第二十一話 「キツネにでもつままれているのか?」
第二十一話 「キツネにでもつままれているのか!?」
あれは夢だったのだろうか?
パジャマ姿のみけつ様が突然、オレの夢枕に立ち、いや、正確には正座していたんだが。
「今日はここを寝床とするえ。」と言って勝手にオレの布団に潜り込んで、 寝てしまったのだ。
春名先生の家に行ったんじゃないのか!? 赤い着物はどーしたんだ!? そのパジャマはなんだ!? まさか、春名先生が子供の頃に着ていたパジャマなのか!? と、いろいろ考えていたら、
「ちと臭うえ、日和に干すとええ。」 と、教えてくれた。
布団が臭いと言うことか?
そんなに臭いのか!? オレは気づかなかったぞ!
結局、みけつ様は子供のように寝付いてしまったので、そのまま寝かせておくことにした。
夜は恐ろしいほどに冷え込む。
オレはいったいどこで寝ろと言うのだ?
この時オレはこれから絶対に必要だと思った物がある、
コタツが欲しい、ヒーターが欲しい、広島の婆ちゃんが火鉢で餅を焼いてた! ストーブなんかもいいかもしれない、ヤカンを置けば湯が湧く! スープが飲めるじゃないか! 食後のコーヒーだって飲める! セレブみたいだ! それに 芋が焼ける! 美味いかもしれない! おでんも出来るぞ! いい味がつくに違いない!
そんな事を考えていたのを憶えている。
気がついたら朝だった。
オレはちゃんと自分の布団で目が覚めたのだ。
あれは夢だったのだろうか?
みけつ様は 今日はここを寝床とするえ。と、言っていたが、オレの夢枕に 何しに来たのだろうか?
ただ、寝に来ただけなのだろうか? 迷惑な話しだ。
そして次の日となった今朝、いつものように、川に落ちた事は なるべく考えないように学校へと出勤した。
春名先生に昨日の事を笑われたらどーしよー、
ドキドキしながら職員室に入ると、驚いた事にそこにいたのは、春名先生と、校長先生、
それと、あの赤い着物の少女、私服姿のみけつ様だった。
「おはようございます! 城島先生! 今日は素晴らしい日ですよ。」と、言う校長先生
オレは唖然としてしまった、
「城島先生、みけつ様はこれから私の家に住んでいただく事になりました。」
「春名先生の家にですか!?」
なぜだ!? なぜそうなった!? このお洋服はまさか!春名先生が幼き日に着たと思われるが、そーなのかっ!? 何がどーなっていると言うのだ!? 分からないっ! 分からないぞっ!
この少女とは昨日会ったばかりじゃなかったのか!?
まず、目の前にいるこの少女は一体何なんだ!?
「みけつ様ですよ、城島先生。」
ええっ!? 校長までもが心を読むのか、いや、違う、ただの偶然だ!
だがしかし、この少女に限っては偶然なのかと疑ってしまうほどに絶妙なタイミングが重なりすぎる!
これではいかがわしい事を考えられないではないかっ!!
心の中を覗かれてると思うと、とっても落ち着かない!
春名先生も校長先生も、なんで笑顔なんだ!?
みけつ様ですよって、そんなんで納得いくんですか!? だいたいどこの子なんですか!? この子はっ!?
みけつ様って神様って言ってなかった!?
神様です、城島先生。と言っているようにも聞こえるんだが。
「ププププ」女の子が、オレを見て笑った、・・笑われたのか?
何がおかしいッ!?
「おまんの顔〜」
え!? おまんのかお、・・・・オレの顔がおかしいとっ!? いやっ、そこじゃないっ! またオレは心を読まれたのかっ!? 怖いぞっ!! 落ち着かないっ!! 落ち着かないぞっ!! これはあれだ! 大学時代の被害妄想に行き着いてしまう! みんな、オレをバカにしている、軽蔑しているんだ!って思ってしまう、だからだれも声をかけてくれないし、こちらからかければ無視されると言う、負のスパイラルに陥ってしまうのだ!
