新入生と入学祝いです3
「雛、今年からクラスに男子がいるが大丈夫そうか?」
「・・・まだ大丈夫じゃないです」
「そうか、何かあったら俺の所に来いよ」
「はい!でも、いつまでも流さんにご迷惑をかけるわけにはいかないので、お話しできるように頑張ります」
「おう。ヨシキが言うに皆良い奴らしいし、心配ないとは思うが頑張れよ」
流はそう言って雛の頭を撫でた。
これから先、ずっと雛に付きっ切りというわけにはいかないだろうが、本当は心配なのだろう。
「私も雛ちゃんが男子と話せるようにお手伝いします!」
「ありがとう早苗ちゃん」
「んじゃまず、俺たちと普通に話す特訓からだな!」
真が雛に話しかけると、雛はビクッとして流の腕にしがみついた。
「・・・真」
「・・・ごめん」
呆れて言う流に真は謝罪した。
「だが真の言うことも一理ある。雛、真や岳とは普通に話せるようになっておいた方が良いと思うぞ?その時は俺も一緒にいるから」
そう言う流に雛は頷いた。
「岳もいいか?」
そう聞いてきた流に俺は頷いた。
トスッ
その時、俺の肩に重みがかかり見てみると、フォークを握ったままのリアが俺の肩に寄りかかり寝息を立てていた。
おそらくケーキを食べて眠くなったのだろう。
「すまない、リアが寝てしまったから今日はここまでにしても良いか?」
「そうだな、今日はこのへんで解散としますかね」
ちなみに、俺たちが帰ろうと席を立つまで、ルーミアはケーキを食べ続けていた。
その小さな身体のいったいどこにそれだけのケーキが入るのだろう。
流石は妖怪・・・なのか?と俺は密かに思った。
ケーキバイキングの支払いを終えた俺たちはその場で解散となった。
入学祝いだから、早苗、リア、そしてルーミアの3人分は俺が支払うと言い、みんなでレジに向かった時、店の人から「そちらのお客様のお代は結構ですので、大変申し訳ありませんが、今後その子の入店はお控え頂きたいのですが・・・」と頭を下げられた。
店側にとっても思わぬ損失だったのだろう。
「すまないな。早苗」
真たちと別れた俺は、リアをおんぶして家へと向かっていた。
俺の鞄とリアのランドセルは早苗が持つと言ってくれたので、今は彼女が持っている。
「いえいえ、気にしないで良いですよ」
家に着いた俺はポケットから鍵を取り出すと、家の中に入る。
「それじゃあ先輩、また明日会いましょう」
玄関に鞄とランドセルを置いた早苗が帰ろうとしたので俺は呼び止めた。
「早苗、リアを部屋で寝かすからちょっと待っててくれ」
「え?はい」
俺はリアが起きないようにベッドに寝かせると玄関へと戻った。
「ありがとうな。もうだいぶ暗くなったから、俺も家まで送って行くよ」
「え!?でも、先輩の家から遠いですよ?私の家」
「むしろ家から遠いのにここまで来てくれた早苗に悪い。1人で帰らせるのは心配だから一緒に行かせて欲しい」
「っ!?はい!わかりました!」
そうして俺は早苗と共に、早苗の家まで向かった。
早苗の家は神社だった。
鳥居には守矢神社と書かれていた。
こんなところに神社があったんだなと思いながら俺は鳥居を抜ける。
「こんな遅くまですみません」
守矢神社に着くと、早苗は戸の前で俺に頭を下げた。
「良いって、気にするな。それじゃあな」
俺は早苗に手を振り神社を後にした。
「・・・やっぱり先輩は優しいですね。自覚はないと思いますけど。たぶん私は、そんな先輩だから好きになったんですね」
岳の後ろ姿を見ながら早苗は1人呟いた。
「・・・お腹いっぱい」
家に戻り俺が作った夕食を、起きてきたリアが見ている。
箸にも手を付けずにジッと夕食を見るリア。
ケーキを食べ過ぎたのだろう。
「ケーキだけでお腹がいっぱいになるまで食べるからだ。量は減らしているんだからちゃんと食べなさい!」
「いや!」
「食べなさい!」
「絶対いや!」
「・・・はぁ」
俺はリアの言葉に頭を抱える。
こうなったリアはまったく聞く耳を持たない。
しかし、ここで引き下がるのは教育上良くないし、元はと言えば俺が今までリアを甘やかし過ぎたのが原因だ。
・・・なので仕方がない、別の人の力を借りよう。
「・・・それじゃあ明日、慧音先生にリアがケーキ食べて晩御飯食べない悪い子なんですって言っておかないとな」
「え!?頭突きいや!ご飯食べるからぁ!言わないでぇ!!」
焦った様子のリアが自分からご飯を食べ始めた。
これを言うと俺も先生に頭突きされそうだが、やはり初等部は先生に弱いのだなと改めて感じた。