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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第三十一話 「病魔」

三十一話 「病魔」



今中のお母さんが今週中に退院が決まった。


その事で、「釜ボッコの沸かす風呂に入ったら、今中のお母さんの具合も良くなったりしませんかね、なんて、ハハハ」と、かるく言ってみた。


「それはいい考えですね!」と春名先生、「私も釜ボッコさんのお風呂に入った後、とっても体が軽くなったの憶えてます、ソフィー先生も、毎日入る度にそう思うそうですよ!」


てな訳で、「じゃ、城島先生からその事、今中さんに伝えておいてもらえませんか? それと釜ボッコさんにも。」


「はい、分かりました。」



次の土曜日、みけつ様だけがリックサックを背負い一人歩いてアパートまでやって来た。


「みけつ様ぁ、こんにちわ、今日は一人ですか?」とソフィーさん、


「こんにちわ。」と挨拶を交わすみけつ様。


「春名は今中の母殿を連れてくるえ、先に行って待っておれやあ言う事え。」


みけつ様はそお言うと、風呂場の方へ走って行った。


釜ボッコには声をかけておいた、だから今日は早めに風呂を沸かしてくれていた、ほんと親切な人だ。


「城島センセ! 私達も釜ボッコさんの沸かすお風呂場に行ってみませんか?」


ソフィーさんも近頃、釜ボッコを目の当たりにして、玉村の神様や妖怪の類いを信じるようになってきているようだ。


みけつ様は釜炊き場にいるようだ。


「みけつ様! 釜ボッコさんはいらっしゃいますか?」


「うん、おるえ。・・あ! いなくなった!」


オレの目にも釜ボッコは見えなかった、隠れたんだろう、恥ずかしがり屋さんなのだろう。


「ああ・・私も見たかったなぁ〜・・」


「おお〜い! 釜ボッコぉ〜、出ておいでぇ〜!」とみけつ様が呼ぶとアパートの西側からひょっこりと釜ボッコは現れた。


「なあ、ソフィーい、見えるかえ? そこにおるえ。」とみけつ様が教えてくれても


「ええっ!? どこですか!? どこぉ!? 見えません!」


ソフィーさんも見えない、やはり普通の人には見えないのだろう。


「城島先生は見えるんですか!?」


「あ、はい・・、見えます。」


だが、半信半疑だろうと思うが、今までずっとソフィーさんが風呂を沸かしていたから、釜ボッコの存在は信じているだろう。


残念そうなソフィーさんの顔を見ていた時、車のブレーキ音と止まる音が聞こえた。


ソフィーさんが「あ! 来ましたよ!」と言って、出迎えに出た。


なんだろう!? ・・・あれは?


「城島先生! ソフィー先生!、来てもらいましたよ!」と春名先生と、梶山が運転する軽のバン、


その後ろに・・・


今中と・・・


その母親、


・・・もう一人!?


あれは!


ゾッとする悪寒が全身に走った! 今中の母親の後頭部にへばり付くように、赤黒い人の顔がこちらを見ている。


オレを見ている!


それは脈打つように収縮拡張をゆっくり繰り返していた。


「・・城島先生、どうかしましたか?」と、聞く春名先生に、冷静を装うよう努めた。


「・・はい、何でもないです。」


車から直ぐに今中とお母さんが出てきた。


「先生!・・・」と一言だけ言って照れる今中、両手に小ぶりのバッグを持っていた。


「おう! お母さん、ちゃと連れて来たか? 今日はゆっくり入ってもらえ。」といつもの調子で応えた。 


今中の母親とも初顔合わせとなり、軽く笑顔で挨拶を交わした。


「釜ボッコが風呂、沸かしてくれてますよ!」


「私、そんな人が居るなんて思いもしませんでした。」と言う母親の背にも、思いもしないだろう、“もの“が背中から後頭部にかけてへばり付いている。


この赤黒いこいつは、気味の悪い人の顔を持つそいつは、ずっとオレを見ていた、が、ふと・・何かに驚くように視線を外された、


同時に、


・・こいつ!?


