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婚約破棄された公爵令嬢。実は転生者で――。

婚約破棄された公爵令嬢。実は転生者で――【前編】

作者: 薬島ヒロ

 予告してました短編。でも前編。今度また後編も投稿します。

「ミスティル・ヘルズス。貴女は婚約者として相応しくない振舞いをした。よって貴女との婚約を破棄させてもらう」


 と、十になる前に婚約した第三王子のハウルド・シェルツ・チェルグラウン殿下に告げられた。

 今日は世界が再誕してから1500年目となる新年を迎えるパーティーの日。各国によって新年を迎える行事はさまざまだけどこの国の、特に王侯貴族の子息令嬢の学び舎であるこの学園の生徒たちは大ホールで祝うのが習わしだ。現世(・・)では公爵令嬢たる私もそれに出席した。そしてまもなく日付が変わり、新たな年が明けようとした時に殿下はそう言ったのだ。

 殿下の周りには数人の殿方がおり、そして殿下以上に存在を見せているのは伯爵令嬢のメリッサ・シュミナイトが殿下に寄り添っている。なるほどと、理解しつつ扇で口元を隠す。


「ハウルド殿下。婚約破棄の理由は、そちらのメリッサ嬢が関係していらっしゃいますでしょうか?」

「その通りだ。貴女は生徒会の一員たる彼女に害したのだ。その被害者としてここにいる」


 殿下はそう言うが、全く心当たりがない。と言うより婚約者として殿下と顔を合わせる時に何故貴女がいるの? と思うくらいだった。これはこれで何も言わないのは令嬢として、婚約者としてはダメでしょうけど。

 いや。そもそも私、公爵令嬢としてもその振舞いは変わっていたのでしょうね。






 私は転生者と言うものだ。物心が付いた頃には前世を思い出し、そしてしばらくは大人しくしようと心に決めた。

 しかし父であるヘルズス公爵は仕事人で家族との触れ合いが少なく、家族である母と兄はそれぞれに不満と不安を抱えていた。そんな冷めた家庭にちょっと刺激しようと幼い私は単身で父のいる王都を目指そうとし、そしてめいいっぱいに心配をかけた。父と母には頬を叩かれた。兄はその光景を黙ってみていた。そして私はこう言った。


『馬鹿な娘と思っても構いません! お父様やお母様、お兄様のお心が晴れるなら!!』


 あれだけの事をしたがこの言葉は本音だった。心配をかけたっていい迷惑をかけたっていい叩かれたっていい怒られてもいい。それでも家族が揃うことを望んだ。

 家族は知った。幼い娘が歳不相応に聡く、しかし家族といる事を望んで危険を冒し行動したことを。その日の夜に私を除いてみんなは自分たちの胸の内を曝け出し、そして和解した。その後に知ったが父が家に帰らなかったのは国内の派閥が緊張状態であり、その期間と後始末で家に戻れなかったと。ただ私の暴挙がなかったなら家に戻る事はなかっただろうと頭を撫でで教えてくれた。対して私は歳不相応に聡い子である理由を明かした。最初こそ信じて貰えなかったがその証明をした事で信じて貰い、そして受け入れて貰えた。この時、色々と約束をしたけどそこは割愛しましょう。






 それ以降、父はそれ以前よりも屋敷に戻られるようになった。それでも一度、胸の内を曝け出した事で以前のような空気になる事はなかった。そのせいか私にも妹と弟が出来た。2人には貴族としても心構えをそれとなく教え、それでいて自身の願いとの折り合いをつけるように教えていたら一番になつかれてしまった。この頃にハウルド殿下との婚約も決まった。当時は婚約者としてお互いにその役割に相応しい交流をしていたわね。

 さて、それとは別に。この頃になると兄が国から与えられた領地を治める領主の後継者としてその役割に関わり始めた。私の義姉となる女性を嫁に迎えた事もあってちょうどいい頃合いだったのだろう。しかもこの義姉、家族問題解決後に出会った令嬢でほぼ恋愛した上で婚約した相手と言うから好都合主義だと思ったものだ。

 さて、そんな事となったが実は私も大きく関わった。私が転生者である事は家族と信頼の置ける数人だけ。あまりにも大きすぎた(・・・・・)のだから王族にも伝えなかったのだ。あとが怖いかもしれないと思うけど、


