第二十二話 「小田さんとちっちゃいおっさん」
二十二話 「小田さんとちっちゃいおっさん」
ありえない!
こんなのありえないっ!
玉村に来てから、オレはちょっとおかしいぞ!
・・そりゃぁ、前からおかしいと言われるかもしれないが、こんな事は今まで無かった事だ、
オレは二十六だぞっ! ありえないだろっ! なんでお寝ショするんだよっ! 考えらんないよっ! もぉーっ!
母さんがみかん箱にドライヤーを入れてくれてた!
ほんと、母さんはよく気がつくよな、いつも救われる。
だがこんな時にかぎって、みけつ様が突然現れたりするんだよなぁ、
急がねばっ!
やはりそうか、おしっこは黄色い、シミになるようだな、今度買うときは黄色いシーツにしよう。
ドンドンドンドンドン、
・・なんだ!? 足音!?・・これはもしかして、
オレの部屋の扉が、ガチャ・・と開いた、
「オハヨー! 城島ぁ、」
・・うえしま、
やばい! バカがやって来たっ!!
こいつこの前、なかちゃんかかなちゃんか、壊れて落ち込んでたんじゃないのか!?
朝っぱらから何でそんなにテンション高いんだよ!
昨日といい、もう立ち直ったのか!? 妖怪に食われなかったのか!? 不味かったのか!?
「おまえっ!! なんでそんなに元気なんだよっ!!」
「はぁ!? どー言う意味だよ? 元気じゃ悪いのかよ?」
「だっておまえっ、この前 妖怪に食われかけてただろっ!! なんでそんなに元気なんだよっ!」
「はあ!? 妖怪って何だよ? 昨日もそんな事言ってたよな、 ガキかよ、おまえ。」お前に言われたくない。
「なあ、そんな事よりよぉ、カップ麺 一個くれよ、腹減っちゃってぇー、へへへ」
「へへへじゃねーよ、やんねーよぉっ! だいいち、懲りてないのか? 犬のウンコをまた食う気か?」
「っ、あ、あれは嘘なんだろ?おまえはカップ麺の中にウンコなんて入れてないんだろ?」
「何でそう思うんだよ、」
「だってよぉ、カップ麺は密封されてたぜ、とーやって犬のウンコ
入れるんだよ、」なんだ、気がついたんだ。
「あれぇ!? それよりさぁ、なんでおまえ、布団にドライヤーあててんの? まさか、お寝ショか?」
やばいっ!!
「こ これはっ!」
「あ、そーだ、この前の着物着た女の子、あの子どこの子なんだよ、その子がお寝ショでもしたのか?」話しをコロコロ変えやがって、
はっ!? その手があったかっ!
みけつ様のせいにしてしまえば・・、いや待てよ、バレてしまったらまた、神通力とやらで何かされそーで怖い。
「じょーしまぁ、いくらなんでもその歳で寝ショー便はしねーよな、で、その女の子はどこにいるんだ? おまえの妹かなんかか? まさかおまえの子供か!? でも似てないよな、やっぱ拐ってきたのか?」
「あ〜、うるせー、それより、戸ぉ閉めて とっとと帰れよ! 寒いだろっ!」
「あ、わりぃわりぃ、」と言って上がり込んで来やがった。
帰れって言ったんだよ!
「なに入って来てんだよっ!」
「なあ城島ぁ、今度 メイド喫茶行かね? ちょー可愛い子ばっか揃った店知ってんだよ、行くだろ? メイドのカッコしてんぞ! お帰りなさいませご主人様って言ってくれるぞ!」
「・・メイド喫茶ぁ!?」
「おおっ!そうだっ、 帰るときなんか、行ってらっしゃいませ御主人様だぞっ!すげーだろっ!」
「ほんとにそんな事言うのか!?」
「そんな事って・・行ってらっしゃいませか!? 言うぞ! それに手も握ってもらえるぞ! 肩だって揉んでくれるぞ! ダーリン 浮気したら許さないっちゃ!とか言ってくれるんだぞっ! いいだろーっ!へへへへぇ、オプションだけど。」
そんなアニメみたいな事、実際にやったりするのか!? 信じられん、それに上島の言う事だしな。
「来週の日曜日、付き合えよ、お前にも
行かなきゃならない責任があるんだよっ!」
「なんだよ、その責任て?」
「・・忘れたとは言わせないぜ、おまえがオレの“那珂ちゃんだよ〜!“を弄んでくれたせいでオレの大事な那珂ちゃんが重傷をおっちまったんだぞっ、」
「・・重傷? フィギュアだろ、捨てないのかよ。」
「はあああッっ!?? 捨てるぅッッ?!? 何をぅッッ!? なっにっをっ!! 捨てるって言うんだよッッ!! ああッっ!?」
なに、ブチ切れてんだよ、朝っぱらからうるさい、
「落ちつけよっ、なに興奮してんだよ 、落ち着いたら自分の部屋に帰れ、おまえの豚小屋は204号室だろ、豚小屋の主よ。」
「・・・・」沈黙の上島。
「なんだよ」
「・・おまえ、友達いないだろ、」と言う上島。
「はっ、お おまえに言われたくないよ、」
「・・城島ぁ、おまえは分かってないな。」
「・・何がだよ、」
「・・おまえは先入観だけで人を判断するのか?」
はっ!?
