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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第二十八話  「木霊」

第二十八話  「木霊」最新




「きりーつ! 礼!」と松本百合子の挨拶で今日の授業は終わった。


みんなが楽しく各々に話をしながら教室を出て行くこの時間、オレは南側の運動場の隅っこに立つ巨木を見ていた。


「じょうしまぁ〜。」みけつ様、相変わらずみけつ様はオレを呼び捨てにする。


「何ですか? みけつ様、」


「これからおまんのアパートへ行くえ、春名も行くえに、だからぁ一緒に湯に浸かろーえ。フフフフ。」と無邪気に可愛い笑顔を見せるみけつ様。



「あの木はな、あれはコダマの木やえ、」みけつ様はオレの興味を詠んでいた。


「利口な木ーえ、だからな阿呆はあの木に近寄らんほーがええ、利口ーやないと見られんほど呆けてしまうえ。」


アホってオレの事を行ってるのかな?

何でそー言う言い方するのかなぁ、そりゃオレはアホかもしれませんよ、


「後で春名と行くえ〜!」と、みけつ様は無邪気に教室を出ていった。


最近はオレの考えている事を無視しているように思えてくる、心を覗かれてないみたいなのでいいけど、⚫⚫見限られたのかな?


何故だろう、あの木に行かなきゃならない気がする。


⚫⚫たが、みけつ様がさっき春名先生とアパートの風呂に入りに来るとか言ってたな、なぜ、わざわざアパートの風呂なんだ!? そんな事はどーでもいい! 問題は春名先生がアパートの風呂に入りに来ると言う事だ!


よし! すぐに帰ろう、さっき、みけつ様、一緒に入るとか言ってなかったかなぁ、マジですか! なぜかオレは一緒に入れると信じてしまった。


職員室には春名先生はまだいない、年長組は六時間目の授業が残っていたのだった。


⚫⚫先に帰るか? ゆっくり待つか? 


先に帰って風呂でも沸かすか! いや、最近は親切な人が風呂を沸かしてくれてる、先に帰ると先に風呂に入らなきゃいけなくなる気がする、同じ時間に偶然を装って帰らなければ。


その時、


運動場の隅をバケツを持って歩くコン太を見つけた!


「あいつっ また魚を盗みに来たんだな!」


この前は 校長の魚を盗るなと言うのをすっかり忘れたが、やはり盗みはよくない、コン太にはその事をちゃんと言っておかなくちゃならない。


ちょうど時間潰しにもなるし。


オレはコン太を追いかけた、


運動場にはコン太の姿はなかった、すばしっこい奴だ!


ふと、みけつ様が言っていた、コダマの木を思い出してし、見入ってしまった。


とても大きな、くすの木だ。


確かに何かが宿っていると言っても不思議じゃない姿形の巨木だ。


オレには少し時間がある、だからあのくすの木に近づいてみることにする。


アホは近づくなとみけつ様は言っていたが、⚫⚫⚫オレはアホではない! たぶん。


運動場の南側の端、勝尾川の分流を背に立っている。


その時、風が吹いたのかと思ったが、そうではなかった、この巨木から何か黒い影のようなものが滲み出て、それは巨木と同化するようにゆらゆと動き出した。



それと同時に深く乾いた太い声が聞こえてきた。


"豊穣の女神と呼ばれし古い神、その手による(えにし)を持ち合わせる者、" !? 誰が喋っている!?


この木が喋っているのか!? 幾度となく見せられた超常な出来事、今この時も当たり前のごとく受け入れている自分がいる。


"神に好かれるとは良きかな、良きかな。" 木は喋り続けた。


それはオレの事でいいんだよね、神ってみけつ様の事かな?


"村を守り、山を守れ、天賦の才を持ち、生まれながらの覇権を持つ者、"


え!? やっぱりオレじゃないのか、⚫⚫じゃあ誰の事言ってんだ?


天賦の才? に覇権!? この村にそんなすごい人っているかな!? やっぱり春名先生の事かな?


"お前は何もかもが不完全だ、自ら疑う事なく愚かで安物と片す。"


それはオレの事だなッ!


"そしておまえは完璧だ。"


どっち!? 今までのオレの愚行を考えれば 完璧にバカだと言いたいのか!?


"純粋な水はどこまでも透明で清らかだが、深くなれば闇となる。"


この木が本当に喋っているのか!? 哲学を語っているのか? 水面から深くなれば光は届かなくなるのは当たり前の事だが。


"闇に悪を沈めていれど、誰も疑う事なかれ、光は届く事に意味は持つ。


届く場所が純粋なら、世界は深く美しい、そしてそれは神の世界となるだろう。"


オレは黙って聞いていた。


"生まれ持つ、徳は美しい、だが、安く奪われる。


御霊が眠りて生まれ変わるは丑三つ時、清く美しく漆黒に覆われるは闇夜の粋、


足りない愚者は、闇からそれを奪い取る。



増え過ぎることは純粋ではなくなる。


美しいものに美しいと思えばお前の未来も美しく輝くだろう。


醜く歪んだ世界において醜いと思えば、お前の未来も醜く歪むだろう。


それが神であろうとも。


心ある生き物は皆、


その仕打ちに恨みを抱くもの。


醜く歪んだ世界はありとあらゆる場所に有り、それは必然だ。


いつかは不浄の塊となり滅びを迎える、人間とはそのようなもの。


増え過ぎるは、悪なり。



「何してるの?」



オレはその声に驚いた!


