1【プロローグ】
金色の花びらが燃えながら宙を舞っている。
花だけではなく、大切にしていたものが大きな音を立てて崩れていく。
「お父様、お母様……?」
まだ幼い少女にとって、目の前に広がる光景はとても残酷なものだった。
「フィー! どこにいるんだ!?」
そんな少女を必死に呼ぶ声が聞こえる。
「お、兄様……」
「あぁ、本当によかった。フィー、よく聞くんだ。ここはもうだめだ。前に兄さんが言ったことを覚えているか?」
少女と同じ輝くような金色の髪をした少年はあちこち怪我をしており、服には燃えたような痕跡が見られた。
「前に言ったこと? ねぇ、お兄様、お父様たちは……? どうしてこんなに燃えているの……? どうしてお兄様は怪我を——」
「フィー、説明している時間がないんだ。私たちに何かが起きた場合どうするか覚えているか?」
「えっと、シヴェイアンに行きなさいってお母様が……」
「そうだ、フィーは今からそこへ向かうんだ。乳母と騎士たちが一緒に行ってくれる」
少年は少女の隣にいた乳母に「フィーのこと、どうか頼む」と声を掛ける。乳母は涙を流しながら頷いた。
「待って、待ってよ……お兄様は? お兄様は一緒に行かないの?」
「……すまない、私にはまだやることがあるんだ」
少年はそう言いながら、一番大きく燃えている建物を見た。
「——様、もう時間がありません! お急ぎください!」
騎士が少年に声を掛ける。
「嫌だよ、一人にしないでよ……」
少女の頬に涙が流れる。少年はその涙を優しく指で拭った。
「大丈夫、すぐに追い付くから。フィーを一人になんてさせないよ。兄さんが約束を破ったことがあるかい?」
「だめだよ、そういうの、"しぼうふらぐ"っていうんだよ……」
「ははっ、まったくもう……フィーはこんな時にまでまたおかしなことを言うんだね。大丈夫、兄さんの魔法のすごさは知っているだろう?」
「そうだけど、でも……絶対、絶対に迎えに来てね? お兄様も、お父様も、お母様も……待ってるから」
少女の言葉に少年は一瞬悲しそうな表情をしたが少女がそれに気が付くことはなかった。