第八話 「春名先生と生徒たち」 2
第八話 「春名先生と生徒たち」 2
春名先生は 私の顔を見るなり「どーしたんですか?」と聞いてきた。
オレは顔に出るタイプだ。
「・・・・・ええ、」と言って、何をどう説明していいかわからなかった。
だが 私自身疲れ切っているのは事実だ。
「・・・・城島先生、北元さんの粘土の件はもういいんですか?」と春名先生から聞いてきた。
「・・・・、あ、はい・・・その子は?」と隣にいる女子生徒を聞いた。
「あ、この子は年長組の 学級委員長の藤原孝子さんです。・・・藤原さんの事は気にしないでなんでも話してください。」
何でもって・・・生徒の前でそれはどうだろうか。
「・・・・、北元・・なんですが、・・・・かなり内向的で、・・・なんて言うんだろう・・・何を考えているか分からなくて・・」
「・・・北元さんて・・・あの目のクリッとした可愛い女の子ですね、 ・・・たしか二年生、あと三人はみんな男の子。」
「ええ・・・北元もなんですが・・・・同じ 二年の男子も いつもふざけていて・・・今日なんかでも 朝一で 黒田達にいじめられて泣かされてたんですよ、あと社会の時間にも突然泣き出して・・・」
「・・・・それで、・・・城島先生はどうされたんですか? 北元さんはなんで泣いてたんですか? ・・・それと粘土の一件ですけど 貸さないって言ったのは何か理由があるからじゃないですか?」
「ハハハ・・・・理由ですかぁ・・、そんな理由なんてあるんですかねぇ・・・まだ小さな子供ですよ、春名先生。」
と言ったら 一瞬 春名先生の顔つきが、・・・・・きつい表情になった? その時 忘れていたはずの昨日 夜見た 怖い夢、を思い出した。
・・・上島のバカはいいとして・・・春名先生が すごい怖い顔をしてオレを睨んでいたんだ・・・
「・・城島先生、・・・子供って言うのは、現状を把握できてないんです。
どうしていいかわからないから泣くんじゃないでしょうか。」
「・・はい・・えっと・・」
「城島先生、例え子供でも 意志の疎通はとても大事なことで、後回しにしちゃいけない事なんだと私は思います。
城島先生には 失礼な事を言うでしょうが、・・たぶんきっと 授業の進め方で手いっぱいなんじゃないでしょうか?」
「・・はい、春名先生の・・おっしゃる通りです、・・授業進行を遅らせると後で手が回らなくなるのではと、心配になります。」
「私もそうでした・・城島先生の気持ちはよくわかります、・・・だけどそれって 生徒の事より自分の事を優先しているのではないのでしょうか?
城島先生が 悩まれている事は自身の仕事でノルマと思われるのですが。」
教育者として道徳的には間違っているだろう、だが 社会は数字と成果を求めるものだ、・・春名先生の言う事はよく分かる・・だが きれい事だけで本当に生きていけるのだろうか?
「・・そうだと、思います 授業進行を考えています。」
「・・私は城島先生が 本当に悩んでる事は・・実はノルマなんかじゃなく、北元さんにヒドイを事をしたんじゃないかって、良心の板挟みに悩んでいるんじゃないでしょうか?」
春名先生の一言一言は オレの心の奥に突き刺さる、・・・今までこんなに興味深い会話をしたことがあるだろうか。
オレの悩みは 生徒が何を考えているか分からないと言う事・・それと 春名先生が言うように 授業進行の遅れによる教師失格のレッテルを貼られる事・・それが オレの今の悩み、だけど 見方を変えれば 確かに北元にヒドイ事をしてるんじゃないだろうかって考えている。
「城島先生は 授業進行の遅れを心配してましたけど、・・だけど まだ遅れてないんですよね、それにこれからも授業進行は遅れないかもしれませんよ。
起きないかもしれない事を今悩むのって・・無駄のようにも思います」
「そりゃあ!・・そりゃあ、起きてからじゃ遅いからです。」
「今の悩みと 未来の悩みを二つもしょい込むなんて大変・・、そのうち 起きもしない不安に潰されるのではないかと心配になります。」
オレは嫌な奴かもしれない、自分擁護の発言をしている、
「・・・・・・、思いやりは相手に届かなければ意味を持ちません、道徳的教育はとても大事だと思います、・・ですがそれは・・・・社会基盤があっての事です、・・と ぼくは思います・・生意気かもしれませんが・・」
ああ、オレは なに切れてんだよ、春名先生にきらわれるぅ!
