第三十五話 「止められないソリ滑り」
第三十五話 「止められないソリ滑り」
クソ寒い早朝に、作業用の防寒着を着込んで自分の部屋の前でつっ立ってこちら見ている上島、そしてオレを睨みつけてくる。
また、何をしているんだ!?
上島はオレに近づき、「イブの日にさ、パンパースで今年最後のオフ会をやらねーかって言うメールが来てんだけど、お前も行くだろ?」と、突然誘ってきたので、お前は年中オフだろと思いつつも「何でオレが行くんだよ?」と、答えた。
「オシメちゃんがお前も誘ってくれって言ってたから・・」
・・だから何だよ?
「それに食べ放題、飲み放題だぜ! 会費は二千円ポッキリ! な、安いだろ!」
「なんだよ、金払うのかよ・・」
「二千円じゃねーか! それっぽっちで腹一杯になるんだぜ! 安いもんだろっ! それとよ、・・玉江ちゃんによ、・・そのぉ、お前から誘っといてくんね? オフ会に行かない? ・・て。」
中学生みたいにモジモジしながら、オレあの子好きなんだよな〜的な、気持ちの悪い態度で話しかけてくる上島。
「はあ〜!? 自分で声かけろよ! それに猫娘は妖怪だぞ!(違います!) オフ会なんて行くわけねーだろ! 何に対してのオフ会なんだよ?」
「わっ、分かんねーだろっ! 行くかもしんねーじゃん!!」
・・面倒くさいので、オレは玄関の戸を開け、コタツで丸くなってるだろう、猫娘に大きな声で、
「おおーいっ! 猫娘ー! 上島がお前にオフ会行かねーかって誘ってんぞーっ!」
オレはシャイな上島のために戸を開けたまま、
「後はお前が自分で聞けよ。」と、ささやかながらエールを送ってやった。
上島は猫娘に夢中のようだ、ソフィーさんを嫁にするとか言ってたが、もういいのか?
カップラーメンはノックもせずに貰いに来るくるくせに。
今日も朝から雪が降っていた。
・・ここへ来て初めての冬、
豪雪だろうか? 二階まで雪が積もる事があるのだろうか? その場合、一階に住むドラさんはどーなるんだ!? ・・やはり冬眠だろうか。
学校では春名先生と藤原孝子、それに松本百合子が、「サンタさんは今年も校長先生ですよね。」と話していた。
「おはようございます、城島先生。」と、春名先生。
「おはようございます、クリスマスですか?」
「ええ、毎年二十五日に公民館でクリスマスパーティーを開くんです、城島先生もぜひ参加して下さいね。」
「もちろんです!」
よし! 二十五日は空けておく。いつも空いてるけど。
終業式まであと四日、授業はほぼ午前中で終わる、オレも少しの雑用をこなし、今日の勤務を終える。
ラクダ。
帰宅途中、雪一面となった畑の向こう、遠目に御玉山の麓を何かが、二つ三つ滑り降りているのが見える、・・あれは、
と、そのとき、後ろから声をかけてくる少年の声、
「センセー! どっか行くの〜?」
振り返るとそこに、「あぁ・・、平太か。」と、黒田に佐藤、それにみけつ様に、ちゃんと服着たタキちゃんまでいるぞ、驚いた事にあの北本までいるじゃないか!
ああ! オレの胸のあたりがきゅうに熱くなってきた! こみ上げる感動! みんな仲が良いんだな! 先生は嬉しいぞ! 涙がこぼれそうだ! 仲睦まじや〜!
みんな仲良しだった、 たったそれだけの事なのに、なぜこんなにも感動するんだ!
「城島くん、一緒に遊ばない?」え!?・・タキちゃん?
( ゜д゜)ハッ!!!
そうだ! タキちゃんは"君"で呼ぶんだ!
・・くん、城島"くん"だよ! ああ!なんだろう! なんか素晴らしい!
「遊ぼ!」と、タキちゃん。
こんな幼女に"萌"! はっ!!これはもしやっ!!・・ちまたに聞く、萌・・モエなのでは!? そーだよっ! これが萌なんだっ!!
