後悔ばかり
私は、一体、何をしてしまったのだろう。何もかもを忘れてしまいたい気分だ。
ずっと、心の中に居続けた人、吉永君。
お互いにフリーだったら、何も悩む必要はなかったのに。
後悔、後悔、後悔。
もう昨日の夜のことは、思い出したくはない。
魔がさした。
と言えば、すべてが片付くと言うわけではない。
もうすぐ結婚する人だと言うのに。結婚式をプロデュースするお客様であるというのに。
第一、吉永君の未来の奥様に対して、私はどう接したらいいのだろう。
顔を合わせなくて済むということはないのに。
そんなことは、わかっているはずなのに。
幸いだったのは、今日が休みだったということ。
こんな心理状況で、何ができると言うのだろう。
自分が怖い。自分が憎い。
今頃、吉永君はどんな気持ちでいるのだろう。
平常心でいるのだろうか。それとも、私と同じように後悔の念に押しつぶされたりしているのだろうか。
もう、二人きりで吉永君と会ってはいけない。
それは、今朝、別れるときにも吉永君に言ったことだった。
「もう、こんなことはよそう」
「・・・」
吉永君は、黙って私の話を聞いていた。
寝癖だらけの頭をそのままにして、グレーのジャージ姿でソファに縮こまって座っていた。
昨日の夜と同じ服を着て、携帯用の折りたためるブラシで髪を整えながら、鏡越しに吉永君を見ていた。
「もうすぐ、吉永君は結婚するんだから」
「・・・」
眠いのか、反省しているのか、吉永君はうつむいたまま、私の話を聞いていた。
何か言ってほしかった。
何も言わないで、私の話を聞くだけなんて、ちょっとずるいと心の中で叫んでいた。
吉永君の心が全く読めず、どうしていいのかわからず、一方的に自分の主張だけを吉永君にぶつけることしかできずにいた。
「次に会うときは、フィアンセも一緒だね」
きっと吉永君がドキッとすると思って言ったせりふだったが、吉永君は微動だにせず、ソファに座ったままだった。
何も言ってくれない。
どうしてだろう。
私の願いは、通じていないらしかった。
吉永君の声を聞くことなく、私は身支度を済ませると、
「もう帰るね。また、うちの会社で」
とだけ言って、別れたのだった。
昨日の夜のことは、忘れたいと思っているのに、昨日の夜のことばかりが脳裏に浮かんでしまう。
探し求めていた人と一緒にいられたから?
必死で、吉永君を諦めようとしているのに、吉永君のほうから私に近づいてきたことで、私はおかしくなっている。
自分でもわかっている。
今の自分は、絶対におかしい。冷静ではいられないのだから。
ベッドの上から起き上がれずに、吉永君と別れた時と同じ格好をしている。
早く、脱いでしまえばいいのに。
服を着替えて、一緒に心も着替えて。
でも、それすらできなくなっている。
力が出ない。私の頭が、私の体に力を出させようとしていないようだ。