嫌だっ!! こんなの嫌だっ!! おかしすぎるっ!! こんなのは間違ってるッ!!
「じょーしまの顔が可笑し〜!ハハハハ!」
「だ、ダメですよ、そんな事言っちゃ、」
オレ一人が狐につままれたとでも言いたいのかっ!! ああ、そうか、それならそれでいいさっ!
「春名先生っ!」はっきりさせてやるよぉッ!!
「この子は一体何なんですか!?」 茶番はもう終わりだっ!!
「え!?・・この子は、みけつ様、・・・です。」
はああああーっッ!!?
「いえ、ぼくはそんな事を聞いているのではなくて・・!」否定してしまった! 春名先生に嫌われてしまう!! そんなの嫌だっ!!
「城島先生、こちらの可愛らしい女の子は、」
そうだ!落ち着かなければ、
校長はこう説明してくれた。
この自称、みけつ様を名乗る幼い少女は、
「とりあえず、神様という事で。」
・・・・・
何を〜っッ!? とりあえず神様って何なんだよっ! とりあえずなのか!
と、言う事なのだが、
納得行くかっ!
この少女の目は一心にオレの方へ注がれている、無邪気な瞳だ! 心が丸裸にされているようだ! 心が見透かされている! ああ! 嘘がつけない! こんな幼女に!
怖い! 目を見るのが怖い!
人が怖い! 目を見るのが怖い! 対人恐怖症だ! オレはうまく歌えているだろうかッ!?
「城島先生、みけつ様の素性に関しては、念のため、となりの岩田村と市の方へ迷子届けを出しておきました。その間は責任をもってわたしと春名先生でお預かりすると言う事になります、納得いただけるでしょうか?」
なんだ、・・・そうなんだ、最初からそう言ってよ。
「あ、そうですか、分かりました。」腑に落ちない感もあるが、ま、いいか。
「そう言う事ですので、その間は城島先生のクラスでみんなと一緒にお勉強させて下さい。よろしくお願いします。」
「あ、はい。」え!?
オレのクラス?
ガラガラガラガラララララ〜 と、教室の扉を開ける音。
「え〜、転校生を紹介します、今日からみんなのクラスメイトになります・・・、お名前は・・・」
校長は「お名前はみけつ様ですよ。」と言っていたが、「あ、いえ、あの苗字はー・・?
」
「ないみたいです。」そんな訳ないでしょ、
「いや、そんなはずは、名前はみけつ、なんでしょうか?」
「城島先生、神様を呼び捨てにするのはいかがなものかと、」
「いえ、あのそんなつもりは、・・では、どう呼べば、いいのでしょう?」
と、いう事だったので、
「みけつ様です、神様です、みなさん仲良くして下さい。」
からかわれているのだろうか?
絶対におかしい、校長も春名先生も二人してオレをからかっいるのだろうか!? エイプリルフールは4月だし、何かのサプライズ的な事だろうか?
「え〜みけつ様あ〜!? ほんとにみけつ様なのぉ〜!?」とクラス全員のどよめきとともに、なぜか、照れまくるみけつ様。
子供たちは“みけつ様“、自体を理解しているようだ。
「じゃあ、みけつ様は北本の隣りの席に座って下さい。」
事前に用意した机に座らせた。
歳格好も近い北本の隣がいいだろう。
ざわめきはこの日一日終わらなかった。
北本のやつ、緊張してたのか、今日一日、配置遊びをしなかった。そのかわりにみけつ様が北本をマジマジニコニコと直視するように見ていた。
そりゃあ、緊張するわな そんなに見られりゃ。
この子たちはみけつ様を 本当に神様と信じたのか!? まあ、どおでもいい、校長も春名先生も二人して そう言ってんだから。ふん!
オレはやはり、オレ一人が仲間はずれにされているようで、納得いかない。
実際にオレもたそがれさんを見ているが・・・、最近 あれは夢だったんじゃないかと思い始めている。
夢と現実は境界線がはっきりしていれば、区別はつきやすいものだ。
もし、その境界線が分からなくったら妄想癖かなんか、精神を患う事になるだろう、だから、本来なら天使降臨や神通力などの出来事を“神の御業“と安直に捉えるのは精神を危険に晒すことにも繋がる。
まして本物の神様が、導くために惑わす力をみせつけるだろうか?
