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第四話

 一限目は視聴覚室に移動だった。

 面倒だ。最初から視聴覚室に集まって、HRをすれば良かったのに。

 っていうか今更交通安全とか……。


「ツカサ、機嫌悪い?」

「? 別に」


 隣を歩く椿が、俺の顔色を窺うように覗き込んできた。

 朝の藤川さんミッションをクリア出来なかったダメージは残っているけど大丈夫だ。

 まだ一日は始まったばかりだ。

 ……昨日も同じこと考えた気がするけど。


 いや、今日の俺は昨日の俺とは違う。

 経験値が貯まり、レベルアップした『俺・改』だ。

 話し掛けるとか余裕。

 全然余裕……余裕だし……何喋ればいいか分かんないけど……。


「奥しか空いてねえじゃん」


 藤川さんと話す話題を考えながら歩いていると、いつの間にか視聴覚室に辿りついていた。

 先頭を歩いていた大翔が空いている席を見つけたようだ。

 大翔が言う奥の方に目を向けると……藤川さん!

 目が合った!

 もう運命じゃん!

 俺に座れってことでしょ!

 待っていてくれたの?

 待っていて、すぐ行くから!!


「王子ぃ~、ここに座りなよ。私達後ろに移るから」


 は?

 早く藤川さんの隣に座りたいのに、前のテーブルに座っていた子に止められた。

 なんで?


「後ろ行くけど」

「前の方が見やすいでしょ?」


 俺、超目が良いけど。

 むしろこの日のために視力を落とさず死守してきたと言っても良い。

 っていうか授業なんて見えなくてもどうでもいいけど。

 どうせ交通安全だし、自転車に乗ったスタントさんが車に轢かれている映像みるだけだし。

 怖いですねって、気をつけようねって言って終わるだけだし。


 っていうかすでに、藤川さんの隣の席取られたし。

 本当になんで……神って本当にいないんだな。


「司、さっさと座れよ」

「俺だって(藤川さんの隣に)座りたいよ……」

「?」


 大翔、先頭を歩いたお前のルート選びが最悪だったからな。

 罪は重いぞ。

 違うルートだったら……いや、気配を消してサッと奥に回っていたら藤川さんの横に座れたのに。

 隣に座ることが出来たら――。




 (ん?) 

 隣に座っている藤川さんがノートの切れ端を俺に?

 そこには……。


『藤王くん、好きです』


 藤川さん!

 俺もっ!!


 ……っとか出来たのに!!




 ああ、いいな。

 いや、やっぱ紙は俺から渡すべきだな。

 『好きです』って書いた紙をそっと渡すと、藤川さんが何かを書き足して返してきて、何書いたのかなって……。


『私も』


 藤川さん!!

 凄えいい……その場で押し倒すしかない。


 ん?

 脳内が楽しくなってきて、いいところだったのに……足下に何か転がってきて遮られた。

 なんという野暮な。

 シャーペン?

 誰だよって……藤川さん!!

 まさか、このシャーペンに紙が巻かれているとか! ……無かった。


 いや、もしかして……わざと俺の所に転がして、気を引こうとしている?

 一緒に座ろう!

 隣来て、むしろ俺の膝の上に座って。

 後ろからギュッとして、あのぴょこっとしたとこ食べたい。


 ……って、藤川さんが困っている。

 早く返さなきゃ。


「はい」


 シャーペンを拾い、藤川さんに渡した。

 ついでに俺の気持ちも受け取ってよ。


 はっ、まさか……神よ。

 これは『ちゃんと神いるし』っていうアピールのアクシデントですかね?

 んー……まあまあだな。

 良い線だけど、分かってない。

 シャーペンじゃなくて、藤川さんを転がして?

 あと、シャーペン可愛い。

 同じものを買おう。


「ご、ごめんなさい……ありがとう」


 !

 かわいっ! かわいすぎ!!

 かつて地球上にこんな愛くるしい生物が存在していたことがあっただろうか!

 ……って待って。

 俺が喋って、藤川さんが返事して……ってこれ、会話じゃない!?


「うん」


 落ち着け俺、自然な感じで。

 大自然に溶け込むくらい自然な感じで対応……出来たよな。


 やったぜ……やってやったぜ……。

 言葉を交わしたぜ、俺達。

 この調子で将来の約束を交わそう?


 うおおおぉぉぉ、すっげえ嬉しい!

 もっと話したいなあ。

 『シャーペン可愛いね』とか言えば良かった。

 その後『どこで買ったの?』とか聞けるし。

 『俺達付き合おう?』とか言えるし。


「ツカサって罪な男だよねえ」

「?」


 脳内ハイテンションで、一切周りのことが入っていなかった。

 椿が遠い目をして『だよね』と言ってきたけど……ごめん、全く聞いてなかった。

 椿がいたことも忘れていた。

 ここが視聴覚室だってことも忘れていた。




※※※




 教室に戻ると藤川さんの姿は無かった。

 先に視聴覚室を出たはずなのに大丈夫だろうか。

 迷子になってないかな、変な奴に声掛けられたりしてないかな。

 大翔達と喋りながらも、藤川さんのことが気になって仕方が無い。


 そわそわしているところに、教室に戻る途中で別れた椿が戻ってきた。

 ……藤川さんと一緒に。


 おい、羨ましいぞ。

 椿と藤川さんは、一言二言言葉を交わすと別れた。

 藤川さんは席に着き、椿は席に着いている俺の隣に立った。


「藤川さんと話をしてきたの」


 知っている、見ていた、羨ましい。

 狡いぞ、俺を差し置いて……何故俺もトイレに誘わない!

 行きたかったな、トイレ。

 俺も話したかった、って……あ、ああああああ藤川さああん!!!

 大変なことに気がついた。


「でね、ツカサに聞きたいことが……」


 俺のぴょこが!

 寝癖が消えている!!

 トイレで気がついた?

 まさか椿……お前……余計なことしてないよな?


「! えっと……ごめん、何でもないの」

「うん」


 そうだったら許さない。

 俺のぴょこ、俺のぴょこ!!

 写真撮りたかった……。

 記憶には永久保存したけど、念写とか出来ないかな。


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