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悲しきウエディングフェア

 手作りの雰囲気が漂うウェディングフェアの当日を迎えた。

 わが社の一番の売りが、「手作り」なのだ。

 彼氏のいない痛い私が、ウェディングフェアでしっかり接客を努めなくてはならないのは、言うまでもなくいろいろな意味で痛い。

 腕を組むカップルや、手をつなぐカップルを見ては、心の中で何度となくため息をつく。その時の私の顔は、もちろん笑顔全開。手作りのウェディングボードを見入っているカップルにそっと近づいて、

「こちらのボードは、手作りなんですよ。実は、私が作ったんです」

 と言うと、二人とも私の顔を一斉に見た。

「誰でも簡単に作れますから。手先が器用な人は、凝ったものを作ったりもしますし。あまり手先が器用でない人でも、とても楽しんでかわいらしいウェディングボードを作っている人もたくさんいますから」

 すると、未来の新婦と思われる女性が、ウェディングボードをじっと見つめた。どうやら、自分も素敵なウェディングボードを作りたいと思っているらしい。そんな彼女の肩を優しく抱く未来の新郎。ほのぼのとした雰囲気だ。

 痛い私がいないほうがいい雰囲気になってきたので、退散した。

 この会場には、幸せがあふれている。どこを見ても、バラ色の幸せに包まれている。包まれていないのは、私くらいなものなのかもしれない。

 あまり、痛い、痛いとも言ってはいられない。私がここにいるのは、一人でも多くの人を幸せにしたいから。幸せのお手伝いをしたいからだ。幸せのおこぼれがもらえればもっといいけれど。いやらしいことを考えると、嫌なことが起こる可能性大。もっと前向きにすべてを考えなくては。

 こんな時に限って、双葉先輩のきつい一言を思い出した。


「なんだって、ウエディングプランナーデビュー?自分の幸せもつかめないのにか?」


 ウエディングプランナーになる!って思った時は、彼氏がいたのに。デビュー後に、いなくなるとは。私から別れを切り出したんだけど。

 今は一人でも、そのうち彼氏ができるはず。双葉先輩に文句を言わせないようにしなくちゃ。

 フェアの会場の雰囲気にも慣れてきて、だんだんと自分が独り身だって意識しなくなってきた。

 私は、幸せのプロデュースをする人間。そう自覚してきたのかもしれない。

 先輩たちと一緒に、会場に訪れた結婚を考えているカップルたちの対応に追われた。みんな、お互いに見つめあったり、中にはテーブルの下で手をつないでいるのではないかと思われるような人までいた。

 世界中を見渡せば、戦争が起きているところがあれば、飢餓に苦しんでいるところもある。そういうところに、このフェア会場の幸せの雰囲気だけでもおすそわけできたらって思うほど、ラブラブな世界だ。

 私は、人がいいのだろうか。カップルが目の前でにこにこしていると、その笑顔につられて、私までにこにこしてしまう。笑顔は伝染するということなのかもしれないけれど。

 ひと組、またひと組と対応をしていると――

 突然、私の眼に飛び込んできた衝撃的な光景。

 とても、信じられないような光景に、私はぽかんと口を開けそうになった。

 私の前に現れた、そのカップルは、手をつないで、私の前に現れた。

 私の、初恋の人。

 ずっと、私の心の片隅に居続けた人が、他の女性と、今、結婚しようとしている。

 幸せそうな雰囲気を醸し出している二人が、腕を組み、すでに結婚しているような雰囲気さえ感じさせながら、私の目の前にやってきた。

 驚きを隠さなくては。

 ひとつ、息を飲んで、二人ににこやかな笑みを送った。

 すると、私の初恋の人が、私のことに気がつく――その顔がこわばった。その瞬間を私は見逃さなかった。目が合う私たち。時が止まっているかのような錯覚さえ覚える。

 私のことを覚えている。彼は、私のことを明らかに覚えている。だからこそ、驚いた瞳で私を見ているのだ。

 そんな事とはつゆ知らず、女性のほうはらんらんと輝いた瞳で私を見た。

「どうぞ、おかけください」

 私が言うと、二人が座った。

 まさか、初恋の人がほかの人と結婚するとは。そこまでは仕方がないとはいえ、私が、初恋の人の結婚式をプロデュースするはめになるとは。

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