第五話 「みんなのじょうしましげるです!」
第五話 「今日からみんなのじょうしましげるです。」
目覚ましの時刻をセットするのを忘れると、起きれない。
九月一日、友引 爽やかな朝。
目が覚めたとき、一瞬 ここがどこか分からなくてびっくりした。
私は 二十六歳にして 初めて一人暮らしをする。
田舎の朝は ちょっぴり寒いくらいだ。
毛布があることにとても感謝した、「母さんありがとう!」 あって良かったよ!
まだ、布団からは出たくないが もう朝の七時半になろうとしている、本来なら六時に目覚ましをセットするはずが、この時間になってしまった。
だけど母さんてのは ほんと気がきく、自分の親を良く言うのは少しばかりはがゆいが、宅配の荷物の中に必要なものが一通り入っている。
スポーツバック一つで玉村へ行くつもりで、向こうで揃えりゃいいやって思ってたけど、スーパーがないから揃えようがない、商店街はあったけど、あそこじゃ揃えることは不可能だ。
「しげちゃん、嬉しいのは分かるけど、ちゃんと準備しなきゃダメよ、歯ブラシや歯磨き粉、コップ、洗面器にまとめて入れてると向こうに行ったとき助かるわよ。」
「うん、わかってるって。」
・・今考えると なんであの時、うん、分かってるって言ったのだろう? まるで分かってなかった事が ここへ来てから分かった。
つくづく思うけど、母さんはなんでも揃えるのが上手だ、こうやって一人暮らししてみたらその有りみがほんと、よく分かる。
・・布団とか、どうやって送ったんだろ? 郵便で送ってたけど、郵便局まで敷き布団の入った大きめの箱をどーやって運んだんだ? やっぱ 自転車の荷台に縛り付けて運んだのか。
段ボール箱は スーパーから貰ってきたものだろう、いらなくなった段ボールをもらってきて そこに入れたんだろう。
トイレットペーパーの入ってた段ボールに、お菓子の入ってた段ボール、味付け海苔に洗面器、皿うどん、ハンガー、ゆーパックの段ボールは有料だから 使わないのだろう。
家から郵便局までは五、六百メートルは離れてる、その上 信号はあるし車はビュンビュン走ってるし、それを何回も往復したと言う事か。
うちの母さんは免許を持っていない、若い頃に原付免許を取りに行ったら試験に落っこちたらしい、それ以来 免許は取りに行ってないらしい、だから今でも足代わりは自転車だけだ。
パート勤めに炊事洗濯、日課のプールでウォーキング、母さんはほんとタフだ、・・コンビニ使わないからクロネコも使った事はないだろうし 「母さん、宅急便届いてたよ、大家さんが預かってくれてて・・」と礼の電話を駄菓子屋の公衆電話からして、「あ、ほんとーよかったー! あんた がんばりんさいよ、ね。」と広島なまりで話し 「・・母さんコンビニとかでも宅急便、送れるよ、クロネコとかで。」「ああ・・母さんコンビニあんまり行ったことがないからねぇ、黒猫がどーかしたんね?」
テレビCMはほとんど 右から左だからピンとこないんだと思う。
宅急便は郵便局だと思って他の手段は始めから考えていないのだろうと思う。
そんな母さんも来年の三月で 五十になるのかぁ。
ああ・・なんか学校に行きたくない。
なんでこんなに気が重いのかなぁ・・・
・・・・。
はあー・・。
学校 行きたくない・・
・・昭吉の奴がぜったいクラス全員に言い振らすだろうし、あいつ口軽いから・・・
・・休もうかな、お腹痛いって言って・・、
はっ!!
何考えてんだっっ!!! これじゃ 学生の頃と変わんないじゃないかっ!!
まだ、初登校も行ってないのに登校拒否かよっ!!
オレはどーにか大学を卒業し、先生にまでなった男だ! 自信を持てっ!!
ババッと起きて布団をかたずけろっ! いやっ!! 今日はいい天気だから窓に干して行こう!! そーしようっ!!
開けっ放しで寝たから知らない間に蚊にかまれている、いっぱい いるんだなっ! 蚊。
錆だらけの転落防止用 格子窓に敷き布団をそっとかける、錆が布団につかないか心配だ! まあいい、ちょっとくらい。
よしっ! 顔洗うぞ!
えっとぉ、歯ブラシどこ置いたっけー?
えっとぉー・・
ああっもおーぅっ!! 歯ブラシはいろんなとこに置いとかないとどこ置いたか分かんなくなるだろっ!! 帰ったら買いに行こっと・・。
オレはとにかく支度を始めた!
パジャマのまま 外に出て階段を下りて行った。
「あ、大家さん!」
「あら・・城島さん! おはようございます。」
大家さんは アパートの前を竹ぼうきで掃いていた。
「お早うございます。」と朝の挨拶を交わし、「今日は 初登校でしょ? ガンバってねぇ・・。」と励まされた。
よし! 大家さんも "初登校"と言っていた! 今日で間違いないっ!
