《まじめな人》と言われてモヤモヤするあなたへ
全然真面目でも何でもないのに、とか思っちゃう。
そりゃそうだよね、まじめに何かにこしをすえて取り組み、ものごとを成し遂げたことが、これまでの人生経験の中にただの一度としてないんだものね。
中学、高校と、親にねだって何万もかけて部活の道具一式を揃えてもらい、毎月毎月練習試合の交通費や部費に何千円もつぎ込んだ(中学は野球、高校はバドミントン)。そうしてもらって、あなたはたいした努力もせず、積極的に上手くなろうとする向上心もなく、コミュニケーション能力に難ありという、致命的な欠点を克服する気概もなかった。大会では万年補欠、高校では一度大会前日のホテルで夜更かししていたのを見つかって咎められ、連帯責任として同じ部屋で普通に寝ていた先輩が引退前最後の試合に出られずじまいになってしまったという、とんでもない迷惑をかけたこともあった。結局中学、高校ともに、三年生が引退し、先輩として後輩の見本にならなければならない責任ある立場に立たされた時、実力も何もないあなたは、そのうしろめたさと自信のなさから及び腰になり、最終的にその責任に背をむけてそそくさと逃げ出し(退部し)た。
あなたは友人たちからも逃げた。中学二年、三学期の終わりに両親から隣町に引越すことを告げられたあなたは、それをクラスの誰にも言わなかった。言えば送別会がひらかれるだろう──2学期のおわりに男と女の同級生2人が転校するというので学校のレクリエーションルームで送別会を開いていた──あなたは自分がそこまでされるほどクラスに馴染んでいるとは思っていなかったし、そうされることがとても恥しい、恐ろしいものだと思っていた。なにより何も言わずに出て行く方が、人間関係のしがらみから解放されて気楽だと思っていたのだ。そうしてあなたはだれにも何も言わないで隣町に引っ越し、なに食わぬ顔で新しい土地での新学期を迎えた。2、3日不登校になった時に放課後話をきいてくれた女の担任にもギリギリまでつたえなかった。修了式が終わって帰りのスクールバスに一緒に乗った中学からの男の友人に言うか言わないかギリギリまで悩んで、けっきょくいわなかった。小学校からずっと友達だった男ふたりにさえ、連絡1本入れるのを躊躇した。結局あなたは自分のことしか考えていない。保身、逃避、利己、あなたの頭の中にあるのはそればかり。それがどれほど周りの人を傷つけ、苦しめ、貶めてきたのか。どれだけ周りの人間に害悪をばらまいていたのか。あなたはその後大学をやめて地元に逃げ帰るときにも同様のうらぎり行為をおこなった。ひとり暮らししていたアパートまで励ましに来てくれた友人らを無視し、とっとと実家に戻り、大学をやめたことに対して友人らがどういう反応するのかがひどくおそろしくなり、彼らとの連絡手段のいっさいを断ったのだ。
そうか、そうか、大学をやめたという事は、つまりあなたは勉強からも逃げ出したのか。というより、あなたは元から勉強するのが嫌で嫌でたまらなかったのに、大学に進学したのは、高校2年から進学クラスに入り、周りが皆大学を目指しているのに1人だけ就職、専門学校に行くのがはずかしいと思い、周囲の機嫌をうかがっていたのと、在学中に小説家デビューwwwした時の箔付けしたかったから。そんなあなたの高校時代。休み期間中の課題は新学期始まってしばらく経っても終わらず。テスト勉強はいつも一夜漬け。宿題をほっぽり出してポータブルDVDプレイヤーで映画観たりアニメ観たり、スマートフォンでネットサーフィン。受験勉強でさえ、ほとんどやってなかったのではなかろうか。一度、あなたはあなたの母親に嫌という程たたかれたことがあったよね。進研ゼミの赤ペン先生の課題を白紙で出して、それに懇切丁寧なコメントが書き込まれて返ってきたとき。その件の後すぐに進研ゼミを退会したんだよね。勉強よりテレビ、アニメ、ネット、マンガ、自堕落に遊び呆けることを優先する、それしか能がない。
そうして社会に出たあなたには誇れるものが何もない。大学をやめた後、親にすすめられるままに就いた職場で「私はまともな人間です」と嘘をつき、目一杯見栄を張って、取り繕うことでしか関係を築けない。見せかけだけの《まじめ》に縋りつくことでしか、自分をたもつことができない。
あなたみたいな人──マジメ系くず──って言うんだっけ。
いつも自信なさげに俯いて歩いていて目つきが気違いみたいだよ。いや、ギリ健?ww
だから職業訓練の面接練習で緊張しつつも面接官役をしていた先生に対し自信を持って自らの職歴を話す女生徒らを見て、あなたは驚いたはずだ。彼女らにはこれまでの人生において勝ち得た実績がある。経験に裏打ちされた実力がある。そんな彼女らの話す言葉には一本芯が通っていて、中身がつまっている。きっとこの先どこへ行ったとしても、彼女らならば、要領よく卒なく、人生を渡り歩いていけるだろう。
あなたはみんなから《まじめな人》と言われてそんなことないのに、と悩んでいるけども、大丈夫。大丈夫だよ。それはあなたをほめたたえる言葉でなくて、人としてのふかみも面白みも何もないあなたに唯一かけてあげることのできる、あわれみの言葉だから。




