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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第三十話 「田霧姫と寒中鯉捕り大会」

第三十話 「田霧姫と寒中鯉捕り大会」




オレは夢の中でうなされた!


白髪の女の人が奇声を上げながら、どこまでも、どこまでも追いかけてきて、そしてオレの鼻に噛みついてバリバリ美味そうに食っていく夢だ!


目が覚めると朝だった。


嫌な汗をいっぱいかいてしまっていたが、朝の空気で深呼吸すると気分も爽快となった。



この日のお昼、


男子たちを中心に一つの話しで盛り上がっていた。


「先生も一緒にやろうよ!」と言う平太たち。


何をやるのかと言うと、12月の最初の日曜日、雪が積もる前に、素手による鯉捕りが行われる。


釣り道具や仕掛けなどは一切使わず、まさに裸一貫、わしづかみで鯉を捕まえる、

いわゆる寒中水泳による鯉漁だ。


勝敗は一番大きな鯉を捕まえた者が優勝者となる。


去年の優勝者は、平太の祖父で小田さんだと言う事だが、


村の人たちから川の神様に一番近い人、と称されている。が、

川の神様と言うより河童に一番近いと、オレは思う。


玉村にとって玉川は共存共栄、調和をもっとうとしてやってきた。


大昔から玉川には、村の守護神が住まうと言われ、そこに住む人々を厄災から守り、繁栄させてきたとされている。


玉川の神様⚫⚫、みけつ様じゃないの!? この前に会った田霧ちゃんの事だろうか?


つまり、師走の寒中鯉捕り大会で優勝するという事は、村の衆皆から尊敬の念を持って、一年間、賞賛されるのだ。 それだけだ。お金をくれるわけではない。


小田さんは賞賛されていたのだ!


毎年優勝者が小田さんなので、その連勝を阻止するため、子供から大人まで、かなり熱が入っている。



そして予定されてる12月、最初の日曜日がやってきた。


新参者のオレは出るつもりもなかったが、なぜか母さんのゆうパックの中に、季節外れのハーフパンツ式海パンが入っていた。

なぜ入っていたかは分からない。


オレは今、とてもやる気満々なのだ! なぜだろう? 分からない。


会場は役場の入り口、道に面した場所に長テーブルと木製の椅子がいくつも置かれていた。


入り口、奥では炊き出しの準備が行われていて、捕まえられた最初の鯉は計量されたら、即絞められ血抜きをする。

そしてあら汁として煮られ皆んなに振る舞われるのだ。


ほとんどの村人達はこの祭りを楽しみにしているようで、一週間前から商店街や職員室では何度も話題となっていた。


入り口すぐ側に煉瓦積みで造られた囲いがあり、そこで焚き火がされていた。


校長も言っていたが、川から流れてくる流木はかなりの量になる、その為、薪ストーブで環境に優しい方法をとる事を考えたんだろう。

以前は学校でも薪ストーブが使われていた。


今日は一段と寒い! 気がする。


焚き火の周りには鯉捕りが参加者が集まり、暖をとっている。


「城島ぁ、お前も出るのかぁ?」と相変わらず馴れ馴れしい態度の梶山が話しかけてきた。


「⚫⚫出るけど。」と低いトーンで答えた。


「おまえ、都会育たちなんだろ〜! 鯉なんて捕まえたことあんのかよぉ〜!」と、イヤミったらしく楽しそうに言いやがった。


「見上げたもんだよなあ、城島先生はえらいよ〜! 案外今年の優勝者だったりしてなあ〜!アハハハハ!」と豆腐屋の主人、相変わらず、テンション高めのお調子者だ。


「それはねーよ! 1Mだぜっ! どおやって捕まえるのさ!? 素人にゃあ無理ってもんだぜ!」と梶山


「1Mって、そんな鯉っているんですか!?」オレはちょと驚いた!


「ああ! うじゃうじゃいるぜ! 1M50の大物だっているんだぜ! ありゃあ、ぜってー! 玉川の主の一匹だぜ!」と梶山、

豆腐屋のオヤジに聞いたつもりだけど、ま、いいか。


「この川はすごいんだぜ!」と豆腐屋、「小田さんは毎回、一メーター超えを捕まえるからなあ、あれには驚くよな!」


「結局あれはバレたんじゃなかったっけ!?」不二家のオヤジだ、ぺこちゃんに似ている、ケーキ屋だけでやってけるのか!?