「先入観てなんだよ・・」
「・・おまえはオレがオタクでフィギュアなんか大事にしてるから、友達なんていないだろうと思ってんだろ、」
先に言ったの、お前だよ。
「な、なんだよ、何が言いたいんだよ、」
上島がちょっぴりまともな事を言っているのか!?
いつになく真剣な表情だ、
・・壊れたのかな?
「おまえは人を外見や趣味趣向で、そうだ、と決めてかかるのか?」
「いや・・そー言うわけじゃないけどよ、」
「オレには友達がいないと決めてかかるのは人間としてどーなんだ!? オレはそんな奴、最低だと思うぜ。」
友達いないって決めてかかったの、おまえなんだけど、上島
「だけどさ、オレに友達がいないっちゃぁいないんだけどさ、」
やっぱりいないのか。
「オレにとっての友人と言うのは、広く浅くがもっとうなんだよ、だから馴れ合いなんてしねぇ、馴れ合ったってろくな事がない、」
おまえはオレに随分馴れ馴れしいけど、お前の言う馴れ合いはこんなものじゃないのか? 考えると恐ろしいぞ。
「なあ、カップ麺くれよお〜、な、」
馴れ馴れしいんだよ!
おまえの話に花は咲かない実にならない。
おまえの人生と言う “畑“は砂漠化が進んでいる事だろう。
いや、その逆で、カップラーメンという名の添加物の食い過ぎで、人生の畑はハエが舞う細菌豊かな汚染された大地となっている事に違いない。
そこは食虫植物が乱舞する楽園と化し、弱肉強食のエンターテイメントの舞台で、いずれ上島、おまえは嬉しそうにフィギュアに似せた餌に食らいつくのだ、
そしてハエと一緒に消化され、畑の肥やしとなっているのが、目に浮かぶようだよ、それも本望だろう。
その時は墓標を建ててやる、那珂ちゃんで。
長くなってしまったが、「おまえの楽園のためにやるよ、カップラーメン、好きなやつ持っていけよ、一個だけだぞ。」
「え!? 楽園てなんだよ? カップ麺となんの関係があるんだよ?」
とりあえずは無視する、だが 上島よ、おまえを見ているとオレの想像力は無限大に広がる一方だよ。
無職で引き篭もりでニートであるにも関わらず、なんでそんなに陽気で無駄に元気なんだ? “下“には“下“があるんだぞ、と教えてくれているのか? 自分の不幸を見せて、もっと不幸なオレがいるんだぞと、自ら締まらないバカみたいな笑顔で教えてくれているのか? 自己犠牲の精神か!?
ある意味 おまえはオレに夢を見せてくれているのかもしれない、おまえは人の役に立っているのかもしれないな。
「悪ぃーなぁ、カップ麺二つくれよ。」イラッとくる方が多いけど。
「来週の日曜だぞ、忘れんな!」と、言っていたが、メイド喫茶など興味がないおれは、行く気はまったくない。
外を歩けば、すっかり冬景色か。
ここへ来た頃は、眩しすぎるほどの夏の太陽でいっぱいだった。
蝉の声もうるさいくらいに鳴いていたし、ほんとに夏 一色だったが、
真冬の到来近しだから、草花が枯れて寂しく見えるし、歩く道も広く感じる。
聞こえるのは風の吹く音と たまに聞こえるカラスとスズメの鳴く声くらいで、ほんとに静かだ。
都会では雑音があたりまえのように聞こえていたが、玉村の大自然の音を除けばまさに、無音だ。
夜、寝ようとしてたら何やら、耳の奥で “ピー“ と言う耳鳴りみたいなものが聞こえてくるが・・、
意識すると気になって仕方なくなる。
玉村では昼間の外出先で、どこに行っても気になってしまうほど静かだ。
・・ぴーて言う音、ビーかな? 他の人もこんな耳鳴り、聞こえるよね、オレだけ!? 違うよね、
ああ、気になるっ! ああっ、気になるっ!