もし、本当に神がいるなら、死ぬまでお目にかかる事はないだろう。と、思うが、あのみけつ様やたそがれさんのように、神的扱いをされていて、実際に見る事が出来ると言う事は、
・・・何が目的なのだろうか?
御玉神社の爺様は、オレが悪いものを呼び寄せていると言っていた、精気に群がるあの黒いものや人面牛の事などの事を言っているのだろうが、もし、それらの類いを呼び寄せる性質があるなら、なぜ玉村の神様はオレを迎え入れたのだろうか?
かりにみけつ様が神様だったとしよう、オレを見て“人柱“と言っていたが、・・どうやらみけつ様自身、初めからオレを知っていた訳ではない言い回しにも聞こえた。
気になるのは春名先生が、何かを知っていて、どこまでこの不可思議な現象を知っているか、なのだが。
今日の授業がすべて終わると、職員室に戻りずぐに帰り支度を始めた。
「城島先生、私が育てているイワナですが、」
校長が話しかけてきた、今朝のあの人を小馬鹿にした態度を考えると、素直に話せない。
「イワナ、ですか?」トーンを低く言ってみる。
「ええ、数がかなり減ってまして、なぜ減るのかが、どうも分からないんですよ、」
イワナって、校長が校舎の片隅で育てている魚の事か。
正直、どーでもいいんだが、「イワナですか ? 野良犬かなんかの仕業じゃないんですか?」と言ってみた。
あたまの片隅では 夜中に、ドラさんが捕食しに来ているのではないかと考えたりもした。
そんな話をしていると春名先生が藤原孝子や他の生徒達と一緒に職員室に入ってきた。
「あれ〜、先生!」
「なんだ、平吉、お前たちも一緒か。」
その中心にいたのは 子供らしい服を着た、みけつ様がいた。
ジーンズ生地のワンピースに、ピンクのジャケット、ワンピースの胸元にウサギか何かのワンポイントがある 。
前髪を横に分け髪留めで留め、額を見せている。
今朝は春名先生とみけつ様が一緒にいるのに驚いてしまって、今日一日中、みけつ様をちゃんと見ることが出来なかったが、
こうやって、見ていると 普通の女の子だ。
ほんとに偉い神様なのかぁ!? と、この風貌だと誰でも思うはず。
なぜ幼女なんだ!?
今更だが、需要と供給なのか? チョンマゲ頭のおっさん連中の前には 金髪、青い目の天使は現れないと言うやつなのか!? やっぱ座禅組んでる中肉中背、パンチパーマのお釈迦様じゃなきゃダメなのか?
日本はオタクの聖地、国内は元より、世界中から“アキバ“と呼ばれる聖地へと人々は集まり、そこをオタク発祥の地と称されたりする。
大金はたいてジャンボジェット機で、大西洋や太平洋、はたまたユーラシア大陸を飛び越え アキバへと、パンツが見えてる人形を買いに来るのだ! わざわざ!
ワカメちゃんじゃないぞ! それ以外の萌的な人形だ!。
アホなのか?
上島みたいなのが世界中にいることになるぞ。恐ろしい。
だが、やはりあれか! 玉村の神様である みけつ様は、世間様のニーズに応えて “幼女“と言う設定なのか!
だから幼女なのか!
八歳児と言えば世間では、鼻垂らしておしっこ漏らして、おもちゃ買ってと、嘘泣きしているお年頃ではないのか!?
そうなのか!? どう見たって みけつ様は北本と同じ八歳児にしか見えない! お寝ショだってしている年頃だろう! 毎晩、世界地図描いて社会の勉強をしているに違いない!
ど〜見たって、玉村で一番えらい神様には見えない!
ハッっ!! 殺気っ!?
みけつ様!?
みんなに囲まれているにも関わらず、いつ帰ろうかとタイミングを図りながらデスクの前でソワソワしているこのオレにっ!
