第六話 「御玉神社と神様」
第六話 「御玉神社と神様」
城島茂、26歳! やっと社会人となりました! 今日、めでたく初出勤! しました! ヤッホ!
その帰り道、春名先生とたーくさんお話ししたので ちょー嬉しーでーす!
女の人とこんなに喋ったの何年ぶりかなー、楽しいなぁっ! 楽しいなぁっ!
さらにさらに 特典としまして、お昼過ぎから 春名先生と、またまた 一緒にお出かけすることとなり、まことにもって有難き幸せとなりました! わ~い わ~い (*´▽`*)/~
エヘヘヘヘヘヘぇー! なんか最近、すっごく楽しいんですけど! 幸せだぁ! もし彼女が出来たら、オレ きっともう死んでもいいって思うんだろーなぁー!
ちなみにだが オレは長らく友達がいなかっため、その間 ずっと話し相手は エアフレンズくんでした。
このエアフレンズくんですが オレにとって讃える返事しかしません、そしてどんな顔をしているかもわかりません、顔ナシくんみたいなもんでございましょうか。
今日は春名センセとデートみたいなものだぁ! そー思わないか? 顔ナシくん、"そーだよ! 城島ぁ、いいなぁ オレはお前が羨ましいよ!" と言われました。
それはそーと、私は今 自分のアパートにいる、そして自室にて昼食を取るところだ。
今日は 記念すべき午後となるため、数あるメニューの中から私がいっちばん! 好きな "サッポロ一番しょうゆ味"に決めた。
もういいかなぁー? カセットコンロって便利だよね、 いつでもどこでも鍋でお湯が沸かせるなんて! グツグツいったら 麺を投入だっ!
さっき大家さんが 新たに宅急便を預かっていてくれてて、中 開けたら二つ目の鍋が入ってたんだよねー、ああ、そうだ スーツの皮靴だけど母さんが宅急便の箱に買い物用ビニール袋に入れて 入っていました。
まーいいや 白のカジュアルな靴でもぜんぜんオッケーだったし。
そーいや手紙も入ってたなぁ、 どーせ、また 火の元は気をつけんさいよ、水道は出しっぱなしはしちゃだめよ、脱いだら脱ぎっぱなしはダメ、とか 無駄遣いはせんと節約しんさいよ、とか 注意ばっかだもんなぁー、まあ、あとで読むからね、母さん。
そんな事より! サッポロ一番が完成した! スープの素は火を止めてから入れましょう! おおーいい匂いだ! これなんだよねー!
白いコメがないのが残念だが、オレはさっそく割り箸で一人鍋のサッポロ一番しょうゆ味を食べた、うん! うまぁいっ! 生卵があったらサッポロ一番がデラックスとなっていたが、まあいい!
春名先生がアパートまで迎えに来てくれるそーなんだが、待ちきれないから お外で待ってよー! おしゃれな服を着ないと! ああっ! ・・おしゃれ?
・・・? Tシャツとスーパーで\1480(税抜き)で買ったジーパン、・・白の靴、チェック柄のシャツ、母さんが入れていてくれてた水色のカーディガン(10年以上前のもの。)
・・どーしよう、ぜんぜん分からない・・
春名先生は、"神社"に行くって言ってたから、・・羽織り袴がいいかな?
さっき玉川の道を一緒に春名先生と帰ってたとき、「城島先生は 玉村の神様に導かれて この玉村に来たのかもしれませんよ! だから もし・・、城島先生のお時間が空いているのでしたら、ご一緒に 御玉神社へお参りに行きませんか?」と、お誘いを受けたのだよ。
オレってダサいはずだから・・、何着たってダサくなるし、それに今ある服着て行くしかないし。
っ!!
まさかっ!? ・・まさかとは思うがっ!! 井上春名先生は、どこかの宗教家ってことはないよねぇ・・、高額商品を売ってたりしないよね、ネズミ講の会員さんだったりしないよね・・、
数年前、明るく元気な女の子が、カラオケ誘ってくれて、仲間を探してるから一緒にやらない? と言われ、英会話教材を買わされた・・。
・・一緒に勉強できると思ったのに買ったとたん着信拒否。
・・へこみましたよ、・・へこんだってもんじゃーありませんよ、あの後 人間不信になっちゃって、・・おかげで後ろ指さされているようで、陰でバカにされているようで、他人の目が怖くなって、後ろにいる人がヒソヒソ話してオレの悪口言ってんじゃないかって、冬でも冷汗が出て汗だくだった。
あの英会話教材を買わされた女の子のせいでバイトが辞めれなくなっちゃって・・、踏んだり蹴ったりと言うんですかね、これ。
英会話教材を買ったのはオレだからオレが悪いんだけど、親以外の他人さんに お前が悪い! なんて言われたら イーッッ! て来るわッ!! 恨むわっ!! そのあと引き籠るわっ!!