気になり始めたら気になるぅっ! なんか息苦しい・・、これ以上 息が吸えないっ! 窒息してしまうっ! 過呼吸かっ!
静かすぎるっ! 静か過ぎるっ!
玉村のカラスは朝から元気だ。
なぜかオレの頭の上で、よく聞こえるように “アホー!“と鳴く、カーカーではなく、アホー!だ、わざとやってんのかと思えてくる! 害妄想か!? アホガラスめっ! イーッてくるわっ!
日曜日の買い出しで、昼前から商店街へ行って乏しい商品の中から、タマゴと牛乳を二つずつ買い、豆腐屋で揚げ豆腐やうの花なんかを一通り買わされ、駄菓子屋でお菓子をたくさん買い、家に帰るところだ。
もう、疲れた。
・・肉が食いたい。
そうだ、肉が食いたい!
肉とは金持ちが食べる高級品というイメージがオレにはある。
だが、オレは社会人なのでお金はあるのだ。
お金はあるが、村には肉屋がない。
スーパーは当然ない。
何もない、そう思うと余計に肉が食いたい!
ハンバーグが食べたい! ウィンナーが食べたい!
マクドナルドのハンバーガーを十個食べたい!
ケンタッキーが食べたい!
唐揚げ弁当が食べたい!
ああ! ダメだ! どーしても食べたい! 我慢できない! 食べたい! 食べたいよっ!売人はどこに行けば!
その時、
“ジャバアッ!“ と、川で何か大きな物が跳ねる音がした。
商店街を左に曲がったとこ、コンクリートの橋を渡っていた時に その音は聞こえた。
のぞき込んでみると、
えっ!?なんだっ、あれっ!! 川の中から頭が一つ!落ち武者のような髪型だ! こっちを見ている、真冬の川にありえない! 心霊番組で見た写真に写っていた恐ろしい何かと同じじゃないかっ!
・・と、思ったら、
なんだぁ、小田さんじゃないか。
「こんにちわ、小田さん!」小田さんは左手を上げて応えてくれた。
寒くないのか? ダウンジャケットが必要な季節になってるのに、ほんと季節を無視する人だ。
小田さんは何かを胸に抱き抱えているようだった。
魚!? それもデカイ! なんだ? あの魚! 鯉!?
買い物袋が重たかったが、渡りかけていた橋を引き返し、道端にそれを置いて、小田さんの近くまで行った。
「小田さん、その鯉をどーするんですか?」と聞いてみた。
目つきの悪い小田さんは、一瞬睨みつけるように黙ったあと、
「・・食べるんだよ、お前も食うか?」と言われた。
誘ってくれた?「鯉をですか?」社交辞令かな。
「おお、そうだ、この後 家でこいつをさばくからお前も時間があるんならついて来い。」
これはちゃんと誘われているな、じゃあ、ついてってみよーかなー。
小田さんは捕まえたばかりの活きの良い鯉を地面に押さえつけ、取り出した出刃包丁で鯉の首あたりに切り込みを入れた。
うわっ!
