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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第四話 「シロツメクサと駄菓子屋とカレンダーとシチュー」

第四話 「シロツメクサと駄菓子屋とカレンダーとシチュー」





第四話 「シロツメクサと駄菓子屋とカレンダーとシチュー」





九月一日だ!


夏休みも終わり 二学期が始まる!


昨日の昭吉が持ってきた素麺は 実に美味かった! 素麺はやっぱり 三輪素麺か? それとも揖保乃糸か? 細く、しなやかで それでいてコシときめ細かな食感! なかなかなものであった。


一番は煮干しがいい! 懐かしい感じにさせてもらった。


煮干しの利いたつゆは生臭さが抑えられ 他のダシとの調和がとられた香り豊かなつゆだった、まさに有名どころの料亭ってとこか、田舎の婆ちゃんの味ってところか。


料亭なんて行た事ないけど・・オレは懐かしさの感じるものは大好きだ。


・・昨日 お漏らしをしました。


だから起きたくないのです。


朝方、暗いうちに目が覚めた、寒いなぁーって思ってたら、玄関の戸が開けっ放しになっていたのだ。


・・だから風邪ひいたかなぁー・・・。


学校 休もうかなぁ、みんながオレの事を きっと ウンコたれって言うだろーしぃ・・。


ハア・・なんだか 体もすごく怠い・・・


はっ!!


オレは何を考えているのだっ!!


私は 布団から パッと出て 閉めてた窓をガラガラガラッ! と元気よく開けた!


いい風、いい香り、田舎の澄んだ香りだ!


寒っ! 寒くない? まだ九月になったばかりだよ?


私は 窓を半分閉めた。


よしっ! 顔を洗おう!


・・えー、歯ブラシはどこに置いたっけー・・・? 部屋の隅にまとめて置いてあるゆーパックの箱の横、・・ああ、・・あった! ラッキー 洗面器の中に一緒に入れてたんだっけ。


とりあえず 部屋にも水道はあるけど 下の洗面所で顔を洗う事にした。



私は 玄関を出て 階段を下りて行った。


今日も大家さんは早いうちから 竹ぼうきでアパートの前を掃除していた。


「おはようございます! 大家さん。」と軽く挨拶をかわし、洗面所へと向かった。


「おはよ、城島先生。」


アパートの前は 雑草などなく きれいにすっきり刈られている。


西側は 田んぼが広がっていて、アパートと田んぼの間に 細い川のような用水路が走っていた。


その用水路のような小さな川は アパートの前にも後ろにも流れていた。


当然 流れている水は 澄んだ透明の川で 生臭い匂いは一つもしない。


用水路の中にも水草すら生えていない、つまり水の流れがある事や、無菌に近いと言う事なのだろう。



朝の掃除のとき、風呂とトイレの窓と扉は大家さんに開けられている。


毎朝 休むことなく掃除しているのだろうか? 日曜日はないのかな?


ちょっと薄暗い風呂場と脱衣所兼洗面所。


アパートの間取りが四畳半と一畳ほどの台所があるから、たぶんそのままそこを風呂場と洗面所にしているのだろう。


・・なんか古く汚い感じだのタイル張りの洗面台、それにちょっと歪んで見える鏡。


私は 歯を磨き顔を水だけで洗った。タオルを忘れたので、パジャマの裾で 拭いた。



外に出て、部屋にも戻ろうとしたとき、大家さんが「今日はどこにお出かけですか?」と聞いてきたので、「ハハハ、今日から学校ですよ!」と言って階段を上って行こうとした、その時、大家さんの声が聞こえた、「・・城島先生、今日は八月三十一日だけど、・・今日から始まるのかい先生だけは?」


?


・・・、八月? 三十一日?


・・・いーえ、九月でしょ。


オレはちょー焦っていた。


「城島先生・・? どおかしたの?」


「いやっ!! ・・ハハ、そーですね ・・へへハハ、・・もちろん。」その時 近くでカラスの鳴く声が聞こえた。


アオーっ!