他にも源さんや魚屋、乾物屋、ここは兄弟で経営しているようだ、その他、食料品屋に役場の人、それに町へ働きに行っている、あまり見ない人たちもいる。


「2M超えるやつもいるって言うぜー! 城島先生っ!」と、豆腐屋、いくらなんでも盛りすぎたろ。


「勝尾川にも2M超えが何匹もいるぞ!」誰か止めろよ! そんな鯉いるわけ無いだろ、小学生のノリじゃないか〜


「俺もそれは見たぜ! ありゃあデカかったなあ! 一列に並んで水草食ってるの大迫力だよお〜!」目の錯覚だよ、リアル鯉のぼりだよ。


「俺なんてよ〜!」 梶山、「俺なんてよ〜! 3Mの鯉見たぜ!」バカだろ、おまえ。


一瞬、その場の雰囲気が凍りついた。ほらみろ。


盛り過ぎなんだよ! 1Mならまだしも、3mって、もはや鯉じゃねーよ!


「マジかよっ! そんなでけーの、みたのか!? 梶山ぁ!」信じるなよ! 嘘に決まってんだろっ!


「お⚫⚫おう! み、見たぜ⚫⚫!」


嘘ついてるよおッ! こいつっ! すっげー、分かりやすいよ!


「あ、あっちで見たぜ⚫⚫、いや、こっちだったかな?」嘘つき通すんなら、それ以上喋んなっ!


「どっちだよ! どっちで見たんだよっ!? 俺も見てー!」


3mの鯉なんていないよ! 2mだっていねーよっ!


「ワシもまだ、3M級にはお目にかかってねー、一体どこで見たんだ!?」


マヌケな会話だよ〜! なに、真顔で聞いてんだよ! 何で信じるんだよ!? 村上げてトンチンカンなのか!? 聞いてるこっちが恥ずかしくなるよっ!


そのとき、村長が拡声器で何かを話しだした。


「え〜⚫⚫あ〜⚫⚫テスト〜テスト〜、皆さん、おはようございます、て言うか、もうお昼ですね、今年も寒中鯉捕り大会がやって参りました!」


あれ!? 村長の横にいる女の子って⚫⚫⚫


「田霧姫が今年も来てくれました〜!」


「おおおおーっ!!」と、歓声が上がった!


やっぱりこの前、上流で会ったあの子じゃないか!? 田霧ちゃん。


それとも別人!? 村長さんに紹介されてるけど、


川の女神様って言ってなかった!?


コン太の奴は人間に近づけたくないような言い方だったが、村長にふつーに紹介されている。


この真冬の寒空、スクール水着にビーチサンダルだけど、寒くないのかな!? 風邪引くよ! 胸元には誰かに書いてもらったのか、ちゃんと"田霧姫"と漢字で書いてある!


女神様だから、川から離れられないとも言っていたような。


⚫⚫川から離れて、照れくさそうにしてるじゃないか、村人衆には目に見える神様なのか!? みけつ様と同じと言う事か。


村の人、神様リアル公認か? 今更なのでもういいけど。


その少し離れたとこにコン太がつったっている、て事はこの前の川の女神様だよな、

顔だけおっさんのコン太! 誰に貰ったのかブカブカの防寒着を着て、田霧姫をじっと見ている! ストーカーみたいだ。


「田霧姫、皆に一言お願いします。」


「⚫⚫ええっと、へへへ、⚫⚫鯉をいっぱい捕まえて遊ぼうね、。」と照れくさそうに話す田霧姫。


⚫⚫田霧姫って神様だと言う事だけど、スクール水着にビーチサンダルとは真夏の格好だよ、今はもう12月。


村の人達と同じ地面に立ち、「あらぁ、田霧姫様ぁ〜、こんにちは〜。」「タキちゃん、可愛いわね〜!」と挨拶を交わす村の女性陣たち、その中には春名先生とみけつ様もいる、普通に仲が良いのか?