歯ブラシは脱衣所に洗面器一式と一緒に昨日、棚に置いたんだった。
ピンクの洗面器のほんの少し離れた横に、これは!!ソフィーさんのだっ!! と思い置いたのだ。
もう一つ下に棚があってそこに"桧"かな・・? 木製の職人が作ったようなとても古風な桶がメリットのシャンプーと一緒に置かれてあった。
まさかドラさんのだろうか? あの人は見るからに貧乏だ、檜の桶など持ってるようには見えない、それにメリットのシャンプーも一緒に置かれていたが、使われている形跡があることから その二つともはドラさんの物とは考えにくい、そもそも風呂に入っているのかする疑問だ。
あともう一人、あのバカのだろうか? 204号室のあいつなら石鹸一個で 体洗って頭洗って、そのまま足の裏洗って、流さずそのまま顔まで洗うだろう。
そして湯船に浸かって、タオルで体をゴシゴシするんだろーなあ! そんでもって ガアーッペペッ!て 唾吐くんだよっ! 上がり際に自分の吐いた唾、踏んづけてそのまま あーいい湯だったぜー! て、上がるんだろな。
あーっ! 朝っぱらからいっぱい嫌のこと考えちゃったじゃないかっ!! 気分悪ぅっ!
そうだ! 脱衣所で履くスリッパも用意しておこう、バカが無意識のうちに仕掛けたトラップを踏まないようにするめために。
とりあえず古めかしい洗面台のあるとこで歯を磨き顔を洗った。
鏡が歪んでるからオレの顔がおかしく見える、面白い鏡だ、少し位置をずらすと、また違った変な顔に見える、笑ってしまいそーだ。
タオル持ってくんの忘れたから自然乾燥にする。
オレは部屋に戻り大学の卒業式で着たスーツを着用した。
うん、やっぱスーツっていいよな、身が引き締まるって言うか、ちょっと偉くなった気がしてくる。
朝は何も食わない、食欲がないからだ。
目覚まし時計を見る。
ハッ!! 朝の八時五分を過ぎている!!
やばいっ!! 遅刻だッッ!!
はッ!!
靴がない・・。
スーツに合う革靴、合成皮の靴を用意するのを忘れたッ!!
・・・・・
・・どーするッ!?
・・アアッッ!! もういいッ!! 履き古された白いカジュアルなシューズならあるから、それしかないからそれで行く事にするゥッッ!!
・・これを履いて行くッ! オレは急いで白いボロの靴を履いて玄関を飛び出たッ! ああッッ!! 鍵がないッッ!! 元からないッッ!! もう、鍵かけないッッ!!
忘れ物はないッ! 必要書類にハンカチ ティッシュに筆記用具! 用意してて良かったッ! 昨日のオレッ お利口だッッ!!
よしっ! 階段を急いで降りるッ!! ああッッ!! 落っこちそうになるッッ!! なんとか下りれたッッ!! 順調だ!!
玉村へ来た初日に小学校の場所は確認済みだっ! 抜かりはないっ! 場所が分かんなくて遅刻しましたなんて洒落にならないからなっ!
アパートの階段を降りると大家さんはいなかった、トイレ掃除をしているようだ、大地主と聞いているが この婆さんは毎朝、働き者だ。
オレは走ってバス通りに出た。
どっちだっけ?
・・・・、
はっ!!? 思い出せないッッ!!
お、落ち着けッッ!! 落ち着けッッ!! とっ、とりあえず落ち着けっ!! オレッ!!
えっと・・、時間がないッ!! 昨日はこっちだっ! いや違うッ! 一昨日だっ! いやっ違うっ! その前だッッ!!
えッッ!? いつ村に来たっけ?
えっとぉ、バスに乗ってここまできたからぁー、・・電車が走ってんのは左方面で、あっちだから来た方角じゃなく村の奥へ行ってみようと思ったんだ、・・いや、違ッッ!! ・・まず、オレが赴任する小学校がぁ・・村の奥だったからぁ、
「センセー! 城島先生ーぃ!」
っ!!! 「あの声はっっ!! 井上春名先生っっ!!!」自転車乗って爽やかな笑顔でやってきた!
「ああ・・今からですか?」
ああっ女神様っ!! 女神さまの降臨だっ!! 電動自転車で女神様の降臨だぁーっ!!ヤッホーッ!!
「あ、はい、これから向かおうと・・ハハ、 春名先生もこれからですか?」
「ええ、わたしもこれからです。」
白のワンピースだ! ちっちゃい花柄がついているっ! ポシェットをかけているぞぉっ!! ああッ! 可愛いッッ!! キュートだッ! 清楚だッ!
この前 かけてたのと同じポシェットだあっ! お気に入りなのかなぁ?
「城島センセ、スーツ似合ってますよ、フフ。」
おおぉっ! やっぱり!? オレって子供の頃から あら、賢そーな子ねー、なんてしょっちゅう言われていたから、とーぜんと言やあとーぜんだ! スーツが似合うに決まっている。
オレの良さが一層、引き出されるのがスーツって言うアイテムなんだよなぁ。
「それじゃ城島先生、八時に十分までに来てくださいね、学校で!」
「あ、はい、学校で。」
・・・行ってしまった。
・・・あ、春名先生に学校の場所を教えてもらおう思ってたんだっけ、
ああっ!! もぉぉぉーっ!! 電動自転車って早いんだよぉっっ!! あっと言う間にあんなとこまで行ってんじゃんかぁっ!! モーッッ!!
つい春名先生&ポシェットに気を取られている間にぃぃっ!!
あ そうか、オレと春名先生は同じ小学校なんだよ、てことは春名先生はあっちに行ったって事は、そう、あっちに小学校があるって事じゃないかぁっ!
よしっ! オレは南へと商店街方面へとダッシュで走った! ・・ダメだ、すぐにバテてしまった! ・・ハアハアハア・・
ここを左に曲がったんだよなぁ、・・あれ、・・向こうにも道がある・・、あっちだったかな?
ああっ!! 大家さんに聞けばよかったあぁっ!! 何で気づかなかったのかなぁっ、・・戻るかっ! えー、今来た道をまた戻んのかあー、汗かいちゃったよー、あーっクソぉっ!!