みけつ様が睨んできているっ!!
なぜだ!? なぜ睨む!? 北本といい、なぜ、八歳児はオレを睨む!?
はっ!!
今思い出した!
みけつ様は オレの心を読むような感じがする!って言う事!
まさか、本当にオレの心を読んでいるのか!?
超能力なのか!? 神通力なのか!? 同じ力でも使う人によって呼び方が変わるのか!?
そんな事はどーでもいい!!
ああっ!! そうだっ!! いい事思いついちゃった!
フフフフ、なんだ、簡単ではないか!
アハハハハハ! そーだよ! この手があったじゃないかぁ!
今からオレは、ある事を考えてみる事にする。
それはこんな事だ!
“みけつ様は可愛い、とってもとっても可愛い、世界で一番可愛い、可愛いすぎる“ とか、考えてみた。
フフフ、
すると、
思った通りだ。
みけつ様の表情が変わっていく!
目を逸らした! 照れたのか!? そーなのかっ!?
“なんて美少女なんだ! 可愛い!可愛い!可愛い!みけつ様は可愛い! 可愛いすぎる!“
あぁ! みけつ様が顔を真っ赤にしているっ!真っ赤にしているぞ! やはり心を読んでいるのか! 思った通りだ! アハハハ!
あ! みけつ様がこっちを見た! 顔を真っ赤にしながらこっちを睨みつけている! 怒ったのか!?
よし、ではこれならどうだ! “みけつ様は世界で一番美人だ! おまけに偉い神様ときている! 否の打ちどころがないじゃないか! さすがみけつ様!“ と考えてみた。
みけつ様が、“フン!“て言う態度をとった!
口をとんがらせて怒った素振りをしている!
あ! またオレを見た! 肩をチョッピリ怒らせて“いい加減にしてちょーだい“的な態度をとっている。
今度は 肩をすぼめて下を向いた! なんだ、オレをチラチラ恥ずかしそうに見ているようにも見える! まるで、ツンデレだ!
今度はまた、怒ったぞ! 肩を怒らせ、“いい加減にしてちょーだい!“的態度だ! ますます怒っていくぞ! 地団駄でも踏みそうだ! いや、オシッコを我慢しているようにも見えるぞ!
みけつ様の小さな口が大きく開いた! “恥 ずかしいとこ見られちゃった!“ みたいな表情だ! なんだなんだ! 泣きそうだ! 下唇を噛んで、今にも泣きそうな顔をしている! 漏らしたのか!? そーなのか!? アハハハ!
ミケツ少女が叫んだ!?
「オシッコ漏らしよーたのおまんやえーっ!!」 えっ!? オレっ!?
「どおしたんですか!? みけつ様!」春名先生と周りにいた生徒達が喋るのをやめて黙りこくってしまった。
「もーっ!怒ったっ!! じょーしまぁっ!! おまんに天罰をくれてやるえッッ!!」
なっ!??
なにこの子はっ!? なに恐ろしい事を言っているのだ!
オレは座っていたデスクから立ち上がった!
物凄い危機感に襲われている! 怖いぞ! 物凄く怖い! なんでオレはこんなに恐れているんだ! 8歳児に!
「じょーしまなんかぁーっ、オシッコちびりゃえーっッ!!」
なに!? オシッコをちびれ!? なに言ってんだ!!
と、思ったその時、
オレの股間のあたりが生温かく、そして広がっていくのが感じられた!
それってぇー、と考えていたら、オレを見るみんなの顔が青ざめていくのが見てとれた!
太腿から足首にかけて垂れていく!
それってぇーと、いろんな事をいっぺんに考える事は苦手だったが、仕方がないからと考えながら、オレは自分の股間に目をやった。
濡れている!
この前、転んで膝っ子増が破れてしまい、ちょっとオシャレになったジーパンの股間が濡れている!そして広がっていく!
止まらない!
ああ・・・、止まらない。
みんなが見ている、
あまり見ない子もいる、ああ、春名先生の生徒達だ、なんだそうか。
あれだな、ほぼ、全生徒だな。
なんか可笑しいぞ! みんながスローモーに見える、わかったぞ! これは走馬灯のちょっと遅いくらいの速度なんだ!