春名先生は肩を落として、藤原孝子に言った「藤原さん、ごめんね つき合わせちゃって、お話は明日、またしましょう。」と言って「はい。」帰らせた。
春名先生はじっとしたまま黙っていた。
オレは 人間関係を築くのが下手だ、・・また、嫌われてしまった・・あんなに・・春名先生の事が好きになってたのに・・もう・・どうでもいいやと・・思ってる。
・・人にまだ知れ渡っていないだけで もうオレは人間失格なのかもしれない、数字や成果を大事だと言うんなら、本音を隠して嘘の会話をして春名先生に嫌われないようにすべきじゃないのか? 順応できていないじゃないか
「・・城島先生、・・・生意気なことを言ったのは私の方です、・・ごめんなさい。」 これからずっと顔を合わすんだ、取り繕うのが大人と言うもの。
人を信じることが出来なくなるのって、こんな些細な事から始まるんだろう、
分かっていてもそうしてしまう・・自分が悪いのに・・。
「困ったことがあったら何でも言ってください、私にできる事があるのなら力になります!」
・・ほら、いかにもってセリフだ・・・
「・・・・ぼくは、まだまだ何もわかりませんが迷惑にならないよう頑張りますんで・・。」
・・つくづくオレは嫌な人間だ。
「一人で全部を背負い込もうとしないでくださいね、城島先生!
それと・・北元さんの事ですが・・・」
「はい?・・・北元、」
春名先生はきっとお人よしなんだろう、私は春名先生が協力を申し出てくれたので、北元の事について知っている事はすべて話した。
「・・そうですか。」と春名先生が いつも笑顔になった。
何だろう、もう答えを知っているのだろうか?
春名先生は年少組の次の保健の時間を 図工の時間に変更することと、春名先生も一緒に授業に参加すると言うものだった。
なぜそうするのかは 私に説明しなかった、私の立場と言うものがない、先生二人で年少組の授業をするなんて、春名先生の授業は 自習にすると簡単に決めていた。
ただ春名先生は 「私も北元さんの事をもっと知りたくなりました。」と。
そして その保健の時間になった。
前日に粘土と色鉛筆を忘れないよう、念を押して伝えておいた、そのかいもあって忘れ物をする子がいなかった、
・・だが、しかし・・・
春名先生は 折り畳みのパイプ椅子を職員室から持ってきて、北元の横に割り込んで座った。
「なんだー・・・また忘れたのかぁ、北元ぉ・・」と 北元の机の上には粘土が置かれてなかった。
「北元、昨日あれほど忘れないように言っておいただろ、・・・仕方ない、となりの佐藤、おまえ 半分かしてやれ!」と言った。
「えーっ!・・こいつこの前 粘土貸さなかったんだよぉー!」と 大声で言った、「・・いいから貸してやれ、」と言ったら ぶつくさ言いながらも粘土を半分貸した。
春名先生は 背筋を伸ばし両手を揃えて 黙って見ていた。
北元は「いらないっ!!」と また拒否した!
「おいっ!! 北元! おまえはなんでっ・・」と言うオレの言葉をよそに 春名先生が北元の耳元で何やら コソコソ話し始めた、・・楽しそうに。
そしたら北元のやつが、
机の横の手提げ袋の奥から、粘土を出したのだった。
「おまえっ! 持ってきてたのか?・・なんで 忘れたふりするんだよ・・?」と聞いてみたら・・また春名先生が北元の耳元でコソコソしゃべり始めた。
北元が喋った!「粘土が・・」春名先生が声掛けした「もっと大きな声で。」 「粘土が大事だからっ!」と言った。
何のことだ? 粘土が大事だから? 春名先生は 北元の粘土の箱を開けて 中を見た、そしてまた コソコソと話し始めた、するとあの北元が笑顔で笑って見せた! どー言う事だ?
春名先生は・・何話してるのか?