「センセー、センセーも一緒にソリ滑り行かない?」と平太が誘って来た。
「ソリ滑り!?」
大人だぞ、先生だぞ、一緒に遊ばないって誘われて、うん、遊ぶ! なんて言う大人はいない。
「そうだな、また今度に・・」
「城島くん、一緒に遊ぼ!」と、タキちゃんに、また誘われた!
そう!タキちゃんに誘われた! タキちゃんにだ!
「いや〜、先生は雪国育ちじゃないからなぁ〜」なぜかハイテンションなオレ。
「楽しいよ! ソリは早いよ! 気持ちいいよ!」と、それはそれは楽しそうに可愛らしく話しかけてくれるタキちゃん。
オレは思った、・・え!? 楽しいのか? 早いのか?気持ち良いのか? そーなのかぁ〜!? と。
タキちゃんは、オレの左手を握り! 「一緒に遊ぼ!」と言って、手を引いて来た!
なんて可愛らしい小さな手だ! ソリはそんなに楽しいのか!?
「楽しいよ! だから一緒に遊ぼ!」オレは気づかないうちに・・
「うん、遊ぶ〜。」と、老人の如く、手を引かれ歩いていた。
ソリかぁ〜、滑るのかぁ〜、どんなふうに滑るのだろーか?
オレは今、忘れていた少年の心を取り戻し、わくわくドキドキしまくりだった!
きっと楽しいはずだっ! 間違いないっ! そうさ! そーなのさ! 鼻歌交じりにスキップしたくなるよ!
た〜のし〜な〜たのし〜なー!
「センセーそんなにソリ滑りがしたいのぉー?」と平太に聞かれる。
「あはは! センセー大人だからな〜! そんな訳ないだろ〜! ハハハ」
だが、肝心な事に、オレが滑るソリがない、
みけつ様はじめ、みんな自分用のプラスチック製カラーソリを持っている。
タキちゃんまで自分のソリを持っている、では、オレは一体何で滑ればいいと言うのだ!?
村の南西側、畑や果樹園の広がる緩やかな傾斜地が広がっていて、とくにここは田んぼだろうその上が果樹園となっていて、地形はかなり緩やかな段々畑になっている。
ここなら低学年の子供でも安心だろう。
・・・滑りたい。
学生だった頃は禁句だった言葉、・・滑りた〜い。
オレだけ仲間はずれだ! 悲しい! ひとりぼっちだ! いじけてしまいそうだ。
「城島くん、わたしのソリ貸してあげる。」と言ってオレに両手で水色のソリを差し出すタキちゃん。
やっぱタキちゃんてカッワイイよなぁ! 同じ神様でもみけつ様とはエライ違いだよ!
「・・タキちゃんはとーすんの?」
「・・じゃあね〜、初めは城島くんが滑って〜、その次わたしが滑る、・・それでいい?」
「うん!」
うん!それでいいよ! と、心の中で二度、つぶやくオレに、隣のみけつ様が睨んでる〜、なぜだろ〜?
タキちゃんが、可愛すぎる笑顔だった。
オレはみんなと一緒に果樹園の勾配の緩い、一段目の一番高いとこまで歩いた。
おお! 見渡せばどこまでも真っ白だ! 冷たい風が雪の斜面を駆け上がって顔に当たる、まるでたくさん遊びなさい、と誰かに語りかけられている気持ちになる! これがわくわく感と言うやつかぁ〜!
「センセー、タキちゃんのソリで滑んのか〜?」
そー言えばソリが小さい! なんて小さいんだ! これじゃあオレには無理じゃないかあ〜!
「どーすんのセンセー? 大人用じゃないと無理だよ〜!」と黒田。
大人用!? 大人みたいにデカイって言いたいのかぁー!?
いや! オレは大人だから、デカくて当たり前!