玉村の一番、不思議なところだけど、神様を神様と思ってない様にも見えるが、どこからどこまてが冗談なのか分からない。


川を愛する小田さんが川の側から睨みつけるように田霧姫を見つめている。

話しかけりゃいいのに。

コン太と同じタイプだ。


「城島先生、あんた鯉の捕り方は教わってるかい?」と豆腐屋が聞いてきた。


「いや、うちのクラスの男の子たちから素手で捕まえると言うことだけは、聞いてますが、」


「それだけ!? それだけしか聞いてないの!?」


なんでも、真面目な顔して話す豆腐屋の言うことにゃ、


「昼間の鯉は岩陰やその下に隠れるように潜んでんだよ、だから岩場のあるとこから攻めていくんだ、分かるかい城島先生、

そしてエラに手を突っ込んで、岩場から引きずり出す、そして手拭いや風呂敷で鯉の顔を覆うようにして目を隠す、すると途端に大人しくなる。

魚っていうのは目がとても良いから、それを塞がれ見えなくなると動きが鈍くなると言う習性があるんだよ。」


話しを聞いてると、なんだ簡単じゃないかと、この時は思った。


「え〜、では早速始めましょうか!」と村長の一言で、のんびりと、始まった感じだ。


「皆さん! 準備運動は忘れずに! ああ、それとシャツのいる人、手拭いのいる人、いたらこちらでお貸ししますんで、どうぞこちらまで来てください。」


「城島先生、あんたシャツ着た方がいいよ。」と言う豆腐屋の助言で着ることにした。


シャツを着る理由は 岩場や鯉の鱗で怪我を防ぐ為に着るのだ。


「布一枚あるだけで随分違うから、安心だよ。本来はフンドシ一枚でやんだけどな、小田さんみたいに。」


とにかく言われるがまま、オレは身に着けた。


ワイシャツのボタンを止め、着古された作業パンツを履き、軍手をはめ、学校の上履きを履く。


そんな格好をしているのはオレだけだった。


「よ〜し! 城島先生、完璧だ! じゃ行くぞ!」と豆腐屋。


「なんだ!そのカッコ!? アハハハハっ! かっこ悪り〜!」バカの梶山。


梶山は普通の海パン以外、何も身につけていなかった。

豆腐屋のオヤジは小田さんとおんなじフンドシ姿に村のハッピを着ていた。


オレだけ完璧、浮いている、遊ばれているのだろうか?


皆んな準備運動はそこそこに、バス通りの道を挟んで、目の前の川へと入っていった。


この辺りは砂浜がある、左を見渡せばバス通りの橋が架かっていて、右を見渡せば、みずほさんの店が見える、上流には川の中洲となる所が一部見えていた。


「うああ〜っ!! 冷て〜っ!!」と声が上がる中、「城島先生も早く入りなよ〜!」と声をかけられた。


12月の村は非常に寒い、右足を川につけたら、これは無理だ! 氷水だ、マジで無理だ⚫⚫⚫どうしよ〜⚫⚫⚫と その時、


後ろから押されるように、「何やってんだよっ!」と梶山に強引に川の中へと連れ込まれてしまった!


「おいっ!!何すんだよッ!! オイやめろってッ!!」川は冷たいを通り越し、それすらも分からない程に痛かった!

「頭までつけて来いっ!」と梶山は言い放って、オレの左腕を掴み、力ずくで足の届かない深い場所へと投げ飛ばされた!


何すんだこいつっ!! オレは足がつかない所へ落ちてしまった! 全身が水面下だっ! 目を開けれないっ! 息ができないっ!!


だか、それと同じに、川の水が一瞬冷たいと思わなかった! そのことに気がついたら、これはいけるかもしれない! その途端、楽になった気がした! 


オレは溺れかけていた! 泳ぎはあまり上手ではない、足がつかないっ! 足がつかないっ!! 誰かに手首を掴まれたっ!? すごい力だっ! オレは気づかないうちに川べりへと移動していた。


「おまえ、もしかして泳げね〜の!?」


⚫⚫⚫梶山だった。


「ハァ⚫⚫ハァ⚫⚫なにすんだよ! 死ぬとこだったろっ!」


「大丈夫だって、死なねーよ! みんなこーやって川に慣れるんだよ! ハハハハ〜!」


⚫⚫⚫梶山の言う事も分からなくもない、


だが、「オレは子供じゃないんだぞっ!」 ましてや真冬の玉川だぞっ!


「アハハハハ! 分かってるよ! 大人なんだろ!」


大人なんだろって、バカにしてんのかっ!こいつッ!


「おおお〜っ!」辺りから歓声が聞こえた!


誰かが鯉を捕まえたみたいだ!


それから至るところ、見渡せる限りに、鯉を捕まえる男たちが目に入ってきた!


