表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まこらみみらせ  作者: しげしげ
25/42

第二十五話 「かまぼっこ」

第二十五話 「かまぼっこ」



ああ・・・、


・・・学校行きたくない。


・・・休みたい。


だがオレはバカになって何も考えず学校に行くことにした!


あれ!? バカになってって、オレは言った!? あれ!? 何が違うの?


バカになれない時だってあるんだよっ! って前に言ったけど・・、なんで今、バカになれるの!?

そりゃ、元からバカかもしれないけど、なんで今日はバカになってって思ったんだろう?


自分が心から望んだ生き方だから? そのために自分なりにでも努力してきたその結果が今ここにあるから?


オレは大学を卒業し、教師となった、荒んでいた心も癒され、自然に前向きに考えていけるようになった。


・・自分が努力して望んだ事と、仕方がないからと望んでない事の違いだろうか。

もし、自分を負け犬だなんて思ったら、


自分を社会の被害者だと意識してしまえば、当然の事、後者となる。


仕方がない、仕事もお金も、そう仕方がない、家族の幸せも、みんな仕方がない、社会が、会社が悪い、上司が、あいつが、悪い! オレは被害者だ! オレは悪くない! 悪いのは社会だ! あいつだ! 周りのみんなだ!


そうやって悪循環がずっと何年も続く、気がついたらこんなに歳をとっていると不幸を嘆く、


そして自分の人生を呪う、成功者を妬む、一番大切な人に八つ当たりをする、家族を傷つける。


もう元には戻らない、戻せない、こんなにも歳を取ってしまった、終わりだ。


心の奥では後悔しながら、いつも泣いてるんだろう。


ただ生きてるだけで辛い、苦しい。


だから酒や賭け事に依存してしまう。


自分を変えてくれる人との出逢いを期待する、儚い一途な願いに残りの夢を期待する。


後悔しないで生きる事はとても難しい事なのかもしれない。


母さんの言った事は結果、正しい。


そう思うのも、大切な人の言った言葉と、そうじゃない人の言葉の違いだろうか。


自分を被害者だ、犠牲者だ、と考えた時点で、大切な家族の言葉すら耳に入らず、心にも届かず、自身の内面に引き篭もってしまう。


私の気持ちなんて誰も分からない!


何かに焦る気持ちだけが心身を疲れさせる。


被害者、犠牲者、そこから負の連鎖が人生を創り、鬱となってしまうのだろう。


自分が進むべき人生の道は自分で見つけ、努力して生きていく、だから幸せも、言葉も、調和がとれて自分の人生となるのだろう、


後悔しない人生とはそう言った生き方なんだろうと思う。


だけど人の心とは思い出や記憶に支配されやすいがため、簡単に人格や生き方の軌道修正など出来るものではないものと思う。


愛の手、が必要なのかもしれないが、差し出す側にもリスクはあるだろう。



・・春名先生にオレはリスクを背負わしてるかもしれない、玉村の神様にも、この村にも。



気がつけばオレはもう学校まで来ていた。


ガラガラガララララーと、職員室の戸を、元気よく開けた!


「おはようございます! 春名先生!」とバカになって、そして元気に言ってみた!


「ああ、城島先生、春名先生はまだ来てませんよ。」 と、校長先生。


・・ちゃんと見てから言うんだった、


「・・お、おはようございます、校長先生・・・」


そのとき、


「おはようございます、」


!! この声ハッ!?


「城島先生。」


はっ!!春名先生だッ!! いつのまに オレの背後を取ったのだ!?


「おっおはよぉうございますっ!」声が裏返ってしまった! なんて事だッ!


「フフフ、今日もいい天気ですね。」と、春名先生が言った!


今日はいい天気なのかっ!? そーなのかッ!? 気づかなかった! オレはどこを見て学校までやって来たのだ! わからないっ!


とりあえずオレは一時間目の授業の準備を始めた。


え〜、一時間目はぁ、何だっけー、


「そろそろ一時間目が始まりますね。」と、春名先生が、おおっ! オレに声をかけてくれた!


