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まこらみみらせ  作者: しげしげ
24/42

第二十四話 「明日は明日の風が吹くと思えてきた!」

第二十四話 「明日は明日の風が吹くと思えてきた!」



ああ!


・・・学校行きたくないっ!


ああ、行きたくないっ!


昨日、裸踊りをさせられた事で、“させられた“事で、今日は学校に行きたくない。


だが、オレは頑張って学校へ行くのだ!


みけつ様のイジメになんか屈しない!


なぜだろうか? 学生時代の気苦しさ程には感じない、平気だ。



職員室に入るとオレは春名先生と校長先生に頭を下げ謝った。


言い訳の仕方が見つからないが、


ただ頭を下げ、謝ることにした。


校長先生は 「みんなは囃し立てて都会では当たり前の行為だと言ってましたが・・、城島先生はお酒を飲んでませんでしたよね、それなのに・・・裸踊りをするとは・・何か訳ありでしょうか?」


と何かを諭すように言ってくれたが、・・・春名先生は何も言ってくれなかった。


・・・・、見限られた。


・・・終わりだ。




教室ではオレが裸踊りをした事をみんな知っていた。


・・想定内だ。


「先生、裸踊りしたって、ほんとー?」


「ふりちんなのー?」


「春名先生の家で裸になったのぉー?」


「パンツもぬいだって。」


「汚いパンツだったって言ってたぞ!」


「ええーっ!うそぉー!?汚いのぉ!?」


「どのくらい汚いの?」


「先生のパンツは、すっげぇーっ汚いらしいぜ!」


「ええっ!なんでそんなに汚いのぉー!?」


「洗わないんだってさぁー!」


「ええーっ!なんで洗わないのぉ〜!?」


「そんなの知るかよぉっ! 先生に聞けよっ!」




「・・・・・。」




「センセー、なんで洗わないんですか?」


「・・・・うるさい。」




冬は寒い。


心にしみる。


学校からの帰り道、一人とぼとぼと歩くオレ。


たぶん、もう、ダメだと思う。


もうオレではダメだと思う。


春名先生のお婿さんになるのは・・・。


そーいやあ、みけつ様が言ってたなぁ、この村からは出られんえ、とかなんとか。


それが仮にだよ、仮にオレが春名先生と結婚出来たら・・・


もう、死んでもいいと思うけど、


・・・きっと逆玉の輿ってやつでオレは春名先生のお父さんの後を継いで広〜い田んぼでお百姓さんになってるんだろうなぁ〜。


そしたらオレはこの玉村から出る事なくなって、この地に骨を埋めるってやつになるんだよ。


みけつ様の言っていた “この村から出られんえ〜“ とかなんとか、・・言ったんだっけ!?


みけつ様がなんていったか、もう忘れたよ。


でもその予言は当たってるって言うやつになるさ。


そーなりゃ、みんなハッピーエンドだよ。


お〜い! みけつ様ぁ〜! 聞いてるかぁ〜!

みけつ様がえら〜い神様だって言うなら、裸踊りした事 みんなの記憶からそっくりそのまま消してくんないかなあ・・、て言ったら聞こえてたりするのかなぁ。


みけつ様がそばにいないときはオレの心は読まれていない、のかな・・わからない。


あ〜あー・・、もーどーでもいいやぁ、今日は何もしていないのに とっても疲れた一日だった。


あ!


・・あれは、


人面牛だっ!また性懲りもなく出やがった!



以前もあの場所にいたんだ、人面牛。


見渡す限りに広がる田んぼ、均等に植えられた木と木の間にあいつがいる。


用水路の川の音と冷たい風が吹く黄昏時、


あの時と同じようにそいつはそこにいた。


オレの部屋で見た時は信じられない程にデカくなっていたが・・


戻っている・・?


初めて見た時、あの時と同じくらいの大きさに戻っている、縮んだのか!?


だが、あの時と違って今のオレにはさほどの恐怖はないようだ。


オレはわざとそいつの側を歩き通り過ぎようとした、間違いない!不気味なこいつはあの時の人面牛だ。


いやらしく人の顔したその姿でオレの目を見ている、体中がゾッとする


誰がお前なんかにビビらされるもんかっ!


オレは人面牛の目を睨み返した!