梶山もそれに感化され、すぐに川へと飛び込んでいった!


なんだか盛り上がっている!?


水しぶきの音、男たちの威勢のいい声、道の端より聞こえる女性たちの歓声、そしてたくさんの話し声が聞こえる!


寒い! 冷たい! よし! オレも川に入るぞ!


慎重に! 焦らず! ゆっくりでいいんだ! ああ! 水の中の方もえらく冷たいぞ!


平泳ぎをしてみよー!


ス〜イ、ス〜イ、泳げる! よしっ! 引き返すぞ! 足がつかないぞっ! 


ヤバイっ! オレは泳げないッ!?


「ハァハァ⚫⚫鯉を捕るところではないな⚫⚫」オレはそう思った。


「おおおーっ! 小田さんがまたデカイの獲ったどおおお〜っ!」と聞こえてきた、


オレには無理だ、水が怖い⚫⚫、


それに寒い!冷たい!泳げない〜っ!も〜やだ〜!


なんでオレはさっきまでハリキッていたんだ⚫⚫!? 分からない、自分で自分が分からない、オレはいわゆる、可哀想な奴なのかもしれない、そ〜かもしれない⚫⚫


「城島先生〜っ! 頑張ってぇ〜っ!」


ハッ!?


この声ハッ!


春名先生だあーっ!


オレは声のする方を見た!


ああ、春名先生が道の上からこっちを見ている!


あったかい服に身を包み、⚫⚫⚫手には湯気の立つ温かいドンブリらしきものを手に持っている、横で みけつ様はすでに食べている、あ、さらにその横には田霧姫まで一緒にいるじゃないか! やっぱりみけつ様と田霧姫は知り合いだったんだ〜、


⚫⚫それは、鯉の味噌煮込みなのか!? 美味いのか!? やっぱ美味いよな、あったかいよな、


春名先生はオレのために、鯉の味噌煮込みを用意していてくれたのかもしれない!


ではここから上がって、味噌煮込みを食べなくちゃ⚫⚫


「おいっ! これ見ろよ! すげーだろーっ!」


梶山⚫⚫?


鯉を抱きかかえているのか!? なんだ!?そのデカさは! 1Mは超えてる?


「暴れると絞め殺すぞッ!」


鯉の頭には大きな風呂敷が被せられていた、ときおり暴れる鯉は梶山の羽交い締めで身動き取れないでいた。


ドサッ!


その鯉を梶山はオレの目の前の砂浜に投げ置いた、


「おい、城島ぁ、ハァハァ、なんだっらお前にこの鯉やろうか?へへへ、」と梶山は不敵な笑いをオレに見せた。


オレは何も出来ない、出来ないのが当たり前だが⚫⚫


「なあ、梶山ぁ」


「何だよ?」


「オレに鯉の捕り方、教えてくれないか?」


梶山は少し驚いた顔をオレに見せていた、


⚫⚫⚫呼び捨てにしたから怒ったかな? 梶山の方がいっこ上だし、


「何だよ、別にいいぜ! 教えてやるよ。」と梶山は協力的だった。


怒っていなかった。


「よし!」とかけ声をすると、オレの肩を掴んで「まずは水に慣れることだよ、」とまた無理やり水の中に引きずりこまれた!


「おいっ!ちょっと待てよっ!!ちょっと待てってッ!!」


「待たねーよぉっ!」


梶山はオレを川の深みへと突き飛ばした!


「うわああアッ!!」


コボゴボゴボッ! 足がつかないっ!足がッ!足がッ!! 上も下もわからないッ!!


水が更に冷たくなったッ!! 流れの早いとこに捕まってしまった!? このままじゃ流されるッ!!溺れるッ!! 一瞬⚫⚫、


母さんが脳裏に浮かんだ⚫⚫


何やってんだッ!オレはっ!!


オレは残る力を振り絞ってもがきまくったっ!!



⚫⚫⚫"たいじょ〜ぶ〜?"


"え!?"


子供の声、


誰かがオレの右手を掴んだ!?


誰だ!?


それは小さく、か弱いものだった、


水の流れが同じ方向に流れて、


そして⚫⚫


砂浜がオレの足先に感じだ、


⚫⚫足がつく、


「おい、城島ぁ! おまえ、なに死にかけてんだよ!」


梶山の声がする、


見るとすぐ側に立つ梶山がオレを見下ろしていた。



「タキちゃんが助けてくれたんだそ、後で礼言っとけよ。」と梶山。


⚫⚫⚫お前が突き飛ばしたんだよ、まず オレに謝れ。


「⚫⚫え!? タキちゃん!?」どゆこと!?


