ラスボスは送り狼
「あぁっ、この馬鹿! まだ話は終わって……切りやがった」
通話が切れた術話器を握り締め、アロンソが叫ぶ。
「若旦那、ふられたー」
「ふられたー」
「いつものことだよね」
楽しそうに合唱するのは、アロンソの実家がポォのダンジョンに出展したレストランの店員であった。
それぞれが豚頭のオーク族、鶏頭のアブラサクス族、さらには山羊や羊頭の店員を取り揃えているあたり、なかなか自虐的な光景である。
客としては、彼ら自身がキレたアロンソの手によって皿に乗せられて料理として出てこないことを祈るばかりだ。
「ふ、ふられて無い! アレは恥ずかしがってるだけだ!!」
「たぶん、アロンソさんの手を借りたくないんでしょうねぇ」
どこか悲壮感の漂うアロンソの後ろで呟くのは、家族サービスで来店中であった賢者ルルーだった。
「ポォ先生、荒事も苦手だけど恋愛沙汰も苦手だからねぇ」
その隣には、ルルーの旦那であるクラウドもいて、この非常事態だというのに暢気に苺ソースのタリアータをパクついている。
このメニューはアロンソが勝利記念として期間限定で店に出したメニューであり、なかなか客にも好評だった。
「それで、アロンソさんはどうされるんです?」
「決まってるだろ? ポォが嫌がってても絶対に助けてやる」
「どうやって?」
ルルーの言葉に力強く答えアロンソだが、現在彼らは店の中に閉じ込められていた。
ゴブリンたちはこのフロアのすべての店舗の入り口を隔壁で閉鎖して、自由に移動できないようにしてしまったのである。
「ふん、こんなものでこの俺様を閉じ込めたつもりかよ。 ゴブリンってのは実にめでたい頭をしているようだな」
アロンソこともなげに閉鎖された隔壁に手を当てると、まるで自動ドアのように隔壁がひとりでに持ち上がる。
「何をされたのですか? 先ほど私も開錠の術を試してみたのですが、抵抗が強すぎてうまく開きませんでしたのに」
プライドを傷つけられたルルーが不満げに口を尖らせると、アロンソは唇をニィッと吊り上げて自慢げに笑った。
「おいおい……俺の種族を何だと思ってる? 迷宮の主ミノタウロスだぞ」
どう関連しているのかは不明だが、彼がルルー以上の魔力を持ち、迷宮の設備に干渉できることだけは間違いない。
「若旦那かっこいー!」
「若旦那すてきー!」
アロンソのキメ顔に、店員たちから茶化すような歓声が飛ぶ。
茶化された本人もまんざらではないあたり、実に緊張感の無い光景だ。
「若旦那言うな。 ほら、俺の花嫁を助けに行くぞ! お前らついてこい!!」
店員たちを引き連れてアロンソが通りに出ると、彼に支配権を奪われたのか周囲の店が次々に開放されていった。
そしてアロンソがポロメリア公女を助けに行くと告げると、男たちを中心に魔族たちは次々に志願兵となってアロンソの後に続く。
その数はみるみる膨れ上がり、気づいたときにはアロンソをトップとする一大軍勢が出来上がっていた。
「じゃあ、俺たちもいきますか」
クラウドがその妻であるルルーの手をとるが、彼女は少し物憂げな顔をして呟く。
「ごめんなさいね、今日はゆっくりするはずだったのに」
「文句は全部終わった後で現況に直接言うことにしようか」
クラウドは夫らしく妻を気遣うような笑顔を見せた。
そしてこの人狼の夫婦は頷きあい、その手にナイフのような爪をむき出しにすると、阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえ始めたダンジョンへと足を向けたのである。
***
「……我が親愛なる僕、ゴム管を遣わし、彼らを虜囚にせんことを!」
ヒュッと鋭い音が風を切り、細長い糸のようなものがゴブリンたちの手足を捕らえる。
「し、しまった!」
「たのむ、やめてくれ! そ、それだけは……!」
魔王城のエネルギーを使った魔術によって呼び出されたゴム管に縛られて磔のように状態になったまま、ゴブリンたちが首を激しく振って嘆願するが、そのときの僕に慈悲の心はなかった。
「ダメだね。 君たちが仕掛けてきた喧嘩でしょ?
