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最後の場所へ

双葉先輩からの突然の告白を受けた後、瞳先輩の真っ赤な目を見た後、私は駅のほうへと必死に走っていた。

何も考えずに、ただ、ひたすらに走ることしかできなかったのだ。

あの時、双葉先輩は、どんな気持ちでいたのだろうか。

電車に乗り、つり革につかまっていると、真っ暗な窓には、疲れ切った顔の私が写っていた。

見たくもないって思いつつ、冷静に自分の身に起きたことを振り返ることにした。


あまりにもショックが大きすぎる。

私は、この短い期間で、多くの人を傷つけてしまったのだ。

いくらなんでも、ウェディングプランナーなのだから、お客さんと親しくなってはいけなかった。

なんであんなことをしてしまったのだろうということばかりが、頭によぎってしまう。

自分が情けない、そればかりをずっと考え続けていたのだ。

だが、いまさら、強く後悔したところで、どうにもならない。


もう私がいる場所なんてないのかもしれない、そう思った。

気がつくと、窓に写る私の顔が涙が今にも出そうなくらい、悲しみに満ちた顔になっていた。


最寄り駅に着いたときに、携帯が鳴った。

ディスプレイには、吉永君と書かれている。


「もしもし」

「あ、もしもし。今、平気か?」


私は急いでかばんから定期入れを出して、自動改札を出た。

駅前のコンビニの横の静かな場所へと移動した。


「うん、大丈夫だよ」

「そっか。実は、今日、俺の会社で、あいつがお前と浮気したことをばらしたんだ」


あまりの衝撃で、一瞬、びくっと体が動いた。

驚きすぎたせいか、全く声は出なかった。

私だけではなく、吉永君にも似たようなことをしていたようだ。

確かに、許されるようなことではないのだけれども、そこまでされると、私も吉永君も今までどおりの生活を送れなくなってしまうではないか。


「そうだったんだ。私のところにも来て、やっぱり、怒鳴り散らされちゃったんだ」

「そっかぁ」


今日の吉永君の声には、まったく張りがなかった。

ため息交じりの声で、心配になってしまう。


「もう、俺、あの会社にはいられないって思っているんだよ」

「私も同じ。私だって、お客さんと親密な関係になってしまったんだから、もうあの会社に、私の居場所はないから」

「そっかぁ。そうだよな。いったい、どんな顔をして、会社に行けばいいんだって思ってさ。それで、ひとつ提案があるんだ」

「提案?」

「俺と、遠くへ行かないか」


遠くという言葉を聞いて、それが、これまでの私を全部捨てることだと瞬時に思った。

パラパラと駅から出てくる人が、私がここにいないかのように、全くこちらを見ないで、コンビニに入ったり、まっすぐに帰っている。

これから、この場所からいなくなったとしても、この世界は変わらない。

だとしたら、私たちだけが変わったっていいではないか。


「行く。ねぇ、吉永君。私をどこか遠くへ連れてって」

「わかった。じゃあ、荷物をまとめて、明日にでも出発しよう。俺、明日、迎えに行くからさ」

「うん。じゃあ、それまでに荷物をまとめておくよ」



一晩中、徹夜で荷物を整理した。

必要最低限のものを一番大きなトランクに積め込んで、いらないものは、朝一番に買い取ってもらおう。

大変な作業のはずなのに、ものすごくはかどった。

ずっと着ていないのに、捨てることができなかった洋服の処分も思い切ってできた。

読んでいないのに、本棚に並び続けた本も、明日、引き取ってもらおう。

インターネットを使って、水道や電気、ガスなどの契約を打ち切った。

明日になれば、私の人生が大きく変わる。


吉永君がくる前に、不要なものは、すべて買い取ってもらった。

そして、後は、吉永君が来るのを待つだけ。



夕方になり、近所の公園のベンチに座っていると、私以外、誰もいない公園に、吉永君が現れた。


「用意は、できたようだな」

「うん」

「じゃ、行くか」


ベンチから立ち上がると、左手でトランクを押し、吉永君の右側を歩いた。

公園を出たところで、吉永君が手を握ってきたので、強く握り返した。

二人して、大きな荷物を持っているけれど、単なるカップルの旅行にしか見えないだろう。


「どこへ行くの?」

「夜行バスを予約しておいたんだ。場所は・・・まだ、内緒にしておくよ」

「教えてくれないの?意地悪だな」


やっと笑えた。

しばらくは、心から笑うことができなかったのだ。

吉永君と一緒だったら、きっと、いろいろなことを乗り越えることができるだろう。

どんな場所であっても、大丈夫。

パソコンの調子があまり良くなくなってしまったり、続きを書くのにめちゃくちゃ悩んだりしたために、長期間の連載になってしまいました。もともとは、こういう終わりにするつもりはなかったのですが、考え抜いた末に結末を当初に考えていたものから大幅に変えることにしました。本当に、この終わり方でよかったのだろうかと思ったりもします。長期間にわたり、読み続けてくださった方には、本当に感謝しています。ありがとうございました。

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