オレの横には⚫⚫


小さな女の子が、「へへへへ」と無邪気に、笑顔を見せてくれていた。


「⚫⚫⚫君は、」


スクール水着を着て、胸のところに "田霧姫"と書いてもらってるその女の子は、


「もう、治った? コン太に噛まれたとこ。」と、オレに聞いてきた。


「え? ああ⚫⚫、治ってるよ、大した事なかったし、」


「よかった。じゃあ鯉捕まえて遊ぶ?」とその可愛らしいタキちゃんは、早速 遊ぶ事へと話しを切り替えた。


なので、「⚫⚫上手に泳げないからなあ〜、泳げたらいいのに、」


「泳げるよ、だから遊ぼ!」と、説明なしに、「こっちこっち!」と手招きされた。


すると「よ〜し! とりあえず水に慣れる事だ!」と、また梶山がオレに肩を組んで水の中へと連れ込もうとした!


「えっ!?ちょっちょっと待てっ! 今オレはっ!溺れたんだぞっ!」


「こっちこっち!」とタキちゃんは手招きするし、オレ、さっき溺れたんだよ!


「城島先生ぇ〜! がんばれ〜!」はっ!! 春名先生だっ! 


「お、おい! 梶山! おまえ、さっき突き飛ばしたろッ!」


「テメーっ!何っ呼び捨てにしてんだよッ! 俺の方が歳上なんだぞ!」と言ってまた無理やり川の中へと、連れ込まれた!


やっぱ、怒ってたんだ!呼び捨てにした事!


トババアッーッ! と水しぶきが顔にかかったと思ったら、また足がつかなくなっていたっ!!


だが、顔が水面に出ている!? 足はつかない? 泳げている!? 沈まない!?


「城島君! 泳げてるよ!」 え!? 城島君!? 君!? くん!? クン!? え〜! なんか学生の頃、女子に呼ばれた時みたいな感じだあ〜!


「タキちゃん!?」タキちゃんが "くん" て、呼んだの!? なんだろ! 新鮮だ! なんだろ! なんか可愛い! なんだろ! もっかい君づけで呼んでほしいーっ!


「この下にね、岩があってね、その下に鯉が二匹いるから、捕まえられるよ!」とタキちゃん、


オレは泳いでいるのか!?浮かんでいるのか!?


「行ってみよ!」


え!? 行ってみよって!?


ザブオオンッ!ザバアッ!


ゴボゴボゴボッ!! あれっ!? 水の中!!


「目を開けれるよ!」え!?タキちゃん!? 声が聞こえる、


オレは思わず目を開けた。


冷たいッ!!痛いッ!!ゴボゴボッ、「ハハハハ〜すぐ慣れるよ〜!」その通り、オレは目を開けていた、「ほら、あそこ!」川の中、


目の前にいるタキちゃんは、可愛い笑顔で指差した!


なぜか川の流れは緩やかで止まっているかのようにも思えた、そしてオレの心は平静だった、その平静は更に平静をもたらす様になっていくようだった。


息が続く、川の水は冷たいが寒くはなかった、オレの体はタキちゃんに招かれるように岩のある川底へと沈んでいった。


⚫⚫⚫一瞬だけ、


幼い頃、絵本で呼んだ "人魚伝説"を思い出した、


綺麗な歌を歌って船乗りをおびき寄せ、海中へと引きずり込む悪い人魚を、


⚫⚫あ!


その瞬間に、


オレはまた溺れてしまっていたのだ。



なぜなんだ!



気がついたらまた、砂浜の上だった。


「オイ城島、」梶山の声、「城島先生、大丈夫かい!?」豆腐屋?


「城島先生!」⚫⚫春名先生、


ああ、たぶんオレは今、ちょー格好悪いかもしれない、


「カッコ悪ィー! 城島ぁ〜! 溺れてんじゃね〜よ〜!」⚫⚫梶山、やっぱりお前は梶山だ。


「タキちゃんの事ぉ、信じやんかったんかえ?」とみけつ様? 