春名先生は 北元の筆記用具も机に出すよう指示したようだ、
・・そして筆箱を開け・・中をじっと見ていた、そして消しゴムを手に取ってそれを見ていた。
・・春名先生の表情が・・すこし悲しそうにも見える。
「・・・あ、あの・・・春名先生・・・」
「あ、ごめんなさい、もう お喋りしたりしませんから。」と春名先生は言った。
「いぇ・・それは構わないんです、・・よろしければ・・・前に来てぼくと一緒に授業を教えてもらえませんか?」
「え!? よろしいんですか?」だけど 春名先生は見ているだけでいいと言った。
子供たちには 何でも好きなものを創るように言った。
三年生には花瓶に挿してある花を描いてもらう事になった。
春名先生は 生徒たちの図工を見て回った、そして突然大きな声で言った、「あら、男の子たちの粘土はどうしてそんなに汚れてるの?・・真っ黒じゃなーい!・・そりになぁにぃ? ほこり? ゴミ? なんでそんなものまでくっついてんの? それに特に佐藤くんの粘土だけとびきり多くない?
それに比べて北元さんの粘土を見てみたらぁ・・?」と言った。
確かに 男子三人の粘土は よくぞここまで汚したのかと言うくらい汚れているのに対し、北元のは・・・ほんとにきれいに使われていた、汚れも無ければ小さなゴミや埃すらついていないと言った感じだった。
・・それに北元の粘土の量、・・大きさが元の半分くらいに対して・・なんで男子の三人ともがそんなに多いんだ?
「ねえ、松本さん!」と春名先生は 学級委員長の松本百合子に声をかけた、名前は年少組もすべて覚えているのか。
「ねえ、松本さん、・・・この北元さんの粘土はどうしてこんなに少ないのかしら?」と聞いたら 少し考えて松本百合子は答えた。
「・・私のも少ない方でした・・、だけど北元さんほど少なくはなかったけど・・」
「・・そう、変よねぇ・・どうしてかしら? 利倉さん、今中さん! あなたたちのはどうだった? 減ってた?」
この二人は仲がいいのだろう、いつも二人でいるのを見かける。
「・・・、どうだったかなー・・減ってたかもー・・、男子が取ったりするんじゃないですか、フフフ」と小さな声で何が楽しいのか分からないが、楽しそうに答える利倉。
今中はその横で うなづいていた。
「本当なの? ・・どおなの 男子三人! 取ったりしたの?」とはっきり問いただした。
男子三人は黙っていた、
少ししたら黒田が先に喋り始めた、「・・・オレは取ってないよ・・、落ちてるのは取ったけど・・・」
「・・じゃあ、半分は無くして無くなったって事になるわね。」
「私、無くしてないっ!」と北元。
私は 間に入って男子三人を追及した、「・・お前たち! 本当に盗ってないんだな? じゃあなんでそんなに粘土を持っているんだ? お前たち、ほんとに盗ってないって言えるんだな?」
「・・・、ちょっと盗った・・・」と黒田が言った。
「なにぃっ!! おまえっ! さっきは盗ってない、落ちてるのを拾ったって言わなかったか? お前は嘘をつくのかっ!?」 オレはすこし頭にきた!
黒田は続けて言った「・・盗ったのはオレだけじゃ・・ないもん・・・、こいつらだって 北元の粘土を盗ってたんだからなっ!」
オレは平気で嘘をつく子供たちに怒っていた「なんだとぉっ!!・・お前たちが結局は北元の粘土を盗ったのかっ? ・・・それで・・お前たちは・・北元をいじめて、・・泣かしたりしたのか・・?」
子供の単純な汚いやり方に オレは怒った!
「お前たちっ!! 三人、前にでろっ!・・早くしろっ!!」と言うと 子供たちは椅子から立ち上がりオレの方へとやってきた。
そして オレは順番に一人一人 尻を一発叩いた!
「席に戻れっ!」
オレは 春名先生の顔を見れなかった・・なぜだろう・・
春名先生は黙っていた。
私は 北元から盗った粘土を、北元に返せ、と三人に言い、三人は粘土の一部を北元の机に置き返した。
「・・北元、これで いいだろ、・・こいつらを許してやれ、」と言った。
北元は黙っていた。
「・・どうした 北元、 その粘土はお前の物だぞ・・。」
「・・こんな・・・汚いの・・・いらない・・・。」
「はあ!? 粘土は粘土だろっ! ・・さっさと仕舞え。」
ふくれっ面のまま粘土を取ろうとしない北元に、「なんでお前はそおやって ふてくされるんだっ!! いい加減にしろっ!」
「・・城島先生・・」
春名先生・・?
