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異世界という玩具箱で  作者: 神谷 隼
第1章 辺境の寒村にて
6/32

6.破格のチート能力は、使いどころがない

異世界転移、事実上の最初の日常回です。

説明っぽい文章が続きますが、設定資料丸写しみたいな感じにならないように、気を付けてます。

説明っぽいでしょうか、ごめんなさい。

衣食住のうち、衣料に関しては地球で所有していた箪笥2竿分の衣服が、この世界の衣服へと変換されていた。

亥に襲われた時に来ていた毛皮のコートや麻の上下は、もともとのケネスの所持品らしいが、変換された衣服もそれらとデザインや素材が極端に変わるものではなかった。

村で暮らす上では、十分な量がある。


食に関しては、『鑑定』のスキルを使えば、採取で適当な食材を見つけることができる。

村での食糧確保の手段は他に2つあって、農業はケネス自身が自由にできる農地を持たないため今のところ不可能だが、『農業』のスキルがあるので将来的な手段としては期待できる。

問題は狩猟だが、獣を狩るノウハウが全くない。

これは後々に村人から習得することにして、川での漁でたんぱく質の確保を急ごう。ロバの餌のこともあるし、農作物については村長に相談して、金銭で贖うことも考えなければならない。


住は、例の代官屋敷(小屋)となるわけだが、独り暮らしなので床面積はともかく、密閉性も断熱性も日光の取り込みも、とにかく全てにおいて粗末なものだった。

日曜大工で建てた廃材利用の物置小屋といった風情で、家具や設備などにも質および量において不満は大きい。大工仕事の経験はないが、地球から持ち込んだ道具類は充実しているので、冬が来る前に快適な住環境を得たいところだ。


追加で、医職充。リリス情報によると、医療は薬草から作られるポーションという万能治療薬が存在するし、病気や毒などに関しても対応する治療魔術があるとのことだ。

尤も、治療魔術もポーション作成も専門家の分野で、村では製造・施術できる者がいない。

緊急性がなければ領都で受けることができるが、非常に高額な費用がかかる。ちょっと懸案事項だな。


職は、代官職があるから、無収入というわけではない。

まだ、リリスに預けている資産に余裕があるので、これは急がなくてもよいだろう。


充に関しては、何とも言えない。

この国では15歳で成人となり、婚姻の資格を得るが、現代人感覚からすると早すぎる。

もともとの年齢からすれば、やや焦らなくてはならなかったわけだが、そう言えば、これまでに結婚を望んだことがなかった気がする。

娯楽小説のように、出会う美少女がことごとく主人公に惚れるような展開が来るのだろうか。

そこんとこどうなってるのよ、女神様?


《ケネス様? 妄想は終わりましたか?》


充のところで、ニヤつきながら、ブツブツと独り言を発していたらしく、ドン引きの声色でリリスが訊いてくる。

そうだ、スキルと加護の実践だったな。

血糊を拭いて干された毛皮のコート、同じく毛皮のチョッキ、麻の上下に、毛皮の腰当、革製のハーフブーツと昨日と変わらない外出仕様で、森へ向かう。

もちろん、蛮族そのものの出で立ちであることには気付いているが、この村ではトップモードなのだ。仕方がない。


森の入り口周辺は、村の子供たちでも大人が同伴すれば採取活動が可能なため、ろくなものは生えていない。

川沿いの林道を上流に進むが、おそらくは林道が途切れるあたりまで、収穫は期待できないだろう。

リチャードから分けてもらったばら肉もあるし、ムキになって採取をしなくとも本日の糧は確保したようなものだ。


亥や熊が麓まで下りていることは、昨日の経験からも確かだが、あいにくと『気配察知』のような偵察系のスキルはない。

まだ、それほど森の奥に入り込んではいないあたりで、大岩がゴロゴロとする場所に出た。

地殻変動で隆起したものなのか、洪水で上流から流されてきたものなのか不明だが、大岩の上からならば、猛獣の接近を察知しやすいだろうと考えて、登る。

大岩の上からの眺めは、森が岩を中心に広がっているような錯覚をさせる。

ひと気のないことを確認しつつ、スキルの実践に移る。まずは、『魔法』だな。


《リリス、魔法って何だ?》


《えらくザックリとした質問ですね。魔法とは、使用者の魔力を使って、現象や物質を創造する概念です。魔法に基づいた現象を固定化した技術を魔術と呼びます。魔術は使用者のイメージが曖昧でも、それを補う術式で、現象を発生させることができます》