生き物を傷つけるのは見慣れないから、引いてしまう。
首は落とさず切り込みを入れただけですぐにその鯉を、川につけておいた手持ちの網の中に入れた。
小田さんはもう一度川に入って包丁を洗い、その後は自分の体を軽く手早く洗い流して上がってきた。
「もう少し待て、血抜きしてるから。」
「川で泳いていた鯉って食えるんですか?」
「・・なんだおまえ、もしかして鯉、食った事ないのか?」
「ええ、」ふつう、鯉って食わないよな。
「まあ、待ってろ、すぐに食わしてやる。」
この後、オレは小田さんの家に招かれた。
小田さんの家は商店街の向こう側にある集落の一角にあった。
こじんまりとした古い木造平屋建ての家で、玄関に入らず横から奥へと入っていった。
サザエさんの家みたいだ。
小田さんと言えば、平太と、兄の昭吉の祖父に当たる人、なら一緒に暮らしているのかと思っていたが、どうもそんな感じには見えない。
家の庭は北側にあって広くゆったりしている。
そこにポンプ式の井戸があって、小田さんはさっそく水を汲すみ出し、タライと桶に水を入れた。
まな板に上がった鯉は、尻尾から包丁を入れ、あっという間に腹が開かれた、見慣れないオレは、かなりひいた。
背開きで内蔵は全て捨てられるようだ。
ウロコのついた皮は包丁を入れてまるごと切り取った。
ものの数分でさっきまで生きていた鯉は身だけとなっていた。
その後、「おい、お前は呑めるくちか?」と言われ、庭に面した和式の居間に通された。
小田さんは要領良く調理の準備を始め、ものの10分程で日本酒とさっきの鯉を唐揚げにしたのと、酒蒸しを出してくれた。
「まあ、呑め。」口数少ないが小田さんはかなりの人の良さにも思える。
オレは注いでくれたキリンビールと書かれた小さなコップに口をつけ、一口 いっきに呑んでみた。
今まで酒なんかほとんど飲んだことがない、だけどこの酒、
「・・美味い、」いい匂いがする。
「ハハハ、そうか美味いか、安酒だが上手に造られておるんでな、ワシはいつもこいつを飲むんだ。」
小田さんが笑ったとこ、初めて見た。
「これ、日本酒なんですか? 変わった匂いがしますね、」
「変わった匂い?・・なんだ、お前は日本酒を、飲んだ事がないのか?」
すごく爽やかな香りだ、アルコール臭さがほとんどない。
飲んだことがない訳ではないが、この日本酒は美味いとおもった。
一・八リットルのお徳用紙パックのお酒でテーブルの上にどかっと置かれた酒は、見るからに大衆の酒だ。
山田錦と書かれたその酒をコップ一杯呑んだだけで、オレはかなり上機嫌になっていた。
小田さんから、酒には種類とグレードがある事を教えてもらった。
いい日本酒は香りがよく、味との相性がよく取れていると言う事だ。
ちなみに山田錦とは、日本酒醸造に使われる米の品種名との事だ。
それに初めて食べた鯉は、
美味いと言うか、少しパサついて噛みごたえがあった、酒蒸しの方は、美味かったような感じ、と言う事にしておく。
オレはまだ、通の味には不慣れなのだ。
小田さんはオレにどんどん酒を勧めてきた、そしてオレもそれに応えるように呑み干した。
だから、かなり酔っ払ってしまっていた。
天地がぐるぐる回る〜!
を、通り越して 自分がくるくる回りだした
頃、
コンコン・・
と、縁側を通して庭のある側の戸を叩く音が聞こえた。
・・風か? と思ったが、小田さんは、すっくと立ち上がり、縁側の戸を開け、誰かを招き入れた。
小田さんの後ろから、そいつは入ってきた。
小柄なそいつは滑稽だった。
目は鋭く座っている、人生は無情だと結論を出したような目だ。
悪く言えば犯罪でもやらかしそうな目だ。
体は小さな子供サイズで子供の服を着ている、何なんだ!?これは!
子供なのか!? いや、どー見ても顔はおっさんだ、無精髭!? と言うより顔も体もやたらと毛深い、ケモノなのか!? だが二本の足で歩いている、
このアンバランスな格好は何なんだ!?
そいつはオレの前にあぐらをかいて座った。
かなり小さい体だ、テーブルから頭だけしか見えない。
・・こいつオレを睨みつけているのか!
・・人殺しの目だ、
・・ちっちゃいおっさんに殺されそうで怖い。
半分、酔が冷めてしまった。
小田さんは隣の台所から茶碗に盛ったご飯を持って来て、オレの向かいに座るそいつの前に置いた。
そして未だ箸を付けていない鯉の唐揚げをそいつに渡した。
小田さんはまた、コップに注いだ山田錦お徳用紙パックを一気に呑み干した。
・・・・。
なぜ、無言なんだろうか? 説明はないのか!? 紹介はないのか!?