オレは親切な大家さんのおかげでさっき届いた宅急便を見つめていた。
はち切れんばかりに詰め込んでいた、ミカン箱仕様のゆーパック。
その中には サッポロ一番しょうゆ味の他、チキンラーメンと出前一丁が一袋ずつ入っていた。
あと、パンツとか靴下とか、缶詰とレトルトと、野菜と、お金・・・。
城島家の伝統はサッポロ一番しょうゆ味だ、あとの二つは きっとその時目についた特売品だと察っする。
そのうちの一つ、出前一丁を手に取る・・、なんだか久しぶりだなぁ・・このラーメン、・・出前の坊や、なんでお前は金髪なんだ?
なかなか 洒落てるな、よし、夜は お前にするか!
・・それはそーと、
・・オレは何をしていたんだっけぇ?
出前一丁の他に、ご飯も食べたいなー、
ああっ!!
忘れてたっ!
春名先生と出かけるんだったっ!!
カタ・・カタ・
玄関の方で 何かの音がする・・
?
玄関の戸が開いた・・、「城島センセー!」
っ!!
春名先生っ!!?
扉が開いたっ!! 間違いないっ!! 春名先生だっ!! 春名先生が ちょー笑顔で 扉を元気よく開けたっ!! ソーメン持ってきたときの昭吉を思い出したっ!!
オレは今、パンツ一丁なんだーっ!!
「ああっ!! ごめんなさぁーっい! つい 扉開けちゃってぇー!」
「!? 春名先生! ・・今、服着ますからっ!」
「はいっ! ・・ごめんなさいっ! つい扉開けちゃうの、くせで・・」
「そーなんですかぁ? ハハハハ、」
癖っ!? なにそれっ!
オレは ジーパンにTシャツを着た!
母さんも オレが暗い部屋で ・・ネットしてたら元気よく扉を開けやがる! あれと同じ心理なのかなあ。
オレは急いで支度をして 玄関へと出た。
そして何もなかったように アパートの前を春名先生と二人で神社へと向かった。
静かなバス通り、玉川に沿ったバス通りの道は眩しすぎるほどの午後の日差しでいっぱいだった。
草花と玉川の匂いが混ざった風が静かに通り過ぎて行った。
ヒグラシの鳴き声が近くで遠くで聞こえてくる、日差しは薄黄色に輝く穏やかな午後で、布団を干したくなる。
「城島先生、私 つい考えもしないで行動しちゃうんです、・・だから さっきも、またやっちゃって・・・」
「ああ・・、そんなこと いいですよ、・・ちょっとぼく、ファッションセンスとかなくて、何着ようかと考えていたんですけどジーパンとTシャツしかなくて・・」
「・・・、それていいと思いますよ、私も ファッションなんてあまり気にしませんから。」
今日は春名先生、学校ではジャージだったけど 今は白のワンピース、花柄のやつだ、素朴な清楚な服、・・髪型は 後ろで二つに分けて束ねてる、これってツインテールって言うのかな? 前髪はおかっぱみたいに短く切っている、おでこが少し見えてカワイイ。
幼なじみの梶山とか言うのが 春名先生のことを男とか言っていたが、とっても女の子じゃないかぁ!