春名先生の表情が少しづつすごい事になって行ってるぞ! ハハハハ! 笑ったら失礼だぞ!
いやっ待てっ! 今はオレが大変なのかもしれないのだっ!
・・・みけつ様が、
笑っている。
一人だけ、すごく楽しそうだ!
さっきは怒ってたのに、もー笑った!
「じょーしまがおしっこチビリょぉーたあ アハハハハハハハ!」
「城島先生!! どうしたんですかっ!? 大丈夫ですか!?」
春名先生が血相を変えている!
オレはなぜだかわからないが、今頃 事の真相が見えてきた!
・・オレはおしっこを漏らしたのか!? そーなのか!?
ああああッッッ!!!
股間が濡れているぅーッッ!!!
・・・なぜっ!?なぜ今気がついたッ!!
イヤアアアアーッッ!!!
みんなが見ているぅーッッッ!!!
アアアアアアアーッッツ!!!
イイイイイイイーッッッ!!!
ウウウウウウーッッッ!!!
え!?
大人だよ! オレ。
大人のオレが漏らすわけないじゃん!
・・・おちゃ。
お茶だよ、これ。
大体なんでいま、お漏らし!? 寝小便ならまだしも起きてるよ、オレ。
いやいやいやいやー、寝小便もここ、十五、六年、してないから。
起きながら漏らすなんて、起き小便!?
ないないない!
おちゃ。お茶だってえー。もおー。
アンモニア臭い。
「み、みんな! 今日はみんな帰りなさい!」と、春名先生は今までにない慌てっぷりで生徒達を職員室から追い出した。
そして春名先生はものすごく引きつった笑顔でこう言った。
「お、おちゃ!・・おちゃでもこ、こぼしたんですか!?」と、言葉もすっごく引きつっていた。
オレはおしっこを漏らしたと言う自覚はまるでない。
ボケるにはまだ早い。
だが、漏れているのだっ!
「おしっこやて言うておるえ。」
「みけつ様!! 帰ったんじゃないのかっ!?」
「今日はおまんと一緒に帰ることに決めたえ。」
「えっ!? なんでオレと!?」
「おまんの腹のあたりから精気が流れてる。」
まだどこからか漏れているのか!?
オレはみけつ様が言ったように自分の腹のあたりを見た。
すると今、さっきまで見えなかったあの黄色い靄がだんだんとはっきり見えてきた。
「みけつ様、お泊りになるのは私のおうちでって、決めたでしょ。だから今日も私のおうちです。」
「えー、今日はじょーしまの汚い部屋がええ!」
汚い部屋だとおッ! 春名先生に誤解されるだろッ!
「ダメです。」
「え~・・ なら、いつならええのんやぁ?」
「いつなら、・・て、」
・・・股間が冷たい。
「あのなぁ、じょーしまの汚い部屋に 虫の垢がたくさん付いてるえ。」
・・・もう、冬なんだ。
「え!? 城島先生のお部屋、みけつ様、それは・・」
・・・黙って帰っちゃおうかな、・・ダメかな? 寒いよ、冷たいよ、体力が奪われていくよ、なんだか眠くなってきた・・。
「城島先生! これから城島先生のお部屋を掃除したいんですが。・・・ダメでしょうか?」
「え!? 掃除?」オレは今、倒れそ~なくらい疲れ切っている!
今日じゃなきゃダメなのぉ〜!?
あっ!! 春名先生がうちに来る!!
・・・いまわダメたよお〜、
なんで掃除!? さっきみけつ様が “じょーしまの汚い部屋“と言ったから、それを信じたのか!? 何てことだ!
みけつ様ぁーっ!! 8歳児っ!! 余計な事を言いやがってぇーっ!!
「・・・ダメですか? 城島先生、」
「あ、いえ、ダメってことは・・」
股が濡れてるんだぞ! 一緒に歩いて帰るのか!? この状態でか!? どんな顔して帰れと言うのだ!