その時、タキちゃんが「大人用のソリがあればいいのに・・」と悲しそうにボソッと言った。
「おお〜いー! センセーっ!」と、どこからか別の子供の声が聞こえてきた。
あれは、「あ! 兄ちゃんだ!」と平吉が言う。
一段上の果樹園から、正吉、黒田の兄、それに松岡と・・あいつはたしか山岡、が下りてきた。
あいつらは普通にスキー板を履いている、・・山岡はタキちゃんたちと同じプラスチック製のソリを使っていた。
平太が兄の正吉に話しかけたと思ったら、「センセー! ソリならあんぞー! この上に、も一つ大人用のソリが置いてあるからさー、それ使っていいよー!」と言ってくれた。
なんとラッキーなことか!
「良かったね、城島くん。」タキちゃ〜ん!
「う〜ん!」と全身で嬉しさを表現していた! イヤッホーゥッ!
正吉達が下りてきた、上の果樹園、その一番高いところは三段目の果樹園の石積みの棚を背にした場所に、そのソリは置かれていた。
正吉もそうだが兄弟揃ってサービス精神があって助かる、「これ使っていいからさぁ、」と渡されたのは、短いスキー板が三枚ついた手作りと思われる木製のソリだった。
「それ、スピード出るよ! すんげー面白いよ!」と、正吉に教えられた。
みんなと違うソリじゃんかぁ〜! みんなと同じがいいよぉ〜! と、ちょっぴりふてくされていた。
「センセー、ソリ乗ったことあんの?」
あるわけ「ない。」じゃん! オレ、都会っ子だよ〜。
正吉は少し考え、「両足のかかとでブレーキかけんだよ!」
内股で膝を曲げる、伸ばしてはダメ、座ってる椅子を掴むか、綱は両手で引っ張るようにしっかり持つ、と言う事だ。
「なんだ!簡単じゃん!」とオレが言うと、正吉が、「最初はオレと一緒に乗った方がいいよ。」と二人乗り出来るソリだった。
「えー、カッコ悪りーよー!」と、オレは少年になって言った。
でも結局は正吉が前、オレが後ろで乗ることになった。
「じゃ、行くよ!」と、まだ心の準備が出来てないまま、
「ちょっ!!ちょっと待てよッ!! 正吉ッ!!」と言っている間に、オレの想像を遥かに超えたモースピードで滑っていた!!
子供の頃、ただ一度、遊園地で初めて乗った死ぬほど怖い、子供用ジェットコースターより、
こっちの方がずっと怖いいいッ!!!
「センセーっ! 引っ張っちゃダメだよぉーっ!!」
オレは正吉にしがみついていた! 絞めていたかもしれないっ!!
「センセー! 苦しーッ!!」
正吉は足でブレーキをかけた、その反動でバランスを崩し、ソリから放りだされた!!
上も下も分からない一瞬、雪は柔らかかった!
雪の冷たい感触が首筋に伝わる、・・止まった、
怪我は!?痛いとこはないか!?
「センセーッ!大丈夫ーッ!?」
・・正吉の声が聞こえた!
「ああっ、・・オレは大丈夫だ! お前は大丈夫かぁっ!?」
「うん、オレは平気!」
オレの体は雪の中に半分埋もれていた。
振り返り、滑り降りた場所を見てみると、滑った道筋がくっきりと雪に残っている、
正吉は果樹園の木を避け、安全な道を選んで滑ってた。
ふと思った、・・・なんでオレはそり滑りをする気になったんだ?
オレはなぜ、子供たちと無邪気に遊んでいたんだ!?
「おお〜ぅい〜!センセ、大丈夫う〜?」と平太の方が声をかけてきた。
みけつ様にタキちゃん、・・それに北本が目に入った。
・・うんうん、仲睦まじき事はとっても良い事だよ。
「センセー、この下の方がもっと緩やかだよ、こっちで滑ってみる?」と言う正吉の方に、
「・・いや、先生はもう帰るよ、」と、帰ることにした。
子供たちと無邪気に遊んでいた事が、なんだか恥ずかしい。
「センセー! こっちの方が滑りやすいよ〜ぉ!」平太が一段上の、こちらにあがってやって来た。
平地に近い場所程、勾配が緩やかで、滑るには初心者向けだ。
平太に続いてみけつ様とタキちゃん、それに北本たちもこちらにやって来た。
神様が二人揃って無邪気にやって来た。
「じょーしまぁ〜、あっちと一緒に滑らんかえ〜?」と、ニコやかにそして無邪気に話しかけてくるみけつ様、オレはたった今、帰ると決めたんだ。
「うっわああーっ!! すっげーっ迫力ぅーっ!!」オレは滑っていた! みけつ様と二人乗りで滑っていた!