だけど、すぐに視線を外された。


教室に向うオレと春名先生、


「それじゃ、城島先生。」と年少組の教室の前で春名先生と別れた。


「あ、はい。」


間違いない! オレは声をかけられた! 視線を外されながらも声をかけられた! ヤッホぉー!


教室に入ってみんなの顔を見た、


・・・ああそうだ!


「松本百合子、今日はおまえの誕生日だな、よし! 前に出て来い!」


松本は照れくさそうに自分の席を立った。


「最初の犠牲者、」小さな声で、誰かが喋った、


・・利倉か? 犠牲者ってなんだよ!? まさか、春名先生の家で裸踊りした事に、何か関係があるのか!?


犠牲者ってなに!? 気になるだろ!


松本はとても照れくさそうにオレの前までやって来た、


松本の照れた顔を見ていたら、オレが何かを気にして躊躇してはいけないと、とっさに思った!


オレはためらわずバカになって松本を抱きかかえ、高い高いをしてやった。


「松本! 誕生日おめでとう!」と、腹の底からハッキリと大きな声で言ってあげた!


竹本の時にも思った事だが、一緒に祝ってあげるとこちらまでが嬉しい気持ちになる。


また思い出した!

あの時もオレのために加藤先生は“高い高い“をしてくれた、「城島! 誕生日おめでとう!」と言ってくれた、


そうだ、あの時の光景が今でもハッキリと憶えている!

教室の前まで行って、ドキドキして、そしてだっこをされ加藤先生の顔より高い所で高揚した気持ちのまま、「城島! 誕生日おめでとう!」と言ってもらったのを今でもハッキリ憶えているんだ。


そうだ、嬉しかったんだ、とっても。


思い出と言う一つの宝物として心の奥に残っているんだ。


そうか、何か分かった気がするぞ!


オーバーアクションだ!違うかな!?


オーバーアクションで祝ってあげたり、褒めてあげるのって、小さな幼い子供たちには幸せな事なのかもしれない、いや、小さな子供のうちだから、それが有効なのだ!


子供たちにしてやれる事、


それは勉強を教える以外に、豊かな心にしてあげる事だ。


そうなんだよ! 例えば誕生日以外に、何をオーバーアクションしてやれるのか! 子供たちの心に届く何かを!


でもまあ、それはオイオイ考える事にしよう。


すぐには思いつかないし。



そして今日も穏やかに一日は過ぎていった。


給食はカレーライスとあんみつだった、


ああ、うまかった! 日清カップヌードルカレーも不味くはないが、毎回同じものではな、やはりコトコト煮込んだ大っきな具の入ったカレーライスは美味かった!


ああ! 先生になって良かったなぁ!


このカレーライスを気に入ったのはオレだけではなく、ミケツ様も気に入ったらしい、

三杯もおかわりするからお腹が痛い、苦しいと言い出し、午後からの授業は保健室で寝て過ごす事になってしまった。


・・・神様って、お腹を壊したりもするんだろうか?