二つ目の橋、渡らずここを右に行けば神社がある。
すっきりとした何もない道、道の脇には 遠慮がちに雑草が茂っている、その先の三差路の右角に小さなお地蔵さんが置かれてあり、かわいい花と串の抜かれた三色団子が供えられていた。
三差路の左を歩いていく、
右側は 大昔に植えられたのか? 百年は生きているだろう、巨木の木々が均等に立っているこの巨木たちは御玉山の山へと続いていた。
その大木の木々の切れ目に大きな立派な鳥居が東を向いて建っていた。
「城島センセ! 右は御玉神社だけど左、向こうに見える玉川の橋を渡っていくと商店街よ。」と春名先生は指を指し教えてくれた。
田舎の夏の景色で 写真や絵画の一コマを見ているようだった。
橋には転落防止の壁や手すりはなく、古いコンクリートの裸の橋が架かっていて、その左横には 一本、青々と葉をつけた木があった。
見晴らしよく見栄えよく、雑草も生える場所をわきまえてるかのように美しい田舎の景色の一部となっていた。
そう言えば、雑草も 同じ種類のものだじゃなく 数種類の雑草が共存していた、背の高い生命力の強い雑草だけが幅を利かせると言う感じではなかった。
春名先生の言っていた "譲り合う、調和"と 言うのが 雑草みたいなものにも見られた。
不思議だ、なぜか 雑草までが共存共栄に見えてくる、そして土の見える場所も残し、そこには太陽の日差しが差し込んでいた、小さなアリが何処へと歩き、その上の雑草の葉の上にはバッタが止まり、今、風が吹くのと同時にバッタは飛んでいった。
・・こんな景色、玉村にはたくさんあるよな、・・田舎ってそんなものなのかな? 今まで意識しなかったけど。
オレは 春名先生の右、少し後ろを歩いた。
大きな鳥居をくぐると広い階段がゆっくりと上へ続いていた、三メートル幅ほどもある階段は所々割れて削れて形や高さの均等がとれていないが ずっと高くまで階段は続いている。
たぶん 数百年は確実に経っているだろう石畳の階段をみるとこの御玉神社はかなりの歴史と村の人たちの尊敬と崇拝の対象だったんだと思われる。
まるで 高野山の巨木みたいだ。
まだ 十八、九の浪人時代に時間がいっぱいあったから、青春十八切符を使って和歌山県の高野山に行ったんだっけ、来年は合格しますようにとお願いしたら、高野山なら合格しそうに思ったから行ったんだけど。
階段を二人並んで上れるってのは素晴らしい。
ちらっと春名先生の横顔を見たら、きれいな顔してちょっぴり笑顔だ! ああっ! なんてかわいいんだっ!
蝉はすぐ近くで元気いっぱい鳴いている、森の澄んだ涼しい風が下から吹いてくる、汗をかいた背中が冷たくって火照った体を冷ましてくれる、心なしか背中を押されてるみたいで体が軽くなったような気がする。
大木の下は木陰となっていてその下はとても涼しい、春名先生を通して向こうでは、大木の少しの隙間から いくつもの光のカーテンが斜めにまっすぐかかっていた、・・綺麗だ。
今上っている 石畳の階段では 日向と木陰が半ずつ分けあっている、この場所、道の脇には雑草が生い茂ると言う感じではなく、土の地面が見えるほどで太陽の日差しが所々に届いている、誰かが手入れでもしているのだろうか?
「・・春名先生、このあたりの木はみんな大木ですね、」 と話しかけてみた、「それに誰かがこの辺の雑草を刈ったりとかしてるんですか?」
「いえ、雑草は刈ってないはずですよ、雑草はそのままです、・・それとこの辺の土地は御玉神社の聖地になるんで村が所有して管理していると思います、・・・あ、それから このあたりの木は二百歳を越えてるそうですよ、中には五百歳を超える木もあるそうです、すごいでしょ!」
五百歳なら西暦で言うと 千五百年頃になるのかな? 日本は戦国時代の真っただ中だな。
神社へ続く階段は結構な数になる、階段の数は 約百二十段ほどだと言う事だ、汗が流れる、だけど春名先生と一緒だからなのか疲れない。
「よいしょっ!! ここが 御玉神社のお社です。」と言って到着した。
お社自体はどこにでも目にする神社らしい木造の普通の社で大きくもなくってとこだ。
建物の割には敷地が広くゆったりと造られている。
お社は古い石畳で囲むように建てられていて、参道も大きな石を埋めて造られていた。
境内は古いからだろうな 石畳の表面も 削れたりかけたりしていて、おうとつがある、土の地面は陽ざしのおかげだろう、踏み固められていてジメジメした感じはない、お社の角の柱に 雑草が生え小さな花をつけていた、所々に生える雑草も、なぜか健気に生きているように見えてしまう。
後ろを振り返ると参道の階段の大木の隙間から、春名先生の言ってた橋が見えた。
「城島先生! ここに神様が住まわれているんですよ!」と お社を指し元気よく教えてくれた。
春名先生はまるで 本当に神様が お社に住んでいるみたいに言ってくる。
「ここですか、・・玉村の神様が鎮座されているのは。」
と、そのとき何かお社の中で動いたような? 気のせい? 物音が聞こえたような・・、いや! 何かいる、暗い社の中に大きな陰が動いている、動物でも入り込んだのか!? 危険な動物だったらどうする!
