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まこらみみらせ  作者: しげしげ
19/42

第十九話 「上島コレクション」

第十九話 「上島コレクション」




本来ならありえない現象を 目で見る事が出来ると言う事は、すなわち 昔見た映画で言う "シックスセンス"な訳だ。


そんなもの見えてしまったら 気が狂ってしまう。


だが オレが 昨日、春名先生たちと見たものは 死んだ人の霊、と言うわけではなく、妖怪と言う 不可解なものだ。


そして 第六感のように 日常的にお化け屋敷状態、もしくは肝試し状態が ずっと続くと言う訳でもない。


昨日のうちに 厄除けの綱を玄関に取り付け、電気をつけたまま寝たが、ぐっすりと寝れたようで 清々しく目覚める事が出来た。


おれは やはり、胆が据わってきたようだ、怖くなかった。


妖怪とは 発祥こそ分からないものの、自分自身がしっかりしてさえいれば 怖いものではないと言う事は分かった、が やっぱり あの姿は怖い。


だが、憑き物や妖怪と言われる類は 生きるため、存在するために、人に憑りつき 精気を糧とするのなら、不死ではないし、無敵と言うわけではない。


ではなぜ こう言った憑き物、妖怪のような不可解の物が "存在" するのか? どおやって "生まれて" きたのか? だ。


これは 今のところ 推測でしかないが、


・・・人間の思いや、"念" と言うものが 創りだした、後手に回った存在、なのではないだろうか。


つまり、人間が存在する、それ以前から存在するものではなく、人間が存在した、その後に生まれてきた不可思議な存在という事になる。


人間が創り出した、という事になる。


人間の 恐怖や不安、悪意から創り出された存在が、妖怪なのだろう。


それ以外にも 山や川、海には人間が存在する以前の太古から存在すると言われている、神がかりや魔物などの超越した存在を信じられ、これらは信仰の対象となり、絶対的な存在となる。


神や悪魔と言われる信仰の対象は 古来は自然そのものと考えられてきたが、今現在は 世界中、どこをとっても八百万信仰のような多神教から、キリスト教や仏教のような、一つの神を信じる一神教信仰が大部分を占めている。


他には、人間や狐などが、のちに神格化され、後手にまわる存在だが、信仰の対象となることもある、これらは多神教の流れからくる考え方だと思われる。


存在はしないが、存在しているものと、捉えるのは 人間が、信じる事で安心を得る生きものだからだと オレは思う。


宗教を活動し、神様を信じ、悪魔を信じ、幽霊を信じ、先祖の霊を信じ、運気を信じ、特別な存在だと自分を信じ、運命を信じる。


不幸が続くと 神社や寺に出かけて、お祓いをする。


人は 自分の想像を超えたとき、神秘的な事柄に依存してしまう。


または 依存することが出来なくなると 最後は 酒や薬、賭け事などに依存してしまう、人間とは 心のバランスが壊れやすく、弱い生きものなのだろうと思う。 



月曜の一時間目って嫌いだよね。


・・ああーやる気しねー。



いつものように職員室で 校長、春名先生を交えて 昨日の出来事、人面牛の話した。


すると それを聞いていた校長も 始めは驚いていたが、なぜか笑顔交じりで聞いていた。


・・昨日の出来事を 嘘だと、冗談だと思っているのだろうか?


春名先生も なぜか笑顔で 「ほんと 怖かったんですよー!」 と話すから・・・、


オレがおかしいの?


笑って話す事なの? と オレは "あちら"の話しと と "こちら"の話し で、宙ぶらりんのような感じとなっている。


朝の一時間目が始まる前に 何だか どっと疲れたような気がする。


・・こんな時って 妖怪さんがやって来て オレの精気を 美味そうに舐めるんだよな、


オレは ちょっと自分の腰回りを見ながら教室へと向かった。


あの黄色い靄の光は 見えていない、妖怪さんもいないようだ、よしよし。


一時間目の授業中に 今中の背後にまた、黒く(もや)のような影が見えていた。


オレは自分に言い聞かした、これは 妖怪や霊的なもので 脳卒中の前兆ではないと言う事をだ。


病気になって病院に行くのと、幽霊やお化け見てビビるのと、どっちが怖いかと言えば、オレはやっぱり 病院が怖い。


お化け以上の存在、それが病院なのだ、なんでそんなに病院が怖いのか?


え!? 皆さんは病院、怖くないの!? と、逆に聞きたい。


それは子供の頃から変わらない。


病気になって病院へ行くくらいなら お化け見てる方が、まだいいっ!


オレは一安心した。


・・だが、


・・何だろーねえ、あの黒い影は?