ミケツ様はただの子供にしか見えないのだが、まあ、オレの心を読むと言うのは事実のようだし、神様なのかもしれない、かな。


最近、今中の肩にかかるあの黒い靄が見られない、それはとても良い事だろう。


これもミケツ様の影響だろうか。


利倉やその他の男子も相変わらず元気で何よりだ。


北本のお母さんも、町へのパート勤めを続けているらしい、よく働くお母さんだ。


六時限目の授業も終わり、明日の準備と職員室の掃除を簡単に済まし、玉利荘へ家路につく事にした。


もし、日記をつけていたら、今日、オレは松本に高い高いをしてやった事と、カレーライスが美味かった事しか、それしか無かったような一日だった。


ほんとに、給食 食いに学校いってるだけの日常だ。


相変わらず春名先生は藤原孝子と仲が良い、オレが職員室から出ていこうとする時に二人 一緒に職員室に入ってきた。


「今日はお先に失礼します、お疲れ様でした。」と春名先生に挨拶を交わして学校を出たのは、五時を過ぎた頃だった。


アパートにつくと、ソフィーさんが風呂場の前で掃除をしていた。


中学校は帰宅時間が早いのだろうか? ソフィーさんの帰宅から風呂を沸かす時間がオレの帰宅時間とほぼ同じだ。


「こんにちわ! ソフィーさん!」


「ああ、城島先生・・、」・・? ソフィーさんに笑顔がない、


「何かあったんですか?」と聞いてみた。


「・・最近、誰かがお風呂を沸かしてくれてるみたいで・・、」とソフィーさん。


どお言う意味なんだろ? 誰かってソフィーさん以外に、


「大家さんかな!?」


そお言えば、昨日のあの脱衣所にいたガラス越しの人影は誰だったんだろう? その事をソフィーさんに話してみた。


「誰なんでしょうか? 今日も、私が来る前にはもう、風呂釜に水が入れられてて薪がくべられていたんですよ。」


「じゃあ、昨日ぼくが見たガラス越しの人影が今日もお風呂の準備をしてくれたんでしょうか・・」


「かもしれませんね、・・小柄な感じで、女性の声ですか、」


ソフィーさんはそもそも八百万様や妖怪を見たことがあるのだろうか、


薪をくべて、風呂を沸かす、そんな働き者の妖怪なんて、妖怪といえるのか?


やはり人間か。


「あのー・・すいません、」と聞き慣れない声がバス通りの方から聞こえてきた。


「・・はい、」とオレは応えた、

この人たちは玉村の人じゃないな、見たことがないし、作業服らしき服を着ている、男性二人、歳は三十中頃か、もう一人は五十代くらいかな。


「この辺にコンビニか食堂はないでしょうか?」丁寧な喋り方だ。


「ないですよ、」とソフィーさんが先に答えてくれた。


「駄菓子屋さんにパンは売ってると思いますけど。」と、サラッと明るく応えるソフィーさん。


オレはお勧めのお店、「みずほさんのお店は・・」と教えてあげようとした。


「あ、みずほさんは・・お酒飲むとこだから、定食はやってないかもしれませんよ。」と、ソフィーさん。


その汚れていない作業服姿の男性二人は、軽く会釈してそのまま帰って行った。


「あの人たち、町の役所の人たちかしら、」とソフィーさん。


「え? どうしてですか?」


「玉村をダムにするって言う噂を聞いた事があるんで、・・それで、」


「え!? それってただの噂じゃなかったんですか!?」


「・・わかりません、私もただの噂だと思ってるんですが、町からの視察に来ていた人がいたって聞いてるんで。」


この話しは後で分かった事だが、もう三十年以上昔に上がった話で、それ以降は玉村の役場でも、議題にした事はないそうだ。


村長の月輪大五郎さんや村役場の人たち、自治会の人たち、当然のことながら、みんな大反対だった。


それに漠然とだが、絶対にこの村はなくならないと思える、・・理由はない、だがなぜか心の底から安らかな気持ちでそう思える。


オレはソフィーさんに、「たまには一番風呂、どうぞ。」と勧めた。


遠慮されたが入ってくれた。


オレはその次に入るとする。


なぜか上島のバカはソフィーさんが風呂から上がる絶妙のタイミングで風呂場にやって来るので、十分前から玄関に出て、バカの阻止をすることにする。


そして、ソフィーさんが風呂から上がるだろう十分前、オレは玄関に出た。


少しした頃、「あら、新平ちゃん、」と言うソフィーさんの声が一階から聞こえてきた。


っ!!


どお言う事なんだ!? しんぴえ〜ちゃん!?


してやられた!!


まさかオレがお前を阻止する事を計算に入れてオレが部屋に戻るとともに下へ降りたのか!? 忍び足で!!


クッソっ!! やられたぁ! 上島ごときに〜っ!


一階から聞こえてくるバカの声、

「じゃ、俺、お前のあと、入るぜ! ソフィーの後に入るからな! な!」


・・・なにが“な!“だよっ! ・・オレに聞こえるように言いやがってぇ〜っ!


ものすごく敗北感を感じてしまうぅ〜っ!


あ・ん・な・や・つ・にぃ〜ッ!!


はっ!!


思いついた!


そうだっ! この手があるぞっ!


オレは大きな声で言ってみた!

「ああ! こんなとこにフィギュアが落ちているぅ!」嘘をつく事に決めた。


「首は動くのだろうか? えい!」


ドッ!ドッ!!ドッ!!!ドオッッ!!