コダマの言葉に聞き入っていた。


その声は勝尾川の分岐河川の反対側、市場のある方角から聞こえてきた。


そこに立っていたのは白髪の、⚫⚫⚫,女性だった。


「その木、喋るでしょ? 怖くないの?」その声はとても若かった。


その女性は川のすぐ反対側までやって来て、


「その木には木霊が宿ってるのよ、知らなかったぁ!?」


木霊、村の人はみんな知ってるのか?


この女性、とても若く見えるが、髪以外に目まで白い、白内障とか言うやつか?


「あ、あの⚫⚫、あなたはこの木と話した事があるんですか?」


「あるわよー! 一回だけー。」


明るい喋り方だった。


「五百年は生きてる老木よ、」


この女性は木霊の事を色々教えてくれた。


手には小さなビニール袋を持っている、買い物帰りかな。


「この木の言う事なんて聞かなくていいのよ、長く聞いているとあの木と同じで、どこにも行けなくなっちゃうわ。」



木々たちは生まれた時から死ぬまで、ずっと同じ場所で過ごす、あの巨木も五百年を超えて、長い時間ずっとあの場所にいるの、動きたくても動けない、


「木霊が言った事はね、あなたに言った言葉じゃないなのよ、自分自身に言った言葉なの。木霊自身に言った事なのよ。」


尋ねてみた、


「あの、あなたは⚫⚫⚫?」


「わたし? 私は幸詠(こよみ)。」


幸運の丘がある横手のリンゴ畑、その麓に建つ立派な日本家屋の家に住んでいると言う。


「今度、遊びに来て。」と今日会ったばかりのオレを招待してくれた。


その女性は白髪だったが、歳は二十代に見えた。


それにあの目、あれはいわゆる白内障というものなのだろうか?


それにしてはスキップするように元気に帰っていった。


ちゃんと前は見えているようだ。


幸詠(こよみ)さんかぁ⚫⚫、


結構いるんだな、


若い女の人。


しかも美人だ!


辺りはすっかり暗くなっていた。


アッ!!


春名先生が風呂、入りに来るんだった!



オレはダッシュで、すっ飛ばして、走って帰った。


コダマが言った事は、もう半分以上忘れた、それどころではない。


だけど、


共感を感じた事だけははっきり憶えている。



オレはスプリンターだぁっ!


陸上やってればオリンピックに出れたかもしれない!


アパートについたら直ぐに風呂場に直行した!


覗くわけではない、


が、


電気は消され、もうそこには誰もいなかった。


「⚫⚫⚫なんだ、もう帰ったのかぁ⚫⚫、ハァー⚫⚫⚫」


炊き場の方から、


「⚫⚫お湯が沸いております。」


この娘は、


風呂を沸かしてくれる親切な子、


「あ⚫⚫ああ、ありがとう、」


でもいい、春名先生が入ったんなら。


「さっきさあ、春名先生とみけつ様が風呂に入ったのかなぁ?」と、継ぎ接ぎだらけの着物を着た女の子に聞いてみた。


「は、はっ、入りますか! お湯加減はっ、」


「あ、ごめんごめん、そうだったね、よし分かった! 部屋に戻って支度してくるよ、湯加減見といてね。」と 頼み事をすると喜ぶだろうと思った。


「はい、分かりました!」と元気に応えてくれる、朝の連続テレビ小説のような彼女。


頭には白い手拭いを顎のとこで括り顔全体を隠している。

気になって仕方がない、どんな顔をしているんだろう。

その顔のところだけ、なぜか真っ暗闇で何も見えない。


気になる!


部屋に帰るとホッとする、オレはダウンジャケットを脱いで、部屋着であるジャージに着替えた。


その時だ!


隣の部屋から女子達の何やら話し声が聞こえてくるではないかっ!


隣といえば、⚫⚫ソフィーさん、


ソフィーさんの部屋に女子が数名いるのか!?


なんてことだ、


オレは物音を立てないことに気を使った!


そぉーっと⚫⚫そぉーっと⚫⚫


押し入れが邪魔だっ、オレは押し入れは使わない主義だ! 古いアパートならなおさらだ!


⚫⚫だが、気になる。


押し入れのふすまの上から聞こえないだろうか?


オレは今、かなり変態なのかもしれない。


ああ⚫⚫、だが気になって眠れやしないっ! その前に風呂はいるけど!


⚫⚫聞こえない、さっきまであれ程聞こえた女子達の笑い声がっ、


聞こえないっ!