「・・・・北元さんは悪くないと思います。」
・・・なぜだろう? 春名先生の目が見れない、・・・何だろう、怒っている?・・いや・・怒っても仕方がないことをオレがしているのか?
「粘土を盗ったのが本当なら・・この三人は悪いでしょう、だけど・・・怒るのは、北元さんではないでしょうか? ・・北元さんはふてくされているのではないと思います。」
・・・、
たしかに ・・・確かに春名先生の言う通りだ・・。
・・オレは今、とても何かに焦っている、春名先生の顔を見れない、そのことに春名先生は気づいてるはず、・・オレはとてもカッコ悪い事を・・・・確かに 怒るのは北元であって、オレじゃない、・・・オレは何をやっているんだ?
「あなたたち、三人は本当に北元さんから粘土を盗んだのなら・・北元さんに謝るべきよ、・・そして、・・北元さんは、この三人が盗んだんだと分かったら、怒ってもいいのよ。
・・そしてそのあとが大事、・・・許してあげるか、許さないか、・・・それは北元さんが決めるのよ。」と、・・春名先生は北元にやさしく諭していた。
「黒田くん、佐藤くん、鈴木くん、・・・北元さんを見なさい、・・そして考えなさい。
・・・それから 北元さんも・・・この三人をしっかりと見なきゃだめよ、・・・目を背けちゃダメ、・・・悪い事を見て見ぬふりをするとその悪い事はまた悪い事をしてしまうのよ。」
少しの間 教室は静まり返えったままだった。
オレも 春名先生の言葉を待っていた。
「・・そうね、ではこうしましょう・・、黒田くん、あなたが三人の代表になって北元さんに言うべきことを言いなさい。・・さあ、」
黒田は 北元の方を向いて小さな声で・・謝った。「・・ごめん、北元。」
北元は黒田を見ていたが その言葉を聞いたときに 顔の表情が明るくなった。
そして、その表情は次第に 泣き顔へと変わり両手で顔を覆い流れてくる涙を拭った。
北元は 机には伏せずに、静かに泣いていた。
男子三人から返された・・あの汚い粘土は 結局、受け取らなかった。
・・オレは
・・・ピエロだった。
・・・噛ませ犬だった。
・・・ような気がする。
オレはきっと教師ならこうするだろうと考え、そうしたのだと思う、・・・つまり 人のまねごとだ。
自分の意志で考えず、人の決めた行動を模範しようとした。
・・・それがもっとも近道で効率のいい作業だと思ったからだ。
だが、春名先生の 少ない言葉で、その"考え"は粉々に壊され、・・・たぶん二度とそれは再構築できないと思われるのです、なぜなら それでいいと思ったから。
・・考える術はきっと 何か、・・根本から間違っているのだと思った。
それが何なのか それをはっきりと見出し確立したいと思う。
それを確立するには・・
井上春名先生が必要なのだと思いました。
たった一つ歳が違うだけなのにちゃんと大事なことを知っている、・・・教科書には書いていない、学校では教えてくれない、大事な事を春名先生はちゃんと知っている。
もし、・・・この自分自身の日常が 小説のような物語で なおかつ、コメディーだったら お前は "ピエロ" なんだよと書いてる人に言われそうだが、これはオレの人生なんだから!
"オレ"は春名先生の言葉を思い出した。
「子供って言うのは、現状を把握できてないんです。
だから泣くんですよ。」
・・現状を把握できていないのは・・子供のほかに、・・オレもかな・・。
「怒るのは城島先生ではなく 北元の方では・・・」 全くその通りだ、子供にとっての教育やしつけは 教える側が怒ることではなく、怒るに値するものが誰かを教えなきゃいけないんだ・・・、笑う事、泣く事、考える事、理解する事、判断する事、誰かを好きと思う事、それらに値することを知る事が とても大切なことなんだ。
・・春名先生は、保健の時間を図工の時間に変更したことにはやはり はじめから "意図" が、あったと思われる、・・・あの、授業進行も、計算のうちだったのだろうか?
子供相手とは言え、・・そこにオレもいたし・・、それに子供の相手は 非常に疲れるものだったりもする。
放課後、オレは春名先生に聞いてみた、ピエロのやる前座の会話なんてしない! 単刀直入に聞いてみた!