「地震だっ! 地震だぞっ! アパートが壊れるうーっ!」と思っていたら、


上島が二階へ上がってきた!


「オイッ!!城島ぁっ!! それは俺のっ!!」


かかったぁっ!! 丸々と肥ったのが釣れたぞぉっ!!


オレは忍者の如く素っ裸であった上島の横を通り抜けた!


「パンツぐらいはけぇーっ!」親切にオレは教えてやった!


「オイッ!! 俺のフィギュアはどこだよっ!! どんなやつだよっ!?」


「お前の部屋だよっ! 行ってみやがれっ!」


一階、階段手前で ソフィーさんとすれ違った。


「お風呂! 頂きます。」


「え!? あ、はい。」


オレは一目散に風呂場へと向かった。


少しすると、また地震が起きた。


どーする!? オレはもう湯船に浸かっている! かかり湯はしたが体は洗わない! きっとフリチンのまま上島は入ってくるだろう!


フィギュアを人質に取ったと嘘をでっち上げるか! カップラーメン一個で譲歩させるか!?


ガラガラガラーッ!! 勢い良く風呂場の引き戸が開いたぁ!


「おいっ!!城島ぁッ!!」


オレはもうすでに湯船の中だ。


ああ、いい湯だな。


「てめえッ!! なに風呂入ってんだよッ!!」


とりあえず、


「お風呂ぉ、空いてたから〜」


「はああああ〜ッッ!? 風呂空いてたからぁッ!!・・っ」


「いい湯だぞぉ〜、お前も後からはいるかぁ〜?」と、とぼけてみた。


「はっ、入るかだとおッ!!」


「ほんと、いい湯だぞぉ、・・上島ぁ、」


ああ・・上島が、半泣きだぁ、あれ!?


上島の横に小さな人影が見える、引き戸のガラス越しのに、?


・・これはこの前の湯加減を聞いてきた、

「 お湯加減はどうですか?」まただ、


なに!?


「お前なあっ!!俺が先にっ」「うっせーんだよっ! 静かにしろよっ! 聞こえねーだろっ!」上島の声が邪魔だ!


「あの・・お湯加減は・・」やっぱり昨日の、「なにが聞こえねーんだよっッ!!」「聞こえねーだろッ!!うるっせーって言ってんだろがよっ!!」


「あの・・」「・・何が聞こえねーんだって?」「しゃ、べ、ん、じゃ、ねーよッ!! それよりテメーの股間に生えてる汚ねーもん、隠すか捨てるかモザイク入れるかしろよッ!! 目に入るだろッ!!」


ガラス越しの上島の背より、小さなその人影はさらに腰を曲げるように小さく見えた。


「・・・お湯加減は、・・あ、熱いでしょうか?・・ぬるいでしょうか?」


声が震えている!? そんなに気になるのか!? 湯加減が!?


「いい湯加減です! 有難うございます。」と、明るく優しく応えてあげた。


「・・おまえ、誰と喋ってんだよ?」


「おまえの横に居るだろ! 親切な人が。」


上島は左右を見回したが、「誰も居ねーぞ、」


ガラス越しの人影はお辞儀をして脱衣所から出ていった。


「おまえ、誰と喋ってんだよ?」と言う上島に、


「だからガラス越しに居たろ? その人が風呂沸かしてくれたんだよ。」


「誰も居ねーって言ってんだろ!」


「さっきまで居たんだよ、おまえの横に、」


「さっきもなにも、初めっから誰も居ないって言ってんだよ、おまえ幻覚でも見えてんのか!? 大丈夫かよ。」


上島には見えていない!? ではあれはやはり、八百万さんか妖怪なのか!? それともバカには見えない裸の王様的なものだろうか?


現実的に考えれば、裸の王様だろう。上島も現在、裸だし。

いやまて、それは上島版裸の王様バージョンから見た場合で、オレから見ればやはり神がかりな、何かと考える方が正しい。


「城島ぁ、前から思っていたんだけどよ、・・お前、妄想癖があるんじゃねーの?」


それはお前だ、バカ。


バカはほっといて体を洗うとするか。


湯舟から上がると、冷たい風が上島方面から吹いてきた。


「おい! 戸を閉めろよ、寒いだろ!」


「あ、悪りぃ、」と言って中に入ってきた!