命まではとらないけど、それなりの罰は受けてもらわなきゃ」
そう告げると、僕はゴブリンたちの靴の中にそれをゆっくりとしみこませる。
「お願い許して!」
「い、いやだ! 水虫になるのはいやだぁぁぁぁぁぁ!!」
「だーめ」
僕が彼らの靴に流し込んだのは、虐殺された白癬菌の魂を凝縮した悪魔の水、心霊白癬菌濃縮液である。
退治される白癬菌の生命力を何かに再利用できないかと思って作ったシステムの失敗によって生まれたこのおぞましい代物は、純粋なかゆみだけを延々と与えるという呪われた効力を持つ。
なお、臭わない代わりに治療にはお祓いが必要であり、元にした生物の性質もあってか異様にしぶとい。
さて、なぜこのインドア派の僕が、らしくもないバトルを繰り広げているかというと……
魔王城のエネルギーを利用した魔術は普通に使用できることに気づいたからである。
そして管理システムの監視機能を使って追いかけてくる無数のゴブリンをバッタバッタとなぎ倒し、まさに無双状態なのだよ。
もちろん殺してないよ。 しばらくの間動けないように"処置"しているだけで。
そして僕はただ逃げ回っているわけではない。
ちゃんとゴブリンたちの邪魔をしているのだ。
軽く説明すると……
僕の管理する魔王城の一角には、三階おきに補助システムというものがあり、管理システムから届いた命令を実行に移すシステムになっている。
……まぁ、これはもともと魔王城に備わっているデフォルトのシステムで、ジーニィを扱えるならばそんなシステムも必要ないんだけど、予備の管理システムとして残しておいた感じだ。
そもそも、このエリアってレンタルだし、そこまで改造すると返却するときに問題がおきるしね。
なお、このダンジョンにあるジーニィは僕の作ったオリジナルの魔術言語で制御しているため、ゴブリンたちが独力で扱えるようになるには10年単位の時間が必要だろう。
そして僕は、三階ごとに設置されている補助システムに細工を施して、その補助システムにゴブリンたちがアクセスできなくしているのさ。
現在は15階から20階までが彼らの管理から外れてしまっているはずだね。
この状態が長くかかると植物に悪影響が出てしまうから、はやいところカタをつけないと……。
「ご主人様ぁ 外部との連絡機能が復帰しましたぁ」
「ご苦労、シャザーン。 引き続きほかのシステムも復旧させてね」
僕は早速連絡機能を起動すると、様々なところに支援要請を依頼する。
……あ、パパとママに連絡するの忘れた。
どうしよう、後で絶対に怒られる。
「ご主人様ぁ 熱源が近づいてますよぉ」
「えぇっ!? 邪魔くさいなぁ」
僕がうまい言い訳を考えていると、まるでそれを邪魔するかのようにジーニィが敵の接近を告げてきた。
そして僕は幻視モニターを呼び出して敵との距離を測りながら曲がり角の影に隠れる。
敵は何も知らずに角を曲がり……
「今だ! 偉大なる魔王城よ。 その力の欠片を我に与えたまえ。 我が親愛なる僕、ゴム管を遣わし、彼らを虜囚にせんことを!」
魔術で呼び出した無数のゴム管が、現われたゴブリンに襲い掛かる。
だが……
「チェストォー!!」
そのゴブリンは手にした剣を一閃すると、飛んできたゴム管をすべて弾き飛ばした。
そんなの反則だよ! 君はアロンソの親戚か!!
「ふはははは、ゴブリンチーフであるこの俺にそんな小細工が通じると思ったか!」
「落とし穴!!」
すかさず僕は魔王城の機能で落とし穴を作り出す。
しかし、こんな手が奴に通じるはずも無く……
「甘いわぁ!」
僕の作った落とし穴は、ゴブリンチーフにジャンプでかわされた。
「そっちがね!!」
僕はバックステップで後ろに下がりながら、さらに落とし穴を作り出す。
そう、彼の着地地点に。
「落ちろ!!」
「へ? あわわわわわわ、ぬかったわぁぁぁぁぁ!!」
空中ではいかなゴブリンチーフでも何も出来ず、悲鳴と共に穴へと落ちてゆく。
でも、それが僕の限界だった。
「ふぅ……危なかった。 あれ? 何の音?」
何かを激しくけるような音に、僕は軽く首をかしげる。
すると、落とし穴からゴブリンチーフがあっさり飛び出してくるじゃないか!