目を逸らさなかったそいつはまたオレを付きまとうのか!?


オレは静かに興奮していた。


そしてオレは立ち止まり、また人面牛を睨み返してやろうと振り返った。


・・だが、そこにはもう、何もいなかった。


・・ほんの数秒、目を離した少しの間に人面牛と張りぼてのような小さな人間はすっかり消え去っていた。



・・まだ、およそとしか言えないのだが、人面牛と言う妖怪の類は人の心の弱さなどに反応する事は間違いないように思う。


弱肉強食のルールから、弱ったものから餌になる、と言うのは自然界における原始的な絶対の法則なのだろう。


運の良い人や長生きする人は、良い人か、悪い人かではない。


弱いものから餌食になるのだ。


悪い奴ほどよく眠り、良い人ほど苦労するとは、世間一般によく耳にする事だが、この日本における宗教的道徳は善良な市民を作りだすが、計算高さが無ければ、安く扱き使われるだけになる、


不幸を知らなければ、不幸であっても不幸とはならない、


だから弱い者から泣いてもらおうか、と言う風潮が社会はあると思う。


学生時代に母さんからよく言われた事の一つに、「賢すぎるよりバカになって働きなさい」と言われた事がある。


オレは扱き使われてまで笑顔でいる事なんて出来なかった。


まだ二十歳そこらのオレにとって世間知らずのあまちゃんと言われても、


・・・やっぱり笑ってバカになるなんて出来ない。


それが出来るなんて、・・母さんは凄いと思う。


・・・オレは何も知らない、誰も本当の事なんて知らないんだと思う。


それが正しいと言われて、他人の意見に生きる道を教わって、


ずっと先、何十年先の将来、


本当にそれで良かったのだろうか?と、思えてしまったら、


それまでの人生が、嘘になったりはしないだろうか?


オレはずっと疑問に思ってた、


オレの為にと言ってくれたのは分かる、


バカになって働く事が一番偉いと思うんよ・・、と言われても、


・・今、それが出来ない時だってある。


プライドの高い奴、気位だけは高い、そお言われてのけ者扱いされたって嫌なものは嫌だ。


誰かを傷つけてまで自己主張をしているわけではない。


プライドや尊厳を持って、今を生きる事は、


それは自分の事を想ってくれる人のためなんだから。


今なら分かる。



まだ、ほんの数ヶ月だけどオレの心はとても健全に保たれ成長してくれている、


どんなに失敗してもどんなに恥をかいても、


必ず自分にとってプラスになると、信じられてしまう。


自分自身が心から考える結果、その成功の積み重ねが、


・・たぶん、人生を後悔しない生き方なんじゃないかと思う。




アパートにつく頃にはあたりは薄暗くなっていた。


以前 人面牛を見た後、ドラさんともすれ違ったんだ。


・・そー言えば、最近ドラさんを見かけない、生きているんだろうか?


101号室は相変わらず締め切っている、


蜘蛛の巣が張り巡らされいる、この部屋から虫が涌いて出る事を知っているかのようだ。


大家さんも毎日掃除はしているだろう、それでも蜘蛛の巣は張り巡らされる。


この場所は餌の宝庫なのかぁ・・・、


オレの部屋はこの真上だが、・・虫が這い上がっては来ないだろうか?


まるで空き部屋のようだ、人が住んでる気配がしない。


オレは階段を上って自分の部屋へ行こうとした時、


101号室の戸が、


・・ガチャ


と開いた、


思わず立ち止まってしまったオレ、


その戸から、ヌー・・と出てくる人影が見えた、


何だかドキドキする、ホラー映画のワンシーンを思い出す、


あれは、


ドラさんだ! ドラさんは生きていた! 良かった! ちょっと心配した。


ドラさんは、階段越しにいるオレに気づき、振り向いた!


そしてドラさんは驚いた!


腰がそのまま引けて尻もちをつきかけた!

そんなに驚いたのか!?

玄関出て、偶然会った人にそこまで驚くのか!? やましい事でもしてたのか!?

ドラさんは尻餅つきそうでつかない、耐えている!

足がガクガクしている!

蜘蛛の巣が頭や肩にへばり付いた!

顔が面白いほど引きっている!

ああっ、鼻水が垂れた!


笑っちゃいけない!


