8.初めての依頼
切るところが分からなく5000文字を超えてしまい、更にストックも尽きてしまいました……
恐らくこれから週3くらいの投稿頻度になると思います。ご了承ください。
朝になり目が覚める。もう日が昇ってからそれなりに時間は経っていそうだ。1の鐘はとっくに鳴っているだろう。1の鐘というのは早朝の門を開ける時に鳴らす鐘だ。街暮らしの人はこの音で起きる人が多いらしい。他にも2の鐘、3の鐘とある。2は丁度太陽が真上に来るお昼に、3は門が閉まる夕暮れに鳴らされる。1の鐘は6時、2で12時、3で18時だ。この世界1日は前世と変わらず24時間で時計なんかもあるのだが持っている人は少ない。鐘だけで十分だと思っている人が多いということだろう。調合師や錬金術師なんかは時間を計るため持っている場合が多いとか。
話が逸れてしまったが結局のところ寝坊したということである。私は急いで服を着て食堂に向かう。食堂に着くと数組いるだけで夜と違い空いていた。マスターが気づきこちらに来る。
「遅かったじゃないか!寝坊したか?」
マスターがニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。
「はい、疲れてまして」
「そうかい、マリナからお前さんのことを聞いたよ、娘と友達になってくれてありがとよ、小さい頃から宿で手伝いさせてたせいで友達が少なかったからな、仲良くしてやってくれ」
マリナちゃんはこのマスターの娘だったようである。
「もちろんです!」
「おし、それじゃあ朝食持ってくるぜ、せっかく娘に友人が出来たのに早々に死なれたら困るからな」
マスターはそう言って笑いながら厨房の方へ戻っていった。
ほどなくして朝食が来たため食べていく。魚の塩焼きにお米と日本食に近い朝食で私は舌鼓を打つ。この世界には醤油があるようだ。ファンタジー物だとお米や醤油はないことが多いため意外だった。家では醤油なんてなかったしずっと米ではなくパンだったので知らなかったのだ。
食べ終わりギルドに向かう。北区にある宿屋から南区の冒険者ギルドはそこそこ距離があり移動に時間がかかるため早足で歩いていく。ギルドに到着したが冒険者は少ない。銅級のクエストボードを見ていく。恒常依頼を除けば5枚しか残っていない、やはり遅かったようだ。
「どれがいいかなー」
私は1枚1枚吟味していく。恐らく残っている依頼は報酬が少ないのだろうが選り好みできる状況でもないため仕方ない。討伐依頼が2つ、採取が1つ、街中の雑用が2つだった。街中クエストを受けることを昨日決めていたので実質2つである。内容を見比べてみる。
教会の清掃
報酬:銅貨5枚
下水道にいる鼠退治
報酬:鼠1体につき銅貨2枚
上限:小銀貨3枚
「稼ぐなら鼠退治か……うーん、でも午後から服や防具買うのに下水の臭い漂うのはやばいかも」
私は鼠退治を諦め、教会の清掃の紙をクエストボードから剥がし受付に向かう。丁度ニアさんがいたためそこに持っていく
「すみません、これをお願いします」
「遅かったですね、今日はもう来ないかと、えーと教会の清掃ですか報酬が安いため受ける人が少ないのでありがたいです、教会がどこにあるかご存知ですか?」
「いえ、知らないです」
私がそう言うと場所を教えてくれた。東区の外れの方にあるらしい。ギルドを出て東区に向かう。それとギルドを出る前に服屋の場所をニアさんに聞いておいたので清掃が終わり次第そちらに行く予定だ。東区は住宅街で街並みを見ているだけで楽しめる。たまに散歩するのも良いかもしれないと思うのだった。
そんな風に考えている内に教会が見えてきた。外観は前世のキリスト教の教会に似ている。女神レティシエルを創造神として崇める神聖教の教会だ。神聖教はこの大陸では広く浸透しておりアルバス王国の国教ともなっている。私は教会に入ろうとしたとき丁度シスターらしき人が出てきた。
「参拝の方ですか?どうぞ気軽に入ってくださいね」
「えーと、ギルドの清掃の依頼です」
「そうでしたか!今日はもう来ないかと、すみませんね」
「いえ、大丈夫です、依頼の詳細を教えてください」
そう言ってシスターさんといくつか依頼のことで話し合い、私はすぐに清掃に入る。シスターさんは食材の買い出しに行くとのこと。清掃をギルドに依頼したのはもう1人のシスターが病気で動けないため人手が足りないんだそうだ。掃除の場所は教会の裏手にある孤児院になる。孤児院の1階を掃除して欲しいのだとか。2階の方は子供達の部屋なので子供達にやらせるらしい。確かに女神像が置かれており、住民の参拝者が来る教会の方は私が掃除するとこないほど綺麗にしてある。
