プロローグ3
学園長の長い酒話を聞き、続いて行われた着任式で新人教師の紹介が終わると、俺たちは教室へと戻った。
「なぁ、お願いがあるんだが」
戻っている最中、流が声をかけてきた。
「どうした?」
「この後時間とれるか?付き合って欲しい場所があるんだ」
始業式の後はホームルームだけで終わりだ。
「なんだ?付き合って欲しい場所って」
「雛に入学祝いのプレゼントがしたいんだが、あいつが喜びそうなもんがわからなくてな。そこで岳に協力してもらおうと思ったんだ」
流が言っている雛とは鍵山 雛という少女で、流とは幼少の頃からの付き合いなのだそうだ。
この学園に流が入学したのも雛が心配だったからと言うもの。
俺も流から雛を紹介されたことがあるので知っているのだが、彼女は大人しく、男性に対して距離を置いているイメージがあった。
その雛が唯一懐いているのは流だけなので、2人の仲の良さが伺える。
「おう、良いよ。ただ、リアを連れて帰ってからで良いか?」
「あぁ、助かる」
「俺には頼まねぇのかよ?」
俺と流の話を聞いていた真が口を開いた。
「真はな、選ぶものがな・・・」
「 おい!どう言う意味だよ!!」
そう言う真に俺と流は笑いながら教室に入ったのだった。
「よし、それじゃあホームルームを始めるぞ」
担任の神奈子が2年生としての心構えを持つこと、明日の入学式についての説明をしている。
隣には副担任の諏訪子もいた。
神奈子は紫がかった青髪のセミロングに小さな注射縄が首や袖、腰とあらゆるところに巻かれているのが特徴だ。
体育を担当しており、生徒たちから体力馬鹿と言われている。
諏訪子は金髪のショートボブに頭には目が付いた市女笠をかぶっている。
背はそれ程低いというわけではないのだが、どうも子供みたいな印象を与えている。
明日からは通常通りの授業らしいので弁当を作る必要がある。
学園には学食や購買部があるが、基本俺は弁当を持参している。
リアと家に帰って流のプレゼント選びに合流して、それが終わったら俺とリアの弁当を作らないと・・・と考えているうちに神奈子の話は終わっていた。
「よし、これで先生からの話は終わりだ。それじゃあ気をつけて帰れ。あと、岳はこの後職員室に来るように」
「はぁ!?」
思わず大きな声を出した俺を神奈子が見る。
「いいな?必ず来いよ?」
「絶対だぞ!」
神奈子と諏訪子がそう言い教室を出ると、殆どの生徒は鞄を持って教室を出て行った。
俺も鞄を持ち、席を立った。
「それじゃあ流、俺はリアを迎えに行くから場所はスマホで教えてくれ」
「職員室に行かなくて良いのか?」
「どうせいつもの話だから。それじゃ後で」
そう伝え、俺はリアを迎えに行った。
神奈子と諏訪子が俺を職員室に呼んだ理由はおそらくいつもの『お話』のためだ。
『お話』とはその名の通り話をするのだが、毎回同じ話なので正直うんざりしていた。
内容はこうだ。
『さ、婿になる気になったか?』
会うたびにこの『お話』をされる。
2人の先生は妖怪ではなく、神なのだが、この神たちが娘のように大事にしている少女がいる。
名前は東風谷 早苗。
俺より1つ歳下の現人神だ。
現人神は人間の姿として現れた神であるらしい。
2人の神から早く早苗の婿になれといつも急かされて大変なのである。
そもそも何故こんなことになったのか。
理由はここから近いところにある大型ショッピングモールで男たちに言い寄られて困っていた早苗を助けたことが始まりだった。
当時俺は中学生で幻想郷学園とは別の中学校に通っていたが、男に言い寄られ困っていたのを見過ごせず助けたのだ。
助けられた早苗は頭を下げながら名前やお礼をさせて欲しいと言ってきたが、俺は『名乗るほどのことはしてないよ』と言ってその場を去った。
今思えば少し恥ずかしい出来事である。
そして俺が高等部となり幻想郷学園に入学した時、早苗と再会した。
それまで覚えていなかったが、学園で会った時思い出し、以降早苗から先輩として慕われるようになった。
ここだけ見ると可愛い後輩なのだが、実はある問題の引き金になった人物でもある。
助けた時早苗は感謝とともに恋心を抱いたらしく、それを知った神たちは俺と早苗をくっつけようとしつこく付きまとってくるのだ。
さすがに早苗も迷惑しているのではと思い、その事を本人に話したことがあったのだが、彼女の返答はこうだ。
『え?だって私先輩のことお慕いしてますもん!神奈子様と諏訪子様も私と先輩の将来を考えてくださってのことなんですよ』
「はぁ・・・早苗のことは嫌いじゃないし、可愛いんだけど、いきなり過ぎるというか・・・」
もちろん好意を持たれるのは構わないのだ。
助けたことも後悔していない。
ただ、婿になれと言うのはいきなり過ぎると感じる。
それに、まだ18歳ではない俺が同じく18歳ではない早苗と結婚することは法律上出来ない。
ただそれを言うと『じゃあ私が18歳になったら式をあげましょう!』と言われそうなので言わないでおく。