「⚫⚫⚫⚫」



その後、オレは焚き火の前で鯉汁を食っている。


味なんて分からない、温かいのがいい、

~~~~~~~~~

田霧姫は城島の側、コン太は少し離れて。小田さんは近づかない。

~~~~~~~~~~


「大丈夫ぅ〜? 城島く〜ん、」と田霧姫、


なんてことだろう! この感じ、幼女に"くん"付けで呼ばれている!


これはつまり、大人に対して、君付けで呼ぶなどけしからんっ!と怒るべきなのだろうか!? いやっ!!もったいない気がするっ!! このままでいい! タキちゃんにはこのままでいてもらって、"君付け"で呼んでもらおう!


タキちゃんは、


「次は絶対、鯉を捕まえられるよ! 絶対!」とタキちゃんに言われたら、俄然 鯉を捕まえられる気になってきた!


ワイシャツに軍手、作業パンツに上履きを履いてるオレ、右手に風呂敷、左手にドンブリ! すっくと立ち上がり、「お〜しっ! タキちゃん、川行こうぜ!」と捕まえられる気がしてならない! ヤル気がみなぎるぞ〜っ!


「おお! 城島先生、やる気だなあ〜!」と豆腐屋に不二家の主人に、その他数名! 声をかけてくれた! 嬉しいぞっ!皆の衆!


「よし! コン太!お前もついて来いっ!」と目についたので誘ってやった!


「えっ!? 俺!? おお俺は水が苦手なんだよ!」と少し慌てていた。


「だからど〜したぁッ! ついて来いっ! それともなにかあ〜! タキちゃんの誘いをお前は断るというのかああ〜ッ!!」タキちゃんはコン太を誘っていません。


コン太は腰が引けながらついてきた。


オレはタキちゃんに導かれるように、「こっちこっち!」手をひかれる老人の如く歩いた!


川岸で梶山が、「なんだ!? 再挑戦かぁ〜!」と、言ってきた、代わりにタキちゃんが答えてくれた「今度は鯉を捕まえるよ〜!」


タキちゃんはためらわず、冷水流れる玉川へ入っていった。


ジャボッ!ジャボジャボジャボ!


恐ろしいほど冷たい!が、なぜか入れてしまう! そして肩まで使って⚫⚫「なにチンタラやってんだよーっ! 風呂入ってんじゃねーんだそおっ!」と、梶山に突き飛ばされ、足がつかなくなってしまった!


また溺れかけたオレは、タキちゃんに救われた!


オレの右手を掴んで、「こっちこっち!」と案内してくれる、なぜタキちゃんの声が水中で聞こえるのだろうか!? 深く考えなかった。


何もかもが驚くほど上手く事が進む。


さっき教えてくれた岩場が目に入った!オレは目を開けてることに気がついた。


あっという間にオレの右手はタキちゃんの可愛い手から、岩のゴツゴツした感触へと変わった。


オレは難なく川底に到達し、岩に手をかけ、タキちゃんの示す方へと体をやった。


岩と砂地の隙間を覗き込む、


うわあああーッ!!なんだこのデカイ魚はっ!!頭だけでもタキちゃんの上半身程はある!


クスクス笑っているタキちゃん、可愛らしい。


「こいつを捕まえよ!」と水中であるにも関わらず聞こえるタキちゃんの声。


そのままタキちゃんは鯉のいる岩穴へ頭ごと入っていき、その鯉を引っ張り出そうかの姿勢を取った!


鯉の頭が出てきた! エラに手を突っ込んで引っ張り出そうとしている!鯉は恐ろしい程にデカイ頭をしていた!!タキちゃんの頭が鯉の口にスッポリ入ってしまう程だ!!


「ん〜ッ!! 城島くん手伝ってッ!」オレはなぜか、「おう! 任せろっ!!」と、偉そーに喋っていた!水中でだ。


なぜだか勇気百倍!アンパンマンみたいになっていたオレは鯉の頭を風呂敷で覆った! 鯉は始めから大人しかった。


いつものオレとは思えない程、段取りよく事が進む!凄いぞ!オレっ!


タキちゃんは自分の倍はあるかもしれない鯉にしがみついたまま、「捕まえたあーつっ!」と叫んだ!


オレも捕まえた気持ちになっていた!


