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異世界という玩具箱で  作者: 神谷 隼
第1章 辺境の寒村にて
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8.微妙な新スキル獲得!

お、新スキルですよ。この世界では、努力して頑張れば、スキルが得られるんです

でも、このお話は、主人公が努力しまくって、スキルいっぱいという感じじゃないんですよ

タイトルには「微妙」とか入れちゃってますが、わりーと、テンプレな、あのスキルです


元のケネスの立場からすると、コチ村が属する国は故郷である村を滅ぼし、人質で脅迫して父親を死地に赴かせ、あげくケネス自身をも過酷な戦場へと送り、母親の自殺の引き金を引いた。

戦功は貴族に取り上げられ、半ば言葉も通じないような訛りのひどい寒村に追放され、恨みこそあれ、恩などは感じようもない。


故郷の村が属する国にしても、敵兵から襲われる状況をただ見過ごし、村人の避難を誘導することもなく、村を守る兵も送らなかった。

年貢という税を納めている以上、国が民を守るのは義務であるはずだ。

しかも、諜報活動をしたという瑕疵はあるものの、直接父親に手をかけたのは、故郷の国の衛兵である。

幼い頃を過ごした村は、この世界の地図から消滅している。

母国は、すでにケネスの帰る場所ではないのだった。


次の秋が来るまで、まとまった収入を得られない代官職は、決して安定した地位とは言えない。

ケネスが持つスキルや加護からすれば、村人の監視の目がある暮らしよりも、独りで未開地に移住したほうが、はるかに便利な暮らしを得られるだろう。

それでも、ケネスの居場所は、この村しかない。

代官の職を放り出して、第3の国に移住したとしても、地縁もない村人のコミュニティでは、よくて『よそ者扱い』、悪ければ『追放』される。それほど、この世界の食糧事情は逼迫しているのだ。


《ケネス様、随分とネガティブな顔をなされていますが、なにかお悩みでも?》


ここ2ヶ月、ろくに外出をしていないケネスは、引きこもり特有のマイナス思考に縛られてしまう。

芋を生産しているのだから、亜熱帯に近い気候だと思っていたら、小屋の外は腰ほどもある積雪である。

コチ村は、亜熱帯どころか豪雪地帯だったのだ。

当然さすがのケネスでも、命に関わるほどの積雪の最中にフラフラ外出するほど、能天気ではない。

精々、トイレの処理にスライム浄化器に出向くのと、薪の補充以外では外出は控えている。

荷運びロバは、あまりにも不憫だったので、小屋の土間に引き入れた。


《あのさー、雪中引きこもりの挙句に、処理しないとならない鳥や動物の死体が莫大で、ほぼ全ての生活時間を毛皮処理と解体に使ってる状況なんだよ。そりゃ、鬱っぽくもなるってもんじゃないの?》


―― スキル:『解体』を習得しました ――


《ほらほら、こちらの世界に転移してからの初めてのスキル習得ですよ。いいこともあるじゃないですか》


リリスは、あくまでも能天気な様子である。

超長寿種族である妖精族は、退屈な時間に対する耐性が高い。

森の樹木のような時間感覚で、冬ごもりをしているのだから、リリスにとって引きこもりは苦痛でも何でもない。


新しく習得した『解体』スキルは、パッシブなスキルである。

スキル名を口にすれば、勝手に獲物の死体が精肉と毛皮に分離されることもなく、解体作業の効率が僅かにあがるだけなのである。

スキルによって、毛皮剥ぎの精度、肉の切り分け、羽毛のむしり取りなどはもちろん、内蔵の取り分けについても、格段に精度と作業速度は向上しているが、実際に手を動かすのはケネスである。

むしろ、時間単位の疲労は増している気がする。


《なあ、リリス。食用可能な獣肉の在庫って、いまどのぐらいだ?》


《ちょっとした量がありますよ。鳥または獣の精肉が、1304キログラム。ケネス様がムキになって釣り上げた魚肉が、250キログラムです》


《合計で1.5トンか……。永久に新鮮な状態で保存されるとしても、とても食べきれないな。それで、それ以外の食料はどうなっている?》


《おおよそではありますが、堅い木の実などが810キログラム。山ぶどうや柑橘類などの果物が320キログラム。キノコなどの菌類は470キログラムで、あとは野菜っぽいものが200キログラム。自然薯などの山芋は、採取を控えていたので700キログラムですね。それに加えて村長から購入した芋や根菜類を合わせると、およそ3トンの貯蔵量です》