「わああ〜い! じょーしまぁ、帰るえー!」と言って みけつ様は元気よく教室を飛び出していった。
帰るのか!? 歩いて、一緒に帰るのか?
「帰りましょうか? 城島先生。」と春名先生。
「・・あ、はい。」
職員室から 一歩、外に出ると、ああ 冬なんだなぁ。と実感してしまう。
股、股があまりに冷たい。
風が冷たい! 股はさらに冷たい! オレはダッシュで帰るはずだった! その間、誰にも会うはずく、アパートまで辿り着くはずだった!
なのにっ!
「センセーい! また、オシッコ漏らしたのかぁ! クックック!」
「昭吉くん、松岡くん、他 なにしてるの!? 早く帰りなさい!」
この糞ガキィッッ!!また、オシッコ漏らしただとおッ!! 忘れてなかったのかァッ!!
ああッッ!! 終わりだっ!! オレの人生、終わりだあッ!!
「さ、行きましょ! 城島先生。」
「じょーしまぁ、精気がいっぱい 出おるえ。」と先行くみけつ様が人事のように言ってきた。
誰のせいだよ。
精気がいっぱい出てようが、オシッコがいっぱい出てようが、
・・・もう、
・・・どーでもいい。
「おう! 春ちゃん! 今帰りかい? 城島先生、何だよそれ、漏らしたのかぁ! アハハハ。」
「源さん、これはお茶です!」パチンコはしない、大工の源さんだ。
「なに!? お茶!? アハハハ! 上手にこぼしたなぁ! どー見たってションベン漏らしたようにしか見えねーぜ! 風邪引くなよぉ! アハハハ!」
なにが、そんなに面白い。
なぜだ! なぜ今日に限って人と会う!?
「あら、春ちゃん、今帰り? この前の煮付け、美味しかったわぁ!」
「良かったぁ! 味付けはお母さんに教えてもらったんだけど、」
今度はお隣さんですか? そーですか。何百メーター離れたお隣さんなんでしょう。
「あ、小田さん! 今日は。川の水 冷たいでしょ。」
小田さんだ、カッパにそっくりの小田さんがオレの股間を 無言で見つめている。
そして川の横の道端では猿にそっくりな小野さんと出くわしてしまった。
また、春名先生を待ち伏せしていたのか? このストーカーめっ!
「こんにちわ、小野さん。」と春名先生。
「ウッキ。」挨拶をする小野さん。
・・・だかよく見ると、あれはサルだ! いや、違う、小野さんかもしれない!?
「・・帽子、かぶってませんね。」
「あ! ほんと、今の人 小野さんだと思ったんだけど、」
メガネをかけて、下駄はいたチンパンジーに見えるんだけど・・、たぶん 小野さんだと思う、あの猿はもう小野さんでいい。
「やっとバス通りですね、あ! バスが来ますよ、城島先生!」
ガッタンゴットン ブロロロ・・、“プップー!“ キッキーッ プシュー・・ガタン・・。
・・止まった。
「よお! 春ぅ! 今帰りかぁ? 乗ってくかぁ?」
梶山!
「梶山くん、バス停じゃない所に停めちゃダメなんじゃないの?」
「いいのいいの! 誰も見てないって! ・・あれぇ、城島ぁ! おまえ、その股のシミは何だ? もしかして、漏らしたのかぁ!? 嘘だろ! マジかよ! ションベン漏らす癖があるってガキどもが言ってたけど、ホントだったのかぁ!? アハハハ! 春、触るとお漏らし菌、感染っちゃうぞ! 離れろ!離れろ!」
「か、梶山くん! こ、これは!・・・お、お茶よ!お茶!お茶なの!」
梶山め〜ッ!! ションベン漏らす癖ってなんだよっ!!
「春ぅ〜、おまえ 嘘つくの下手だよなぁ〜、ハハハハ!」
「春ちゃん!」女性の声!?
「あ、みずほさん、」バスの窓から顔を出すみずほさん、他にも誰かいる、たくさんいる、今日にかぎってたくさんいる!
