表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

夏の夜明け

今日はコンビニには行けない。自動販売機で何か飲み物でも買おう。それぐらいしたって罰は当たらないはずだ。


早朝なのにもう随分明るい。お母さんが雨戸を開けたら、今日は洗濯物がよく乾くって喜ぶんだろう。見つけた自動販売機の前に自転車を停める。


実家にはあまり帰れていない。お金がかかるからなかなか帰れないが家族には意地を張ってしまう。でも本当は帰りたくない訳じゃない。実家にいた頃はもう少しましな生活していたよな。あれは自分の力じゃなくて家族に守られていたんだな。そう気づいてからも何とか独り暮らしは続けていた。


飲物代だけは携帯にしっかり記入しよう。アプリの家計簿だけが、私がちゃんと一つのことを継続しているって証明してくれているんだから。お金を自動販売機に入れながら携帯にタッチする。見慣れないアドレスからメールが来ている。誰だろう。見ようとすると勝手に電源が落ちた。またか。押しても電源が入らない。最近ずっとこうだからもう驚かない。そんなに何年も使ってるんじゃないのにな。少ししたらまた電源を入れてみればいいか。


入れたはずの100円玉はお釣りの場所から悲しい音を立てた。何度入れ直しても出てきてしまう。財布の中の100円玉はこれだけなのに。まあいいか。喉が乾いていたんじゃない。早朝に、外で、何か飲みたかっただけだったと思う。別にこれぐらいなんてことは無い。悪いことは続くって言うから。


今度中学校の同窓会があるから、そこに参加する人からメールだったのかな… 真っ暗な画面は私の唯一の希望さえ教えてはくれない。鏡のように反射する画面は、早すぎる朝陽と涙で崩れた化粧をしている残念な私を写す。コンビニだったら食べ物もあったけどな。


人生には沢山の山と谷がある。それを越えられるか否かは努力次第だ。そう教わった。

本当にそうなのか。私の人生を振り返って溜め息をつく。まだそう長くはない、私のここまでの走馬灯は、あまりにも自分をがっかりさせる物だ。沢山の山と谷があった気もする。でもまず山と谷ってどっちが良いことでどっちが悪いことを言うんだろう。それさえも分からない自分はこれからも沢山来るであろう、人生の小さな丘さえも越えられないんだろう。そんなこともどっちでもいい。とりあえず化粧だけはちゃんと落とそう。肌触りが良くて他の物よりは大事にしていたハンカチはさっきの涙で濡れている。もうこれもいいや。居酒屋のお絞りみたいに顔を強く擦った。全部は無理でも大体落ちてそうだな。汚れたハンカチと真っ暗な携帯を見て溜め息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