「こ、こんばんわ!ド、ドラさんっ!」と冷静を装い挨拶をした。


ドラさんはすっくと立ち上がり、「・・・・」何も言わずに立ち去ろうとした、


オレを避けてなのか、踏みならされた道を通らず、目の前の空き地を通ろうとした、


怒ったのか?


「あ! ドラさん、そこ水溜りが、」と声をかけた、

ドラさんはそのまま歩みを進め、「水溜りがありますよ!」と言っても、


聞こえないのか、一歩、また一歩と進んで行った。


ドラさんはようやく立ち止まり、そしてオレの方へ振り返った、


振り返るより足元に気をつけた方がいいのだが、


ビチャァ・・


案の定、片足が水溜りにハマってしまった、

わざとハマってやったって感じなのか!?

それとも鈍くさいのか!?

そうなると思ったが、何にしてもオチを外さない人だ。

そして何を思ったのか、もう片方の足まで水溜りにハマってしまった!

足を揃えたからだ! 水たまりの中にだ!


ビチャァ・・、


・・凄い人だ。


・・水溜りのエリアにスッポリ収まったまま、オレを見ている、


水溜りで遊んでいる変な子供のようだ。


濡れても気にしないのか?


・・・やっぱりわざとなのか!? それともオレの忠告は届かなかったのか!? 届いていたが反応が遅かったのか!?もしそうなら遅すぎるだろ、いくらなんでもハマってから分かってもなぁ、

いや、ありえる! ドラさんなら・・・


人より、トロい・・、


しかも飛び抜けて、


そうなのか!


ドラさんは振り返ったまま、オレを見ていた!


ドラさんは「・・・・、」なんだ!? 何か言おうとしているのか?

今度は自分の足元を見ている、


ハマってしまってびょしょ濡れ状態の足元を見つめて、


鑑賞でもしているのか?


そして何事もなかったかの様に、また歩き出すドラさん。


何だったんだ? まるで分からない、どっちなんだ? それとも他に訳でもあるのか!?


昨日の夜明け前、雨が降っていた、


雨が降って気温は下がっていく、こうやって冬へと移り変わるんだろうとは思う。


だが、ドラさんは年代物のスーツを着こなし、ブカブカの革、合皮だろう靴を水溜りに浸け込んでいたのだ! 冷たくないのか!?


いつ見ても刺激的なドラさんだから、今、

気がついたことがある、


ワイシャツを着ず、地肌の上から直接 ジャケットを着ていた。


・・・寒くないのか?


いや、そこじゃない、


そこはそこでそーなのかもしれないが・・・


大丈夫なんだろうか?


・・いろいろ、


ああ、オレはなんて失礼な事を考えてんだ!

頭のネジが緩んでいるどころか、ネジが何本も抜けてハード本体が緩んでいると考えるなんて、ドラさんに失礼じゃないか! 大丈夫に決まってるじゃないか!


そう!大丈夫さ!


・・ギリギリなんとか。



・・・歩幅が狭いからなのか、


まだあんなとこを歩いているドラさん、いつまでも何かを期待して見続けるなんて相手に失礼な行為だ。


だが、見てしまう。


ドラさんはオレの中でエンターテイメント化している。


素晴らしい才能かなんか、分かんないけど、持ってる一流のコメディアンなのだ。


そんな風に思うのは失礼な事だろうか。


あっ!


・・ドラさん、


そう、今この瞬間!


滑って転んでしまっているのだ! ああ、泥だらけだ。


這いつくばっている、泥でも握りしめているのだろうか!


・・期待を裏切らないと言うのだろうか、


あ、こっちを見た!


オレはすかさず目を反らした!


もうこれ以上見てはいけない!そんな気がするのだ。


もうドラさんの事を考えるのはよそう、


ドラさんの顔をまともに見れなくなってしまいそうだ。


人の顔を見て笑ってしまうなんて、とっても失礼な事なんだから。




オレは部屋へと戻り、今日の晩ご飯は何にするか考えたが、いつもと同じで行く。


だが、今日は サッポロ一番 塩味にする、白菜と人参とキャベツがあるからだ。


はくさい♬、しぃーたけ♪、にーんじん♬! 季節のお野菜いかがですー♪、サッポロいっちっばん♬! 塩ら〜ぁ麺♪!