「よくもやってくれたなこのクマが!!」
「うそぉぉぉぉぉぉ!?」
なんで!? もしかして、壁を蹴った反動を使って穴を登ってきたの!?
僕が動転している間に、ゴブリンチーフはスチャッと地面に着地する。
そして僕の方をいやらしい目つきで見ながらニヤリと笑った。
「ふぅ、さすがに今のは焦ったぞ。 だが、同じ手が二度と通用すると思うな!」
こ、こうなったらちょっと強めの魔術で!
「くっ、偉大なる魔王城よ。 その力の欠片を我に……」
「遅い!!」
僕が呪文を唱え終わる前に、ゴブリンチーフの手が僕に伸びる。
だが、その時だった。
「……グハァッ!?」
何か大きな影が、ものすごい勢いでゴブリンチーフを跳ね飛ばしたのである。
***
「おや、そちらも足止めですかアジルさん」
「おお、奇遇ですな」
その頃、魔王城の外ではニコルソンとアジル……むさくるしいオッサンふたりが高い壁を見上げていた。
「ちょっと同僚の足の病のことでポォ先生に相談したかったのですが、帰還魔術がはじかれてしまいましてね。
おかしいと思ったので様子を見に来たのですが……なにやら不穏な空気を感じますね」
重度の水虫の治療方法を聞きに来たとはとても思えないシリアスな顔でニコルソンが呟くと、何も知らないアジルは大きく頷いた。
「わしもコニルソン殿と同じ意見ですじゃ。 先ほど気になって地図作成の魔術を掛けてみましたが、魔王城から師匠の支配エリアに続く道がことごとくふさがれているようでしてのぉ」
この二人、どちらも人間達の間ではその道の達人として知られている人物である。
潜った修羅場も一つや二つではなく、その経験がこの先にとんでもなく危険な案件が待ち構えていると囁いているのだ。
「ほぅ? それは困りましたね」
「まったくですな。 気は進まんのじゃが、ポォ先生が巻き込まれている可能性がある以上、ワシは行かねばならん」
「いったいどうするつもりで? 魔王城を経由しなくてはポォ先生のいるエリアには入れませんよ」
それこそエメラルドのような怪盗であれば何か手段があるのかもしれないが、あいにくとニコルソンはその手の技術にあまり詳しくなかった。
そしてニコルソンが知る限りでは、目の前のアジルもまた地魔術の専門家であり、斥候としての技術は持ち合わせていないはずである。
「実はこのエリアの屋上には、ホテル建設のためにポォ先生からお借りしているエリアがありましてな。
ダンジョンの中に入る入り口があけてあるのですよ」
そう告げると、アジルはまるで平地ように壁を垂直に歩き始めた。
――なるほど、地の眷属である重力の魔術か。
「よろしかったら、ご一緒してよいですか?
私もポォ先生には大変お世話になっているので」
「では、参られよ。 早くしないと、アロンソ殿に美味しいところをすべて持ってゆかれてしまいますぞ」
伸ばされたアジルの手を握ると、ニコルソンもまた壁を伝って魔王城の屋上へとなんなく忍び込むことに成功するのだった。
***
「おい、やっと上層部の監視モニターが復帰したぞ」
難解なルーンを打ち込み終えると、エンジニア役のゴブリンがフゥとため息をついた。
「やっとかよ……どれだけ手間取ってるんだ」
「仕方ないだろ!? 相手はあのポロメリア公女の作ったシステムだぞ?
