一番下の人
もうすぐ、わが社のウェディングフェアが開催される。入ったばかりの私も、会場のセッティングに追われる日々。
会社のパンフレットを手配したり、会場の飾り付けを手伝ったり。手作りウェディングのプロデュースに力を入れていることもあって、手作りブーケにチャレンジしたり、ウェルカムボードを作ったりと、まるで自分が結婚するかのような気分に浸ったりした。
ウェディングのプロデュースを考えているときは、まるで夢の世界に誘われているような気がした。天使たちが私たち人間の手を取り、夢の世界へ連れて行ってくれるような、子供っぽい発想かもしれないけれど、私の頭の中には、幸せに充ち溢れた世界が広がるのだった。
「なずなちゃ〜ん!」
私を呼ぶのは、室町先輩だ。私のトレーナーで、とにかく明るい。呼び方が、ころころ変わって、呼ばれた私が、いつも驚かされる。今日は、かなりなれなれしい感じの呼び方。ということは、何か企んでいるのかもしれない。
「室町先輩、なんですか」
「ちょっと、お願いがあるんだけど」
室町先輩の顔を見ると、あまりいいお願いではなさそうだ。
「なんです? お願いって」
「ちょっときて、ちょっと・・・」
どう考えても、いいお願いではなさそうだ。かといって、一番下の私が断ることなどできるはずもなく、黙って、先輩の後をついて行った。
「ごめんね。本当は、男性にやって欲しいんだけど、男手はないし、女子で一番背が高いのが、なずなちゃんだったから」
申し訳なさそうに言われてしまった。
看板が、入口の前にぽつんと置かれている。私が、看板を取り付ける役を仰せつかったということだ。
「わ、私が、やるんですか?」
「うん。他に背の高い人がいないのよ」
「背の高いって…」
室町先輩に言われて、会場を見回すと、女子の中で一番背が高いのは、確かに私みたいだ。そして、男手はこの会場には皆無だった。
「そうですか」
肩を落とす私。
「私も手伝うからさ」
優しく私の肩に手を当て、室町先輩が言った。
仕方なく、脚立に上り、室町先輩から看板を受け取って、よろよろしながらも看板を取り付けた。看板を取り付けること自体は、さほど難しい作業ではなかった。
「ありがとう!」
脚立から降りると、室町先輩が私に抱きついて、熱烈にお礼を言ってくれた。
「先輩、大げさですよ」
苦笑しながら言ったのだが、室町先輩は興奮したままだった。