社の観音扉には鉄の鎖に南京錠がかけられてある、・・オレのアパートには鍵すらついていない、そんなことよりっ! 「春名先生っ!」
お賽銭を入れようとしていた春名先生が賽銭箱の前で振り向いて「・・何ですか?」 と返事をした、オレはとっさに春名先生を守らなければいけないと思った! 「春名先生っ! こっち来てくださいっ!」 とすぐに春名先生の側へ行き、左手をつかんでこっちへ引っ張った、肩にかけていたポシェットが揺れた!
「! どうしたんですか!?」
「春名先生っ! 中に何かいますっ! 鍵がかかっているから何かの動物が入り込んでるのでは!?」 早口ではあるが冷静を装って、こんな時でもちょっとカッコをつけて言ってみた、「離れてください。」 よし! カッコよかったかな。
その時、
「動物って誰の事じゃ?」
ッ!?
誰だッ!? おっさんの声っ!! おっさんっ!!? オレ以外誰がいるっ!!? オレはおっさんであることを認めていた。
オレは春名先生の左手を両手で掴んで腰が引けていた。
春名先生はと言うと・・
?
棒立ちのまま、笑顔でいる・・
・・どーしたの? と聞きたかったが 頭の中では まだ、混乱中だった。
オレは我に返り背筋をピンッと伸ばした!
「おまえッ!! まさかワシのことを動物呼ばわりしたのかあぁぁぁッッ!!!」 ガタガタガタガタッ!!! お社の観音扉が動いているっ!! ポルターガイストかぁっ!! これは怖えーッ!! 神社の扉がガタガタガタ! と揺れ動いていた!
「誰だあぁッ!!! おまえはあぁッ!!」 この世の物とは思えない低いしゃがれた太い声が轟いた!! ヒエェッッ!!! 怖いっ!! これは怖いッ!! チビリそーだッ!! 春名センセーっっ!! オレは両手で春名先生の左手を掴みなおしたっ!
「脅かしちゃダメですよ、上島のお爺ちゃん。」
え!?
「あのなぁ、井上んとこの娘っ子! ワシはここの神様じゃとずぅーっと前からゆーとろうがぁっ! おまえはアホなのかぁっ!?」 観音扉の格子の隙間から人らしき影が見える、それは 普通に春名先生と会話を交わしていた。
「ごめんなさい! 神様!」
・・オレは今、オシッコちびりそーだったが・・ セーフにしておく、たぶんオレはびっくりすると失禁してしまうかもしれない、と言う体質らしい。
「今日は、紹介したい人がいて つれてきました。」
「・・・、なんだその横のヘッポコな男は?」 ヘッポコっ!? オレのことかあっ!? 何なんだっ!! こいつはっ!!
「ヘッポコじゃありません! 今日から玉小学校の先生になったんですよ。神様、城島茂先生です、玉村の年少組の先生になりました、どうぞこれから城島先生をよろしくお願いします。」と言って春名先生は頭を下げた。
なに!? この失礼な ・・何かは、何? 誰? 神様って言ってるけど、違うでしょ!
お社の中から聞こえてくるこの声はいったい 何なんだ!? どおして春名先生はこの中から聞こえる 変な人と普通に話してるんだ?
人だろ、なんでこんなところに閉じ込められてんだ?
お社の中にいる人は 人とは思えない雰囲気をかもしだしていた! 扉の格子の隙間から、閉じ込められている人の目玉がこちら睨みつけていた!
たしか春名先生は "上島のお爺ちゃん"と言っていた? だいたい、何で外から南京錠がかけられているんだ!? 危ない人なの!? 村八分って言うやつ!? 不気味なんだけど・・
幽霊だったりしないよね、昼間だし、怖くないぞ、今はまだお昼過ぎだし、・・昼型なのかな?
なぜ 春名先生は笑顔なんだ?
「なんだ! お前は新入りかぁっ!? もうちょっとマシなのはおらんのかぁっ?」 太く大きな声だが穏やか喋った。
「神様! 城島先生はきっと玉村の神様に導かれたんだと わたしは思います。」
「え? わしはそんなの知らんぞ。」 お前じゃないよっ!