「春名先生、ぼくの悪いところを教えてください。」そしたら春名先生は、ちょっと驚いて「わかりません!」と笑顔で返された。
・・・・。
・・・今のがピエロ、だったのかなぁ・・・。
そのあと小一時間、春名先生は オレの話に付き合ってくれた、春名先生はとても言葉が少なく、そして簡単、簡潔、明瞭、明確に話をしてくれた。
「子供は先生を大人として 下から物事を考え、言葉にするのに対し、私たち先生は 生徒を子供だからと上から物事を押し付けて、言葉にしているんです。
だから 私は子供と同じ目線になって話し、一人の人格として対等に話さなければならないと思っているのです。
・・そうすることで 子供たちは自分で、"ちゃんとしなきゃいけない""ちゃんと話をしなければならない" と考え、自立した態度をとるようになると思うんです。
私たち大人も、校長先生のような方から、丁寧に話をされ、頼られもすれば対等にその気持ちに答えようとしませんか?
その子を大人として扱えば、大人として振る舞うようになるものです、もちろん 最初は大人のまねをするだけでしょうが。」
春名先生は 子供たちを自分と同じ大人として扱え、と言っていた。
春名先生とそんな話をしていたとき 北元が職員室にやって来た。
春名先生が 来るように言っていたそうだ。
春名先生は北元を前に 今日、図工で使った粘土と筆記用具を開いている机の上に出させた。
北元の筆記用具は 他の女子と比べて素っ気ない、誰かから貰って来たような寄せ集めにも見える。
「ありがと! 北元さん。」と春名先生は言うと、まず 北元の粘土のふたを開け オレに見せてくれた。
「よく見てください、埃ひとつないでしょ、まるで 出したばかりの新品の粘土のようです。」
そしてそお言うと粘土は仕舞われ、今度は兄か姉のお古なのか、使い込まれた水色の筆箱を開けた、そしてまた、「・・よく見てください、」と言った。
中には 絵柄のない三菱鉛筆が三本、一本は長く赤色のプラスチックだ出来たキャップをつけていた、残り二本は半分まで使って 一つには緑のキャップ 一つには何もつけていない。
キャップは二つとも形が違い・・・どうも 見た感じ 結構な年数が経っているようにも見える。
よく見ました、・・それで何なんでしょう。
春名先生は 消しゴムを取り出した。
北元の使う消しゴムは 社会人が使うものと同じ 素気のない白い消しゴムだった。
消しゴムには紙のカバーがついていて、それを春名先生は丁寧に外した。
消しゴムのカバーがあるところは真っ白だった・・・が、くるっと反対を向けたら、・・・ああ・・これは鉛筆で何度も突き刺してある、・・白い消しゴムが黒くブツブツしている、北元は こんな事をする子だったのか?
「・・・城島先生、北元さんは佐藤くんが消しゴムを忘れたから、自分の消しゴムを貸してあげたんです、それで返してもらったら こんな風になってたんです。」
「え!? ・・でも、・・そんな事は」と、ふと一週間前に 消しゴムを貸してやれと北元に言った記憶がある、・・あの時 北元が突然泣き出して・・・、
「・・あ、・・確かに そんな事があったかと・・、」
「心当たりはあるんですね・・。」と 春名先生は静かに言った。
「・・あの・・、春名先生・・・ぼくは・・、」
「城島先生、・・怒るのは北元さんです、だから佐藤くんには・・問いただしす事と、・・怒らずに注意をしてください。」と言われた。
北元は 春名先生自身が使っていた ピンク色の鉛筆キャップを一つ 貰って、家に帰らせた。
三本あった 無地の鉛筆、三本ともにキャップが揃った。
春名先生は 北元を職員室に呼んだ理由を何も言わなかった。
ただ「ちゃんと 見ていただけたのなら、それでいいんです。」と言っただけだった。
私は 意気消沈していた。
北元個人の話はせず、別のこんな事を言ってくれた。
「セールスマンのように、数字でしか見れない人が数字を見ればいいのじゃないでしょうか? その人はきっと成果を上げ、成功者として世間に評価されるでしょう、そんな人たちと競い合ったって私はその人の足元にも及ばないと思います。」
では 春名先生は、ノルマや成績を伸ばすために何をしているのだろうか?
オレは自分の悩む場所を間違えているか?