文句があるならお前がやってみろよ!」
正直な話、今でもどうやって取り戻せたのかよく分からない状態である。
おそらくポロメリア公女が何らかの方法でシステムに制限を掛けたのだろうが、いかな方法を使ったのか彼らにはまったく想像も出来なかった。
「御託はいい。 早いところ……」
その時だった。
「助けてくれぇぇぇぇ!!」
突如として通信機から響いた悲鳴に、管理室にいたゴブリンたち全員が振り向く。
「どうした!?」
「こ、こちら19階! 外部から敵襲!!」
「そんな馬鹿な! 敵の規模は!?」
「て、敵は人間二人! 剣士と地魔術師の……ザザッ、ブツッ」
そこで音声は途切れた。
いったいなぜ? このエリアは外部から完全に隔離されていたはずなのに……
彼らは知らなかった。
このエリアが、いかに恐ろしいスピードで変化しているかを。
そして、ポォがいちいちそれを報告などしない、とてもいい加減な性格であったかを。
「くそっ、予想外だ!」
そう悪態をつきながら、そのゴブリンは18階と19階のエリアを防壁で隔離する措置を行った。
応援を要請してきた連中には悪いが、今はそんな状況ではない。
ただでさえ、三階と四階のフロアが物理的に開放されてしまい、そこからあふれた魔族たちの対処にほとんどの人員が奪われているのである。
「早くコアをもって撤収しよう!」
「だが、それにはポロメリア公女の身柄を確保しなければ!!」
彼らのもう一つの悩みは、デスクワークが専門だったはずのポロメリア公女の身柄がなかなか確保できないということである。
逆にいえば、彼女さえ確保できれば、彼らの悩みの9割は解決するといってもいい。
その時である。
「い、いました! 7階でポロメリア公女を発見!」
「すぐに確保に向かわせろ!」
通信兵のゴブリンが慌てて通信機のスイッチを入れる。
だが、その手を参謀役のゴブリンがガシッと掴んだ。
「いや、まて! ここで人員を向かわせてもまた逃げられるかもしれない!」
「じゃあ、どうするんだ?」
問いかけるリーダー役のゴブリンに、参謀役のゴブリンは告げる。
「……追い込むんだよ。 逃げ道が完全になくなるようにな」
そして参謀は7階のマップを広げ、ポォの位置に駒を置く。
次に彼らは、三階の鎮圧に乗り出している部隊に撤収を命じ、7階へと向かうように指示を出した。
「さぁ、熊狩りの時間だ。 猟犬を配置しろ!!」
そしてゴブリンたちの魔の手が、本格的にポォへと襲い掛かったのである。
ポォを示す駒を中心に次々と配置されるゴブリンの駒。
二人一組を徹底周知させ、ポォに突破されないように細心の注意を払うよう支持を出す。
そして彼女の逃げ場が完全になくなったことを確認すると、参謀のゴブリンはニヤッと笑った。
これであとは彼女からコアの移動方法を聞きだすだけである。
やがてゴブリン兵の駒がその方位を狭め、ポォの駒に重なろうとした瞬間……
『Game Over! やぁ、楽しんでもらえたかな?』
幻視モニターの画面いっぱいに、派手な衣装に身を包んだグレムリンの姿が映りこんだ。
『今回はポロメリア公女のご依頼とご協力により、大変よい絵が取れました!
パフォーマンスチーム、ラ・バロックを代表して心からお礼申し上げます!