「だが、おまえが そー言うんならそーじゃろう。」 どっちが神様なんだよ、あんたが導いたんじゃないのかっ!?
「おまえっ!!」
突然の大声に ビクッ!! と体がなる、驚くだろ。
心臓がドキドキしている、オレはビックリすると失禁するのかもしれない、いやいや例えそれでも体質だからそれは仕方がないとして、歳をとったら一早くオムツをはく自分が頭に浮かんだ。
「神様! びっくりするじないですか、もう。」
「そんなことはどーでもいいっ!! 供えもんは持って来たのかぁっ!」
「持ってきてないですよ、それより、鍵がかかってるみたいですけど自分でかけたんですか?」
「そんな訳あるかあぁっ!! お前んとこのクソガキがやりよったじゃあッッ!! おいっ!! 井上んとこの娘ぇっ!! そのガキィっっ!! 連れてこいっ!! しばき倒したるッッ!! エンジ色のシャツ着た角刈りのクソ生意気そーなっガキだあっ!! 今すぐっ!連れてこおぉぉーいぃッッ!! 今ッッ! すぐだああッッ!! ・・それと腹が減ったから食うもんもってこい・・。」
春名先生はため息を一つついた。
「・・分かりました、じゃあ、食べ物もってくるんで待っててくださいね。」
「おっ! 早く行けっ!! 早くッ!! それから 源蔵呼んで来いっ! 分かったなっ!」
この爺さんは どーやら、子供のイタズラで閉じ込められたんだと分かったが、神様でも ない。
この変なおっさんを置いて春名先生と私は一旦、春名先生の家に向かった。
春名先生の家は御玉神社の鳥居を左に戻った所、お地蔵尊のあった三差路の道を来た道ではなくそのまままっすぐ行くと 左手に春名先生のご実家があった。
大地主の家と言うより 村の中では標準より少し大きい感じの 木造二階建て家で 山を背に建っていた。
昭和中期頃の一般的な日本家屋だと思われる、家は御玉神社と同じ 東向きに建てられている。
「すいません城島先生、付き合わせちゃって、ここの和室で待っていてくれますか?」
「あ、ぜんぜん構わないんですよ、何か手伝えることがあったら言ってください。」
と言って オレは静かに和室で待つことになった。
中は とてもヒンヤリとしていて、玄関は広く、土間が奥へ続いている、右は倉庫だろうか? オレは左の部屋、和室で待つことになった。
東向きに建っている春名先生の家は、この和室が二間続いてある、広い縁側は、目の前の東側に広がる田んぼを一望できる、この家で春名先生は育ったのか・・たくさんの笑顔がこの家と一緒に思い出になっているんだろうな。
「あれ! 城島さんじゃないの、・・あらまあ・・、うちの春名につき合わされちゃったのかい、すまんねぇ。」と言って丸いお盆にのせた麦茶を出してくれた春名先生のお婆ちゃんであり大家さん。
家の中は とても静かで涼しかった。
「城嶋さん、上島んとこのジジイに会ったんだってねー、大変だったろー、あれは 半分ボケちゃっとるからのぉ、まともに相手ぇせんほーがええで、一昔前までは 村長やりよーた人だがねー、今もう あの通りよぉ、"玉の神"の声を聞いたと言ってから、おっかしな行動ばぁ取ってからに、いっちばんかわいそーなんは 孫の新平ちゃんだね、」
しんぺい、誰だ?