管理人さんはクスっと笑って「あんれ、先生 寝ぼけとるのかい? ハハハハ、今日はまだ八月だよ、それに日曜日。」 と言った。


まだ カラスが近くで鳴いている!


カラスはカーカーと鳴くもので、そりゃあたまには、アオーとも聞こえる、だけどなんで朝の今っ!? カラスは夕方って決まってんだろぉっ!!


それにぃっ、昨日はこの辺いなかったじゃんかぁっっ!!


オレが怒ってんのはっ、なんでこのタイミングでここに居るのかって事なのぉっ!! ああぁっモーッ!!


とりあえず そそくさと部屋へ戻った。


あのっカラスぅーッッ!! どこで鳴いてたんだぁっ!? 屋根かっ!? それとも田んぼの横の木の上かぁっ!! くっそぉっ!


だけどっ ・・今日はまだ休みなのか? ・・ほんとにまだ八月なのか? ・・調べようがない、・・部屋には何もない、カレンダーもない、テレビもない。


・・・・・・・・。


・・どーやってこれから日付を確認すればいいんだ? 時間は目覚まし時計があるとして・・、世間一般の人はどーやって確認してるんだ? 今日が何日かって事、実家では母ちゃんが起こしてくれて、リビング行ったらテレビがあって、・・だいたいテレビで確認してたのか・・? オレは。


よくもまぁー間違えずに 世間様は月曜日とか火曜日とか 間違わずに生活するよなー。


・・さて、とにかく今日も休みだ!


何して遊ぼっかなぁー、・・いや 遊ぶとかそーじゃなくて、今日は明日に備えて準備をしなきゃいけない! 昨日 準備をしてなかった。


まずは ・・必要書類、ハンカチとティッシュと筆記用具にノート、・・玄関の横にまとめて置いとけば忘れることはない、それとぉー、あと何かいるものはぁ・・・、別に持っていくものって、意外にないよな。


あっ! 明日着ていく服だ! 


スーツ!スーツ!


ああっと、スーツは まだゆーパックの中だった、・・これを出して玄関の横に置いていて、で 明日 着ればいいって事になる! これで完璧だ。



私は 一通りの準備を済ませ、朝のごはんを食べる事にした。


だが、朝飯の準備なんかしていない、・・何もしいない、・・朝昼晩とさすがにインスタントラーメンばっかりはなー、


・・そうだ! 今日も天気がいいから 河川敷に座ってハンバーガーなんていいよな、よし!


私はTシャツにジーパンをはいて表に出た、・・ちょうどいい事に大家さんは風呂か便所を掃除している、・・顔合わせたくなかったからラッキーだ。


あ、周りの景色を見て気が付いた、ファーストフードなんてこの村にはないんじゃないのか? ・・タヌキは絶対っ嫌っだから・・・


とりあえず村の奥地へ向かって歩こう、商店街と言う村一番の繁華街がある。


オレはトボトボと言う感じにバス通りを歩き始めた。


ああ、どーしよー、この村には食えるとこなんてないんじゃないのかぁ!?


・・とりあえず昼はおとずれに行くとして、


・・ああ、あいつが来ると嫌だな、たしか 梶山って言ったっけ・・、


梶山来るな! 梶山来るな! 梶山来るな! 梶山来るな! 四回言ったからあいつは来ない! よし。


だけど朝は何食おうかなぁー、生野菜なら周りにいっぱいあるし、無人販売所もある。


だけど、これをどーやって食えっての? 奥さんがいるわけじゃないのにぃ・・、奥さんかぁ、・・・春名先生どーしてるかなー? ・・昨日みたいに 道で偶然ばったりあったりしないかなぁー、もし、偶然会ったら 今度はオレが"おごります"って言わないとな。


朝は気持ちのいいなぁ、オレは このまま朝の散歩を楽しむことにした。


それに駄菓子屋に行ってみたら何か置いてあるかもしれない、パンとか。


昨日、春名先生に教えてもらった場所だ、二つ目の橋を渡ってまっすぐ行ったところ、古い平屋建ての家が右にある、その手前に長い丸太を二本、地面にさした手作りの布団干し場がある、白い布団が二枚 干されていた。