風呂は沸いていなかったので、薪をくべ火をつけ待つことにした。


それから十五分、ちょっとくらい冷たくたって構わないので、もう入っちゃう事にする。



もう、冬と言っていいかもしれないが、秋の夜長の湯船を楽しむことにした。


やはり湯はぬるい、それどころかだんだん冷たくなっていく感じた、


・・これは火が消えた、と考える方が正しい、かと言って、また服着て薪に火をつけに行くなんて、ヤダ。


・・ソフィーさんはまだ帰えって来ないのか、

・・仕方がない、


オレは風呂場の西側の窓を開け、「お〜い!上島ァ〜、いるかぁ〜! いいもんやるから降りてこいよぉ〜!」と204号室の上島に声をかけた。


ガラガラガラ〜!と204号室の戸が開くのが聞こえた。


「いいもんてなんだよ、」あ、バカがいた。


「いいから降りて来いって!」


「ああ!? 風呂入ってんのかぁ!? いいもんて何んだよ?」


「降りてこいって言ってんだろっ!」



上島は降りて来た、


風呂場の戸を開け、「おい! いいもんてなんだよ? ほんとにいいもんだろなぁ!?」と不機嫌かつ締りのない顔で言ってきた。


オレは現在、五右衛門風呂に浸かっている。


ぬるいのだ。


「おい、風呂がぬるいぞ! 沸かしてくれ。」


「・・・・は!?」


「は、じゃねーよ! 風呂がぬるいから沸かしてくれって言ってんだよ。」


「はあ!?・・・」


「はあ、じゃねーよ、風呂がぬるいから、わ・か・せ、て言ったんだよっ!遠いのか!? 聞こえねーのかぁっ!?」


「はあああぁッ!? ふざけてんのかぁっ!テメェーっッ!」


「ふざけてねーよ、オレはマジメだよ、マジメに風呂がぬるいから沸かせって言ってんだよ。」


「はあああぁ!? なんでオレが風呂沸かさなきゃなんねーんだよっ!」


「お前しかいねーだろがよおっ! いつもいつもソフィーさんばっかじゃ可哀想ーだろぉっ!」


「な、な、・・なんでそーなんだよ? お前が沸かしゃいいだろ!」


「オレはいま、風呂っ、入ってんだろっ! だからお前が沸かせよっ!」


「・・・・・」上島の顔が変な事になっている。


「・・・なんだよ、?」


「・・おまえ、それ おかしいだろ? 何でオレがお前のために風呂沸かすんだよ?」


「いいもん、欲しくないのかぁ?」


「いいもんて何だよ!? どうせお前の言ういいモノって、くだらねーモノなんだろっ!」


「お前が大好きなモノだよ!」


「大好きなモノ?・・・」


「ああ、」


「・・まさか!」


「ああ、そのまさかだよ。」


「・・・フィギュア・・・、なのか!?」


「カップラーメンだよ。」


「・・・・、」


上島が驚いているようだ、図星だったか。


「さあ何が欲しいか言ってみろ、マルちゃんか? 日清か? それとも1.5倍か? 望みのモノをゆーてみー。」


「ナメてんのかあっッ!!おまえッ!! いい加減にしろよおッ!!」


「湯が冷たいんだよおっ! 早く沸かせよっ! ラーメンやんねーぞおっ!」


「いるかよっッ!! ボケーッ!! 城島のアホーッっ!! わざわざ来てやりゃあ、湯が冷たいだとおッ!! そんなの知るかぁッ!!」


「あ、」


「・・何だよッ!」


「・・・湯があたたかくなってきた、」


「小便でも漏らしたのかぁっ! 」


「ああ・・、やっぱり温かくなってきたぞ、」


「はああぁ!? 自分の小便で生あったかくなったんだよっ!」


「・・ああそうか、」


「・・ああっそうだよッ!?」


「ソフィーさんが帰ってきたのか? それで湯を沸かしてくれたんだな、そうか、」


「おい、上島、」


「なんっだよッ!!」


「裏の釜炊き場に行ってソフィーさんに礼、言ってこいよ。」


「テメーッ!!いい加減にしろよッ!!」

上島は足元にあったプラスチック桶をオレの方に投げつけてきた!


