どんな顔で
吉永君のフィアンセとどんな顔で会えばいいのだろう。
仕事上、会わないわけにはいかない。
自分でも自分がわからなくなっている。人間の欲望というものなのだろうか。心の奥底に眠っている熱い思いというものは、表面を冷たい氷で覆っていてもすぐに溶けてしまうものなのだろうか。
今まで、幾度も後悔をしたことがあったが、ここまで強く後悔したのは初めてだ。
人として、私はどうかしている。
もう吉永君とも会いたくない気分だ。この気分が、ずっと続いたほうがいいのだろう。
会いたくない気持ちが、会いたい気持ちを上回っているほうが、仕事上の付き合いだけで済ませることができそうな気がする。
もしも、会いたい気持ちのほうがはるかに上回ってしまったら、仕事が手につかなくなりそうだ。
それでは、プロとは言えないじゃないか。
私は、吉永君の結婚式をプロデュースするのだ。
もう一度、自分に強く言い聞かせた。
吉永君とフィアンセが二人並んでいる姿をどうやって受け止めるべきなのかを考えながら、私は、吉永君たちと打ち合わせをしたときの資料に目を落としている。
二人の門出を祝うために、フィアンセの希望通りのお花に囲まれた素敵な結婚式をプロデュースしてあげなくてはって言う思いと同時に、吉永君が本当に他の女性と結婚してしまうんだと言う現実を受け止めなくてはいけない気持ちが揺れ動いて、本当は、涙があふれ出してしまいそうだった。
職場で、突然、涙を見せることなんてしたら、先輩たちや上司に心配されてしまうだろう。
私は、感情を入れないで、この結婚式をプロデュースしたいって思っているのだ。
そう思っているのに、どうしても感情が私の邪魔をしてしまう。
大丈夫、私は、吉永君への思いを断ち切って、素晴らしい結婚式を二人にプレゼントするのだと強く自分に言い聞かせ続ける。
そうしなければ、とてもじゃないけれど、この結婚式をプロデュースすることなんてできなくなってしまうくらいに、吉永君への思いは強くなっているのであった。