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終身  作者: 佐藤 成
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二つの世界と二人の神

不思議な事ばかり起こっているせいか、俺の頭は機能停止に近づいている。


「とりあえず、各自の名前を把握しておくべきね。私はかせ あや。そして私たちを留めてくれている神、アルモニア。で、貴方は?」


「は・・・、柵 圭」


「圭ね。で、貴方は何故死んだの?」


「そんな事きいてどうする?」


「ただ聞きたかっただけだけど、何か問題でもあるわけ?」


この人とはあまり仲良くなれないと、心の中でひっそり思う。


『彩、それよりも把握すべき事があるだろう』


「あー・・・、ゴホン!今の自分たちの状況を知る方が先だったわね」


そういうと下からスーッと女性の姿をした人が現れる。金色に輝く長い髪。まっすぐ伸びたまつ毛は何処となく色気があり、笑顔が素敵な印象を感じられる。まるで女神のような女性。


『名をミラ。私たちが止めるべき存在』


「止める・・・?何を?」


「ミラもアルモニアと同じ運命を変える事の出来る神。アルとは違う性格で、見た目からとは思えないくらい非情な人よ。見た目は大人だけれど中身はまるで幼稚で、頑固者ときてる。扱いにくい大きな子供って感じね」


一人で何故か怒っている様子の彼女を横目で見つつ、俺は何も言わずに話を聞いた。


『ミラはミラで人間の世界を良くしていこうと、私とは別のやり方で運命を変えているのだが、・・・ミラのやり方はリスクの高い方法だと私は思っている』


「リスクの・・・高い?」


『彼女・・・ミラは人の不幸が多いほど、人の幸福が多くなると考えているのだ』


「!」


この世界には表と裏が存在すると言っていた。だが、それが全てに共通するとは思わない。ましてや、人の不幸が多いほど幸福が増すなどと安易な考えだけで運命を変えてゆくとは・・・。


「沢山の人が不幸になっても幸福が生まれなければ、ただ多くの不幸を生むだけ。だからリスクが高いってわけか」


「そう。ミラの考えは全てが間違いとは言い切れないけれど、それだけの理由で人の運命を不幸に変えてしまっていいはずが無い。だから私はアルの方へついたの」


「・・・つく?それじゃあミラって方にも俺たちみたいな奴らがいるって事か?」


アルは無言で頷いた。


「さっきの男はミラ側の人間よ。だから私たちを攻撃してきたの」


『ミラも私のように死んだ人間を利用し、人間の世界の運命を変えている。そして私はミラの変えた運命を批正する為にいるのだ』


アルモニア以外にも変えている奴がいると言っていたのはミラの事だったのか。だが、神同士のいざこざに何故人間が巻き込まれているのかは、アルモニアに聞いても分からないのだろう。


「で、貴方はどっちにつくの?」


「へ?」


「ミラにつくのか、アルにつくのか。どっちにもつかないって選択肢もあるけれど・・・。あれ?もうアルと契約してるんだ」


「け、契約?それって腕に名前を書いた・・・」


腕を見てみると痛々しく自分の名前が刻まれている。これがこの世界に留まる為の契約として書いたもの。


「それはアルの契約の流儀みたいなものよ、私は違うけどね」


そういうと彼女は長い髪を掻き上げるのだが、その姿を見て俺は己の目を疑った。


両方あるはずの耳が、片方にしか無かったのだ。そんな驚いた顔をした俺を見て彼女は苦笑いをする。


「これも契約の一種。でも、この契約はミラのやり方で魂の一部をミラに手渡す事。まぁ、要するに肉体の一部を渡すのよ」そう彼女は平然に言った。


その痛々しい姿からしてもそのミラという神は残酷のように思える。だから彼女はあんな発言や態度を取っていた理由が分かる。


「私は最初ミラと出会い、この世界の事を聞いたの。それで契約の為に自分の耳を彼女に渡したの。でも、ミラのやり方に不満を抱いた私は、ミラから逃げだした。何もない道をひたすら歩いている途中でアルに出会ったの。ミラの方もアルの存在が目障りだったから良く知ってたの。どちらかというとアルの方が私、気が合うみたいだったし・・・ね」


横目でアルモニアを見つめる。


『圭、お前がどんな人間かまでは私には分からない。お前がどちらにつくかはお前次第だ。どちらにもつかないという手もあるが、それは死を意味する事になる』


「な、なぜ?」


「この世界で存在する為には神との契約と共に、それ相応の働きをしなければならないの」


「働き?何かをしなければいけないのか」


「生きている時は食べ物からエネルギーを補給をしていたけれど、魂だけの存在になった私たちは食べ物では補給は出来なくなるの。それは理解できるわよね」


さっき分かった事で俺たちのような魂の存在は中身、臓器が無い。空腹感を感じる事は無くなる。それは生きる為のエネルギーを別で補わなければいけないという意味でもあった。


「それは分かるが、生きる為のエネルギーは今の俺たちに必要なのか」


「生きるという事は、何かを削りながら存在しているという事なの。だから死んだ存在の魂だけの私たちでも少しずつエネルギーは消費されている。だいぶ前にどちらにもつかない奴がいて、争いごとは嫌いだと言って何もしないまま時間を費やした結果、消滅したわ。契約したとしてもその対価を払わなければここに存在し続けられない。その意味、分かる?」


「要は、働かざるもの生きられず。か」


「そんなところ、ね。エネルギーがどうやって私たちに送られているのかは知らないけれど、何もしなければ死ぬだけという事は覚えていた方が良いわ。まぁ、貴方は大丈夫そうだけど」


「どういう意味だ?」


「ここまで話して落ち着いている人は珍しいって事。普通は混乱して話が進まない人ばかりだったけど、貴方は冷静でいるから」


困惑していないとまでは言わないが、自分でも何故だろうか。不思議とすんなり話が理解できた。


もしかしたら、俺は。


「で、どうするの?圭は」


「俺は・・・」


もう、自分の中で最初から答えが決まっていたのだ。


「アルモニアと一緒に運命を、守る」


運命を守るという宿命を。


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