表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鏡の向こう側

作者: ko6ske

 僕が利き手の右手を挙げると、君は利き手の左手を挙げる。

 僕が反対側の左手を挙げると、君は反対側の右手を挙げる。

 いつもと同じ。君は僕の真似をする癖に、君の利き手と僕の利き手は正反対。


「いつもと同じで安心したよ」


 独り言を呟く僕と、口の形だけを真似する君。いや、僕には君の声が聞こえないだけで、実際は喋っているのかもしれない。


「君も、同じ事を思ってるのかな?」


 僕の質問に、君は答えない。

 君の質問に、僕は答えない。


 君の声は届かない。

 僕の声は届かない。


「……当たり前だよね。君は鏡だもん」


 鏡の前に立つ自分と、鏡に映る自分。


 自分と全く同じ姿。自分と全く同じ動き。だけど、利き手だけは違う君。


「鏡の向こう側……」


 側に置いたデジタル時計をチラリと見る。


[23:57:39]


 秒単位まで正確に表示する、非常に正確な電波時計。


 [06:00:00]にアラームがセットされており、約6時間後に本来の持ち主である親を起こすため、機能はデジタルでありながら、アナログな音で持ち主を起こすのだろう。


「あと少し……」


 僕の目的である時間は[00:00:00]。全ての数字がリセットされ、新たな1日の時間を刻みはじめる。


 自然と高鳴る胸を抑え、視線で穴が開く程に時計を見つめる。


[23:58:26]

[23:58:27]

[23:58:28]


 1秒。また1秒。カチカチと音が鳴る事もなく、時を刻む。


「なにやってんだろう……」


 ふと、我に返る。


 明日も学校がある。いつもの[07:30]にセットしたスマホのアラームで起きれない自分が、夜中の0時まで起きていて、何をやっているのだろう。


「明日あいつらに文句言ってやろう」


 こんな馬鹿げた都市伝説を語る親友と、悪ノリが大好きな悪友と、怖い話が苦手なのにグループに入ってくる幼馴染。


 ……いや、幼馴染は悪くないな。逆に「怖くて夜眠れなかった!」とキレそうだ。


[23:59:46]


 明日起こるであろう光景を思い浮かべていると、その時間が目前までやって来ていた。


 その時計を視界の隅に入れながら、目の前に立つ君を見る。


 僕と同じ様に緊張した顔の君。

 僕と同じ様に自然とまばたきが多くなる君。

 僕と同じ様に呼吸が荒くなる君。


[23:59:58]

[23:59:59]


「えいや!!」


 自分なりに気合いを入れた掛け声と共に、両手を鏡に触れる。


 ……冷たく、そして硬い感触。


 鏡に飲み込まれることもなく、何か別の物に触れる感触もない。


 いつの間にか閉じていた目を開き、側に置いたデジタル時計を確認する。


[00:00:57]


 時間がおかしくなる事もない。時計も置いた場所に確かにある。


 ぐるりと周りを確認するが、何もおかしい所は見当たらない。


「やっぱり都市伝説か……『鏡の向こう側』なんて」


 日付が変わる0時丁度に鏡に触れると、鏡の世界に引きずり込まれる。


 なんて、作り話にしか思えない都市伝説。せっかくだから皆で試す事になったが、結果はご覧の有り様。誰かが作った妄想話。


「ちょっと残念な気持ちもするけどね……」


 まぁ、少し楽しめたから良しとする。


「君も、同じ事を思ってるのかな?」


 鏡に映る僕に話しかける。しかし、当然答えは返ってこない。


 僕と同じ顔の君。

 僕と同じ動きをする君。

 だけど、利き手だけは違う君。


 僕が利き手の左手を挙げると、君は利き手の右手を挙げる。

 僕が反対側の右手を挙げると、君は反対側の左手を挙げる。

 いつもと同じ。君は僕の真似をする癖に、君の利き手と僕の利き手は正反対。


「いつもと同じで安心したよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こんな小説は初めて読みました。 独創的な自問自答?というのか、自分語り的なものか分からなかったですが、不思議な小説でした。面白かったです! ブクマさせていただきました。
2018/04/02 23:25 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