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異世界という玩具箱で  作者: 神谷 隼
第1章 辺境の寒村にて
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7.冬に備えて

まだ、説明回かもしれません。

異世界転移とか、わりと荷物少ない状態で転移しますよね。

あれ多くしちゃうと、持ってく荷物の説明だけで、けっこうな話数を使うので、話を進めにくいんです。

でも、このお話し、持ち込み荷物けっこう多いんですよ。どうしよう?

スキルや加護の検証から1週間、村の周囲の風景は、いよいよ本格的な冬の到来を予感させている。

村長リチャードが管理する3棟の倉庫には、これまでに収穫された食料や燃料が山のように集められていた。

今年は年貢が免除されたので、例年よりはるかに大量の物資を蓄えていたが、代官であるケネスには配給されていない。


代官に納めるものは年貢だけであり、それは決められた時期に決められた割合でしか渡されないからだ。

代官は、村の食糧配給の対象外なのである。

とはいえ、村長リチャードは村とケネスとの関係を考慮して、求めれば食料や資材を提供してくれる。

ケネスが求めたのは主に荷運びロバに与える餌で、リチャードの息子の学費にあてる現金の一部を提供する代わりに、ロバの世話を委託する形になっていた。

おそらく、ロバの世話に使われた食料は、リチャード家が使う分を融通しているのだろう。


代官屋敷(小屋)に併設された家畜小屋と物置サイズの倉庫は、代官屋敷よりさらに粗末な建物で、倉庫は薪で満杯であった。

これまで村に行商が訪れたことはなく、ケネスがリリスに管理させている現金資産で食料を贖うチャンスは皆無であった。

つまり、見た目の上では、ケネスが越冬するだけの食料はない。


そこで、リリスの特異性が発揮される。

リリスは夜行性の妖精族で、ケネスや村人が寝ている夜間に、採取や精霊魔法を使っての狩猟を行う。

リリスの姿を認知できる精霊魔法の使い手は、村の周囲を徘徊する魔獣や野獣にはなかった。

食料にならない低級魔獣を相手にすることはなかったが、少なからず獣肉をリリスは得ている。

キノコや木の実などの森の恵みに至っては、村人が及ばないような奥地での採取から、膨大な量の備蓄を得ていた。

もっとも、その7割はケネスの『鑑定』により、食用に適さない代物と判明している。


獣肉を長期間保存する問題については、亜空間収納の内部の時間経過がリリスの随意となっていることで解決する。

このアイテムは時間経過停止、これは時間と進める、というように採れたての状態をキープしたまま、食料のほとんどが収められている。

血抜きや毛皮を剥いでいる時間がないので、たんぱく質の摂取はケネスの釣果に依存しており、簡単に調理できるキノコ類や山菜を除いて、狩猟の成果は文字通り死蔵されたままだ。


村人に対しては、自主的に採取した食料で自活はできると説明しているので、アリバイ工作として毎日のように荷運びロバを連れて、森での採取に出かけた。

リリスのおかげで、食料の確保も保存もケネスが心配する必要はなかったので、もっぱら樹皮だの落ち葉だのトイレットペーパーの材料ばかりを集めていた。


《なあ、リリス。今、トイレットペーパーの備蓄って、どのぐらいある?》


《45174ロールです。ケネス様》


《それ、一生かけても、使い切る自信がないんだよな。でも、村人に提供はできないし、商人に売るなんて無理だよね?》


《間違いなく、魔王ルートでしょうねえ。『自給自足』は、トイレットペーパー専用の加護というわけではありませんし、そろそろ新しい壺を試してみてはどうですか?》


《どう足掻いても、元の文明生活を求めようとすれば、魔王ルートに近づいちゃうんだよな。でもね、リリス。俺は、意外にも、この異世界の不便な生活を楽しんでいるのさ。元の世界のキャンプ場には、トイレとシャワーと水道の設備はあるけれど、基本は薪と木炭だけで調理して、地面の上に薄っぺらなシートを敷いただけで寝るんだ。そんな不便な生活を俺たちキャンパーは、心から楽しんでいたんだよ。飢えるわけでもない、凍えるわけでもない、生命の危機を感じるほどの危険もないとなれば、案外この生活も悪くはないんだよ》


《まだ、ご一緒させていただいてから1ヶ月ですが、ケネス様の考えることは分かります。ゆっくり、慌てずに、こちらの生活に慣れていきましょうか》


ケネスの異世界満喫モードへの移行については、何といっても、懸案だった代官屋敷(小屋)の改修が不要になったことが大きい。

すきま風が入り込む最悪の断熱性、毛皮を敷いただけの粗末な寝床兼居間、一日中陽光が差し込まない窓のない採光性、戸締まりどころか出入りするたびに外さなければならない戸板……。さらには虫や小動物が入り込んでは、安眠が妨害されていた。

それらの小さな侵入者どもは、夜行性のリリスが毎々退治してくれるのだが、ほぼ野宿と変わらない居住性だったのである。


しかし、スキル検証から何日か経過し、トイレットペーパーの生産も順調となったあたりで、ケネスは『自給自足』の3畳間で就寝するアイデアを思いついた。

リリスからアパートで使っていたベッドと布団を取り出してもらい、3畳の部屋に設置すると、ほとんどのスペースは無くなってしまうが、もともと寝るだけの部屋だから問題ない。

絨毯や照明器具なども置いて、ちょっとしたビジネスホテルのシングルルームという風情である。

それぞれが、異世界の素材のものに置き換えられ、照明に至っては発光する魔道具となってはいたが、十分に快適な個室を得たわけだ。


昼間は野外活動が中心であるため小屋の居住性を気にする必要もなく、夜だけが問題だったのだ。

村人の就寝時間は早く、夜中に村内をうろつきまわる者はいない。

例外として、村長リチャードだけは、獣脂を使ったカンテラをぶら下げて見回りをすることがあるが、代官であるケネスの小屋に、無断で立ち入ることはない。

こうして、日が落ちて2~3時間、ケネスが竈の前で就寝までの時間を潰している間に、リリスは夜間の採取と狩猟を行う生活が続いた。

ケネスが『自給自足』エリアに出入りすると、リリスがどんなに離れていても同じように3畳間に呼び込まれてしまうのだ。

次回、「8.微妙な新スキル獲得!」


そりゃさ、寒村で迎える冬ですよ。ほとんど言葉は通じないっぽいですよ?

むしろ、リリスがいるんなら、もうこのまま引き込もってしまったほうが、幸福なんじゃ?

という話、になるかも?


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