「新平ちゃんは ええ子だったんだけどねー・・最近は子供に帰っちゃって、おもちゃばっかり」 その時 春名先生の声が聞こえた、「お婆ちゃん!」
「城島先生、今からまた、御玉神社に行きましょう!」 「あ はい、行きましょう!」
すぐにまた、オレと春名先生は神社へと向かった。
春名先生は 黒の小さなポシェットと 水色のバスケットを持っていた、このバスケットは蔓と竹で編み込まれた天然素材のバスケットだ、それと水筒を肩からかけていた。
もちろんオレがバスケットと水筒を持ってあげることにした。
春名先生の家の正面玄関から 東に向かって、真っ直ぐに田んぼの中を道が走っていた、車一台分が十分に通れるほどの道だ、その道の端には やはり等間隔で木が植えられてあり、中にはかなり大きな木もある、オレはその道を横目に 急ぎ足の春名先生の後をついて行った。
まだ田んぼの稲は青々とよく伸びていた、刈り取るのはもう少し先なんだろう、いま、蛙が飛び込む音が聞こえた、ポチャン・・ そしてヒグラシの蝉の声が遠くから聞こえていた。
今、春名先生と一緒に歩いているこの道は たぶん 玉村の一番西側の道になるんだろうと思う、右手は御玉山へ続く森が広がっているから 村中の道はここが一番端だと分かる。
「・・田んぼの横に木がたくさん植えられているでしょ、夏とかね、お昼休みとかになると このどれかの木の下で休憩しておにぎりを食べたりするんです、私はそのお昼の休憩時間が好きで、お手伝いもしてないのによくお昼ご飯のおにぎりを食べたりしました、毎日 遠足みたいで楽しかったですよ。」 と笑顔で言う春名先生。
「あ!」 と春名先生が 何かに気が付いた! 前を見ると、目の前の鳥居の前で子供二人と大人が二人が立ってこっちを見ていた。
「おー、春ちゃーん! 悪ガキは捕まえといたぞー!」
「あぁ、ありがとうございます、源蔵さん!」
一緒にいたのこの前の 河童の人だ! 川から上がって服を着ている河童の人をみるのは初めてだ! そして 春名先生が言った源蔵さんと言う人、たしか 御玉神社で閉じ込められてるあの爺さんが言っていた、連れて来いと言う人か。
「松岡くんっ! 神社の扉に南京錠かけたのはほんと?」
ブスッとして返事をしない、こいつは この前、昭吉たちとは一緒じゃなかったな。
「春ちゃん こいつらがやったんだよ、さっき白状しよったから!」
「そうですか・・、あんたたち、みんなでやったの? ・・後で先生と話があるからね。」 と言ってここに居るみんなで神社へと向かった。
後から 昭吉たち数名も 見通しの良い参道の階段を上ってコソコソついて来ていた。
神社の境内では 入るなりあの爺様の怒鳴り声が聞こえていた、春名先生は オレが持っていた水筒とバスケットを受け取り、すぐにお社へと駆け寄った。
「そこのガキィっ!! よくも閉じ込めおったなぁっっ!! 祟ってやるぞコオラァァッッ!!!」
春名先生がいち早くそばによって爺様をなだめた。
「神様! 神様! おにぎり作って持ってきたから これ食べて!」 南京錠のかかった扉越しに話しかけ、食べ物を見せている春名先生。
「・・・・・」返事をしない爺様。
「まっつん、鍵貸して!」 "まっつん"とはどうも松岡の あだ名、らしい。
「ああ・・、春ちゃんさぁ、このバカ、総池に投げ捨てたらしいよ・・鍵。」 と源蔵さん。
「え!? ・・投げ捨てた!? ・・まっつん、それ ほんとなの?」 と聞いてもブスッとしたまま返事をしない まっつん。
「松岡、・・・ちゃんと返事しなさい!」 あれ・・!? 春名先生の声のトーンが少し変わった?
「とりあえずよ、・・扉を開けんと話にならんからな。」と言って バールを南京錠のロックの部分に突っ込み、その上から徳大の金槌でガツンガツンとバールの頭を南京錠めがけて叩き始めた。
大きめの南京錠だったため二十回近くも叩いて ようやく 南京錠は外れた! 観音扉はかなり古く木製だったため壊れるのではと心配したが大丈夫だった。
南京錠が外れた途端、お社の扉が力いっぱい開き、大きな音ともに 背の低い頭の禿げた顔の大きい、髭面の男が飛び出してきた!
「こんクソガキがぁッ!!」 とまっつんに飛びかかろうとしたが 「待ちな!待ちな! ・・爺さん! どーする気だよ、子供を吊し上げる気かぁ?」 と 河童さんがまっつんに飛びかかろうとする爺様を押さえつけた!