みけつ様はオレの前に座り、オレは後ろ! ソリは自然の流れに逆らうことなくどんどん加速していった!
「ああーっ! わああーっ!」ソリの勢いにみけつ様は大はしゃぎ。
そしてオレも「ぅわあーっ! 速えぇぇーっ!怖ぇぇーっ!」と一緒にはしゃいでいた。
何も考えない、ただ感情の高ぶるままにだ!
ソリは下まで滑り降り徐々に減速して川の前で止まった。
楽しい!楽しい! 楽しいぞっ! ああ、何だろ、懐かしい気持ちになってる、胸の奥があったかい! そして自分の意志とは別に何か、ふつふつとした感情が溢れ出してくるのだ!
体が軽い! 空も飛べそうなくらい軽い!
「じょ〜しま〜! も一回、滑るからソリ持ってきてえ〜!」とみけつ様に言われるままに、
「おおーっ! 持って行くぜーっ!」
「早よー持ってきえ〜! フフフ!」と楽しそうに大きく手を振りながら上へ上って行くみけつ様。
なんだ、子供らしくてカワイイじゃないか! みけつ様ぁ!
「早よー持ってくぞぉーっ! フフフフ!」
平太や黒田たちは一段上の急勾配を中心に滑っていた。
タキちゃんもその後に続いて滑り降りてきていた! 楽しそうだ!
滑り降りて来ないのが、まだ上に一人、残っていた。
・・ああ、北本か。
仕方がない、オレが北本と一緒に滑ってやるか、と考えていたら、「マサミ、あっちと一緒に滑るかえ?」と言うみけつ様。
え!? じゃ、オレは!?
そしてみけつ様はオレに「これ使いやえ。」とみけつ様の、子供用 赤いプラスチック製のソリを渡された。
「じょーしま〜! あっちらと競争しやえ! 楽し〜え。」
・・勝負だと!? ・・なぜ!?
そして一回目を滑り終えて上ってきたタキちゃん、「城島くん、ソリ滑りって楽しいね。」と、「タキちゃん、」が言うと、
「ソリ滑りって楽しいよ〜っ!」と言っていたオレ。
ああ、ほんとだ! ソリ滑りって楽しいよ! ちょー!楽しーっ! すっげーっ!楽しーよっ! こんなに楽しくてどーすんだよっ!
オレは、気がついたらみけつ様の子供用プラスチック製のソリで滑りまくっていた!
滑り降りては駆け登り! 滑り降りては駆け登り! 疲れ知らずのアホな子供ようにだ!
子供たちの言葉なんて耳に入んねーっ!「先生、ちょっと怖い。」
「何を言っているんだ! お前たち! 雪が滑れと呼んでるぞっ!! アハハハハハーっ!」確かに、あとになって思えばだ! さぞ、怖かろー。
「何、言ってんの〜!? 先生! 雪がそんな事言うわけないじゃん!」
聞く耳なんて、もーない!
「ヒャッホーっ!」オレはソリの達人となっていたかもしれないのだっ! 風を斬って突っ走る! 疾風のごとく! 何びとたりともこのオレの前を走らせねーっ!!
オレは一番高い、三段目の急勾配を、滑っていた!
「先生っ! 一番上は危ないよ! 止めた方がいいよっ!」
正吉たちの忠告なんて聞くものかぁっ!! オレの耳には届かないのだぁっ! 右の耳から左の耳へっ! 疾風の如く駆け抜けるのさあ〜っ!! そう! オレを止められる奴なんてこの世にはもー居ねーのだっ!