その平屋の西側、川沿いに 別の道が走っている。


オレは バス通りをまっすぐ歩いた。


その道沿いには何軒かの平屋の家があり、少し行くと二股に分かれている、左側がバス停で終点へ続いていると言っていた、が 駄菓子屋のある商店街は右手の道だ。


この辺から大きな古い家が何軒も建っている、古い石垣の塀や植木の塀、茶褐色の板を貼り合わせた土壁、その下には縁石となる丸い石が等間隔で置かれている、車や自転車などが壁にぶつかるの防ぐために置かれているのだろう、そして ここにも用水路がいくつも流れている、畑や田んぼ、家々の間などの境界に用水路は作られている、その用水路に這って道が作られていて、手作りの人一人通れる木製の橋がそこかしこに架けられていた。


狭い道が たくさんあるが きれいに整地されているから古い町がとても生き生きと見える、ああ・・朝の日差しも美しい家並みを演出しているんだろう、天気がいいと それだけで陽気にさせてくれる。


農家の家々なのか、その家一つ分の畑があり、その向こうに商店街がある、駄菓子屋の赤い電話が目につく、その赤い電話の上に "たばこ" と書いた小さな看板がつるされていた、それとシキシマと書いた縦書きの看板、シキシマってパンやさんの事かな?


・・郵便ポストだ、円形の古いタイプでずっしりとそこに置かれている、そのポストは錆ついて何度もオレンジ色に塗りなおされているのが分かる。


駄菓子屋の中は薄暗く、照明などもつけてない、ヒンヤリ涼しい、それに線香と甘い駄菓子の匂いがする、駄菓子屋に入ると いろんな匂いがいっぺんに分かる、独特の昔の匂いと言うのだろうか? 


古い家にはそこの生活の匂いと言うものがはっきりと分かるように"ある"、そのうえ見たこともないような駄菓子の香料が混ざり合って独特の匂いがその場にあるのだ、・・これも昔、どこかで嗅いだことのある匂いなのか? 懐かしく落ち着く。


ここにある 駄菓子をオレは見入ってしまっていた。


中には見たこともないような駄菓子がたくさんあって、とてもワクワクしてしまう、オレは今 少年時代へタイムスリップしているようだ、もし 本当に子供の頃に こんな駄菓子屋があったら きっと今、感じているドキドキ感やワクワク感よりももっと大きい物なんだろう! そんな子供時代を過ごすことの出来た大人たちをちょっぴり羨ましいと思ってしまう、そして この村の昭吉たちも きっとここへ駄菓子を買いに来ているんだろう、今はまだ それが当たり前なんだろうが、いずれは大人になって 楽しい駄菓子屋の思い出を少年の日の思い出と共に大切に持ち続けることになるんだろうと思う。


オレ自身 駄菓子屋なんてこの村に来て初めてだ、子供の頃は近所にコンビニとスーパーがあったからどっちかでお菓子は買っていた。


そう考えると なんだか寂しい感じもするが・・。


この駄菓子屋ってのは子供だけの空間なのだから素晴らしい! 親に連れられて行く店は きっと大きなスーパーなんかだろう、だけど子供が一人で堂々と買いに来て、"何買おうかな" なんて考えて買えるのはこの駄菓子屋だけだ! 子供だけに用意された場所なんだ、だから値段がとても安く設定されている、子供にとっては至れり尽くせりなのではないだろうか。


ああ、考えたらそれは尽きないほどに頭の中に浮かんでくる、きっと この駄菓子屋に行く途中も 遊びながら行くんだろう、オレが ここへ来るまでに見た、家々の間にある 狭くて細い道、それと一緒に流れる用水路の小さな川、それに架かる木で出来た橋、そして子供は無意味な行動をとるのだろう、橋を渡ったり、戻ったり、その橋を渡らず 用水路をジャンプして飛び越えたり、たまには落っこちてビショビショになったり、思ったことをそのまま行動に出せる子供は毎日が冒険なんだろう! そして ここ玉村は きっと子供にとったら冒険でいっぱいなんだろう! オレはそう思ってしまう。



ふと・・一つの商品に目が止まった、これは何? ・・メンコ? 丸い奴が置いてある、ドラえもんに似ているが違うキャラが描かれている、こんなアニメあったのか? あとロボットの絵に、変な忍者の絵、スポーツカー、・・でも何か楽しいぞ、どれか一つ選んで買ってみよう!