『私が秘していた、と言うことにしましょう』


 これに落ち着く。自惚れでもなく、それだけの価値が私にあるのだ。

 しかし私はあまり多くの事はしていない。

 まず領地の地形を見直し、村々の職人たちを見直し、資源を見直させた。つまり領地には何が有り余っているのかを再確認させる事。そしてその上で使っていないものをどう使えるか、今使ってるものがどのくらいでなくなるのか。未来の発展を考えて洗い直させた。あとは生産される作物をどうすれば安定するのかの知恵も与えた。ここに関しては森が豊かな理由に気づいた、と世間を誤魔化した。






 そして更に月日が経つと私は王都の学園へ入学した。この数年で領地は豊かになり、使わなかった資源を使えるようになって発展もした。父は未だに兄に家督を譲っていないが周囲から安泰と噂されている。これで私の正体がバレたらどうしようと思ったが、父と兄が口八丁で誤魔化すと言っていたので何とかなるでしょう。

 私の入学時期はハウルド殿下も入学。さらには宰相様や騎士団長殿の御子息。そして1つ上には王宮魔術師様の御令嬢が在籍されている。更にこの来年には宰相様の御令嬢、王宮魔術師様の御子息が入学するのだから何とも豪勢であった。私の妹はその次に入学する予定である。しかし私が在学2年目の時、彼女がやって来たのだ。

 それがメリッサ嬢の編入だ。彼女はシュミナイト伯爵の庶子。長らく子が出来なかった伯爵様にとっては幸か不幸か。しかし夫人との子がいないのであればある程度の醜聞は目を瞑るしかないでしょう。ただ父に聞いた話、彼女は孤児として教会にいたらしい。つまり、貴族社会に合わない気質を備えてるのでしょう。シュミナイト伯爵もそれはわかっていたようで見つけ出して1年間は教育をしたそうだ。それにしても父はどうやってこの話を嗅ぎつけたのでしょうね?

 そんな特異な経緯を持つメリッサ嬢だったが、第一印象は女優と言う印象でした。令嬢としてまだ未熟ですがそれもまた仮面の一つにしか見えず、まるで誰かの好感を得ようとしている振舞いでした。そして彼女に心を掴まれたのは宰相様、騎士団長殿、王宮魔術師様の御子息。そして私の婚約者であるハウルド殿下でした。それはまるで彼らの心の傷や穴が目に見えているかのように、簡単に。

 そんな中、私はただ令嬢として勉学と交流、そして見聞を深めていました。やはり無知であれば恥をかくのは私だけではなく家も評判を落としますからね。もちろんそれにはハウルド殿下との交流もありましたがメリッサ嬢が現れてからその時間は減っていき、そして2か月前には文通すらなくなりました。

 そしてそれが今、そのメリッサ嬢を傍らに婚約破棄を告げた。







「―――聞いているのか?」

「はい、もちろんですとも。メリッサ嬢は私から殿下に近づくなと脅しをかけ、それでも近づいた為に嫌がらせを始め、先日にはついにケガを負わせた。たった今そう聞きました」


 これまでの半生に耽りつつも殿下が口にする罪状と言うものを聞き、そしてハウルド殿下に言葉を返すために扇を閉じで答える。しかし全く心当たりがない。そもそも彼女と顔を合わせたのも3か月も前ですから。しかし話だけということは証拠はメリッサ嬢だけの証言しかなく、他に証拠はない。つまりハウルド殿下はそれだけメッリサ嬢の言葉を信じている。言葉は丁寧だが出るものは愚かすぎる。この様子じゃ陛下や王妃の許可もないのでしょう。

 周囲は何も言わず沈黙している。ハウルド殿下たちは何を思っているのかはわからないですが、私には口出しできない王族がなんと愚かなことをしているのだと、そんな目で見えますね。

 しかしこれは、そうね。


「申し開きはあるか?」

「ではまず一言。




















     ――バッカじゃねぇのか、第三王子様」













 本性を、前世の()を曝け出した。

 それと同時に新年を迎えた鐘の音が鳴り響いた。なんとまぁ、空気読みすぎだろ世界(・・)







 続きます。

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