オンとオフは使い分けます。大人だから
初投稿です。
魔法を奏でる。
フレイアが魔法を使うと、皆感嘆の息をつく。
炎は虹色の龍となり舞い踊る。
水は妖精のドレスのようにひらりと飛沫をあげる。
なにより魔法を紡ぐ呪文が違う。
堅苦しい文言を組み込むことが魔法発動の基本。
しかしフレイアは美しい声で唄うように言葉を操るのだ。
その言葉の意味は誰もしらない。
「遠い異国の言葉」
「失われた古語」
色々な推測にフレイアはふわりと笑う。
その微笑みで誰も追求できなくなってしまう。
フレイアは今日も魔法を奏でる。
「んふふ〜私、最高」
フレイアこと山田はるかは、キングサイズのベッドに寝転がって
今日の働きを自画自賛していた。
人々から讃えられた美しい声から出るのは残念な独り言だったが。
「やっぱセーラー戦士はお約束よね。お仕置きとか言ってみたいよね。んふふ」
天井に向かってお約束の決めポーズ。
幼いころに繰り返したそれは意外と身についていた。
流石に本日の「お仕事」で披露はしていないが、式典とかパフォーマンスが
必要なシーンならいけるかも・・・とこっそり思っていた。
「明日は魔法少女かな〜」
ベットからぴょんと飛び降り姿見の前に立つ。
両手を広げたより大きなそれは、一人暮らしの時買おうかずっと悩んでいた。
もちろんこれの数分の1の大きさだけど。
余すとこなく映す鏡に向かって決めポーズ。
シフォンを重ねた薄水色のデイドレスがひらりと揺れる。
侍女たちのセンスは神がかっている。女子力振り切ってる。
はるかの重い印象の黒髪を可愛くまとめ上げ、さらに好みど真ん中のドレスを勧めてくれる。
なにより、はるかを心から慕ってくれている。
だからこそ、はるかは確信していた。
「私、この日々のために残業してきたのね!」
「いや違うだろ」
冷たいツッコミに唇を尖らせる。
鏡が大きいから、男が後ろに立っていることには気づいていた。
「なによ。可愛いからいいじゃない」
「たしかに可愛いかもしれない。だが、残業との因果関係はない」
「無いね!でも残業に苦しんだ日々に意味を持たせたいのが社会人ってものよ」
はるかは振り向くと腰に手を当てて仁王立ちで男を見上げた。
「上司がよくいってたわ。若いうちに苦労したから出世できたって。
・・・んなの確約ないじゃん!結・果・論!」
まずいところに触れた。と男が気づいた時には遅かった。
「お金の発生する残業には多少意味があったわ。
でもね、サービスと名のつく残業にはなんの意味もないの。
あの日々に意味を持たせるなら今でしょっ」
いつのまにか握りしめた拳を掲げる姿は、
女神とも奇跡とも言われた魔法使いフレイアの影もない。
男はふとテーブルに近寄ると、
はるかのために用意されたフルーツティのポットに手をだした。
そして逆さにされた未使用のティーカップを注いでいく。
見るからにぬるいだろうが男は気にしていないようだ。
はるかも気にせず先を続ける。
「残業のせいで新作出せなかった夏コミ、あの日の涙は一生忘れないっ!」
はるかの副業は薄い本の作家であった。
男は持ち上げたティーカップの上に左手をかざし、呟いた。
「冷気、流れ、いでよ」
フルーツティはスプーンでかき混ぜられているようにくるくるおどる。
カップから飛び出そうで出ない波。
男は満足そうに見つめると、はるかの目前にカップを突き出した。
「茶でも飲んで落ち着け」
「え?いや、今はべつに」
「よく冷えたと思う」
「う、うん。・・・イタダキマス」
イケメンが尻尾ふらんばかりに見つめてくる。
ぬるい紅茶をいい感じに冷やす魔法。初級魔法。
はるかなら、ふぅっと息をかけるだけで発動出来るものだが、
魔法が苦手なこのイケメンはやっと覚えたばかりで使いたい盛りなのだ。
「・・・」
パタパタ
「・・・」
パタパタパタ
「・・・とっても美味しいな」
「!よかった!!」
尻尾ぉ!
ちくしょう、私より可愛いよ!最高かよ!ごちそうさまです!!
創作意欲湧いてキタァ!!
心中で叫ぶはるかは、根っからの薄い本の作家だった。
イケメン。名前登場せず。ざんねん!