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悪神

作者: 尚文産商堂
掲載日:2017/12/31

昔、神は人であった。

人は神であった。

時代が下るにつれて、神は神となり、人は人となった。

人は神に仕えるために在り、神は人のために在った。

だが、いつしか人は神を忘れ、神は人との縁を切った。


打ち捨てられた神殿は、すでにその意味を失っていた。

それでも石造りであったがために、その荘厳な雰囲気を残しつつ、少しずつ朽ちていた。

それゆえ、誰も近寄らずに会うことができるため、近所に住む子供らの格好の遊び場となっていた。

近くにどの建物よりも大きいものがある一方で、親からは入るなと言われている。

それを気にする子は、おそらくはいない。

「ねえ、今日は何して遊ぶ?」

女の子が言う。

円陣のように丸くなって、5人の子供が一緒に遊ぶようだ。

「どうすっかなぁ。なんでもいいんだけどな」

一人の子供が言った。

「じゃあ、遊ぼうか」

そう言ったのは、建物の中から聞こえた。

「誰かいる?」

誰かが話す。

「僕だよ」

それは、同じくらいの背丈の男の子だった。

「君は誰だ」

思わず一人が尋ねる。

「ここに住んでるんだよ、ずっとずっと前からね」

「うそだ、ここに誰かいるって話、聞いたことないぞ」

「でも、住んでるんだから。本当にね」

「今日は何して遊ぼうって?」

女の子が話す。

「それよりも、建物に入らない?たまにはさ」

ずっと見ていることを示唆するように、その子は聞いた。

「どうする?」

女の子が恐る恐る周りを見る。

「行くか、外で遊ぶのも楽しいけどさ。たまには中で遊ぶのもいいかもな」

その時、その子がニヤッとしたのを、誰も気に留めなかった。


建物の中は、たしかに生活をしているような様子だった。

菓子袋が散らばっていたり、少し前に販売されはじめたゲーム機があるようなものだ。

しばらく部屋で遊び、そろそろ帰ろうとしたとき、入ってきたドアが開かないことにようやく気付いた。

「あれ?」

ガタ、ガタガタと力強く引いても、動く気配がない。

「開かないかい」

それが当然というように、その子が話し出す。

「当然だね、結界の中へと、自分の意思で、入ってきたのだから。出られないように、我を閉じ込めたこの結界へとね」

「君は、本当は誰?」

「我は、禍津神(まがつかみ)。禍を司る神である」

みると、そこにあったはずのお菓子類は全て消えていた。

天井こそあるものの、そこここで雨漏りが見える。

「神っていっても、子供じゃないか」

「ホンに子供とお思いか」

タンと右足で地面をたたく。

とたんに、軽い揺れとともに、地震が襲った。

「ほれ、もう一回」

今度は左足で地震を起こす。

「次はコレじゃ」

両手をこすり合わせると、外で火が起こるのが見える。

「君はどうしてこんなことするの」

女の子はもう泣きそうだ。

「それが我の本分であるから。我は禍を司っておる。それをするのは当然のこと」

「俺たちを閉じ込めて、どうするつもりだ」

「おお、それはある意味偶発的な事故。ということも言えような。だが、ここに来たからには、少しばかり力を貸してもらいたい」

この子らは子供である。

それは、神に近いということを意味する。

7歳までは神のうち、という言葉通り、その前後までは神と人の境界線の上にいる存在だ。

この子らがそうであるように、すなわち、神の力となりやすい存在ということである。

「どんな力」

「簡単さ。この結界を超えるためには、君らの体に入らないといけない」

「ダメだよ、こんなことをするような悪い神様には、僕らの体を渡すわけにはいかないよ」

一番小さな男の子が、言ってくる。

「じゃあ、しょうがないなぁ」

禍津神はそういって、自身を5つの影に分けた。

そして、有無を言わさずに、子供らの(かげ)へとはいる。

「歩け、進め、そして叫べ、『我は、この世に災厄を(もたら)す者』」

我は……と唱えつつ、神社の建物から出ていく。

一人、二人、三人、とでて、そしてとうとう5人目が結界を超えた。

「我は禍津神、いま、この世に再び顕現(けんげん)せり」

それぞれの子供らの蔭から再び集まり、一人の少年の風体をとった。

これが抽象的な姿だということはすでに、5人は分かっている。

「君らにもこの力は使えかねない。が、きっとそれはそれでいいと、我は考えている。災厄を振りまくのが本分であるかにして、我の代わりに災厄が振りまかれるのは、おそらく見ていて愉しいことであろうからな」

では、去らば。と禍津神が言葉を発すると、その場から瞬間で消えた。

残された5人は、このことを誰にも話さないという、強い強い約束をして、それから二度とこの元神社へと戻ることはなかった。

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