間抜けなゴブリンの皆さんにも拍手拍手ぅ!!』
そんな音声と共に、通信機から悲鳴のような声が響く。
「やられた! 追い詰めたはずの場所はもぬけの殻だったぞ!!」
「まさか、さっきの画像が全部ダミー!?」
そう、ダンジョンのコントロールを取り戻したと思っていたのは、すべて誰かが用意した偽装のユーティリティーページに移動させられただけだったのだ。
それに気づいてまもなく、通信機から聞こえる音が悲鳴に変わる。
何が起きたかなど知る由も無いが、どうなったかについては想像に難くない。
「では、本物のポロメリア公女はどこに!?」
「残念だが、お前たちがそれを知る必要はない」
その声に振り向くと、恐ろしく美形なミノタウロスが、とんでもなく機嫌の悪い顔でバキバキと拳を鳴らしていた。
そしてその後ろで、小柄な熊のような生き物が、やっほーと小さく手を振っている。
「貴方たちのミスは……ひとえに優先順位を間違えたことでしょうね。
私なら、多少効率が悪くてもポォ先生の身柄を最優先にしていたでしょう」
ミノタウロスの後ろで黒髪の美しいワーウルフが冷ややかな声でそう告げると、その隣にナイフを持った少女が現われた。
「上の階はニコおじさんとアジルさんが掃除し終わったらしいよ。
1階と2階は冒険者たちが自発的にお掃除してくれたみたい。
3階と4階も制圧済みだし、あとはこいつらだけね」
そして、いくつもの冷ややかな視線がゴブリンたちに突き刺さる。
そしてゴブリンたちの反応はというと――
「……投降する」
賢明にも、彼らの司令官は無駄な努力を選ばなかった。
***
「かんぱーい!」
僕の音頭にあわせて、なみなみと飲み物が注がれたグラスが打ち合わされる。
打ち上げに集まった顔ぶれは、みんなスッキリした笑顔を浮かべていた。
ここは僕の管理するダンジョン4階にある高級料理店――まぁ要するにアロンソの実家のお店である。
身内の店という気安さもあるけど、テナントで入っている店じゃここが一番美味しいからねぇ。
「ほら、豚の丸焼きが焼けたぞ!」
「やーん、おいしそー!」
アロヤソと一緒にスタッフが二人係で丸々と太った豚の丸焼きをもってくると、メルティナの口からちょっぴりよだれが出ていた。
え? 僕? ほら、一応公女なんでそのあたりは厳しく躾けられているから。
……口を開くとちょっとヤバいけどね。 ジュルッ。
「しかし、今回はさすがに肝を冷やしましたぞ」
キンキンに冷えたエールを飲みながら、しみじみと語るアジル。
でも、君の練習用として別にしておいた管理コアのおかげでかなり助かったよ。
「そうですよねぇ。 ただでさえポォ先生を一人にするという恐ろしい状況でしたから」
「ひどいよ、ルルーお姉さん。 まるで僕を一人にするほうがテロリストが押し寄せて国の最重要機関を乗っ取るより危険なように聞こえるじゃないか」
「ふふふ……」
「あはははは、そうね、どっちがマシなんだろうね?」
ちょっと、それどういう意味だよメルテイナ!
アロンソもなにため息ついてるのさ!!
も、もうやめ! この話の流れ、禁止!!
「え、えっと……そうだ! ずいぶんとかかってしまったけど、ようやく全部の宝珠が集まったね!」
「え?」
話の流れを変えようと思って振った話題だが、なぜか周囲の表情が凍りつく。
やがて、意を決したかのように口を開いたのはニコおじさんだった。
「ポロメリア公女、残念ですが今回集まったのはわが国に残っていた宝珠だけです」
「ど、どういうこと、ニコおじさん?」
その言葉の続きを、メルティナが目をそらしつつ引き継ぐ。
「なにぶん女神の涙自体が貴重品だからね。
購入したのがあたしたちの国の人間だけじゃなかったのよ」
なにそれ! 聞いてないよ!
「そ、そんなのどうするのさ!」
国外に流れた宝珠なんか、ここで情報を集めていたって戻ってくるはずないじゃないか!
思わぬ事実に僕がおもわず立ち上がったその時だった。
「追いかけるしかないだろ? 心配するな。 俺がついていってやるから」
「べ、別にアロンソについてきてもらわなくても、ほかに頼りになる人は……」
僕はメルティナに視線を送るが、彼女はスッと目をそらした。
まさか! 続けてアジルやニコおじさんに視線を送るが、こちらもサッと顔を横に向ける。
新婚のルルーお姉さんは最初から論外だ。
……まさか。
「アロンソ……まさか君」
僕と二人っきりになるために仕組んだな!?
「どうした、ポォ。 俺と二人っきりで旅をするのがそんなに楽しみか?」
「この腹黒! 野獣! 送り狼!!」
僕はあらん限りの罵声を叩きつけたが、奴は心の底から楽しげに笑うだけだった。
あぁ、ほんと、誰か助けて!
僕は……僕は本当に困っています。
これにて第二章終了です。
しばらく別件の作業がありますので、第三章の開始はしばらくお持ちください。