カッコーォォン!・・コロンカラン・・

「危ねーだろって!! 当たったらどーすんだよッ!!」


上島はもう一つの桶、檜と思われる桶で再度、攻撃してきた!


オレは、攻撃する、守る、魔法を使う、回復の中から、守る、を選択した!


「このやろッ!このやろッ!」と言う上島の攻撃はオレには効かなかった!


なので、今度はオレが上島の持つ“檜の桶“と言う武器を取り上げ、そのままそいつで攻撃した!


角は痛かろう!


ちょうど桶の裏底、真ん中で攻撃した!


上島は何を思ったのか自分から頭を突き出し、どうぞ叩いて下さい!的な態度を取ったのでオレは真っ向からその期待に応えてやった!


パコオ〜ンッ!


響き渡った! いい音だ!


それと同時に檜の桶はバラバラに砕けてしまった!


しょ〜がない。


「痛っでぇ〜・・、ああっ!おまえっ、なんて事するんだよっ!桶がバラバラになっちまったじゃんかよおっ!」


「お前が最初に持ち出したりなんかするからだろっ!」


「あああ〜!知らね〜ぞ〜! この桶、ドラさんのだぞ!」


「何ぃっ!?」


「あ〜あ、♪知〜らね〜ぞぉ〜♪、♬知らね〜ぞぉ〜♬! ♪ド〜ラさんに言ってやろぉ〜♬!」


小学生か、お前はっ!


だがしかし! ドラさんのだとは思わなかった!


だって“檜“だぞ!


檜の桶を、なぜあのドラさんが持ってるんだ!?


ありえないだろっ! 拾ってきたにしてはちゃんとした桶だったぞ! そんなもの、ドラさんが・・


「おい、城島ぁ〜、おまえ大変な事をしちまったなぁ〜、」


いや待て、このバカが嘘言ってるとも限らんぞ! そ〜だよ、こいつプロのバカだし!


「この桶だけどよ・・・、実はドラさんの・・」


上島は言うのを止めた、


「・・ドラさんの、何だよっ!?」


「ドラさんの・・、」


・・ドラさんの・・!?


「形見の品なんだよ、」


「何ぃッ!?」


・・形見!?


「・・・形見の、品、・・なのか!?」


「・・ああ、・・知らねーぞ、まじ!」


・・形見の品、


そう言えば、ドラさんに身寄りがいたと言う話しは聞かない、


形見の品、となれば、ご両親か? それとも子供!? いやあ・・ドラさんにかぎって結婚なんてぇ、


・・・・湯が熱いぞ、熱すぎるんじゃないか!?


「おい、上島!」


「・・なんだよ、壊したのはおまえなんだからな!」


「・・・湯が熱い、裏行ってソフィーさんに、ちょっとお湯が熱いんですがって言ってこいよ。」


「ハアアッ!!まだ言うかあッ!!」


「早く行って来いよっ! 茹だるだろっ!」


「・・おまえと言う奴あ〜っッ!!」


「早く行けって言ってんだろってッっ!! 熱湯だよっ! 熱湯ッっ!!」


上島は風呂場の西側の窓を開け、ガラガラガラガッッタッガタッ!

「なんっだよッ! 建付け悪りーなー!」と言いながら、こじ開けた。


「おいっ! ソフィーっ! 湯が熱いって城島が言ってんぞオーっ!」


「おいっ、こらっ!誤解されんだろっ! オレが言ってるみたいに聞こえんだろがよっ!!」


「おまえが言ってんだよおッ!!」


「熱いぞっ!」ソフィーさんなのか!?


いつもなら、“湯加減どーですかー?“ とか、聞いてくるんだが・・


「お〜い!ソフィー! いね〜のかあ〜!?」


「おい! 上島、裏行って見てこいっ! なんかおかしいぞ!」


「・・・、見て来てやっからカップ麺、くれよな、」


さすがに上島も、様子に気がついたようだ。


上島は短い足を使って小走りで見に行った。


“おお〜い、ソフィー!“と言う壁の向こうから聞こえる声に、オレは耳をすました。


少しすると上島は戻って来た。


「おい、城島ぁ、誰もいねえーぞぉ、部屋に戻ったんじゃないかぁ?」


「・・それならいいんだけどよ。」



オレが風呂から上がったら「おまえの部屋まで取りに行くからな、カップ麺。」と言って上島は普通に帰っていった。


オレは湯舟に川からの冷たい水を足して、もう一度 風呂につかった。


ジャブゥ・・ザザザザ・・


風呂場が静かになっていった、


まだ、小さな虫の音が聞こえてくる。


冬の到来はもう少し後のようだ。


小さな一匹の虫の音を聞きながら湯船につかっていると、また誰かの声がしてきた。


「お湯加減はどうですか? 熱いですか?」


ソフィーさん!? いや、違う、誰だ!?