「今日ね、みんなと町までショッピング行ってきたのよ!」と言う みずほさん以外にも四、五人 女性が 梶山の運転するバスに同乗していた。
みずほさんをはじめ、みんなオレの股間を見ていた。
「城島先生、風邪引かないようにね。」と、みずほさん。
「・・・・。」大きなお世話ですよ。
・・・見られてしまった。
・・・村中に知られてしまった。
・・・お漏らし菌て、なんだ?
・・・学校からの帰り道、
・・・こんなに人とすれ違ったのは初めてだ。
・・・なぜ、今日にかぎって?村中の人が大移動しているのだ?
オレはつくずくツイてない。
ツイてないときはホント、ツイてない。
・・・ああ、早くアパートに帰りたい。
・・・閉じこもりたい、引きこもりたい、誰とも会いたくない、
そんなの嫌だっ!!
なに考えてんだ! オレはっ!!
負けてたまるかぁっ!! たかがお漏らしくらいなんだって言うんだっ!!
だがっ! オレはホントにお漏らしをしたのかっ!? 自覚がないっ!!
「城島先生、つきましたよ。」
ハッと我に返るとアパートの玄関前だった。
「ここと、ここぉ、こっちにもいっぱいついてるえ。」
「え!? ほんとお!?」春名先生は下から ほうきとバケツ、雑巾を持ってきて オレの部屋の戸とその周りの壁を雑巾で拭き始めた。
・・・なんでそんな所を掃除しているのだろうか?
・・・部屋の掃除だとばかり思っていた。
「春ぅ、そんなので穢れは落ちんえ、あっちがこの穢れ、祓おてやろうかえ?」
「みけつ様! そんな事が出来るんですか?」
「あっちはなんでも出来る神え、なんでも出来るんやえ!」
なんの話しをしているか、そんなのどーでもいい、
が、みけつ様は なんでも出来ると、自慢している事はわかった。
そのみけつ様は 自分の息を 玄関の戸と壁に、フー・・と吹きかけた。
と、どうじに背中から大きな風が、フワアァ・・と、壁と玄関に当たるのがわかった。
それは心地のいい風で、春の草花の香りを混ぜた優しい風、生命に満ち溢れた暖かい春の風のようだった。
季節はもう冬だけど。
それと同時に、さっきまでふさぎ込んでいたオレの心は、もう晴れやかな気持ちとなり、高揚感すら感じていた。
「フフフ、これでみんな、消えたえ。」とみけつ様は笑顔でそう言った。
「すごい! みけつ様、私には穢れた何かは見えませんが、なくなったのなら、良かったぁ。」と、喜ぶ春名先生。
いま、頭の中が澄みきっているから、分かる!
オレは漏らしたのだ!間違いない!
春名先生は みけつ様と 妖怪の類いを話し、オレよりもそれらの事をたくさん知っているのだと思った。
ここにはきっと あの人面牛や赤黒い奇形の動くもの達が残した 手垢のようなものがついていたのであろう。
それはみけつ様の言葉にあったように、穢れた跡なのだろう、“穢れ(けがれ)“とは 宗教上の言葉で、物理的な汚れではない、精神的、霊的汚れの事をさす。
このみけつ様、
小さな子供の姿をしているが、
やはり、神なのかもしれない。
神とは?
この場合、みけつ様やたそがれさんは、日本古来の神様に相当すると思われる。
たが、
これは本来ある姿ではない、浮世離れしている、現実と霊的世界が混在していることになる。
それは、この世界の“摂理“を無視することになり、成り立たない事を意味する。
つまり・・・
「城島先生! お風呂、沸きましたよ!」
ソフィーさん!?
「え!? お風呂!?」
「あ! この子が みけつ様ですかぁ! カワイイ!」
「みけつ様、ソフィーマルタン先生です、中学校で英語の先生をしてるんですよ! みけつ様もご挨拶してください、こんにちはって。」
「・・こんにちはぁ・・、」
「はい、よく出来ました。」
みけつ様が、はにかんでいる。
春名先生にしつけられているのか。
「なあ、じょーしまが風呂に入るのか? なら、あっちも入いてええかえ?」
「え!? みけつ様は私と一緒に入りましょ! ね。」
「えー! 昨日も入ったええ! 今日はじょーしまと入るぅ~。」
何言ってんだ!小娘っ! 春名先生と入っただとおっ!