「なに、入ってきてんだよ!」


「もう、お前の後でいいや。」


「なにがいいんだよっ! オレが良くねーんだよっ! 混浴しよーとしてんじゃねーっ!」


上島はかかり湯せずにそのまま、風呂に入った!


「ああーっ!! お前は入浴のマナーすら知らねーのかぁッ! 汚ったねーなっ!」


「湯がアッチぃ! 体が冷えちまっただろ!」


ザバアァァァー、「アッチ!アッチ!」


「お湯加減はいかがですか? 熱いですか?」と また聞こえてきた。


戸口のガラス越しにさっきの人影が見える。


「おい、上島はぁ! 聞いてんだろ! ちゃんと応えろよ!」


「はぁ!? 何がだよ、」


「・・熱いですか?」


上島は応えない、聞こえていないのか?


「・・おい、聞こえないのか?」


「何がだよっ! さっきからなんだよっ!? 何も聞こえねーよっ!やっぱお前、おかしいぞ。 」


ちょっとイラッときたんで、

「もうちょっと熱くして、ぬるいみたいだから。」


するとガラス越しの人影は、

「はい、お湯を熱くして来ます。」と言ってたま、消えていった。


「おまえ、誰と話してんだよ、妄想癖の城島ちゃん。」


少しすると、


「ああ、なんだか熱くなってきたぞ、」


また、ガラス越しに、人影が現れ、

「お湯加減はいかがですか? 熱くはないですか?」と、聞いてきた。


ので、「もっと熱くして。」と優しく応えてあげた。


「もっと熱くですか? もっとですか?」


「うん、もっと。」


「おい城島、お前誰と話してんだよ? 気持ち悪いやつだなぁ」


少しすると、「おい、熱すぎるぞ! 」と言って真っ赤になった元、白い豚さんが茹で上がった状態で風呂から上がった。


ガタッガッタッガッタ・・、西側の小窓をこじ開けようとする真っ赤になった白い豚さん。


「あーもーっ! 立て付け悪りーなぁーッ!」と、茹で上がったばかりの白い豚さん。


「おいっ! ソフィーっ! 熱すぎるぞっ!! 薪が多すぎんじゃねーのかっ!?」


「おい、そこの茹で上がった白い豚さん! 今日はソフィーさんじゃないぞ。」


白い豚さんは汚いケツと顔をこちらに向けて、


・・・なにか、言いたそうだった。


「・・・・、誰が白い豚さんだ、」と、真っ赤になってる白い豚さん。


とりあえず、無視する。


「ソフィーじゃなかったら誰が風呂沸かしたんだよ!?」


・・とりあえず無視する。


コンコン・・


風呂場の引き戸をノックする音だ、


また、ガラス越しに人影が現れた。


「熱いでしたか!? すぐに薪の数を減らします!」とても慌てた様子で聞いてきた。


「いや、いいんだよ、だけどこの後は誰も風呂には入らないから釜の火は消してもらっていいよ。」


「わかりました、薪の火は片しておきます。」


歳はまだ若いのだろうか? とても気の利くいい人だ。


「・・おまえ、マジ大丈夫か? 誰と話してんだよ、」


しかしあれだ、


シャワーというものがないから、体を洗ったら上島のアクが出ている湯舟のお湯でしか体を流せない、


また汚れてしまうではないか。


風呂から上がった後、また、脱衣所には炭か、藁の焼ける匂いが残っていた。

ガラス越しの人の匂いかな。


そして戸を開け外に出ると、冷たいが、とても清々しい気持ちの良い風が吹いてきた。


この前も確かそうだった。


温泉に入った後みたいだ。


外はすでに真っ暗で、この前とおなじで薪をくべる場所にも、ガラス越しの人は見当たらなかった。


振り返り部屋に戻ろうとしたオレの目の前に、


なんだこれ!?


さっきまで何もなかった風呂場の入り口に、不気味な物体が転がっている!