私は奥に進み孤児院を見る。2階建ての木造の建物だ。協会に比べて随分ぼろいというのが第一印象だろうか。老朽化でやばそうだが私は大工ではないためどうしよもない。せめて出来るだけ綺麗にしようと意気込み、雑巾で拭いていく。
2時間ほど経っただろうか。シスターも途中で帰ってきており、2の鐘が鳴ったらご飯だからその時になったら呼びに来ると言っていたが、既に2の鐘がなって10分以上は経っている。そして今にして思えば孤児院なので子供がいるはずなのに私が来た時からやけに静かだ。胸騒ぎがし、私はシスターを探す。
「シスター!!何かありましたか?」
返事は返ってこない。何かあったのだと察し私は1つ1つ部屋を開けていくが見当たらない。2階にも上がり部屋を開けていく。2階は3部屋あるようで手前の2部屋にも居なかった。これが最後の部屋だ。
「シスター!!」
私は勢いよくドアを開ける。そこで見たものは胸にナイフが刺さって倒れているシスターだった。
「えっ……」
私はシスターが血だらけで倒れているのを見て呆然と立ち尽くす。そんな隙をシスターを殺した者が見逃すはずもなかった。何者かが私の背後から首に手刀を当てる。私はそこで気絶する……はずだった。
少なくとも私に手刀をくらわした者はそう思っていたはずだ。私は背後からの手刀で前のめりになっていたところで左足を前に出して踏みとどまる。その左足を軸にショートソードを抜きながら回転し背後の者に斬りかかる。
「やぁぁぁあ!!!」
声を張り上げ回転斬りを放つが空振りに終わる。紙一重で交わされたのだ。
「驚いたな、ただのガキだと思ってたがまさか身体能力強化を掛けているとは、今ので仕留めるつもりだったんだがな」
黒装束を着た声や背丈からして男の者が私に声をかける。そう、私は男の言った通り身体能力強化をかけていた。これは昨日の食堂で先輩冒険者のありがたいお話の際にどんな依頼でも何があるかわからないため依頼中くらいは常時身体能力強化をかけておけと言われたからだ。レベルも上がりやすくなって一石二鳥だと。
「し、シスターはあなたが?」
剣を構え距離を取りながら少し震えた声で黒装束の男に問いかける。
「あぁ、だが計画としてはシスターは殺るつもりなかったんだぜ?ほんとはシスターの買い物中に子供だけ攫う予定だったからな、計画を変えたのはお前のせいだぜ、冒険者」
「私?どういうこと?」
わけがわからず聞き返す。そうすると黒装束の男は笑いながら口を開いた。
「冒険者が来た時点で今回は諦めて撤退を考えてたんだ、俺を知ってるかもしれねぇしな、だがこんな上玉が来たとなったら別だよなぁ?お前を奴隷商に引き渡せばどれくらい貰えるだろうなぁ、孤児院の芋くせぇガキとは違って高値がつくだろうよ、想像するだけで笑いが止まんないねっ!!」
男はそう言い放った後短剣を抜き凄まじいスピードで私に斬りかかってくる。なんとか反応して剣で防ぐが力が強すぎて腕が痺れる。間違いなく敵はレベル2以上あるだろう。明らかに格上だ。男は一旦離れて私に提案してくる。
「今のやり取りで分かっただろ?お前じゃあ勝てねぇよ、大人しく捕まってくれるなら怪我をすることもなくなるぞ?別にそこのシスターみたいに死ぬわけじゃあねぇんだ、諦めたらどうだ?」
この男の言っていることは多分本当だろう。相手は圧倒定な強者で私とは違って対人経験もある。私に勝ちの目などないだろう。怪我なんてしたくない。ハイと頷きたくもなる。だけれども、お母さんが命を懸けてまで繋いだこの命。それを他人の道具となる奴隷に成り下がるなど許せるわけがない。それにまだ転生してやりたいことも決まってないのだ。こんなところで終われない。
「絶対に嫌だ!」
「そうかよ、商品に傷をつけたくはなかったんだが仕方ねぇな、骨の数本は覚悟しな!」
男を持っていた短剣を投げ捨て、ファイティングポーズを取り、私に接近する。
「ストーンショット!!」
土魔法で3つ石礫を男の方に放出する。男は少しスピードを落としながらも石を素手で砕いて進んでくる。スピードが緩まり時間が出来たため急いで剣の腹にあるルーン文字をなぞりルーン魔法を使用する。ゴブリン戦でも使ったやつだ。
「あ?なんだ?」
男は警戒し立ち止まる。しかしすぐに問題ないと判断したのか突っ込んでくる。私はタイミングを合わせ剣を上段から振り下ろす。
ガンッ!!
