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宴のあと

私が、私から、吉永君に言った約束。

吉永君は、今でも覚えてくれているのだ。


素直に喜びたかったけれど、もうすぐ結婚してしまう吉永君から言われても、複雑に気持は絡み合うだけだった。


――もしも、吉永君がフリーだったら?


妙な妄想をしてしまいそうになる。


吉永君と分かれ、一人、寂しく三日月の下を歩いている。歩いても、歩いても、夜空に輝く三日月は私を追いかけてくる。小さなころから、ずっと気にしていることだ。

私が立ち止まると、月も立ち止まる。また、私が歩き出すと、月もまた追いかけてくる。


突然、ため息が漏れた。

吉永君に対する思いを吐き出したかのように。

月を見て、心の押し入れにしまえそうになった気持ちが、結局あふれ出してしまえなかったのだ。そう簡単に、コントロールできない気持ち。


吉永君も吉永君だ。私に意味深な顔をして。本当は、幸せの絶頂にいるくせに。

お酒を飲みつつ、あの約束の言葉を思い出させるんだから。


――私が、一番後悔していることを――


もう忘れてしまいたい約束。

私が、全部悪いんだ。って、言いたくなるような出来事だった。

あれは、高校三年の弱気な自分がした失敗談。もしかしたら、人生最大の失敗だったのかもしれない。


吉永君が、あんなセリフを言うから、今、死ぬほど後悔しているじゃない。


「約束なんて破ればよかったじゃないか」


本当に、約束を破って、吉永君に会いに行っていたら、今頃私たちはどうなっていたのだろう。

双葉先輩に男の人を紹介され続けたりはしなかったに違いない。

と言うことは、双葉先輩に迷惑をかけることはなかっただろう。


考え事をしていたら、目の前に電柱があった。

前をよく見なかったからだろう。寸前で気がついてよかった。それに、何となく目が覚めた気がする。


吉永君の意味深な顔なんて忘れちゃえばいいんだ。

そう強く自分に言い聞かせる。

そうでもしなければ、私はどうにかなってしまいそうだ。


数メートル先にコンビニが見えてきた。暗闇に金銀財宝の山でも発見したかのようなまばゆい光を放っている。

少し寄って行こうか。


自動ドアを抜けると、


「いらっしゃいませ」


と言うやる気のない声が聞こえてきた。いつものことだから、あまり気にせず、おでんの前を通り過ぎると、清涼飲料水の棚の前に立った。

何か買っていこうか。

どれを買おうか迷っていると、隣のお酒の棚が視界に入った。


さっきまで、吉永君と一緒にお酒を飲んだばかりだというのに、また家で飲む気かと思った。

しかし、今夜のことを忘れるために、お酒を買おうかとも思う。

いまさら、酒の量を増やしたところで、吉永君のセリフを忘れたりはしないだろうと思い、アルコール濃度を下げるために、ミネラルウォーターを手にした。

手際よく会計を済まし、暗闇に戻った。


静かな夜道、かたいアスファルトに私のヒールの音が響いた。

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