オレは現在、硬直中である。
そいつはご飯を食べ、唐揚げも食べ、一緒に出されていた煮付けものも、美味そうに食べた。
そしてそいつは 「おかわり!」と、小田さんに言った。
子供の声だ、声変わり前の子供の声だ!
その顔で子供の声か!? 気持ち悪いぞ!
そいつはまた、ご飯をかっ食らった。
次にそいつは 子供の声で「オレにも酒を注いでくれ。」と小田さんに言った!
子供じゃないのか!? やはり大人なのか! チョー老けた毛深い、ちっちゃいおっさん顔の子供と言う訳ではないと言う事か!?
おっさんと思われるそいつは食後の後の山田錦、お徳用紙パックを美味そうに呑み干した!
・・イケるくちのようだ。
なぜ自己紹介がない? ちっちゃいおっさん! お前はいったい誰なんだ?
「おい! おまえ!」
っ!!
ちっちゃいおっさんがオレに話しかけてきた!
「おまえ、じょうしまだな?」オレの名前を知っている!?
「そ、そーだけど・・」
「今回の生け贄はおまえか! アハハハ!」と笑いやがった!
しかも、忘れようとしてすっかり忘れていたのに、 思い出してしまった。
生け贄だとおっ!?
「・・あんた、なんなんだよ、生け贄ってなんだよ!・・いきなり、」
「ふふ・・ オレかぁ、オレは」
「まあ、呑んで呑んで。」と山田錦お徳用紙パックをすすめる小田さん。
「お! おう、いつも悪いな、そうだ! ちゃんと女神には言っといたからな。」
「おお、そうか。」と小田さん。
めがみって女神!? またそっち? ファタジー? そーなのぉ!? 小田さんとちっちゃいおっさん、二人でファンタジー!? えー!?
あ〜! 気持ち悪くなってきたー、飲み過ぎたかな。
「おい、おまえ! 」とちっちゃいおっさんはオレを見て言ってきた。
「・・なんですか?」と、なんか感じ悪いので トーンを下げて答えた。
「今回の人柱はお前だろ?」
え!? ひとばしら? それは人身御供などと同じ意味合いを持つ言葉か!?
なんでこのちっちゃいおっさんが “みけつ様の言った言葉“と同じ意味合いの事を聞いてくるのだ?
「そうなんだろ? へへへ、おまえも大変だよな、・・これから。」
「どー言う意味ですか? それにあなたは誰なんですか?」
「オレか、へへへへ ・・みけつと同じだよ。」とちっちゃいおっさんは、なんとなくカッコつけたのかな?と言う感じで答えた。
オレは少し沈黙した、そしてちっちゃいおっさんを、じっと見つめた、と言うか、軽蔑を込めて見つめた。
少し動揺したのか、
「なんだよ!?」と自分から声をかけてきた。
“みけつと同じ“ ? みけつ様と同じ神だと言いたいのか? どー見たって神様なんかには見えない! みけつ様も神様には見えないが、どー見たってこのちっちゃいおっさんは妖怪にしか見えない!
それに眼つきが悪すぎる! ちっちゃすぎる! それになんだ!? テーブルが邪魔してよく見えないが、なんで子供服着てるんだ!? サイズがないからか!? よく見りゃ、アニメの女の子が描かれてるよ!! うわぁ〜 普通に怖え〜!
アニメT着てるおっさんが同じテーブルで酒飲んでるよ〜! 上島の友達か!? いやっ、あいつに友達はいない、ニートだからな! いるはずがない! ・・オレもいないけど。
このちっちゃいおっさんの頭だが、テーブルから頭だけ飛び出して見える。
まるでテーブルに乗っかっている生首だ、テレビで見た時代劇のさらし首にも見えなくもない。
だか、このちっちゃいおっさんが みけつ様と同じ神とは想像できない!
みけつ様の中身がどーであれ、とても愛らしい春名先生似の美少女だ。
このおっさんに至っては神と言うより妖怪に見えて仕方がない。
小田さんよりもフサフサな頭皮だが、フサフサを通り越して、毛皮だ、服を着る必要があるのだろうか?
着ている服は子供服、それも女児が着るだろうセーラームーンに似た、中国製ですと言わんばかりのTシャツにハーフパンツをはいている、足が短いからちょーどいいのだろう。
「なんだよって言ってんだよっ!」とちっちゃいおっさん。
このおっさん、顔が赤くなってきた、興奮しているのか? それとも赤面しているのか?