拳と剣がぶつかり合う。弾かれたのは……私の方だった。体勢が崩れ、胴ががら空きになったところに男の拳が突き刺さる。しかし私はパンチを食らった衝撃を利用し後ろに飛び距離を取る。ローブに防護の付与がされていたためかダメージは少ない。
「防御系の付与がされてんな、いい服着やがってめんどくせぇ」
私は敵から目は離さず先ほどのやり取りを思い出す。
敵は私の上段からの振り下ろしに対し横から剣の腹を殴ることで対処してきた。つまり、剣の刃に拳をぶつけるのは危ないと判断したということだろう。こちらが剣で攻撃すれば先ほどのように剣の腹を殴るか交わすかの二択になる。であれば交わしてカウンターされるような大振りをせず手数重視、それも剣の腹を殴りづらい横払いで攻撃していくべきだ。
敵は仕掛けてこずこちらから攻撃するのを待っている。カウンターが狙いだろう。扉側にいるため逃がさないためというのもあるかもしれない。窓は一応あるが小窓なため通れない。逃げるにしても倒しに行くにしても男に向かっていかなければならない。
「なんだ、来ないのか?」
男が挑発してくる。
私は炎のルーンを後ろに向けて放つと同時に男に向かう。別に勝たなくてもいいのだ。この火事で衛兵なんかが来てくれればいい。
「チッ!」
男も火事は不味いと思ったのか待つことを止めこちらに向かってくる。
「シッ!!」
私はシミュレーション通り横払いで攻める。
キンッ!!
金属がぶつかり合う音が響く。男は最初に投げ捨てた短剣とは別にもう1つ短剣を隠し持っていたのだ。予想外の事態に私は一瞬硬直する。
ドゴッ!!私は男の短剣を持っていない左手で肩を殴られ吹き飛ばされる。
「ぐはっ!!」
私はすぐに立ち上がるが殴られた右肩が上がらない。そこからは一方的だった。サンドバックのように何度も殴られる。顔だけは無傷なのは売るときに顔にアザが残れば商品価値が下がるからだろう。殴られ続け私は遂に力尽き倒れる。男はこちらに近づき私の剣を蹴飛ばす。
「ほら、動くなよ」
男は倒れている私を足で押さえつけ、注射を取り出し私の首筋に刺す。毒だろうか。体が動かなくなる。私が動けないのを確認すると男は水魔法を放つ。
「ウォーターボール」
水球が私が放った火を消していく。ルーン魔法の火は弱いのもあり短時間では全く燃え広がっていなかった。しかし私はチャンスとばかりに痺れる指をなんとか動かし人差し指にはめておいた使い魔召喚のルーン魔法を発動させる。イメージするのは小さな雀。窓は小さく私は通れないが雀サイズなら通れる。青白い雀が形成され窓から飛び立つ。男は気付いていない。
これを戦闘中にしなかったのは理由がある。鳥を出した瞬間鳥側の視点が強制的に共有され、更に鳥を動かすのもオートではなくマニュアルである。こちらが鳥視点を見ながら動かしていく必要があるため戦闘しながらではとてもじゃないが不可能だったのだ。
雀を操作し冒険者ギルドの方へ向かう。ギルマスならこの雀を見たらわかるはずだ。しかし冒険者ギルドがある南区へと移動しているとふと気づく。ギルマスは冒険者ギルドの中にいるため雀では会うことは無理ではないかと。窓の付近に丁度居ればいいが確実ではないし、魔力の消費が激しいため無駄に飛び回っている時間もない。最悪ギルマスでなくても上級冒険者ならこの雀をみて案内すればなにか察してついて来てくれるかもしれない。そう考え強そうな冒険者を探す。私のようなレベル1に強者のオーラなどわからないため防具や武器なんかの装備、もしくは魔力の多さで探すしかない。最近になってなんとなく魔力を感じられるようになったから恐らく大丈夫だろう。
冒険者ギルドに向かっていると凄まじい魔力量の人がいた。腰まで伸びているプラチナブロンドで背中にロングソードを背負っている女性。あの人しかいないと思いそちらに向かって飛んでいく。雀は女性の後ろから向かっているにも関わらず女性は振り返りこちらと目が合う。私はこの人なら大丈夫だと確信めいたものを感じた瞬間視界は途切れた。
「おい、何してやがる!」
男が何故かこちらが何かしていることに気付き倒れている私に蹴りを入れてきたのだ。集中が途切れてしまい雀が落下し地面に激突して割れたのだろう。もう何も見えない。
「魔力が滅茶苦茶減ってやがる、通信の魔道具とかで増援でも呼んだか?なんでガキがそんなもんを……」
男は考え込み独り事を言う。どうやら私の魔力量が減っていることに気づいたようだった。
「とにかくさっさと逃げねぇと」
男は私をどこからか出した袋に入れようとする。
(あぁ……もうだめだ)
そう諦めた時だった。
「どこに逃げるの?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。少しでもこの作品を気に入っていただけたなら幸いです。これからも書き終わり次第投稿していきますのでよろしくお願いします。