ソフィーさんはオレが学校でお漏らしした事を知っているのか!?
同時に二つの事が頭に浮かんでしまう!!
「城島先生! 風邪引きますから、お先にどうぞ!」と、ソフィーさん。
・・・知っている。
・・・間違いない。
・・・なぜ、知っている? オレが漏らした事を。
・・・春名先生が 「城島先生がオシッコ漏らしちゃって。」と教えたのか!?
・・・いや、違う。
・・・春名先生なら、「城島先生がお茶!お茶こぼしちゃって。」と言うに違いない。
・・・では、なぜ知っている!?
初めて会ったあの日・・、
ソフィーさんをオバケと間違え、漏らしてしまった、あの日・・、
今日で二回目のお漏らしとは、もはや言い訳が出来ない。
「おお〜い! そふいー! 湯が熱いえ〜! ぬるくしてくれぇ〜!」
「あ! みけつ様がいない!」
いつの間にっ!
なに、先に風呂入ってんのかっ!? なんと言う早業だっ!!
「熱いて言うておるえ〜! これでは入れんえ、はよ〜ぬるくしてくれ〜」
春名先生とソフィーさんは突然居なくなったみけつ様に驚きつつも、居場所が分かっているので、あわてて一階の風呂場へと降りていった。
オレは、と言うと、
「おい! 城島ぁ!」
上島のバカを相手にするはめとなった。
「 おまえ、またションベン漏らしたんだってなぁ! アハハハハハ! 幼児かよ!おまえはっ!!」
「うるっせーっ!! お前にゃ関係ねーッ!!」上島の豚マン二つを握りつぶしてやった!
「あイデデデデデッッ!! イッテーぇだろッッ!!ションベンタレぇーっ!!」
「テメーッ!!妖怪に食われたんじゃなかったのかよッ!! なにっ!ピンピンしてんだよっ!!」
「はあああッ!? なに訳分かんねー事言ってんだよっ!!」
「どうせ、テメーの部屋は穢れまくってんだろッ!! 妖怪のすみかになってんじゃねーのかあっ!!」
「はっなっせよおッッ!!ションベンタレぇ!! カップラーメン、一個くれよ!」
「はあああ!? 何言ってのお〜っ!? よく、このタイミングで言えるよなぁっ!」
この後、オレはバカをほっといて風呂に入ることにした。
もちろん、春名先生と、みけつ様が風呂から上がった後だが。
今日の風呂は身体の芯から温まるお湯だった。
玉利荘の五右衛門風呂は体に良い気がする。
温泉の何倍も体に良い気がする。
みけつ様が入った後だから、尚の事なのか!
神様が入った後の風呂はどんな病もたちどころに治ってしまう神秘のお湯になっているに違いない。
商売が出来るんじゃないか?
そうだ!
いい事思いついちゃった!
これからみけつ様を先に風呂に入ってもらおう!
ダシが取れる!
その後はオレが入ることにしよう、そうしよう。
無病息災だ!
オレは知らない間に寝床についていた。
夢を見た。
みけつ様に釜揚げされる夢だった。
釜揚げの最中、オレは突然おシッコがしたくなった!
だけど みけつ様は決して釜から上げてくれようとはしなかったのだ。
だが、運が良い事に釜の中はお湯で満たされていたのだ。
オレは紳士だから湯船でおしっこはしたことなどない!
海水浴場でもない!
浸かってするなど言語道断だ!
だが、釜揚げしてくれないみけつ様が悪い!
もう我慢も限界なのだ!
そこでオレは釜の中でオシッコをした。
これでいいのだ! と、夢の中で思った。
次の日の朝、
きっとオレの顔は青褪めていたに違いない、
そしてオレは正座しながら布団を見つめ、太宰治の人間失格を思い出していたのだ。
第二十一話 「キツネにでもつままれているのか?」 つづく。