《合計で4.5トンにもなるな。もう解体とかしなくて、いいんじゃないの?》


《未処理の狩猟物が、12トンありますけど?》


《森の生態系を破壊しちゃってないか? それだけの動物や植物が消えたら、少なからず村人たちの収穫も減っているだろう?》


《ケネス様、この森の規模って、元の世界で言うと南米大陸とほぼ同じだけの面積があるんですよ? どの村の狩猟域とも重ならないエリアだけで、今の量の少なくとも1000倍は無理なく狩れます》


《故郷の村は、確か草原地帯だったと思う。それに兵士として働いていた戦場も、起伏はあるが森など見当たらなかったぞ?》


《それだけ、この村が辺境ということですよ。ところで、ケネス様は失念なさっているかもしれませんが、ドングリなどのナッツ類はアク抜き作業も必要ですからね?》


《810キログラムもアク抜きしないとならないの? それって、俺だけで可能なの?》


《他の誰にさせられるんですか。少しずつなら構いませんけれど、この量を市場に出したら、間違いなく魔王ルートですからね》


《ねえ、リリス。『アク抜き』ってスキルあると思う?》


《あるといいですねえ。ちなみに毛皮や羽毛の在庫料は……》


《……》


村の倉庫1.5棟分の備蓄が、リリスの亜空間収納に貯められている。

食事や衣服が必要ない妖精族のリリスは、それらの物資を利用することはない。

つまりは、ケネス一人のためだけに、膨大な物資備蓄があるのである。

素材を資源化する作業は、ケネス一人の手に委ねられているが、何にせよ到底個人で使いきれる量ではない。

不足して困窮するよりはマシだが、ケネスの心は春の訪れまで、決して晴れることはなかった。


そんな日々の中で、根雪のため、さすがに樹皮も葉も入手しづらくなり、必要以上の在庫を抱えるトイレットペーパー生産事業は、めでたくも別の生産物資に置き換わった。新たな壺が生まれたのである。


『木炭(木材の量に依存):木材、火種を入れよ。さすれば得られん!』


斧を持たないケネスは、樹木の伐採をしなかった。

もっとも伐採されたばかりの生木は、長い年月をかけて乾燥させないと、薪としても木材としても利用できない。

試しに潅木をノコギリで伐った生木を入れてみたが、なんの成果も得られなかった。

火種は、生活魔法『種火』で点火したトイレットペーパーで足りたのだが……


必要材料は、木材とされているが、乾燥したものであれば、薪でも代用はできた。

さて、その薪の入手こそが、この村では難題である。村に膨大な備蓄があるとは言え、他の村人も冬ごもりをしていて、暖房燃料である薪は命に関わる生活必需品なのだ。

世帯当たり3トンの薪が、冬の間だけで必要となる。

結局、ケネスは購入する薪の量をちょっとだけ増やし、ちょっとだけの分だけの木炭を作った。

木炭は、薪に比べても燃焼時間が長いので、結果として使用する薪の量が減り、さらに木炭の材料を得ることになった。


《ケネス様。このままの生産ペースでいくと、冬の終わりまでに木炭の備蓄が、すごいことになっちゃいますよお》


珍しくリリスが悲鳴を上げている。リリスには、他にも屋根に積もった雪を、亜空間収納で貯蔵してもらっている。

この村での夏が、どれだけ暑いかは不明だが、生活魔法に氷の生成がない以上、未来のケネスには冷却手段としての雪は必要物資である。

ついでに屋根の雪も下ろせて、リリス以外には不満のおきようもない。

もっとも、リリス以外と言ってもケネスしかいないのであるが……


《あ、ケネス様、大変です。女神様からの通信が届きました。一大事です!》


《あー、あの女神も、この暮らしぶりを見てるんだっけ? 与えた加護の中途半端さを反省して、何かマトモなスキルでもくれるのかな?》


《……、読みますよー


ケネスへ。異世界での暮らしにも、そろそろ慣れてきたようで、安心しているよ……(中略)……ところで、他の神々も同意見なんだけど、まったく変化がなくて、物語も進行しないし、そろそろ飽きてきたっぽい? なんとかしてね!


って、ことらしいです》


《……》


《…………》


《あのさ、この辺境の寒村で、どうやったらドラマが起きるわけ? しかも、現代知識や加護でNA✩I✩SE✩Iしちゃうと、魔王ルート一直線なんだろ? どうしろって言うの》


《リリスに言われても……。それに、そんなことを言ってると、神罰がきちゃいますよお》


《へ? マジで?》


《ええ、マジで!》


次回、「9.春の訪れ」


とうとう、新展開ですよ! アニメで言えば、いまんとこアバンです。

説明だけですね、すみません。

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