自分の授業進行、ノルマ、そんなことを悩んだって、もともと数字が苦手なオレが数字人間になんか勝てるはずもなく・・。
・・春名先生が言ってたように数字を支配するなんてオレには無理だ! それどころか数字に支配され一生 数字の後を追いかける奴隷として生きていかなくちゃならなくなる!
そんなこと分かっていたはず! オレは数字の支配者にはなれない! ・・オレは 歳を重ねるごとに自分を嫌いになる事が多かった。
今、春名先生の 何も言わない "ただ 見せるだけ"の教えで、大切な一つの歯車が回り始めたんじゃないだろうかと言う納得と、高揚感にも似た感情が心の奥から込み上げてくるようだった。
北元に関しても ただ、粘土と筆記用具を見せられただけだったが、・・・それも 意味があるんだろう、北元と他の女子生徒の持ち物は比べなくても 一目瞭然で分かる。
・・・それは経済的なことなのだろうか? 誰かからのプレゼントなのだろうか? ・・深く掘り下げ考え過ぎると、・・それは返って相手の 心を土足で立ち入ることにも思える、・・・春名先生が言ったように ただ、今は見ているだけでいいんだろう。
オレ自身、社会の一員として生きていく条件として、目に見えて分かる社会的地位と成果を望んでいた、・・みんなそうだろう、・・だけど、春名先生は違っていた、・・・分かるような気がする、大切な事が。
オレは競争社会に翻弄され自分を捨て、この数字の奴隷になっていたのかもしれない。
目には見えないこの社会の競争精神の鎖がオレの足かせとなり縛られていたんだろう。
・・オレがここに赴任してきたとき 春名先生が言ったこと、"神様に導かれたんですよ" その言葉が 今、必然だったとも思えてくるほどだ!
数字で物を考えるのは 今日でやめだ!
・・別に大丈夫・・・、そう 大丈夫だ! なにも心配いらない! 授業が遅れたって構わない!
そう、教師と言うのは公務員なんだから。
どんなに成績が悪くても "クビ"になることなんてないんだから。
そうだよ! おれは田舎で坊ちゃんしに来たんだっ! そのために嫌いな勉強やってここまで偶然にも教師になれたんじゃないのかっ!
・・芥川、あんたの書いた小説だっけ? オレ的には正直、つまんないですよ。(坊ちゃんは 夏目漱石です。)
坊ちゃん ゆーところの当時小説書く人少なかったから、とりあえず物語、書ける人なら誰でも良かったんだろうか。
アイデンティティが乏しかったと思われる旧世界においてはそれでよかったんだろう。
だが 今の時代は違う! 魔法が使える、超能力が使える、ネコ型ロボットがいる、モテるはずがないのにモテまくる主人公がいて、最初 弱かったのにどんどん強くなっていって最後には地球を壊して オラは宇宙一強くなりてぇ とかなんとか言ってるような、何処まで行くんだよって思う今日この頃。
だけどね、"もの"には限度って言うのが必要なんだよ、まったくわかってない、大きすぎる火は森を焼き尽くす! わしらもほんの少しの火は使う! だがお前さんたちの火はいかん! ふかいに手を出してはいかんのだっ!
"力" と言うものは 制御できるから便利と言われるようになる! 制御できなければただの破壊にしかならんのだっ!
美しかった福島があんな事になってる! 政治・企業と組織のせいにすれば個人が責任を取らなくていいんだろ! 当時の責任者と重役っ!出て来いやあっ!! リングに上がれぇっ!! 土俵に上がれっ!! みんなで赤信号渡ってんじゃねッ!! 泣いてる人や子供はどーすんだあっ!!
・・全国区で我が子に北関東の野菜や牛乳など、食べさせてる? アトムの原発は好きだけど・・・正直 子供の頃は"原子力"と言う言葉は理解できてなくても怖かった。
原発は嫌いだ!! 原発なんか日本中から無くなれーっ!! 公務員は 事業展開するとき 始めから個人に責任取らせるようにすれば言い逃れは出来ないのでは?
赤信号を渡るなら一人で渡れ! ああっっ!! 何の話してたっけぇっ!?
だが、・・・いわゆる、ドラえもんですよ、・・ドラえもんの何が面白いの? 四次元ポケット? ポケットがあるから そこから夢が生まれてくるんですよ、もしポッケがなかったら ドラえもんはのび太と同じ役立たずじゃん!
