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第九話

 さっきぶつけた足が痛い。

 藤川さんのパン屋から家に帰り、足を見ると腫れていたので湿布を貼った。

 この湿布の匂いは好きだ。

 スーッとし、すっきりする。


 でも今は、湿布の匂いでは拭えきれないほどモヤモヤが溜まっている。

 全然すっきりしきれないし。

 それに足より心の方が痛い。

 ……俺、本当に失恋したのだろうか。

 なんだろう、この……生きていることすらどうでも良くなるこの感じ。

 鬱だ……。

 

「このパン、美味しそう! どうしたのよ、これ」


 湿布を貼り終えてリビングでボーッとしていると、姉が仕事を終えて帰ってきた。

 新社会人で新入社員な姉は最近帰りが遅いことが多かった。

 会社の人にも気に入られているようで、飲み会や食事に毎日のように駆り出されているが今日は早く上がれたようだ。

 テーブルの上に置いていたパンを見て、テンションの高い声を出している。

 煩い。


「俺が買ってきた。食べていいよ」


 言わなくても食べるんだろうけど。

 それ食べて、早く黙って。


「いいの? やったあ! 司のくせに気が利くじゃない」


 いいから食べて、早く。

 

「美味しい! でも、パンなんか買ってきちゃって、どうしたのよ」

「別に」

「店に可愛い子でもいるの?」

「うん」

「へえ?」


 なんで分かるの。

 超可愛い子がいるから。

 俺と結婚するから、未来の妹になるよ……なるはず……なるはずだから!


「へえ? あんたのタイプって全然浮かばないわ。どんな子よ」

「姉さんと正反対で可愛い」


 姉の容姿は人目を引くが、俺から見れば愛らしさなど皆無だ。


「よし、お姉ちゃんに遊んで欲しいってことだな! とぅ!」


 あんドーナツを咥えたままクロスチョップで飛んできた。

 ああもう、砂糖がボロボロ落ちてる!

 油がつく!

 ほんと最低……。


「こういうことをしない子ってことね」


 キッチンからこちらの様子を見ていた母が呟いた。

 そうです。

 俺の藤川さんは油と砂糖をまき散らしながらスーツ姿でクロスチョップなんてしません。


 藤川さんはどういう奴が好きなんだろう。

 片想いの相手って誰なんだろう。

 知らないことが多すぎる。

 やっぱり話をしなきゃ。


 明日から……いや、今から頑張る。

 『俺・改NEO』になるため、経験値アップする。


「頑張ろ」


 藤川さんの店で買ってきたスイートポテトを食べた。

 美味い。甘すぎずちょうど良い。

 そういえば……結婚したらパン屋を継いだほうがいいのだろうか。

 パン作りとか出来るようになっておいた方がいいかもしれない。


 自分の部屋に行きベッドに転った。

 パン作りについてネット検索してみようとスマホを見ると、大翔から着信が入っていた。

 かけ直したが出なかった。

 今日は安土と遊ぶと言っていたから『用事が終わったら来れないか』とか、そういう内容の電話だったのだろう。

 安土は本当に元気だな、積極性を少し分けて欲しいくらいだ。

 俺は生まれ変わってもあんな風にはなれない。


 ああ、藤川さん。

 今頃何してるんだろ。

 きっと明日は話せる、話すから。

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