と、思っていたとき、何やらとっても急勾配、過ぎるなぁ・・と、走馬灯のちょっと遅いくらいのスピードで、・・なんだかそんなふーにも、思ってしまったのだ。
「うっわあああ〜ッッ!!」恐ろしいほどの急勾配だあっ!! どーやって止まるんだよおーっ!!
と、今、気がついた。
「ウワアアアアーッッ!!」 バランスを崩したかあっ!? 何を思ったか、オレは猛スピードで滑り降りるか、転がり落ちるか、分かんなくなっちゃってるそんな中、両足をついてそのまま、「とおっ!!」と、空高く飛ぶような感じにジャンプしてしまったのだっ! なぜ、ジャンプしたのかと聞かれれば、知るわけ無いだろっ! と、答える事だろう。
そしてそのままクルクルクルーっと目の前が回りながら、まるで無重力状態で楽しかったのだ!
「アハハハハハーっ!!」オレは笑っていた! 楽しいからだ!
もしかすると、死ぬかもしれない! 普通だったらそー考えるだろう!
だが、オレは考えなかったのだっ!
テレビでアスカが腕に変なモノちゅーしゃして、大事な事が分からなくなっちゃってる、すべてを捨てる覚悟! そんな事すら分からなくなっちゃってる痛い人のようにだ!
だがっ!!
ああっ今なら分かる! オレの体は丸太のようにコロコロコロ〜!と、転がり落ちている〜! 目が回るぅ〜っ!て、言う事をだ!
・・楽しい、
掃除の時間、ほうきを軸に二十回クルクルまわる、そしてきおつけ!する。
目が回って楽しいとは、そー言う事だよ。
オレの体は果樹園の一本の木にブチ当たり、「ドンッ」そして止まった。
背中をぶつけたが痛くない。
「センセーッ!! 大丈夫かぁーっ!?」子供たちの声が・・、
近くで聞こえる。
・・どこまで転がり落ちたんだ?
オレは雪の中から起き上がった! 体が雪に埋もれている!
まだ、世界は揺れている。
「センセー!大丈夫?」
「・・ああ、・・正吉か、・・大丈夫だ、・・・あ〜なんか気持ち悪ぅ〜・・」
タキちゃんたちも 血相を変えてやって来た。
「城島くん、大丈夫ぅ? どこか痛いとこ、あるぅ?」と、タキちゃん。
「痛いところ? ・・どこもない! よしっ、また滑るぞっ!」と、オレはまだバカだった。
「え!? まだ滑べんの!? 暗くなってきたから帰らなきゃ、」正吉が言う。
こいつっ! しっかりしている! オレよりしっかりしている!
「えーっ! 何でだよっ!? オレはまだ滑り足りねー!」とオレが言う。
「・・じゃ、オレたち、先帰るからさ、先生も早く帰った方がいいよ。」
勝手にしろよ! オレはまだ滑べんだよお〜っ! へへへ。
平太が、兄 正吉たちと違う方向を向いて帰って行く、隣には 北本、
「お〜い! 平太ぁ〜、お前の家ってそっちなのかぁ!?」と大きな声で聞いてみる。
「えー? 何ぃー?・・北本の家まで送ってやんないとー!」
なるほど、兄弟揃ってしっかり者じゃないかぁ!
オレはまだ滑り足りない! 今 ここで止めてしまったらオレは奈落の底に突き落とされたのと同じになる気がするのだっ! 止めぬ! 止めてなるものかっ!
この気持ち! ここのずっと送ってやんないと、少年時代に置き忘れた何かっ! 何かわかんないけど、ああっ!!この高揚感! ずっとこのままでいたい!
オレは一番高い、三段目のテッペンへと登りつめた!
全てを完全制覇するためにさっ!
気持ちがいいっ! この感覚! 酒を飲んでいるかのような開放感! いやっ、そんなものよりもっと大きな開放感と高揚感だっ! これはまさに天国だあっ!
それなのに止めて帰るだってぇっ!? 止めれるわけないだろおーっ! もっとだあっ!! もっとっ! もっとおっ!!