鯉は大人しく、まな板の鯉のまま、陸上へと上げられてしまった! この鯉は終始、協力的にだった気がする。


と言っても引き上げる際は周りの男たちの手を借りた、鯉の頭に綱をかけ砂浜まで引っ張り上げる事となった。


だが、砂浜に上がった鯉を見ると、小田さんが捕まえたのは鯉と、さほど変わらない大きさだった。


川の中では巨大に見えたが⚫⚫


それでもオレはやり切った!


満足だ!


もう、思い残すことはない!


かと言って死ぬわけじゃない!


なんて楽しいんだ! なんて凄いことをやってのけてしまったのだ!


ああ、感動だ! こんなに感動したのは何年ぶりだ!? いや、何十年ぶりかもしれない! とにかくオレは充実感でいっぱいだった!


この鯉は魚屋の主人が中心となって、さばかれることとなった、捕まえられた鯉のほとんどは婦人会と魚屋が中心となって三枚におろされ、切り身となり、町の大型スーパーなどで売られる事とになる。


鯉の切り身なんて実家のスーパーでは売ってなかったと思うが、これも地域特有の商品になるのだろう。


村長さんの「今回の優勝者は城島茂先生ですー! パチパチパチパチー」と軽いノリのまま、オレが今年の優勝者となってしまったのであった。


だが、今ここになって冷静になれば⚫⚫⚫


おかしい、


何かがすべてオレに都合良く事が働き、このオレが優勝者となった、


「なんでテメーが優勝なんだよッ!! ありえねーんだよおッッ!!」と梶山がブチ切れていたように、やっぱりありえない事だろう。


そもそもあの,1mを超える鯉はなぜ、あんなにも大人しかったのだろう? オレの手際があまりにも偶然に良すぎたから?


いやいや、それはどーだろー⚫⚫


他の村の人を差し置いて、それ以上にあの、小田さんを差し置きオレが優勝なんてやっぱりありえない。


オレは思った、


やはりこれは、タキちゃんの力によるもの!


"神通力!"だ!


コン太や、さっきの月輪大五郎村長の紹介にもあったように、タキちゃんがこの村の女神様なら、やはりそれは神通力によるもの。


そう考えた時、どーいった力が使われていたかは、今のところ分からないが⚫⚫


今回の優勝者はオレではないという事だ。



帰り支度を済ませたオレは村長の所に行って、優勝者である事の辞退を申し入れしようと考えていた。


「城島先生、今日は素晴らしい日でしたね。」と言ってくれる村長。


村長のまわりには小田さんをはじめ、大会参加者の男たちが集まって来ていた。


ちょうどいい、「村長さん、あの話があるんですが、」と声をかけ、遠回しにはなったが、優勝者はオレじゃなく、二位の小田さんじゃないかと、気持ちを伝えた。


「よく名乗り出たなああ〜っ!! テメーが優勝なんてありえねーんだよおッッ!! ズッコいことやってんじゃねーッッ!!」と梶山はずっと切れっぱなしだった。


「まあ確かに田霧姫がえこひいきしたかもしれないけど、それもまた、神のご意思と、私は受け入れているんだが、」と村長はそう言った。 


「そうですね、これは田霧姫のご意思なんだよ。」と校長も同じ考えだった。


オレは「たとえそれが神様のした事でも、やっぱりズルはダメだと思います。」


「そーだよおっ!ズルなんてすんじゃねーっ!!」うるさい梶山。


「田霧姫が幼心でした事でも」 小田さんが喋った!? 「笑って受け入れてやれんか?」


小田さんはオレに連続優勝をストップされるんだぞ、悔しくないのか! ド素人のオレにだぞ! ほんとにいいのか!?


「城島、今年の一番はお前だよ、それで田霧姫も喜ぶ。」


「⚫⚫⚫田霧姫が喜べば、それでいいんですか?」


「それでいいんだよ!」豆腐屋、「田霧姫が喜べばみんなが喜ぶ! そして来年も村と玉川はキレイで豊かになり、みんなが幸せになれんだよ!」


梶山は納得いかなかったみたいだか、みんなの意見はオレの優勝で終わらないと、その方がもっと嫌っ! と言う事だった。


玉川や川の神を誰よりも大事に思っている小田さんには、少し気が引けた。


だけど、「来年はお前の年だ、ガンバれ!」と小田さんに励まされた、

何を頑張ると言うのだろうか? 出来れば頑張らずに来年も良い年であればそれでいいと思う、オレなのだが。





第三十話 「田霧姫た寒中鯉捕り大会」




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