「あれー! おっちゃーん!」
その声はッッ!?
「おっちゃん! 何してんのぉ? ビシっと決めてどっか行くのかぁ?」
「昭吉・・、そうだッ! おまえ、今から小学校行くんだろっ!?」
「うん、行くよ。」
ラッキーッッ!! チョーッッラッッキーッッ!!
「よし、オレと一緒に行こうか!」
「えーっ! ヤダよー、・・おっちゃんが何しに小学校まで行くんだよぉっ!」
よかったー、昭吉がいてくれてー、仮に遅刻しても 昭吉をダシに言い訳できる―。
へへへ。
オレは昭吉と無事小学校へ到着したのだ。
それにしても、こいつオレが先生だと言うことを忘れてるようだな。
オレと昭吉は 校門をくぐり中へと入って行った。
「古い校舎だなあ・・ テレビで見た田舎の小学校そのものだな。何年前に建ったんだ? この校舎は?」
校門は北なある、・・オレの通ってた小学校も北門が校舎側だった校舎は 真ん中に玄関があり入るとすぐに下駄箱が右と左に二列置かれている。
昭吉は左側の下駄箱だ、そこで上履きにはきかえる昭吉に聞いた。
「・・なあ、春名先生は もう来てるのか?」
「そんなの知るかよっ! 学校まで来て子供を誘拐するのかぁっ!?」
ズケズケとものを言う子だな。
「するわけないだろっ! それより昭吉、職員室はどっちだ?」
「! ・・・・・」
「何だ!? 何考えてんだよ、告げ口なんかじゃなくて、オレは今日からここの先生なんだよっ、分かったら場所教えろ。」
「・・あっち」
雑っ!! 「あっちだな、・・あぁ、そうそう、昨日の素麺、ありがと な、うまかったよ。」
「あ、・・そうだった、」
・・・イヤな笑顔に変わってきた・・・。
「せんせいっ! ウンコ漏らしたことは黙っといてやるからさっ!!ヒヒヒッ・・」
「なっ ウンコなんか漏らしてねーよ、だいたいっおまえなっ」
「だいじょーぶだってぇ・・誰にも言わないって。
誰にも言わないだとぉっ!! 一昨日っ! ソフィーさんに言ったの忘れたかぁっ!
「ああっ そうだっ! 素麺のお盆と皿返してよっ!」
「持ってきてねーよっ、て言うか、持ってくるかよっ!! 記念すべき教師として初出勤の日にっ! 帰りアパートまで取りに来いっ!」
ぶつぶつ言いながらも昭吉は自分の教室へと向かっていった。
右側、向こうが昭吉の教室か。
校舎は筒抜けになって玄関から運動場へ直接出られるようになっている。
廊下は手前の東西にあり、にげた箱は玄関を入ってすぐだ。昭吉は あっち、と指さした方は玄関から見て左だから西側か、・・なんだ職員室は下駄箱のすぐ横の部屋じゃないか。
私は 中を覗いてみる、・・広い部屋の真ん中に机が四つ、五つ、向かい合わせて置いてある、周りは棚や学用品に本など ざっと並べられて置かれている、奥の窓は北側になるが明るく照らされた運動場の一部が見えた。
その職員室と思われる部屋の真ん中に置かれている机の上座らしき所に"デカい顔"のトボケた感じの男がこっちを見ていた 、非常にインパクトのある御顔立ちをしている。
「城島センセっ!」
はっ!!? 後ろから聞こえてきたその声はっ!
振り返ると、ニコっと笑顔の、あーっ! 「春名せんせーい!」だぁ。
「城島先生! 校長先生とはお話しましたぁ?」
「ああいえ、まだです、・・今 来たとこで、」
春名先生は 職員室の中へと案内してくれ、上座に座っている デッカい顔のニコやかな男性を紹介してくれた、「こちらが、上島校長先生ですよ。」と。
ふと、この校長先生、誰かに似ているような、・・何だったか引っかかる気もしたが 校長が 「そこのデスクを使って下さい。」と手前の机を頂いた、この机が 私の教師としてのデスクとなる、一人前だ! オレ専用のデスクだ! 一人前なのだ! 出前を取っているのではないっ、オレは社会人として一人前となったのだ! と 思った。
春名先生は私の机を向かい合わした前の机となる。
春名先生と目が合う、ニコっと笑ってくれる、・・とっても嬉しい!
横にも机はあるのだが、これは予備だそうだ、て言うことは、職員室では春名先生と二人っきりと言う事か? (校長先生もいます。) 向かい合わせで二人っきりと言う事なのか? (今までは校長が春名先生と二人っきりです。)
学校は 年長組と年少組の二クラスだけ。なんと! 静かな職場なんだ。
あんまり春名先生をじろじろ見ていると、気持ち悪いとか思われたらイヤだし、とりあえず目線は横にずらしてだね・・
・・校長がいた事を忘れていた、校長と目があってしまった。
・・ニコっとされた。
今日の授業は二時間で終わり! なんて楽なんだ、始業式はいつも楽だった! 先生もこんなに楽なのか。
校長と春名先生のお二人に、オレの受け持つ年少組の教室へと案内された。
職員室を出て、玄関とげた箱のある渡り廊下をまたいで、昭吉が歩いて行った方へと向かった。
廊下は 南側に面しているので朝日がたくさん入り込んでいて 廊下 全体を明るく照らしていた。
教室は 玄関を挟んだ最初の教室だった。
向こうにも いくつかの教室があるのだろうか? 春名先生の教室は年少組の教室のもう一つ奥の教室となる。
春名先生が歩いて自分の教室の戸を開けるまで 校長とオレは見送っていた、「あそこが年長組の教室で井上先生が担任をしている教室です。」 と校長に教わった。
今 過酷なバイトが頭の中を走馬灯のようによぎった、時給900円に厚生年金なし、健康保険なし、路上で車を止め、納品していると、"緑虫"と呼ばれる駐禁監視員が切符を切っていた。
「遅かったねー・・残念。」一年に一回は切符を切られたと思うっ!! よく二年も続いたよっ!
