のベッドの上で翌朝を迎えていた。

 ヘメラが伝えてきたとこによると、皇帝は本当に昨夜の内に、国中の服飾師にお触れを出したらしい。曰く、今後はヒールの靴を廃止して、矯正下着も無し。もっと動きやすい服装を考えろ! と。


 結果、数ヶ月後には、淑女の皆さんは、気絶したりずっと背筋を伸ばしていないといけないような服から解放されて、自由に踊れる格好を手に入れ。

 アーリエルーヤ(わたし)は、パーティでの鮮烈な印象から、『烈光の皇女』の異名を戴いた。

 ……うーん。

 悪い意味でついた名ではないけど、ちゃんとフラグ回避してるのか、これ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