次男と長女
ぱり。もぐもぐ。
もぐもぐ。ぱり。
2人だけしかいない空間に、おせんべいを食べる音だけが響きわたる。
「…籍、入れたの」
先に口を開いたのは兄で私は頷くだけで反応した。兄の手元のおせんべいが無残に口に運ばれていくのを見届けていた。
「いつ?」
「この前」
「いやこの前にも個人差あるじゃん。3年前?」
「……はぁ。」
なぜここで3年前をチョイスしたかは妹である私には分からなかったが、きっと長男ならわかるんだろうな、と思い、チョコレートに手を伸ばす。兄の太るよ、なんて声は聞こえないように耳を塞いだ
「籍入れたんだったら父さんにも挨拶しに来るの?」
「…未定」
「一緒に住んでは?」
「いない…かな。相手も忙しいし。」
「はぁ……。兄ちゃん心配だよ」
ストレスが溜まると甘いものを余計に摂取したくなると言うのなら、私は確実に 次男 と一緒にいれば糖分を過剰摂取するに違いない。
現に、既にみっつの包装紙に包まれたチョコレートを平らげた。おのれ次男
「…なんか恋人からそのまま形だけ夫婦になったみたいだね」
「……駄目、かな」
さぁね、と呆れたように一言、もう何枚目か分からないおせんべいに手を伸ばす。あぁ可哀想なおせんべい。こんなくずな男に食べられるなんて。
「まぁ、未婚の俺からすると結婚するだけでも凄いんじゃないの。」
「兄さんを基準にして語らないでくれる?」
「相も変わらず辛辣だね」
あぁひどいひどい、と零しながらぱり、とおせんべいを歯で割り、口内に放り込む。
「普通とは掛け離れた生活送ってるとさぁ、こう、普通ってなんだっけって思うよね」
「何その哲学的な事。…理乃兄さんは?」
「登山だって」
「理乃兄さんも相当ぶっ飛んでるね」
「…そういうもんだろ、俺達は」
まるで共犯者に送る笑みを私に向けてくるから、不意に背筋がぞわりとした。だから嫌なんだ、こいつと話すのは
「そういうものだったね。……さて、私の言いたいこと終わったから帰るよ」
「えぇ、もう帰るの?」
次は旦那と来てよね、と手を振る兄は珍しく兄をしていた様な気がした