路上で納品させるシステム、立場が上なら下請けが問題事を被ればいい!と言う考え、倉庫の整理までさせられ重い荷物の移動を、サービスの一貫として強制的にやらされる、倉庫要員はコスト削減のため雇わない、嫌ならクレームを出し他の業者を使うと言って脅しをかける。
景気が悪くなると立場の弱い者が 更に弱くなる、人を人として扱わない、嫌なら辞めろ、と最低の労働条件で働いている。
オレと同じ配送の仕事をしていた人に、小学生の子供を二人持ち 家族四人で暮らしている人がいた、共働きで 派遣社員だった、つまり"正"社員ではなく アルバイトと言う事だ、これをどう解釈すかは人によって違うだろう。
ただ オレはその人を見て強く思ったことがある、それは とても"疲れている"と言う事だ、反骨精神を持って生活基盤を作ろうとする気力が全く見えなかった、・・オレは 社会人と言うものは そう言うものなのだろうと思った。
更には商品や人件費の削減、表向きは規制緩和と言う 聞こえの良い政策を国が決めても、それに都合のよいのは 親会社であり大会社である。
経費削減や規制緩和によって、社会の末端で働く人たちは 直接 市場と言う現場で 泣きを見る事になるのだ。
一見、国や自治体の政策方針は 民間に優しいように見えるが 結果はその逆になるのだ。
つまり 親分は ますますワンマンになると言う事なのだ。
総理大臣は ほんとに国の事を考えているのか? そのためには 知恵もなく惨めな思いをしてでも 真面目に働き続けている人たちを 黙殺しているのか? おまえらは羊たちだから沈黙するものだ! と思っているのか? バカと死人に口なしかっ! 知恵もなければ力になる知人もいないなら 公けにはならないだろうと踏んでの政策なのか? もし そうならオレは・・
オレは きっと、国に対し、都道府県に対し、自治体に対し、反骨精神で、・・・脱税するだろう。
中小企業ならワンマン企業になれる、地場に根付いていれば、表向き会社名義で寄付や掃除のボランティアを毎朝する! こー言うのを偽善活動と言うのではないのかっ?
「城島先生、どおしました? 具合でも悪いのですか?」と校長先生が言った。
「あ、すいません、何でもないです。」 オレは顔に出やすい、もうよそう、嫌な事を考えれば考えるほど 嫌なところが見え、自分がどんどん嫌な人間になっていくようにも思えてくる、よそう考えるのは、昔の事だし、それにオレにはもう関係ない、だって公務員で先生なのだから。
「ここが城島先生の受け持つ年少組の教室です、井上先生は この横の教室で四年生から六年生を受け持ってもらってます、玉小学校は このふたクラスしかありませんから 先生と私を含めて先生は三人だけです。」
校長先生は年少組の教室の扉を開け、先に入っていった。
ちょっと緊張する。
続いてオレも後をついて中へ入った。
ドキドキしてきた!
教室は広いが 生徒の数が少ない、十人も満たないのか。
ちっちゃな子供たちがつぶらな瞳で私を見ている、ああ緊張する、子ども相手なのに緊張する!
だけど子供はみんなピュアだ、見ているだけで汚れた大人の心も洗い流されるようだ。
授業は私と校長の二人で受け持つことになっていた。
だが 今日の私は見学だ、校長の授業風景を見て次の日から 一人でクラスを任されることになる。
校長先生が口を開いた。
「あー・・今日から新しい先生がこの玉小学校へ来てくださいました。だから今日が 私と授業する最後となります。代わって 明日から こちらの城島先生がみなさんの勉強を教えていただくこととなります。」
と言った瞬間、子供たちの「えええぇーっ!」と言う不満の声が出た。
一年生の女の子? 男の子だろうか、泣き出した子もいた。
「いえいえ、私はずっと学校にはいますよ、校長先生としてだから 職員室に来ればいつでも私はいますからね。」と言って後、私の自己紹介となった。
たとえ子供相手でも ちゃんと挨拶分は考えてきた。
"今日からみなさんと一緒に勉強をする事になりました、城島茂先生です、どうぞよろしくお願いします。"と、こんな感じだ。
私は 子供たちの前に立ち、ごく自然に 優しく、そして笑顔で喋るのです。
いや待てよ、いきなり自分の事を "城島先生です"なんて言っていいのか?
「き、今日からこのクラスの・・」あっしまった! 間違えたあっ!! それにっ、それにだっ!"みなさんと一緒に勉強をする事になりました"って、オレが勉強する訳じゃないんだし、・・いや、先生としての勉強だったらオッケーかな!? あっ、自己紹介している間に考えちゃったっ! 早く喋らねばっ! なんだっけ!? どこまで喋ったっけ!?