「ヒャッホーっ!」 まるで社会復帰出来ない中毒患者のようにオレはソリから下りられないでいた!
下りたら死ぬぅ~っ!そー思う〜っ!!
辺りは真っ暗だあっ!!何も見えなぁいっ!!
暗闇の中、猛スピードで駆け抜ける子供用の赤いソリっ!!
・・・?
は!? 何も見えないッ!? 何も見えないぞっ!? 真っ暗だっ!!
・・あれ!?
・・・オレは一体何をやっているんだ!?
「ウギャアアアアーッッ!!!」何でこんな恐ろしい事やってんだぁっ!? と、気がついた。
・・たぶん、オレの心は萎えたに違いない、それはつまり、タキちゃんやみけつ様が居なくなってから、程よい時間が経過したからだと推測される。
・・ああ、・・死ぬかもしれない、
・・なぜ、オレはこんなにハイテンションだったのか?
・・なぜ、オレはこんなちっちゃなソリに乗ってはしゃいでいるのか?
・・分からない、
明日、学校行きたくなよぉ〜
・・走馬灯のちょっと遅いくらいの速さでいろいろ頭に浮かんできた。
ザザザザ・・ズルズルズルズルー・・・
・・・雪が降っている、・・・寒い、そして静かだ、・・耳鳴りが聞こえるほど静かだ。
オレは途端に悲しくなってきた、・・ソリは止まっていた、・・怪我はしなかった。
・・・ありがととう、神様、死ぬかと思いました。
・・寒い、寒いよ、家に帰ろう。
オレはここでようやくだが、今頃、確信に近づいた! ような気がするのだ!
幸詠さん始め神様は皆、一様にして言った言葉が現実になると言う事を、だ!
みけつ様やタキちゃんは無意識なんだろうが、「楽しい〜え!」と、一言 そー言えばそのそばにいるオレやその他の人も皆、楽しい気持ちとなるのだろう、それは理性と言う枷が外れるかのように、どこまでも「楽しいーえ!」の言葉のままに気持ちが高揚するのだ!
大人の都合と言う全ての理性から開放される、いや、そんなものじゃ収まりきれないほどの"幸せ感"に満たされるのだ!
・・麻薬中毒の人達が止められない気持ちが分かる気がするような、しないような、
神様の言葉は、正に "言霊" なのだ!
と、思う。
なので、さっきまでのオレは仕方がないってーか、もーそれでいんだよ、だって仕方ないんだから・・てな感じになっていた。
そーだ! バカになろう! バカになって無かったことにしよー! バカになりなさい、って母さんも言ってたし。
・・・あれ!?
ここどこ!?
月明かりのない村は足元すら見えない程に真っ暗となる。
果樹園はどこだ!?
玉川はどこだ!?
あれ、右も左も分からない!
ヤバイっ!! 家に帰れないっ!! 迷子っ!? 迷子なのかっ!? いやっ、このままでは凍死してしまう!! どーすればいいっ!? 寒いぞ!
お化けが出てきたらどーすんだ!?
この前の白いダルマさんが転んだが出てきたらどーすんだ!? 人面牛が出てきたらどーすんだ!? あいつはこんな時、必ず出てくんだよお〜っ!
いま、あんなのが出てこられたらっ! オレはっ!
いっ、やあああーッッ!! 死ぬのは嫌だあああッッ!! 死にたくなあああーッいッ!! 殺されるぅ〜・・
オレは幼児の如く泣きじゃくりそうだった。
ザッ・・、ザッ・・、
その時、後ろから・・
「あのぉ・・」
「ウワアアーッッ!!」殺されるうぅぅッ!!
誰かがオレの背後から声をかけてきたのだ、
女性!? 女の子!? 幼い声!?
振り返るとそこには・・
「あの・・・マッチ・・いりませんか?・・」
「え?」
同時に、
月明かりがさし、辺りを薄っすらと明るくした。
そしてその女の子の幼い、可愛らしい顔も見る事が出来た。
誰!? この子
第三十五話 「止められないソリ滑り」