この声、ソフィーさんじゃない、どこから聞こえてくる?


オレは声がする方を探した。


脱衣所から!? 女性の声? (釜ボッコ)明かりがついているから人影が扉のガラス越しから見える、


「熱いですか? ぬるいですか?」ガラス越しの人影は、もう一度たずねてきた。


「あ、・・はい、ちょうどいいです。」


ガラス越しの小さな人影は お辞儀をするような感じに、脱衣所から出て行った。


オレは体も温まり風呂から上がる事にした。


いい湯だった、疲れがとれた、と言うより力が湧いてくるようだ。


脱衣所には藁の焼ける匂い、炭のような匂いがしていた。


釜炊き場に行ってみよう、脱衣所の引き戸を開けると冷たい風が吹いてきた。


ほてった体には気持ちのいい風だ、体の中を通り抜けていくようだ。


ああ、気持ちがいい。


このまま少しの間、風にあたっていたいと思いながらも裏に回って釜炊き場をのぞいて見た。


・・・誰もいない、さっきまでは誰かが居たように、薪が三、四つ、脇に置かれていた。


釜戸の蓋は開けられたままだ。


余計な事をしたと思われないだろうか? オレは釜戸に蓋をして、部屋に戻ることにした。


風呂場の前を通り過ぎる時、後ろを振り返った、


気のせいかな、何かの視線を感じたようだったけど。


あのガラス越しの人影は誰だったんだろう?


また、妖怪だったのだろうか?


だが、嫌な気、気味の悪い感じはほとんどしなかった。


なら、神格化された八百万の一人だろうか?


と、考える前に普通なら、“誰か、“を疑うものだが、この村に多大な影響を受け“させられた“オレにとっては、人と八百万様は一所に隣り合わせとなってしまっている。


オレの中ではそれが当たり前の事となりつつある。


・・慣れ、というのだろうか? だがそれも安心、安全が確保されての事だろう。


あの人面牛にも勝てる気がする。



野菜たっぷりの塩ラーメンで今日は締めくくろう。


201号室の戸を開けて、「よう、城島あ! 待ってたぞ!」


・・そいつはオレの部屋、四畳半にあがり込んで待ち構えていた。


「・・・・何で待ってんだよ、」どっと疲れが押しよせた。


「カップ麺をもらいに来た!」


オレはテキトーにカップ麺をプロのバカに手渡し、お帰り願おうと考えた。


「いやあ〜、勝手にもらってくってのも悪いかなぁ〜なんて思ったからよ、上がって待たせてもらったぜ!」


今まで勝手にもって行ってたのは忘れたのか?


「おい、もいっこくれ!」 やらない。


オレは今、人間であろうこいつを妖怪かもしれないと、普通に疑ってしまう。




どこからくるんだ、その脳天気さは!? なぜめげない、なぜそんなに無邪気に笑顔なんだ!? どーしてそんなに図々しいんだ!?


以前こいつが、言った言葉を思い出していた、


「オレは馴れ合いはしない、ろくな事がないからだ。」


・・それって誰に言ったんだろうか?


・・わからない、


明るく陽気な引き籠もりでオタクレベルはベテランさん。


もうお前に何言っても通用しないかもしれない、


きっとあれだと思う、バカは死ななきゃなおらない、と言うやつだ。


つまり上島は死ぬまで馬鹿という事だ。


天職だな。


「おい! 日曜日だぞ、忘れんな!」


「日曜日ぃ!? なんだよそれ! も、いいらか帰れ!」


カップラーメンを一つ与え、上島を退治した。


だからもうこのへんで、寝る。



そして静かな夜が訪れるのだ。


また、明日。





第二十四話 「明日は明日の風が吹くと思えてきた!」





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