「今日から・」 あそうだっ! 「みんなの・・城島茂です、よろしく!」
あ・・・間違えた・・。
子供たちは 口をポカンと開けたまま オレを見ている。
・・まだ 見ている。
校長先生が、ププッと笑った。
「みんな 城島先生をよろしくね。」と校長はそのまま続けた。
子供たちは笑わなかった、それどころかカワイイ元気な声で「はああああーい。」と返事をした。
笑ったのは校長だけだった・・。
・・なんだかオレの心の奥に暗いものがふつふつと湧き上がってきた。
子供はいい! オレをバカにしたりなんかしないっ! 実にいいっ! オレもやってけそーな気がするっ!
それに比べて校長めっ! "ププ"って笑いやがってーっ! オレはちょっぴり敵意を持った、これを逆恨みと言う事はちゃんと分かっている。
私は 校長が事前に用意したと思われる生徒用の机に、生徒と一緒になって座らされた、これも校長によるオレへの嫌がらせなのかっ!?
教室の席は 前後二列で 前に五人、後ろに四人となっていて オレの座った席は事前に用意されていた後ろ四人の廊下側の席だ。
校長の「城島先生、今日はあそこの席で 私の授業を生徒たちと一緒に聞いてもらえますか?」と言われたので 「あ、はい。」と爽やかに返事を返し その席についた。
ふと、視線を感じるので その視線の方を向いてみた、左の座っている女の子がこっちを見ている、三年生だろうか?
その生徒はちょっと照れながら「・・ぁ、何か分からないことがあったら聞いてください。」 と 親切に言ってくれた、言わされているみたいに言っていたが、うん なかなか出来た子だ! いい子だ!
「ああ、どうもありがとう。」と 笑顔で返事をした。
一時間目の授業は 勉強ではなく、生徒たちからのプリントなどの提出が主だった。
休み時間には当然のごとく生徒たちが私の周りに集まってきた。
「先生! 明日からここで先生するの?」と女の子が言った。
「あー、そうだね」 「宿題は簡単なのがいい!」と 一人の男子が言う、まだ、喋ってる途中だ、そしてまた、オレは質問に対し返事を返そうとした、「宿だい・・」 「なくしてーっ! 宿題ぃっ!」 だからまだ喋ってる途中だから もう一度オレは返事をする、「しゅく・・」 「春名先生は宿題やんなくていいって言ってるよ」 ・・・・・、それって・・ほんとなのか!?
「あれ! ほんとなのかぁ!?」 と一人の男子生徒。
「ああ、ほんとだよ!」
「今日 給食ないの?」
ハハハハハハハハッとみんな笑いだした。
急に話が変わるのは子供だから仕方がない、オレも こんな調子だったはず。
「いつから給食って始まるの?」
だけどだ、おまえらはオレに質問すれど返事は必要ないんだな、一方通行なんだな、いつぞやのバケツ少女と同じで"お刺身 二人前で"のワンシーンが脳裏を過ったわっ!
・・ちょっと不安になる、オレは簡単に心が折れそーになるのだ。
「先生も宿題しなくていいって言うの。」
「ぼく・・?」
「せんせーい、ボクって言ったぁー! ハハハハハハッ!」
オレは焦って言い直そうとした、「先生はっ」と言うと、「先生は"私"って言うんじゃないのぉ?」と 今度は女子の一人が聞いてきた。
それは先入観と言うやつですよ。
「オレの兄ちゃんは宿題なんかやってなかったぜっ!」
お前の兄ちゃんてこの前のガキの事か!? そーめんの昭吉か? それとも野グソの報告していた山岡か?
「ああーっ!!」 大きな声を出す 男子! こんどは何だ?
「思い出したぁーっ!! 先生にうちの爺ちゃんがソーメン持ってけってぇ、」
素麺の子! 昭吉の弟かぁっ!!
「センセーっ!! ウンコ漏らしたってほんとかあー!?」
イヤァーン。
「ウンコなんかっ・・」 誰にも言わないってぇ言ったのにィ~・・
「二回漏らしてたって、兄ちゃん言ってたぞぉっ!!」
「エエエエエエッッッ!!」一斉に大合唱する!
「も・・漏らすわけがないだろ・・。」と冷静にオレは装う・・。
「オシッコも漏らしたってっ!」
それはぁ・・、
「いや、漏らすわけないだろ! 先生は大人なんだぞ。」 ああっ! 焦るっ! 子ども相手に焦るっ! 落ち着けーっ! オレーっ!
昭吉! 誰にも言わないからって言ってたが、みんなに言ってんじゃねーかぁっ!!
・・休み時間はチャイムとともに終わった。
キーンコーンカーンコーン・・・
オレの休憩はここから始まる。
そしてオレにとっての二時間目の休憩も終わり、私は職員室へと戻って行った。
「あ、城島センセー!」 っ!! 女神だっ! 女神の声がしたっ!!
振り返ると、「ああ・・春名先生・・・」 春名先生は 職員室のちょうど席につくところだった。
「どーしたんですかぁー? とっても疲れた感じに見えますが、最初は仕方ないですね。」と 言ってくれた。
バタンっ!! 何だ!?
また 今度はオレが職員室の席につく前に 振り返ると、入口の方で男子生徒が立っていた。
春名先生は 席についていたからそこから注意した 「こらっ! 廊下は走らない!」
その注意を無視して 「センセーっ!! 城島センセーっ!! 教室でウンコ漏らさなかったぁ!? アハハハハハハッ!!!」と、こいつはよく見ると ソーメン昭吉!
「こらっ!! 昭吉くんっ!! なに言ってるのぉ?」
「ッッ!!! おまえっ!! ・・昭吉っ!! 後で素麺のお盆取りに来いっっ!!」
「えええーーーっ!!」
と言って 逃げるように帰っていった。
来るのも帰るのも、気の向くままだな。
あっ! ひらめいた、そうかっ、子供は嫌がることをすれば逃げると言う行動をとるのか! と言うことはだ、"ウンコを漏らした" などと言わせないためには、フフフ・・なんだあっ!! 簡単ではないかあっ!! アハハハハハっ!! 嫌がることをさせればいいのだよっ!!