・・先に言っておくが、上島ではないようだ。


それは、空気の抜けた黒いバレーボール程の大きさで、クラゲのようなゼラチン質にも見え、脈打つように動いている、気持ちが悪い。


なんだ!? これは!


夜のこんな暗い、風呂場からの少しの灯りと月明かりだけのこの時間に、得体の知れないものが目の前にある!


その黒い物体は下から触手のようなものがたくさん出て、しかも気持ちの悪いことに、ウニョウニョと力無く動いてる。


少しずつだが、


・・こちらへ近づいてくる!


・・クラゲ!?


不気味な黒いクラゲ?


にしては、なぜこんなとこに?


なんだか弱そうだったので、


オレは少しずつ近づいて、足でそいつの傘の部分をこづいてのやろうかと考えた。


・・まさかとは思うが妖怪の類か!?


「お湯加減はっ!!」


はッ!?その声にビックリしてしまった!

後ろから急に声かけないでよぉ〜! 焦っちゃったよぉ〜。


小柄な女性!? まさかガラス越しの人!?


「・・いっ、いかがですかっ!!」


白の手拭いを頭に巻きつけ、継ぎ接ぎだらけの地味な着物を着た、それは小柄な女性だった。


なんでそんな格好!? 朝の連続テレビ小説のコスプレなのか!? なりきっているのか!?


その女性はうつむき加減な上にほっかむりを深くかぶっているせいで、まるで顔は見えなかった。


「あああついですかっ!! あっあついですかっ!!」


あついですか!?


・・・・何を言っているのだろうか?


まだ、オレは風呂に入っているように見えるのだろうか?


「あ、あの、あなたがお風呂を」


「あああっついあっついですかぁっ!!」とこの女性、えらく幼いようにもみえるんだが、


力んで 熱いですかと聞かれても、


「ああっつい!!」


なんだ!? この小柄な女性の表情は見えなかったが、何かを気にして動揺しているようにも思えた。


何か!?


オレはさっきの黒いクラゲへと目をやった、


っ!!


そいつはオレの足下、直ぐそばまでやって来ていた!


サッとそいつをかわして、ほっかむりの女性の方へと退いた。


オレはその女性を見た、顔を隠そうとしてる。

白い手拭いのほっかむりを更に深くかぶった。


恥ずかしがり屋さんなのか?


それにしてもこの黒いクラゲは何なんだ?


と、思っている隙に、ほっかむりの女性は風呂釜から、炭となったまだ火が残る種火を火バサミで一つ、持ってきた。


そして熱々の火のついた種火をためらわず、ポイっと黒いクラゲに放り投げた。


あ!!


と思う間もなく、黒いクラゲは一瞬にして音もなく溶けていった。


残る触手が最期の力を振り絞りながら動いている、気持ちが悪い。


そいつは力尽きると色が抜け、跡形もなく消えて無くなってしまった。


多分だが、こいつはいいものではないだろう、そして慌てながらオレに、触れてはいけないものと、教えてくれているようにも思えたそのほっかむりの女性は、その後、風呂釜のあるばしょへ、小走りに戻って行った。


これもオレの想像だけど、あのほっかむりをした彼女は、みけつ様と同じ側の、八百万様の一人だと思う。


それとなぜだろう? お湯加減の事以外喋らなかったが・・・


知っている言葉が限られているのだろうか?


オレは今いる場所から彼女に、「どうも有難う。」と、聞こえるように言った。


次の日には、今日あった事をソフィーさんに話した、黒いクラゲの事を除いて。


とおやら、ソフィーさんは八百万や妖怪を信じてはいないみたいだ。


子供たちが話題にする、アニメかなんかと思っているんだろう。


つまり、“ノリ“、フィーリングで理解したつもりでいたんだろう、村の人達もそれ以上の理解は求めていなかったのだろうと思われる。


だけど、オレの方からソフィーさんに、「彼女は人間じゃありませんよ。」と、考えさせるセリフで伝えてみた。


きっとソフィーさんも玉村の一員なんだから、いつかはたそがれさんと出会うだろうし、あのほっかむりの彼女とも出会う事だろうと、今はそう思う。



第二十五話 「かまぼっこ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