分からない。
なぜこのおっさん、女児が着るだろうアニメTシャツを着ているのだろう? そこが一番気になって仕方がない。
神様だろうが妖怪だろうが、毛深すぎるとか、どーでもいい!
なんで女児の服なんだ!? わざとなのか!? そーなのか!?
分からない。
それにもう、冬の到来だよ、寒くないのか? Tシャツ一枚で。
フサフサな毛皮だから寒さを感じないのか?
分からない。
分からない事がだらけで、何を話したらいいのか分からない
女児のTシャツの何から聞いていいのだろうか? そもそも聞いちゃっていいのだろうか? 相手を傷つけたりはしないだろうか?
待て待て、話が脱線する事はよくある事だが、今は女児Tの話なんてどーでもいいんだよ!
このちっちゃいおっさんがなぜ、人柱を知っているかだ。
小田さんは なぜ何も言わないんだ、やはりみけつ様やたそがれさんのように 神格なのか!? それとも神という名の妖怪なのか!?
待てよ、そもそもこの玉村の神様って、みんな神様に見えない、たそがれさんやみけつ様、自称 神様の上島の爺さん、ま、爺様は除外だけど、どれも神様らしくない。
このちっちゃいおっさんが “人柱“って事を知ってるって事がひっかかる。
それとなぜ女児Tなのか、だ。
「なに、黙ってんだよ!」
こいつ、オレの考えてる事が分からないんだな。
仮に百歩譲って神様だって事として、このちっちゃいおっさんは、みけつ様みたいに 心を読む事はできないんだ。
「あんたの名前はなんて言うんだ?」と聞いてみた。
「名前!? そんなの何だっていいだろっ!」
「いや、普通はよくない、オレは玉小学校で年少組の担任をしている城島茂と言います、あんたは?」と聞き返すと、そのちっちゃいおっさんは答えるのに抵抗を感じている様子だった。
「この方はお稲荷様の一人でコン太様だよ。」と小田さん。
お稲荷様!?
え!? て、どー言う事!? たそがれさんと同じって事!? なんでコン太!? 名前なのか!?
・・・コン太、コン太!?
・・コン太って言ったの?
・・・マジ?
小田さんは相変わらず眼つきが悪く笑顔がない、冗談じゃないのか。
ちっちゃいおっさんと性質が似ているのだろうか?
しかし、このちっちゃいおっさんの名が、
コン太だとは・・・。
・・信じていいのだろうか?
小田さんに笑顔がない、やはりマジなのか!?
動物園で園児に「このきつねさんのお名前 はコン太くんと言います、みんなよろしくね〜!」と、飼われている動物につける名前のようにも思うのだが。
・・・・、
まさかとは思うが!
ペット!
ペットなのか!? そーなのか!?
お散歩から帰ってきたコン太が突然家に入ってきて出された餌を食べると言う流れはまさにペットだよ!
だから小田さんはオレに紹介しなかったんだよ! なんだそーかぁ。
いやいや待て待て、相手は人間の言葉を喋る生き物だぞ! なぜそー考える!? オレはバカなのか!?
真剣に考える自分が怖くなる。
小田さんに笑顔がない、ちっちゃいおっさんもだ。
「おまえっ!」と、ちっちゃいおっさん、え!? ペットだっけ?
