『原稿用紙二枚分』
息抜き&練習&生存報告代わりみたいなかんじです......?
「ねぇ」
ひょい、と私の横から顔を出した彼女が言った。彼女というのは、私が密かに想いを寄せている、つまりは意中の相手だ。
「なに?」
ぶっきらぼうになっていなかっただろうか。でも、顔に驚きや喜びが出ていなかっただろうか。相反する事に同時に気を付けたくなる位には、私は彼女に関して繊細だった。
「さっき配られたプリント、余ってない?」
「いや、余ってないよ」
そう言ってから、わずかに逡巡する。彼女が怪訝そうな顔をした。
「あ、えーと、うん、やっぱり余ってない」
「そ、ありがと」
プリントが配られた時のことを思い出していた、と取ってくれたのか、それだけ言って教卓の方向に歩を進めていった。余ったプリント一枚一緒になって探すこともできない、ちっぽけな自分を置いて。
本当は言いたかったのだ。「探してみるよ」と、一言。本当は行動したかったのだ。隣の列に余っていやしないかな、と。しかし、彼女に対する恥じらいなどとはまた違った「別の何か」が私を引き止めるのだ。何につけても、その「別の何か」が邪魔をしてくるのだ。
あるいは、そんな「別の何か」に左右される事が無いように見えるからこそ、彼女に惹かれているのかも知れない。
彼女に言いたい事や伝えたい事がある。ざっと、原稿用紙二枚分程。ある人にとってみれば、極端に少ないかもしれない。またある人は一言だけで良いと言うかもしれない。でも、私はこれだけだ。原稿用紙二枚分だ。それ以上でもそれ以下でもない。
だってこれ以上増えたら、抱えきれないから。こぼれ落ちたものは、嘘になる。
だから私は、原稿用紙二枚分だけの気持ちを、私の持て得る溢れんばかりの、目一杯の気持ちを持って彼女に接する。
――――まだ一行すらも伝えられていないこの気持ちを、いつか全て伝え切ることを夢見ながら。また日々を、過ごしていく。
彼(または彼女)は、想いを伝えられたのか。ご想像にお任せします。
「別の何か」は、人によって微妙に差異がある部分かなと思いますので、自分のイメージに1番合う感覚の言葉を入れて頂ければ。
因みに字数は約800字。原稿用紙二枚分です。