「城島先生、人気ありますね、フフフ。」 と春名先生に言われた。
「・・そーですかぁ?」
今度は 校長先生が話しかけてきた、「いやー、そう言えば城島先生は自己紹介のとき、いったい何を言おうとしたんですか?」 はっ!! 思い出したっ!! 校長めぇっ! "ププっ"て笑いやがってぇっ!!
「子供たちは期待してたと思うんだけど。」 何をだっ!? 何を期待していたと言うのだっ!!
「・・何をですか!? ぼくは真面目に、言おうとして、それで・・」と少し不機嫌気味に言ってしまった。
「・・・そうですか、言葉が詰まったてしまったんですね。」と校長。
・・笑ってたくせに。
「まだ、慣れてなくて・・、少し緊張していたかもしれません・・」と 今度は少し愛想よく言ってみた、大人の対応と言うやつだ。
「困った時は笑ってしまえば事なきに終えてくれると思いますよ。」と校長は言う、が それはいわゆる"笑ってごまかせ"ではないのか? 子供の頃に実践していたことをまたやれとっ!?
「そーですよ!」 え!? 春名先生も!?
「笑ってごまかせばいいんですよ! それに子供は無邪気ですから一緒に遊ぶつもりでいればいいんじゃないでしょうか?」
・・心の中を読まれたような気がする。
お昼前には学校での仕事はすべて終わり、校長を残して、春名先生と一緒に帰ることとなった。
だけど これでオレも正式に、立派な社会人になったんだろうか? 実感がわかない、職場での人間関係で悩まされ、退職に追い込まれると言う話は ネットでの通説のように書き込まれていた、実際 オレは大学生の時に 雇い主から虫けらのような扱いを受けていたし、それ以上の扱いを社員さんの一部は受けていたようにも見えた、それで 退職していった人たちも二人ほど見ている。
それを考えると 教師としての仕事は とても気が楽なようにも見えるし、今日は楽だった、これが仕事なの? と思わんばかりだ、それに春名先生も美人で優しいし、校長先生も 顔はデカいが心は穏やかで親切な人のようだ。
勉強をするか、しないか、大学を卒業するか? しないか? 在学中、目標を持って国家資格を手に入れるか? 手に入れないか? 若い日のほんの少しの小さな判断が、のちのち人生を大きく変えてしまう、オレは そんな事を考えると 思いつめた顔で会社を辞めていった人のその後が気になってしまう、家族あり、子供があり、だけど今は笑顔で仕事しているだろうと、オレは都合よくそう 考えようとする。
春名先生と一緒に帰るのはこれで二回目だ、やった! 職場が同じならこんな風に一緒に帰る事って よくあるんじゃないのかなぁ? それはとっても嬉しい事だ! ああ、青春だ! 忘れていた青春だ! 巡ってこないだろうと諦めていた青春だ! 遅い青春だけど、遅くてもいいっ! 無いよりは。
オレと春名先生は学校を出て右手に架かる橋を渡り、川沿いの道を歩いて帰った。
左手の道は 中学校や 昨日のシロツメクサの丘がある方へ行けると思う。
玉村は 川に沿っての道が多い、川が村の中をいくつも重なって走っていて、まるで川の中に村があるようにも見えてしまう。
この玉村は 川の流れを変えずに学校や役場など建てている、極力 元からある自然の形を留めるようにしているようだ、・・疑問に思うのは 大雨や台風の時など、川が氾濫する事はないのだろうか?
村中での往来は橋が重要となっている。
平地に川や田んぼ、畑、そこそこ起伏のある村中だが高い建物がないから青い空がとても大きく広く、清々しく見えてくる、都会の空はとても狭く見えてたからなぁ。
玉村は標高2000メートル以上の山々に囲まれている、その山を除けば 樹齢数百年の大木群が村で一番のノッポと言うことになる。
「トンボ・・」
「え!? ・何ですか、・・とんぼですか?」 春名先生が 何かを言った。
「ええ赤トンボ、・・もうこんなにいっぱい、秋なんですね。」
「そうですね、秋ですね。」
田舎の夏はあっと言う間に美しく輝いて秋の季節へと変わっていくんだと思った。
この川沿いの道の幅は三人ならんで歩けるほどゆったりしている、加えて他に誰も歩いていなかった。
道の周りの 雑草は地面が見えるほどなので うっそうと茂っていると言う感じではない、だからこの茂みの中に 何かが潜んでいるかもしれないと言う不安を持たずに歩いて行ける。
このあたりの雑草などの自然は、まるで意志でもあるかのように、どうぞゆっくり歩いてくださいと言っているようだ、そんな風に考えると とても幸福感に包まれる。
「え?・・・今、何か言いました?」
「あ・・ いえ、」
オレは無意識のうちに喋っていたのか? なにを喋ったんだけ・・
「・・秋が早いから、夏の季節が秋に遠慮して季節をゆずってあげてるみたいだなぁて・・ハハハ、センチに思っちゃったかな。」
「・・そうですよ、私もそう思います。」
「そ、そうですか? ハハ、なんか嬉しいな、春名先生にそう言ってもらえると。」
九月になったばかりだけど 風はとても涼しくてキレイだ、とても気持ちいい自然の風、本来ある姿の風とはこう言う風の事をいうのだろう、それに手つかずの美しい川、日本のどこにでもあっただろう本来ある姿の清流、春名先生は玉川を日本に残る最後の清流だって言ってたけど、・・もし、本当に清流なら 見ておきたいし知っておきたい、それが最後と言うのなら、本当の清流というのを。
"清流とは、どんな川なのか?" ・・オレはドブ川しか知らない。
広島の祖父ちゃんの田舎には きれいな川しか流れていなかった、オレにとって 今まで見てきた自然は、あの子供の頃の広島の景色だ、海も川も山も、どれも美しかった。
・・あれより美しい景色を オレはまだ知らないんだと思う。
「城島先生、玉村の空を見てどう思いますか?」
「はい?」
春名先生は空を見ながら言った。
「・・え? 何ですか?」
「玉村の青い空、綺麗だと思いませんか?」
「ああ、空ですか? 玉村の青い空は、・・とても青くてキレイに見えますよ、ここへ来た時もそう思いました。」
「・・そうですか。城島先生は 空がどうして青いか知っていますか?」
「ああ、詳しくは知りませんが・・・たしか 光の屈折によるものじゃなかったかなぁ・・」
「ええ、私もそう聞きました。いろんな色のある中、青が選ばれて 青い空が空色になったんでしょうね、もし 空が黄色だったり紫色だったら 私はきっと青だったらいいのになって、考えると思うんです。」
春名先生は何を言いたいのだろうか? ただの女性的なセンチメンタルなのかな?