オレは変な絵の描いたメンコを手に取った。


あと、ヨーヨーなのか? 箱の中にギュッと納まる感じで置いてある。


それに キャラクター消しゴムにビー玉、袋に入ったカード? みたいなのと、それと お菓子は変わった飴玉が数種類、いや もっとある? あと緑色した小さな袋に入ったお菓子に絵の描かれた銀紙に包まれた小さなお菓子、チョコなのか、それともラムネ?


今の大人たちが駄菓子屋を懐かしむニュースをテレビで見た事があるけど、・・わかる気がする、見てるだけでわくわくするし楽しい。


自分があと十年、更に二十年たってコンビニでお菓子を買ってた子供の頃を懐かしいと思ったりするのだろうか?  



オレはいくつか駄菓子を手に取って 入り口を入ってすぐの棚に行った。


パンが置かれていたのでアンパンなどを買うことにした、番台のようなところにお婆さんが座っていて、何も言わずにお金を受け取ってお釣りをくれた。


あのお婆さんは 忍者のように気配を感じない、いるのかいないのか分からない。


番台の中には火鉢が置かれているが、今は夏だから使われずに丸い板が上に置かれて その上に急須と湯呑が置かれてあった。


外に出て、販売機でスプライトを買った。


私はそのまま中学校がある方へ歩いて行った。


駄菓子屋は商店街のちょうど入口だから東へ続く道を歩いてみることにした。


玉川の本流なのか分流なのか分からないが 橋を渡ってさら遠くへと足を伸ばしてみることにした、きっとアンパンを食べるのにいい場所があるはず。


その途中、山手のふもととなる緩やかな斜面に沿って、シロツメクサの花が一面に咲いている場所を見つけた。


ほんのり花のいい匂いがする! オレはこの辺で一番眺めのいいところはどこか探すことにした。


なんだろうか歩いているだけなのに嬉しくなる、楽しくなる、ただ 散歩をしているだけなのに嬉しくなるのはなぜだろう? この辺一帯に咲いてるシロツメクサの花のおかげ? 花の香り? それとも駄菓子屋さんでワクワクしたから? それら全部があるからだろうか?


緩やかな傾斜のある"あぜ道"をオレは歩いて行った、高台の眺めのいい場所を探しながらシロツメクサの畑の中を。


この辺はミツバチが多い、巣箱らしきものも見える、養蜂なのかな? この辺一帯はすべて シロツメクサの畑なのか? シロツメクサって蜂蜜が採れるのか?


整理された茶畑を思わせる畑もある、シロツメクサの畑と混在しているようだ。


きれいに刈られて管理されているのが分かる。


それと 心地の良さそうな木陰を作り、それ見せてくれる柿や栗の木が点在している。


この玉村の道の端には 少し行くと所々に木が植えられている、オレでも知っている桜や梅の木、楠の木、樹齢が百年はありそうな木からここ十年ほどに植えられたと思われるまだ細い木まで植樹されている。


気が付いたら 結構高いところまで上っていたようだ、振り返ると中学校やオレの勤めている小学校、それにいくつも枝分かれしている玉川や、ずっと向こうは玉利荘のあるあたりまで見渡せる、村が一望できてしまう。


オレはもう一度、この道の先を見た、そこには一本の大きな木があった、まさにオレの思い描く理想の丘のような場所がそこにはある。


その大きな木の下まで歩くと、腰かけるにちょうどいい岩があった、その岩は まるでここに座って景色を見たらとても素晴らしい景色が見られるよ! と言わんばかりに、その場所にあった。


ほんとにオレが思い描く素晴らしい丘だ! オレはここに座ってアンパンを食べる事にした。



歩いてきたので熱く体が火照っていた、・・ちょうどこの大きな木はオレの座る岩に木陰を作ってくれていた、まさに完璧! 至れり尽くせりの理想の丘!