もしかして! 今中の母親そっくりの顔をしている!? ・・なぜ!?


オレの手に!?


握られる感触を感じた! 横には、


「あれ、“マガ“と呼ばれる死神え。」と言う、みけつ様がそこに居た。


死神!? 物騒な言葉を使うみけつ様だが、


・・・たぶん、それは間違いの無い事だろうと思った。



今中とお母さん、二人が風呂に入っている間、みけつ様はずっと釜ボッコの側にいた。


その様子を見に行くと、釜ボッコは体を震わせ怯えているようだった。


「釜ボッコはあの死神を怖がりおるのえ。」と言うみけつ様は、見た目は年上に見える釜ボッコの頭を、「よしよし、あっちがおるえ、心配いらん。よしよし。」と撫でていた。


一緒に居た春名先生とソフィーさんは気が引けたのだろう「・・あの、何か釜ボッコさんに不都合とか、あったんでしょうか?」


黙ったままのみけつ様に代わり、「大丈夫ですよ、風呂に入るだけですから!」と、言ってみたが、釜ボッコの気持ちを無視した上、やはり事情を知らない身勝手な発言だったと思う。


みけつ様の態度だけで判断すれば、釜ボッコにとって今現在、一番大変な時で、何もしていないオレが出しゃばることではない。


だが、知り得ない事を知っているからと言って、人間世界の主役は、現在、今中の母親なのだ。


つまり、ここでどちら付かずのままでは、今回の事、両方がポシャってしまう。


だから、


「釜ボッコ! きっと今中のお母さん、君に感謝してるよ! オレも感謝してる! いつも温かい風呂を沸かしてくれる君にはほんと感謝してる! だから何か手伝える事があったら言ってくれ! 何でもいいからさ!」と押し通すことに決めた!


「私も手伝います! 釜ボッコさん!」と春名先生とソフィーさんも賛同してくれた。


釜ボッコの震えが、一瞬止まった!


すると釜ボッコはオレや春名先生の脇を通り抜け、風呂場の入り口の前まで来て、少しためらっているのだろう、また震えだしていた。


戸を開けられないでいる釜ボッコの代わりに、オレが戸を開けてやった。


オレは何も分からないけど、「釜ボッコ、オレが盾になってやるから!」と優しく、カッコつけた事を言ってあげた。


すると、「・・・・あ、熱いですか? ・・・ぬるいですか?」と尻つぼみに震える声で、湯加減を聞く釜ボッコ。


「おお〜い! 今中あ! お母さんにも聞いてくれ〜、 湯加減どーだあ? 釜ボッコが聞いてるぞ〜!」


お母さんの小さな声で「いいお湯加減ですって、」そして今中本人が「あ、いいお湯加減ですー!」と返事が聞こえた。


「そうか〜、熱かったら横の瓶に水が入ってるからそれで湯加減を調節できるぞ〜!」と言っておいた。


「はあい!」と今中の返事。


「良かったな、釜ボッコ。」と言ったら喜んでいるようにも見えた、そしてその時も、釜ボッコの震えは止まって見えた。


相変わらずだか、釜ボッコの顔は見えない。


ほっかむりで隠した顔周辺は真っ暗な陰に、不自然に覆われていて、のぞき込もうものなら、うつむきそっぽを向かれる。



二人が風呂から上がったのはそれから少ししてだった。


パジャマの上に今中は赤のコートを着て、お母さんはモスグリーンのコートを着ていた。


頭の上には湯気が立っていた。そしてとっても笑顔だった。


このあと、二人は春名先生の家で食事する予定となっている。


梶山はずっと車の中にいた。


帰り際、「釜ボッコなら、みけつ様の右隣にいますよ。」と、教えてあげると、今中のお母さんは「え!? ほんとにいるんですか!?」と疑っていた、やはりそれが普通の反応だろう。