「ああ、そうですよね、ぼくも空は 黄色より青がいいです。」と 軽く返事を返した。
春名先生は 「夏の季節が秋の季節に、"玉村の季節を譲る" ように 青い空も、他のたくさんの色から 空を譲ってもらったんじゃないのかな? と思うんです、だって青い空より 美しい色はないと 私は思うんです、もちろん 朝日や夕焼け空もきれいですよ、だけど それは 一瞬だけだから美しいって思えると思うんです、だって 夕焼けってちょっぴり寂しい感じですし。」
春名先生は絵本作家のように 発想を優しく転換してしまうようだ、ああ・・なんて素晴らしい人なんだ! ファンタジーとリアルをミックスしたお話しだ! 女の子なんだなぁ! かわいらしく絵本チックにアレンジしたお話しに、"ああ、さすがは春名先生! 小学校の先生だ!" と感心させられた。
「城島先生がこの玉村に来て 先生になったのは、きっと始めからそうなる人だったんじゃないかなぁと思うんです。」
オレもそう思う! オレは運命に選ばれたのだろう! たぶんそーだろう。
春名先生の言う "始めから" 決まっていたような 神秘的な考え方は オレは大好きだ! 実際 高校の時 進路相談で、てきとーに言ってみた事 "小学校の先生になってみようかな・・" 鼻で笑ったあの担任めっ!! オレは偶然にも 小学校の先生になったのだっ!! 有言実行だっ!! 思い知ったかっ!!
・・そうじゃなくて、そんなてきとーに言った事が 今こうして 本当に小学校の先生になったと言う事だ! 今まで何度 崖っぷちに立たされ、諦めようかとしたことか! そのたびに 何か不思議な力が働いていたようにも思う、 そのおかげかどーかは分からんが、乗り越える事が出来た!
受験に二回も失敗したり、電車に轢かれそうになったり、試験をあきらめそうになったり、出席日数が足りなかったり、英会話教材買わされたり、ネトゲーにはまったり、お百度踏んだり、座禅組んだり、・・親の愛情が重かったり・・、だが すべてが上手く行ったのだ! なぜ、こんなに上手く行ったのか ほんと、不思議でならない!
青い色は他の色に空を譲ってもらった、つまり 春名先生が言いたいのは この玉村の先生になるのに オレも何者かに譲ってもらったと言う事になるのではないだろうか? 年少組の前の担任は校長だから・・、え? 校長先生?
「今の時代って 競争社会って言われてて、誰かを押しのけてでも勝とうとする、それって確かに 押しのけてでも勝てば、やっぱり勝ちなんでしょうね。競争社会って仕方ないのかもと、思ったりするんです。
青い空は世界中どこ行ったって青い空だと思います、だけど玉村の自然は日本一、美しいところがたくさんあると思ってます、川も土も草も木も、みんな 譲り合っていて "競争"をしないから美しいと、私は思うんです。」
・・さっき城島先生が言った、夏が秋に季節をゆずってるように見えるって言ったとき、城島先生はこの玉村の人たちと同じことを言う人なんだなぁって思ったんです。」
競争社会は ただ勝てばいいと言う、暗黙のルールがある事はオレも思ったりもした、それは 今ある美しい景色を壊すと言う事に繋がるのだろうか?
・・オレはもう一度 夏の終わりの青空を見上げた。
白い雲は 大きく手が届きそうに思えてくる、小鳥が数羽 頭の上を可愛い声で飛んで行き、そのはるか上には トンビが一羽、飛んでいる。
春名先生の玉村の自然は譲りあう世界と言っているが、個人的見解なんだろうか? 玉川の流れを変えずに そのままの地形を使っているのは、村を挙げての政策なんだろうか?