「・・なんか臭せーなぁ、ああ、もしかして爺っ!! この中で糞したのかぁっ!? お社で何やってんだよお!」 と言う源蔵さん、
「しょーがないだろっ!! 三日も閉じ込められてたんだぞっ!! このクソガキのせいでっ!!」
「ええっ!!? ほんとなんですかっ!? 三日もっ? ・・お爺ちゃん、」 春名先生がとても心配そうに この爺様を見つめていた、が 三日も閉じ込められてた割には 元気すぎる爺様だった。
「おいっ! 春! ・・腹が減ったぁっ!!」
「あ、はい!」と言って バスケットを開け爺様に差し出した。
爺様は立ったまま ・・汚い手でおにぎりをわし掴みにして 観音扉の前に座り込んで食べ始めた。
春名先生は 爺様の隣に座り 水筒のお茶をだし渡した。
「冷たい麦茶しかなかったんで、・・・熱い方が良かったかなぁ?」
「・・あたりまえじゃあっ!! わしは年寄りだぞ! それに中は涼しすぎるわっ!」 と文句の多い爺様だ、怒りが収まらないのも分かるけど。
この爺様は 確かに校長先生に似ている、顔の大きさといい、体格、身長、そっくりだ。
「でも、ほんと 無事でよかった! 後で 隣村の先生に診てもらった方がいいかもしれないわね、・・それにしても、三日も誰も来なかったんですか?」
「ああ、・・ここの村のもんは、もーダメじゃなっ!! 神様を蔑ろにしておるっ!! けしからんわっ!!」
「・・だけど よく生きてたなぁ 三日も、」と 河童さん
春名先生は一安心の様子だ。
だが どーいう関係なのだろうか? やっぱり 校長先生繋がりなのかな?
松岡たちは 春名先生のおかげで、神様を名乗る爺様のお咎めを受けることはなかった。
そしてこの後、「帰らん!」 と意地を張る爺様を 強制的に自宅へと連れていき、そして家の人と一緒に風呂に入れた。
帰らないと言っていたが、クソまみれの上、腹も空くだろう、高齢で体調の事も考えると こんなとこで生活なんて出来ないだろ、そもそもお社内部は生活できるようには出来てない。
この爺様は 上島校長先生のお父さんにあたる人だと言う事は このすぐ後で分かる事となった。
春名先生のお婆さんが言っていた通り、信じがたい内容だが 玉の神のお告げがあった後、全国行脚に出て十年間も帰ってこなかったと言う事だ、もちろん 町の警察に捜索願を出したりはしていたようだが、なんの音沙汰もなく十年がすぎたそうだ、
その間、風のうわさでは 岩手の八戸で食い逃げしたとか、名古屋で警備員しているとか、大阪の通天閣で物乞いしてるとか、岡山の倉敷で新興宗教に入信したとか、そんな噂を風伝いに聞いていたら、突然 爺様から電話があり、「今から別府と道後で温泉 入って帰るから。」と連絡があってから一か月後に 玉村に帰って来たそうだ。
いったい その十年は何だったのだろうか・・。
次の日になってからだが、学校が終わって昼過ぎから、松岡を含む四人を春名先生は神社へ連れていき ・・ウンコさんまみれのお社をきれいに掃除させていた。
オレも春名先生のお手伝いと言う事で 一緒に掃除した。
お社の中では 神様を見立てる "御霊"のか神があるが 隅っこによせられてあった、神のお告げを聞いたわりには 怖いもの知らずだ。
・・その他、新聞 ペットボトル 何かの包み紙、干からびた生野菜、が お社内部に散らかっていた。
どうも あの爺様は ほんとにここで生活しているようだ。
この爺様は 校長の父親であり、元 玉村の村長だ。
だが、十年に及ぶ放浪生活の末、玉村に帰ってくるなり御玉神社に住み着き、"わしは神だ!"と言い始めたそうな。
まっつんこと、松岡は 小学五年生で昭吉と同じ学年と言う事だ、悪ガキ三人組の六年生で黒田に、そして四年生の岡村の三人が中心だが、この時、初めて会ったとき昭吉たちと一緒にいた円輪宏こと、"ひろし"も 爺様を閉じ込めた時に一緒にいたと言う事で掃除をさせられている。
この悪ガキ三人組のリーダーは 年長の黒田らしい、この黒田がいつも他の二人を引き連れ何かしら悪さをすると言う事だ。
それからに三日後に 御玉神社の上にある 総池に南京錠のカギを投げ捨てた事で、小田さんこと 河童さんは「池を汚すなあっ!!」 と 今度は小田さん指示のもとで捨てた鍵が見つかるまで、まっつんたち四人は日が暮れるまで池の底を潜らされたそうだ。
・・で、結局 カギは見つからなかったという事だった。
第六話 「御玉神社と神様」 七話へつづく