《ってことは、『魔法』の加護があっても、スキルとして『魔術』を習得していないと、何もできなくはないか?》


《そもそも『魔法』の加護がなければ、まともな魔術は習得できません。初等学校で学べるような生活魔法は、『魔法』がなくても使えますが、魔物や野獣を殺傷できるような魔術は『魔法』の加護なしでは習得不可能です。『魔法』の加護は、それほど珍しいものではありませんが、数千人に1人の割合でしか発現しません。ケネス様は、これから魔術をコツコツと学べばいいんですよ》


《魔術を学べるような書物や学校なんてのが、あるのかな。誰かに弟子入りして習得するとかだと、ツテもないし、元捕虜兵の平民代官じゃ難しいだろうな。あ、そうだ。俺も初等学校で生活魔法は覚えたんだよ。それに『魔法』の加護を加えれば、『種火』の魔術あたりでも、どばーって炎がでるんじゃないかな》


《森の中で火魔法とか、頭からガソリン被って花火をしているようなものですよ。もっと穏便なものにしてくださいよ》


《お、おう。じゃ飲み水を生成する『ウォーター』にするよ。わー、初めての魔術なんだ。緊張するなあ》


「えーと、ナムナム~『ウォーター』」


『魔法』の加護が得られたケネスの『ウォーター』は、両手から滝のように流れ落ちる水流とも言える勢いで、周囲を水浸しにしていく。

慌てふためいたが、なんとかコップに注げる程度の勢いに抑えられた。

この感覚を覚えておかないと、他の生活魔法でも大惨事になるだろう。


《ケネス様の魔力は常識外なんですね。ステータスではCなのに、『魔法』の加護だけでは、ちょっと説明がつかないレベルですよ!》


《うーん。なあ、リリス。この水って、どこから発生しているの? 周囲の森に蓄えられた水分を集めて水になっているのかな。だとしたら、木とか干からびちゃわないかな》


《ケネス様。水が周囲にある場合、そこには水の精霊が存在するのです。その精霊の力を借りて、水を発生させるのが『精霊魔法』ですね。先程も申し上げたとおり、『魔法』は魔術の使用者の魔力を物質や現象に置き換える概念ですから、周囲の水分とは無関係で、材料は魔力だけなのです》


《つまり、乾いた砂漠でも水を出せるし、大海原の真ん中でも火が使えるわけだね》


《その通りです。『精霊魔法』と区別するために『純粋魔法』と呼ばれることもありますね。ちなみにステータスの魔力は出力を示しています。魔術の燃料である魔力とは別物ですね。同じ名前なんですが、こちらも区別するためにマナと呼ぶほうが一般的かもしれません》


《マナの総量を調べる方法とかあるのかな。鑑定で見たステータスには表示されなかったけれど、あれだけ水を出したら枯渇しているかもしれない。まさか、マナの枯渇で命に関わることがあるのでは?》


《マナを蓄える器官は、心臓の筋肉のように、生命がある限り休むことのない体内器官なのです。そりゃ何にも考えずにバカスカ魔術を使えば疲れますが、ちょっとドキドキするぐらいですよ。死にはしません。ドキドキしている間に休んでいれば、すぐに満タンになりますよ》


魔法がない地球からの転移者であるケネスは、様々な疑問が生まれる。

その多くの疑問をリリスにぶつけてみても、全てに答えが得られるわけでもない。

リリスは異世界知識を与えてくれるナビゲーターで、あくまでもこの世界で知られている『既知の概念』しか回答しない。

何か心に引っかかるものを感じてはいたが、『魔術』なくして『魔法』は無意味と結論づけて、次の『自給自足』にとりかかる。


女神は、文化的侵略にならないことを条件に、現代生活を維持する加護として、『自給自足』を与えた。

避難所としても活用できるし、望んだものを「金銭的な対価」ではなく「努力」によって得られる、そんな仕組みが『自給自足』であるべきだろう。


《リリス。話は変わるけど、『自給自足』の加護について、なんか知っている?》


《わかりません。こんな加護は、見たことも聞いたこともないのです。女神からは、けっこうケネス様の器の容量ギリギリの加護であると説明は受けていて、そのため初期段階では機能を絞り込むしかなかったらしいです》


《どうやって使うんだろうね?》


《全ての加護はパッシブです。使おうと思って使うのではなく、常に加護を受けている状態になります。『自給自足』の言葉通りの意味なら、必要とするナニカを求めれば、それを得られる手段が提供されるということになりますね》