「あ〜、今のー、隣の部屋でじょーしまが壁に耳当てて、あっちらの話しを盗み聞きしよ〜るえー。」


なッッ!!


何で分かったんだっ!?


「なんで分かったのかと言よ〜るえー。」


ひえ〜ッ!


筒抜けだあーっ!


「つつぬけや〜言よ〜るえー。」


ああッ、忘れていたッ! みけつ様はオレの考えてる事読み取る力を持っていたことお〜ッッ!


「城島先生が盗み聞きなんてしませんよー、」


は、春名先生だっ! 春名先生がかばってくれた!


「そうですよ、今まで城島先生はそんな事しませんでしたよ。」


ああっ! ソフィーさんだ! ソフィーさんまでもが、こんなオレをかばってくれるなんてえ〜!


「おまんら二人がかばよーから、じょーしまが涙ぐんで喜びよーえ。」


そんな説明しないでよ〜! まるっきりコントじゃんかぁ〜!


「アハハハ! まるっきりコントや言よーるえー! アハハハハ!」


何が面白いッッ!


ああッ、ダメだあっ、ここに居ては現行犯になってしまうではないかッ!


そ、そうだ! 風呂だっ! 風呂に行くところだったのだっ!


早く行かねばッ! そんな気がするッ!


オレは抜き足差し足忍び足で部屋を出たッ! まるで犯罪者の如く!


部屋の戸を開け、そー⚫⚫と、外に出た。


「ほらああー! 出てきたえー!」みけつ様ッ!?


ああっ! 春名先生にソフィーさんもっ! どやって誤魔化すッ!?


「じょーしまー、やらしー!」


モーダメだッ! 見つかってしまった! 見られてしまった! 玄関を出たところぉ〜!


オレは、明らかに挙動不審だった。


きっとオレがこんなにも動揺しなければ、誤魔化すことが出来たのかもしれないと、後になってそー思った。


「城島先生、今日は遅かったんですね、」と春名先生。


「は〜、はいぃ⚫⚫、いろいろなんか、ありましてぇ、」


「なんかって何え〜?」と、みけつ様。


黙れ小娘ぇッ! ついノリで心の中で言ってしまった!


みけつ様が不機嫌だ!


「城島先生!? どうかしましたか!?」


「へっ!? あ、いや、⚫⚫なんでも」


みけつ様が怖いんですよ!


「ソフィーさんから聞いたんですけど、」と言う春名先生、


「はい、」


「このアパートに釜ボッコさんがいるですよね。」


「え!?⚫⚫かまぼこさん? 何ですかそれ?」


今この時、あの風呂を沸かしてくれる親切な女の子の素性を知ることになった。


「みけつ様が教えてくれたんですよ。」とソフィーさん。


あの女の子は、"釜ボッコ" と古い呼び名のある屋敷神の一人で、そこに住む人を守り、幸せにしてくれる神様と言う事らしい。


だからあの時、


黒いクラゲのような不気味なものから、あの娘はオレを守ってくれたのだろうか。


あの子は神様だったんたあー! なんて謙虚な神様なんだあ〜!


その事をソフィーさんから聞いた春名先生はみけつ様と一緒に風呂に入りに来たと、言う事なのだ。


夜の風はとても冷たい。

春名先生とみけつ様は厚手の防寒着を着て、ニット帽にマフラーと完全防備だった。


オレは、三日間使いっぱなしタオルを首にかけ、ジャージ一枚と言う格好だ。


「で、どうでしたか? 釜ボッコとは会えましたか?」


おかしい、みけつ様がしょげてるみたいに見える。


あ! 春名先生にしがみついた! うらやまし〜、


「釜ボッコさんには会えなかったんですが、今日も沸かしてくれていたようです、もうしわけないかなぁ、と思ったんですけど、城島先生より先にお風呂、頂きましました、とっても気持ちよかったです、ね、みけつ様。」


いつでもお先に入ってください!


みけつ様はしがみついて春名先生に顔をうずめている。


ソフィーさんが「もう、眠いのかもしれませんね。それにこんなとこにいると風邪引いちゃう!」と言った。


「そうですね、そろそろ私達も帰ります。みけつ様、いつもはもっと夜更かしするんですけど。」と、春名先生。


「みけつ様は見たんじゃないんですか?」とオレは聞いてみた。


「⚫⚫⚫⚫⚫。」


無視された。


みけつ様はおネムのようなのでこの後すぐ、春名先生とみけつ様は家に帰って行った。


オレはソフィーさんも風呂は入ったと言っていたのでゆっくり釜ボッコの沸かした風呂に入った。


その間、「お湯加減はいかがですか?」「お湯は熱いですか? 冷たいですか?」と 四、五回聞かれた。


あの娘は釜ボッコ、何のために風呂釜に薪を焚べ、湯を沸かすのかは分からないが、それがあの子にとってとても大事な行為なんだろうと言う事は分かる気がする。




第二十八話  「木霊」


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