涼しい風が吹いてくる、ありがたい、・・蝉の鳴き声は相変わらず夏を思わせる、オレは少しじっと景色を眺めてみた。


・・ここからの眺めは北向きになるのか。


足元のすぐ下から広いシロツメクサの畑を見渡せるいい場所だ。


だれ一人いない、とても静かで穏やかな気持ちになる、・・こんなにも穏やかで優しい風景を見てしまうと やっぱりオレの心も同調して、穏やかになるもんなんだろうか。


・・なんだろう、とても不思議な感覚になる、今、オレは 自分でも驚くほどに集中力が増しているようだ、時間がゆっくり流れて見える、・・風に吹かれる草花も、まるでスローモーションのように見えてくる・・、あのうるさい蝉の声すら耳に入らないほどに、オレは今、とても不思議な感覚にとらわれている、・・まるで体が軽く、宙に浮くような感覚と言うのだろうか?


・・たぶん違うだろう・・


脳卒中の前兆を見過ごしたら大変な事になるって "主治医が見つかる"とか何とかの番組で言ってたけど・・・


オレは まだ、二十代だもんなぁ・・


・・ああ、まるでオレの意志とは別の誰かが、オレ自身の心の中に語り掛けてくるようだ、・・そして言葉が浮かんでくる、"誰にも内緒だよ。" と、・・そう 私だけにと身近な隣人が優しく大切な場所を教えてくれた秘密の場所のように。


大切な友人・・大切な時間、・・母親の子に対する"与えてあげたい"と言う 無限の愛情、気持ち・・。


・・なぜだろう、・・なぜ、オレはこんなに感動しているんだろう、ただ ここに座って景色を眺めているだけなのに。


こんなに、・・こんなに穏やかで幸せな感じを実感できるのは、何年ぶりだ? ・・ほんとに、ずっとずっと昔の事だ、こんな気持ち、・・ずっと忘れてた。


・・あの頃、小さかった子供の頃の純粋な気持ちで世界を見ることが出来たあの頃のようだ!


・・・思い出した、



アンパン食べよう。


アンパンは とっても甘く美味かった! 美味だ!


アンパンてこんなに美味しかったのか!? 再発見だ! そしてスプライトも美味かった! ・・サイダーじゃないよね、・・どーでもいいけど。


オレは、 この場所に長い時間 過ごさせてもらっていた。


・・気づかなかったけど、オレはさっきまで、焦る気持ちでいっぱいだった。


何かがいつも私を急き立て、早くしろ! この のろまっ! と言われているかのように、いつもいつも後悔の日々を過ごし寝床についていたように思う、そして嫌な朝を迎えていたんだ。


どのくらい経ったろう・・、


・・下から、ずっと向こうから ・・誰かが歩いてくる。


オレだけの素晴らしい時間も、そろそろ終わりにするか。


その人は途中でシロツメクサの畑の中へ入って行った。


たぶんここに居る オレにも気づいているだろう。


オレは十分この場所を堪能した、だから戻ることにした。



おとずれには行かないことにした。


途中、野菜を買おう、そうだもう一度 駄菓子屋に寄ってカレンダーを買おう!


・・置いてるかな?