オレがこの村に来た時も そんな感じに思ったことが何度もあった、まるで 神がかり的な何かに、ここへ来るのは運命だったと言われているように。
自然の形のまま残る景色は美しいと思う、反対に人工的につくられた景色は・・何て言うのだろう、癒されないし飽きてくる、それはオレの個人的な主観かもしれないけど。
町の近くの山や森にハイキングに行ったとき、顔の周りを 小バエが多く飛んで、うっとおしかった事を覚えてる、実家の小さな庭でプランターを育てていた両親が害虫駆除のため農薬を使っていた、やはり都会の土地は 汚れているからなのだろうか? 害虫やハエなどの虫がどこからともなく湧いてくる、広島に数百坪の畑を持っている叔母が言うには 農薬は使わんでも よーそだっちょるよ!と言っていた それはやはり"土が綺麗からじゃろ"の意味にも繋がるんだろう、ここの村は 驚くほどに土が汚れてないのかもしれない、それに標高の高さもあるかもしれないけど、土が綺麗なのは素晴らしく良い事だと 学のないオレでも分かる気がする。
・・人の心も同じように、社会の秩序は譲り合う気持ちから生まれるものだとは オレも思うが、大衆レベルの生活圏で奪い取られ貶されるのが多ければ、その世界では 偽善者で成り立っているのではないのだろうか。
譲りあう気持ち、それを春名先生は 人の心以外に自然や科学に至るまで、この世のすべて"万物"にまで譲り合う気持ちは大切だと言っているように思う。
春名先生は、いわゆる博愛なのだろう、・・私は、今まで いろんなことを考えてきたつもりだが、なぜか すぐに忘れてしまう、だから覚えていな、学校のテストは苦手だった。
いち早く ボケるタイプだと言う事なのだろうか、・・考えると怖くなる。
だけど、春名先生は この玉村が大好きなんだ!
譲り合う、思いやる、人間以外に植物や無機物の物質にまで考えるのは 春名先生だからなんだろう、道徳の神髄に達しているような、そしてなにより、玉村が美しいのは "特別" なんだと言いたいのだろう。
春名先生は オレに期待しているのだろうか!? だとしたら何を期待していると言うのだ!? このままではバカがバレてしまいそーで怖い! 大学時代、バイト先の社長がオレに言ってた言葉を思い出した、"お前は賢すぎてバカだ!" ・・どーいう意味だろう? 分からない事を考えるとオレは眠くなるんだ、明日になるとリセットされているので ストレスは溜まらない、風邪もひかない。
・・すでにバカだと思われただろうか? オレはよく人から誤解される、なぜ 世間様は中身を見ようとせず 上辺ばかりで人を判断するんだ! 今に始まったことじゃないけど・・。
夏が秋に季節をゆずるかぁ・・、オレ、そんなこと言ったかなぁ。
あ、言ったよな! 言ったと思う! いや、言いました! だから言った事にしておこう。
「城島先生と 一緒に玉村の空を見れて良かったです。」 そんなの、これからだっていつでも見られますよ。
「青い空、綺麗ですね、だけど 空だけじゃなくて玉村のすべてがキレイだと思います。」と ちょっと恥ずかしかったかな、おべっかを言いました。
春名先生に 一緒に見れて、と言われて オレはもう一度、玉村の青い空を見上げた。
意識しなければ何も思わないし考えない、何も感じない、いつかネットの片隅で懐かしむだけになってしまうものだろう、無くなってから気づいても遅いのに、忙しいから後に回しちゃうんだろう。
・・今、何をすべきなんだろう? 頭で分かっていても行動しなきゃ意味がない、
何もやらなくて後悔するのは やって恥をかくよりも悔いが残る、と言った俳優さんがいる、つまり 恥をかいてでもやれ! と言う事なんだろう。
"ゆずる、ゆずられる" ちゃんとその意味を理解たい、そして オレは 何をすべきか? 良く考えてからにしよう。
風が・・
大きな風が、ふわーっと、辺り一面を通り過ぎて行った。
サワサワサワサワサワサワ・・・
道端の草が一斉にお辞儀をしてるように見えた、今 オレは充実感で満たされている。
風は通り過ぎる時にも、何かに道を譲ってもらってるんだろうか? 遠くどこまでも見える青い空がこんなに広いと、心まですー・・っと広く おおらかにさせてくれているようだ、空はこんなに大きかったんだと、見るたびに思わせてくれる。
何だろう・・ 充実感は高揚感をも生み出してくれる、それでいてオレの心はどこまでも静かで穏やかだ、少年の頃のように何でも出来そうな高揚感に包まれ、落ち着いている。
この美しい玉村の景色、自然が、時間までもゆっくりそっと "今" と言う時間を作りだしているのだろうか。
歩く先、木が立っているところは蝉しぐれがたくさん鳴いている、草むらから風に乗って青くさい匂いにムッとするが 嫌ではない、目を止めれば バッタが見れる、モンシロチョウにアゲハ蝶、夏の終わりまで花の周りを飛んでいる。
オレと春名先生は、川沿いの道から小さな橋を渡って、すぐまた大きな橋を渡り、バス通りに出た。
田舎時間、
春名先生のように考えれば、時間は何に譲られてるのだろう、譲り合うと言う事はそれはつまり、 "調和" なんだろうと思う。
オレがここに居るのも、玉村の"調和"の中にいるから こんなに素晴らしい気持ちになれるんだろうと そう心から思えてくる。
きっとオレは 誰かに導かれ この玉村に来たのだろう、誰に? 何のために? そんな気がしてならない、
・・校長先生ではないと思うけど。
もっと不思議な何か? この社会の尺度では計れない 神秘的な何かにオレは 導かれたんだろうと思えてくる。
・・ああ、そうそう 念のため言っとくけど・・ "電波くん"じゃないから、聞こえない言葉が どこからか聞こえてきた事は まだないから、聞こえてこないから、これからもそんな言葉は聞こえてきませんから、まだ、大丈夫です。
第五話 「みんなのじょうしましげるです!」 六話へ続く