《この加護を受け取るときには、実はトイレや風呂の心配をしていたんだけれどさ。この村に限って言えば、若干原始的ではあるけれど、スライム浄水器がある分、まだマシなんだ。ただ、転移者の俺からすると、ワンルームの室内で桶に用を足す行為には抵抗がある。それに葉っぱじゃなくて、もっと柔らかいトイレットペーパーが欲しいな》


日本人が開発した洗浄便座は、今や海外でも好まれている。

お尻に優しく、紙資源を消費しない利点は、確かに環境や健康への関心が強い現代人に支持されてしかるべきだろう。

でも、ドラッグストアには常にトイレットペーパーが山のように積まれて、売られている。

洗浄便座が備えられたトイレにおいても、トイレットペーパーは存在する。

つまりは、洗浄便座によって、100%トイレットペーパーが駆逐されたわけではない。

まだ多くの人が、柔らかいトイレットペーパーによる確かな拭き心地を求めているのだ。


《ケネス様!! 突然、く、黒い渦が!》


《むむ、『鑑定』を使うよ。あ、これが『自給自足』らしいよ。ここに入るのかなあ》


ケネスの目の前に出現した黒い渦は控えめにマナを放っており、マナを感知できる妖精族のリリスは不自然なマナの発生に危機感を覚えていた。

一方のケネスには、『魔力感知』などの偵察系のスキルは一切ないので、危機感を覚えることなく、渦に触れてしまう。


その渦の向こう側は、中心にラベルが貼られている壺があるだけの3畳ほどの狭い空間だった。

渦に触れたことで、渦を通り抜けて『自給自足』エリアに侵入してしまったらしい。

昼間は姿を見せないはずのリリスが、なぜかレナスの肩に乗っており、その目は壺を睨んで、大きく開いている。


「なんぞ、これ?」


壺のラベルには、ゴシック体で説明が書かれている。


『トイレットペーパー(12ロール):3kgの樹皮、100gの葉を入れよ。さすれば得られん!』


「あ、なるほど」


ケネスは分かってしまった。

これまでの経緯を繋げれば、この空間はシェルターだ。

しかも、謎の壺により、望んだもののレシピが提示される。

つまりは、望んだものが得られる仕掛けなのである。

仮にトイレットペーパーを得られたとして、この空間外でも使えるかどうかは不明だが、樹皮と葉だけを用意さえすれば、壺は嘘をつかないであろう。

壺とは、そういうものだ。嘘だと思うなら、壺に騙された人を見つけて……けっこう大人数がいるかもしれない。

ま、残念なことに、樹皮も葉も手元にはないわけだが……。


「これで、森で野獣に出会っても、逃げる場所だけは確保できるわけだな。黒い渦が、俺だけに影響を与えると仮定してだが」


「加護は、特に明記されていない限り、本人以外には使えません。パッシブですからね。リリスが、ケネス様の加護に巻き込まれたことに対しては、リリスにとっては自我の確立において大問題ですけれど!」


「ま、一蓮托生ってやつよ。それより樹皮というと、周辺の木から剥いだものでいいのか。村の薪割り小屋にいけば、わざわざ剥がなくても、いっぱい落ちてそうだな。葉についても、特定の植物の葉を指定されたわけでもないし、森には腐るほど落ち葉があるから問題ないか」


「現代知識チートで、必死に製紙している転移者が泣きそうな能力ですね。それもこれも、生成したトイレットペーパーなるものが、この空間以外でも使えるかどうかが重要です。使えないのであれば、ここをトイレにするしかないんですから……」


「何を気にしているのか分からないが、得られたトイレットペーパーをリリスの亜空間にいれて運べば問題ないんじゃないか。だいたい樹皮も葉も壺に入れるためには、この空間に持ち込むしかないんだから……っていうか、壺ごと持ち運べるっぽいけど?」


「それって、魔王ルートじゃないですか!」


どうやら、『魔法』も『自給自足』も便利で強力な能力ではあるものの、ガンガン使って俺tueeee的な加護では決してなく、どちらかというと微妙なものだった。

器がどうのと言われていたし、レベルを上げれば利便性が高まるのかもしれないが、そもそもケネスには戦闘能力がない。


「前途多難だな……」


「はい……」


次回、「7.冬に備えて」


ケネス君の加護は、なんか微妙っぽいし、これ大丈夫なんですか?

スカっとする展開……しばらくないかもなあ

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