私は 駄菓子屋に入るなり、番台のお婆さんを見た。


お婆さんも私を見た。


・・目が合ったが 無言のままこちらを見ている。


また来たのか? て思われてるのかな。


オレはお婆さんと、ちょっと間、見つめ合っていた。


・・なぜだ? なぜお婆さんは、いらっしゃいの言葉どころか、何も言わないのだろうか? 子ども相手の商売だから挨拶なんて必要ないのかな? ・・オレは大人だ! それとも変な客が来たよー、と思っているのだろうか? 仕方ない、私から挨拶をしよう、いらしゃいましたぁ! と。


もちろん 冗談だ。


「・・あの、カレンダー 置いてますか?」と話しかけた。


・・時計の動く音が聞こえてきた、 チッチッチッチッチッ・・・


・・静かだ。


・・お婆さんは、なぜか返事もなくこちらをただ見つめるだけで、時は流れていくだけだった。


「・・・かれん・・? なぁにぃ?」 やっと口を開いた! お婆さんの声は、少しかすれていた。


「あ・・カレンダーです。」 駄菓子屋だもんな、普通はないよな。


・・と思っていたら また、こちらを見つめるだけで時は過ぎていっていた。


「・・・、え・・? カレンダー?」 たったそれだけの返事でいつまで待たせんだよッ! モーッ!


"ま" が長い! 考えてる時間が長い!


「ええ、カレンダーです。」


「カレンダー・・・・?」


「・・あの・・」止まってるのかな・・・。


「カレンダー・・・・て何?」


えーっっ! 今? 今分かったの? 分からないことがっ?


「あ、カレンダーです・・、無かったらいいんですけど・・。ハハハ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


・・お婆さんは また止まってしまった、まるで電池切れのおもちゃみたいだ、・・ゼンマイの方かな。


「あ、もういいです、・・それより ここに置いてあるハウスのシチューの元、買います。・・はい。」 何でも置いてる駄菓子屋だ。


「・・・・カレンダーって、・・・・日付を見るー、・・・あれ?」


そーだよっ!! もーぉいいって言ってんだろっ! それよりハウスのシチューの元のお値段いくら?


「はい、そうです、でも無かったらいいです、・・それよりこれ下さい! ハウスのシチューの元。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


お婆さんは 何をしようとしているのか、番台から降りサンダルをゆっくり履き、そしてゆっくりと店の奥へ消えていった。


・・・お婆さんは ちょっぴり腰が曲がっているみたいです。


・・・・


・・静かだ。


・・・万引きとか、・・子供たちにされないのかな。


オレは 今まで万引きをしたことがない。


いや、・・一回あるかな?


・・・・。


・・ババぁっ! なに無言のまま消えてんだよっ!! いつまで待ちゃいいんんだよっ!! もーっいいって言ってんだよぉっ!! オレはハウスのシチューの元さえ買えりゃーそれでいいんだよぉっ!! いいのかぁっ!! 万引きしちゃうぞぉっ!! モオオオオォッっっ―!!


「あのー、すいませーん・・」 と 心穏やかな振りをする。


・・・・、


「すいませーん!!」


モオオオオッッ!!! こらぁっ!! ハバアっ!! 出て来いヤー!! 日が暮れちまうだろがあぁっ!! ・・お願いだよー、出てきてよー。


・・・・。


・・・大丈夫なのかぁ? 奥で倒れてんじゃないのか? ・・・けっこうなお年寄りだったよなぁ、


・・この駄菓子屋、人の気配を感じないぞ。


・・・! まさかっ!? ほんとにっ?


「お婆さんっ! ・・お婆さんっ!」 と、呼んでみる!


オレは少し店の奥まで入ってみた、さっき感動した駄菓子の置いてる子供サイズの棚の更に奥、


奥は土間から畳の部屋になってて薄暗い・・、


はっ!!! なっ!! 


お婆さんが畳の部屋の真ん中に立ってこちらを見ているっ!! ああッッ!! 幽霊だッッ!!


あれは幽霊だッッ!! 間違いないッッ!! いつ死んだんだッッ!!


「カレンダーって・・・これかい・・・?」


アアッッ!! 幽霊が喋ったッッ!!


・・婆さんが喋ったのか!? 動いたっ! ああぁっ!! 紛らわしいんだよぉっ!! こんな薄暗い部屋で つっ立ってんじゃねーよッッ!! 怖えーだろッッ!! 


あの世に逝ったのかと思ったよ! 苦手なんだよッ! そー言うのっ!