「さっきからなんだっ!! おまえはっ!!」
「え!? オレ?」
「そーだよぉっッ!! お前以外、誰がいんだよぉっッ!! ほんとッ人間てのはクズだなっ!! 身の丈の高さも考えずになっ!」
「な、なんだよッ! あんたっ! 身の丈の高さってなんだよっ! 自分の事言ってるのかぁっ!」
その時小田さんが間に入って、「まあ、堪えてくれ、」と、オレに酒を注いでくれた。
「コン太さん、すぐにカッとなるのはよくないぞ! あんたの悪いところだ。」と言って、コン太にも酒を注いだ。
コン太はその後、大人しくなり子供のようにしょげているようだった。
このコン太と言う奴、結局はこのとき、何者なのかはわからずじまいだった。
明日、春名先生にきいてみれば何か分かるかもしれない。
それにしても小田さんはほんとに何も喋らないんだな。
酒をかなり呑んだからだろう、その後の記憶が定かでない、昭吉と平太が小田さんに呼ばれて来たとこまでは憶えている。
「ああ〜っ! 先生だぁ〜! なんで先生が爺ちゃんちに来てんのぉ!?」とやかましいくらいだったが小田さんが、笑顔で二人を相手していた。笑うんだと思った。
あのコン太も昭吉と平太の二人とも以前から知っていたらしく普通に話していた。
かなり酔が回った後だったが小田さんは玉村に走る玉川の事をいろいろ教えてくれた。
小田さんの子供の頃は村でも鯉はよく食べられていたらしい。
たが女の子にはあまり人気がなかったみたいだが他にもアマゴやイワナと言った川魚や広く浅い早瀬には鮎もいて、初夏には村の子供たちが素手で何十匹も捕まえたりしていたそうだ。
川魚と言うのは岩陰に隠れる習性があるので、数が豊富なら手を突っ込んだだけで捕まえる事が出来ると言う事だ。
「それを家に持って帰れば母親が喜ぶ、わしらは遊びながら捕まえるから楽しい、一石二鳥という訳だ。」
そんな話を聞いているとき、小田さんが経験した事を、まるで自分が体験したような気持ちになって聞いていた。
酒の力か、小田さんの話しが上手なのか、色鮮やかにその光景が目に浮かんでいた。
夏の玉村をオレは知らない、来た当初は何も知らなかったから、美しい景色は絵画を見る感じで、芸術的センスのないオレはそれ以上は何も思わなかった。
「自然と言うものは後ろ姿しか見せてはくれん、だか こちらから誠意を持てば振り向いてくれる。」
人に例えた言い方なんだろうが、見返り美人というやつか。
出会いから、どう接するか、どんな経験をするかで大きく変わってくる。
その経験はオレの心を大きく揺さぶり、感情はどこまでも高揚するに違いない。
そしてそのとき、とても幸せな気持ちに包まれる。
その事をオレはもう知っているのだから。
それと小田さんは春名先生が言っていた事と同じ事を言った、
「お前はこの村の一番偉い神様に選ばれてここへやって来たんだよ」
「・・僕は頭も悪いし要領も悪い、よく教師になれたと自分でも驚くほどなのに、なぜ僕なんですか? 他にも優秀な人はたくさんいるのに、」
「・・それはわしにも分からん、だがお前と言う人間が神にとって必要なんだろう」
「一番偉い神様って誰なんですか?」やっぱり みけつ様なのか。
「この玉村で一番偉い神様は、五穀豊穣の神様で女神様だ、」と言う小田さん、みけつ様じゃないなか?
「それって、みけつ様の事ですか?」と聞いてみた。
「ああ、そうだ、よく知ってるな。」と言う小田さん。
「みけつ様ならいま、春名先生の家に居ますよ。」と教えてあげた。
小田さんは少し考え、「春名先生って井上の娘の事か?」
「ええ、それに今、オレの教室で みんなと一緒に授業受けてますよ。」と、それも教えてあげた。
すると小田さん、「おまえ! 酔いが回ってるな、アハハハ! 面白いよ!」と、信じてない様子だった。
確かにオレは酔いが回っていた、だから一緒に「そーですかぁ、アハハハ!」と言って自分も笑っていた。
「ホントだよ、爺ちゃん、みーちゃん オレらと一緒に勉強してるよ。」と平太と昭吉が賛同してくれた。
おまえら! みけつ様をみーちゃんと呼んでいるのか!? ありなのか!?
「ああ、そうか。」とまるで信じない小田さんだったが、コン太の一言で、
「本当だぞ 小田、みけつは今、人間の家に住んでるぞ。」
小田さんはコン太の言う事を信じるみたいだ。
それからは「拝謁するにはとーしたらいいんだ!?」「昼間は学校、夜は人間の家に行けば会える。」とか、「みけつ様はすぐに御隠れになったりはしないな!?」とか、「おかくれって何だ?」とか、「こうしちゃ居られんっ! すぐに村の衆を集めねばっ!」など。
小田さんは今にも会いに行こうとするが、酒が入っているからみけつ様に失礼にあたるとか言って、次の日、月曜日に「皆の衆を集めて井上の家に出向こう。」という事になっていた。
オレはその後の事は覚えていない。
第二十二話 「小田さんとちっちゃいおっさん」