だがそうじゃなかった! たった一つのアイテムだけで輝くものなんですよっ! オレはそのアイテムを手に入れるため・・・そんなに頑張ってないかもしれないけど・・・これから頑張るつもりなんだっ!
まず、そのアイテムがなんなのか分からんっ! いや、実際に四次元ポッケが欲しいって言ってるんじゃないよ・・・ちゃんと現実と空想の区別はつけているから。
だけど、あの のび太、学校の帰り道、ジャイアンにいじめられ、犬にお尻をかじられ、側溝に片足突っ込んで・・ドラえもぉぉーんっっ!! てうちに帰る・・・。
来る日も来る日も おんっなじことの繰り返しで、よくもまあ、飽きないことで。
のび太はダメキャラの王道を創ったある意味すごい奴だったりもする! ただ学校から帰るまでの道のりで、ジャイアンに見つかって、犬に空き缶ぶつけて、道の隅っこにある狭い溝に、どーやったら落っこちるんだっ? 藤子不二雄はすごい!!
男の子版 ドジっ子キャラのカテゴリを確立させたんだからなぁ。
今でこそ 女の子版 ドジっ子萌えキャラが当たり前のようにアニメ業界で使いまわされていますが・・のび太ほど! のび太ほどっ! 分かりやすいドジっ子が他にいるだろうか? しかも眼鏡をかけているっ!
・・でもまあ・・、のび太はどーでもいいのだ。
引っ張ってごめんね。
そんな事よりドラえもんの方だ!! ポッケが無かったら何にも残らないドラえもん!
ポッケ。
だが ポッケが一つあるからドラえもんさんは凄いのさっ!! ドラえもんはのび太にならなくてすんだんだよっ! オレもポッケが欲しいのさっ! 一発逆転て言うのかなっ!
まさにっ!! オレはこの究極のアイテムが欲しかったのさーッッ!! そのアイテムひとつですべてが変わるっ! ドラえもんは一転! 頼りになるネコっ!
オレもいつかはそのたった一つのアイテムを手に入れるため、今までずっと探し続けてたんだ!! それがァッッ!! 何なのかはっきりしなあーぃっ!!
・・坊ちゃん・・・だっけ・・? いや違う! 春名先生だったかな・・?
いわゆる何を手に入れたら ポッケと同等なのか、だ。
・・・春名先生が 四次元ポケットなわけないでしょ!
いや! 春名先生かもしれない!
・・・考えてみると長者番組って言うの? なんて言うのかな? ・・・続くよねー、昭和から続くアニメ>
当時、それ見てた小学生だった子供が初老を迎えようとしているのに のび太はいまだに現役の小学五年生だもんな。
それを言っちゃー、サザエさんが黙っていない! タラちゃんはいまだ幼稚園にも通わせてもらってないっ! イクラちゃんに至っては喋れる言葉が限定されているっ! 半世紀もだっ!!
だかっ!! 驚くのは波平さんだよっ! 四十代だって・・。
リアルイヤーオールダーで換算すると百歳近い、いやぁー・・ハハハ、・・・昭和ってすごいよね がんばれっ! 現役! がんばれ! にっぽん。
円谷もタツノコもサンライズも当時ものはシリーズにしてまで引っ張るもんなー、おそるべし金儲け根性! 当たればまったく同じものを作る、レシピ見て作るみたいに消費者が飽きるまで作り続ける!
ウルトラマンも仮面ライダーもガンダムもなに?あれ・・・、もはや 境目が分からない! 歳のせい!? ウルトラ仮面ダムで一括りにしちゃダメなのかな。
・・・ああ・・、もー・・、
・・・。
春名先生と何 話してたんだっけ?
オレは日本のアニメが まあ、好きだ。
・・オタクって程ではないが、アニメが好きだと言う事は 恥ずかしいから秘密。
そー言えば、・・・部屋にテレビがない。
・・深夜アニメがチェックできない。
今は仕事をしてるから見てる暇などない、・・録画が出来ない、
ネットもない、・・なにもない。
そもそも 玉村に光ケーブルは来ているのか? Wi-Fiは? 高い高ーい山に囲まれてるけど・・届くのかな?
第八話 「春名先生と生徒たち」 2 つづく