・・なんでオレってこんなにビビりなの?


「・・あんれ・・? あんたさん、・・・どーしなさったんネ・・?」 お婆さんが普通に喋ってるぞ。


「・・お婆さん、ご無事で何よりっ! ・・それより、ハウスのシチューの元、くださいな!」 雨宮メリイみたいな喋り方になっていた。



私は駄菓子屋のお婆さんから カレンダーを"ただ"で貰った。


「あんたーもう、九月だよ・・、カレンダーって ・・今頃 買いに来る人、いないよ。」 とか何とか言ってたけど・・、農協のカレンダーならあるよと言って一本、貰ったのだ。


オレはお婆さんに農協のカレンダーを貰った! それなのに私は、なんて失礼な事を心の中で考えてたんだ、ああ・・オレはバカだぁ・・、ほんとっ オレってバカっ!


ま、いいや! 口に出してないから、セーフ!


それにしてもだ、ほとんど諦めていたカレンダーが手に入るなんて、絶対についてるぞ! 考えてみりゃ九月にもなろう今頃にカレンダー下さいな、なんてどっかのバケツ少女みたいな事を当たり前のように言ったって そりゃあ ぴんと来ないでしょ、つまりオレはどっかのへんなおじさんじゃーありませんか。


それなのに あのお婆さんはだ、親切に"ただ"でっ! くれるなんて、ああ・・世の中 見捨てたもんじゃないなぁ。


農協さんありがとー! カレンダーさんありがとー! 明日から今日が何日か分かるよ! 玉村の人たちは なんて親切なんだ!


ああそうだ、野菜の無人販売所に寄ってから帰ろ。



その夜、オレは ガスコンロに鍋をのせ、お湯を沸かした。


そして 駄菓子屋で ただで貰ったカレンダーは押しピンがないので畳の上に置いた。


一つを手に入れると また一つ足りいものに遭遇する、・・一人暮らしと大変なものだ。



今日は、野菜たっぷりのシチューだ!


オレは シチューが子供の頃からだーい好きなのだぁー! わーい! シチュー! シチュー! 玉ねぎ人参、ジャーガイモぉー!


さて、野菜を・・・


野菜を・・、これって皮とかついてるから・・、むくの? 削るの?


包丁なんかないよ、・・まず触ったことがないよ。


じゃあ、どーやってシチュー作るの? 野菜は洗うの? そのまま?


包丁はないので そのまま野菜を鍋に入れることにした、人参を丸ごと一本、・・沸騰しているお湯がこぼれそうだ、少し捨ててから ジャガイモもそのまま入れる、皮なんてむかない、男の料理だ! 肉はないから入れない、あと シチューの元を入れる、・・全部入れるのかな? 説明書は読まない、面倒臭いからだ。


一人暮らしって大変だなー、次から次へと やらなきゃならない事が出てくる、困ったもんだ。


押しピンてどこで売ってんのかなぁ? それとも配ってんのかなぁ? 分かんないんだけど。


いい匂いがしてきたので 火を止め シチューを食べてみた、味があまりに濃いので水を足した、それでも濃いので、もう一つ鍋を使って二つに分けてみた。


また グツグツいうまで鍋を沸かした、そして 一口 シチューを食べたら まだ少し濃かったが、もういいのでこれで食べることにした。


一つ丸々の人参を 上手にすくって口に運んだ、・・人参はまだ固かった、・・つまり煮えてないと言う事なのだろう、人参やジャガイモは煮えていない、・・なら、いつになったら煮えるのだ? 鍋の端がだんだん焦げてきているように思うのだか。


・・鍋の端が焦げるのと同時に水分が減っている、蒸発していると言う事だろう、と言う事は シチューの味が濃くなると言う事だ、


・・だんだん 腹が立ってきた。


オレは腹が立ってイライラすると 眠くなるのだ。


だからもう 寝ることにする。



おやすみなさい。





第四話 「レンゲと駄菓子屋とカレンダーとシチュー」     つづく。



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