社交辞令だとは言え、「釜ボッコさん、とても気持ちのいいお風呂、有難うございました。」と見えないものへ礼を言っていた。


担がれてる、なんて思わないでいてほしい。・・ネガティブに考えれば、返って"あれら"を引き寄せてしまうだろうから。



母親の背に憑く気味の悪いものはうずくまるように小さくなっていた。


衰えて見えるそれは明らかに、釜ボッコの力のおかげだと思われる。


みけつ様は無邪気な表情を浮かべてはいたが、終始黙ったままだった。


今中たちを乗せた車が走り去ったあと、


「城島先生、釜ボッコさんが明るいうちからお風呂のお湯を沸かせてくれてたんですから、私達も入りませんか?」と言うソフィーさん、


え!?一緒に入るって事!?


「城島先生、お先に入りますか?」


「あ、いえ、ソフィーさん、お先にどうぞ。」


・・・そだよね。


みけつ様が風呂場の入り口で立ち止まっていた。


「みけつ様、・・・」と声をかけようと思ったその時、オレの目に入ったその光景は異常なものだった。


脱衣所から、戸の開いてある風呂場にかけて、床や壁、天井にまで何かがのたうち回ったのか!? 黒い滲みの汚れが飛び散るように、びっしりと着いていた。


よく見れば、手のよな形をしているが歪な形をしていて、指の数が多かったり、獣か何かの足跡だったり、人のような顔だったり、


それにこの不気味な黒い汚れは、


壁面に付いているのか!? それとも小さな黒い虫が集まってそこにへばり付いているのか、


・・目の錯覚か!? それはウジャウジャと動いて見えていた。


特に酷いのは釜ボッコの沸かしてくれたお湯の辺りだ。


ちょうどソフィーさんが二階から支度をしてやって来た。


「・・あの、入っていいですか? みけつ様も一緒にどうですか?」と言うソフィーさんに、


「待ちえ!」とみけつ様。


以前、オレの部屋の前を祓ってくれた時のように口から息を吹きかける仕草を見せた。


すると後ろから寒くは感じない冷たい風が吹いてきた。


「みけつ様?・・どうかしましたか?」


ソフィーさんにはこれが見えないんだ。


その風は風呂場の中へと入りこんでいった。


と同時に、この黒い汚れも 一瞬のうちに、 逃げるかの様に消えていった。


以前にも感じていたが、みけつ様のこの風は、体の外ではなく、体の中を通り抜けるような感覚にしてくれる、そして頭の中がスッキリと軽くなり、胸の奥から電気が走るような高揚感に満たされるんだ!


風呂場の中も脱衣所も、まったく黒い汚れは見なくなった。


みけつ様の力を持った風が止むと、


「ソフィー、あっちも風呂に入るえ!」と、みけつ様は元気にそして無邪気に言った。


何事もなかったかのように。



みけつ様は、今中の母親に取り憑く“あれ“を、“マガ“と呼ばれる“死神“、と言っていた。


・・正直なところ、みけつ様に、「それは何ですか?」と聞くのが怖い、


つまり、オレが推測している事が当たるかもしれないからだ。


“死神“と言われれば誰だって考える事は同じだ。


だからみけつ様には、こう聞くつもりだ、「その死神をみけつ様の力で祓う事は出来ませんか?」と。


その後の事は、その後で考えるとする、そして “マガ“と言っていたが、それはつまり何なのかも今のところはわからない。



今日、この後、ソフィーさんが風呂に入った! そしてみけつ様も入ったお風呂にオレも入ることにする。


釜ボッコの事はみけつ様がいるから心配ないだろう、案の定、いつものように、「お湯加減はどーですか? 熱いですか?」と、四、五回聞いてきた。


なんだか安心した。


「今日はご苦労様でした、釜ボッコ。」


と、今日の一日を終わる事にする。




第三十一話 「病魔」



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