・・今中、


ま、いっか。


と言う事で この日の授業も 給食、食べて終わったのである。


帰り際、春名先生と職員室で 今中の黒い影の事を話してみたら、「私には見えませんでしたけど、城島先生が見えるんなら 何かあるんでしょうね。」と 言う事だった。


その他に オレが知らない今中の 家庭内の話しが少し聞けた。


母親は体が弱く、病気がちで町の病院に 入退院を繰り返しているそうな、病名などは分からない、父親は岩田村で酪農関係の仕事に携わっている、それと 歳の離れた兄が一人いて町の工場で働きながら 一人で暮らしていると言う事だ。


・・まあ なんだ、だからどーだって事もないんだけど、


・・今中の背中と言うか、肩にかけての あの黒い影は・・、たぶんとしか言えないが、あまりいいものとは思えない。


では 担任であるところのオレ自身は何を 今中にしてやればいいのか? と言うところだろうが やれる事なんて何もないだろう。



オレは こんな時 いつも考え 思ったことがある、


友達だからって プライベートまで入り込んで悩みを聞き、同情したって何の解決にもならない、


情けをかける事は出来るだろう、だがそれ以上の何も出来やしない。


オレが小学生や中学生の頃、周りにいたクラスメイト達はみんながそう考えていたんだと思う。


暗い顔してる友人の素性が分かったとしても それ以上 興味本位で聞くものもいなかった、


では 無視していたのか、


それは違う、みんな、知らないふりをしてそいつと接していた。


正確に言うと、いつもより ふざけたり 大きな声で喋ったり 何して遊ぶかの約束をみんなでしたりしていたと思う。


そうすることで 暗い顔が笑ってくれる、笑っていれば大丈夫だと、みんなそんな風に考えていたんだと思う。


家やどこかで嫌な事があっても "ここ" 学校に来れば笑ってられる、


だから "ここ" へ来たくなる、学校とはそんなとこだとオレは思う。


純粋な行動と言うのは そお言った人知れずな行為を自然に取れる者を言うんだと思う。


どっかの青春映画や マンガの世界では暑苦しい友情物語が流行っているようだが、本物の思いやりとは後になって分かるものではないだろうか。


同情や情けをかけられた者は かけてくれた者に感謝を示し、笑顔をくれた者には何も感謝しない、分からないからだろう。


今の時代は はっきり目で見えるもの 触れるもの 理解できるものしか知らずに歳を重ねて大人へとなり、社会人となる。


うつ病と言う心の病気が 死を招く、そんな社会が当たり前となったいま、これから未来も荒廃し続けるのかもしれない。


昔の人はよくこー言ったもんで、"可愛い子には旅をさせろ" "買ってでも苦労をしろ"


その意味は 教科書や数字では教えてもらえない事を学ぶため、言葉で作られた 親切や愛情ではなく、言葉では表せない本当の 親切や愛情" を知るためなのだとオレは思う。


"笑顔の意味" を知るためには今のご時世 上辺で解釈しすぎなのではないだろうか。



オレが今中にしてやれる事、それは


・・・ドッジボールかなぁ・・、だってあいつ 投げ方すら知らないんだから。なんてね。


何をしてやれるかなんて 今はまだ分からない、・・ほんとにわかんない。


だけど あの肩にかかる黒い影は無い方がいいと思っている。



それから数日が経って、平穏な日々が続いていることに 幸せを感じている! 何もない日常は素晴らしい!


あれから妖怪さんは御見かけしない、なんと素晴らしいことか。


御玉の爺様の言ってた事はほんとなんだろうか? 玄関に綱を輪っかにして炭になった木の切れ端を括り付けておいたが・・効果あったんだろうか?


ま、効果 あったんならそれでいいや、ああ それと、オレの部屋は 102号室から 二階の201号室に戻った! うれしー!


便所の匂いとドラさんの匂いで窓を開けたくなかった日々、挟まれるストレスはオセロみたいにひっくり返りそうだ! なんちゃって。



オレは今、学校から帰ってきたところだ、アパートの前で 201号室を見上げてみたら、


・・あれは 上島のバカが またオレの部屋の扉を開け 中へ入ろうとしているところだった。


ある意味 妖怪さんより質が悪い!


上島は オレのことには気づかず中へ入って行った、オレは アパートの階段をそっと静かに上り 自分の部屋までやって来た、たぶん じきにバカが出てくると思われる。


少しすると 玄関で ゴソゴソ音がしているのが聞こえる、出て来るな、と思った。


案の定 上島は カップラーメンと・・・


「ゥアアッッ!! なっ なんだよッ! おまえ 帰ってたのかッ!?」


「・・帰ってたのかじゃねー、・・お前は 性懲りもなくまた オレの部屋から ラーメン持って行こうと・・」


オレはぶち切れた!


「サッポロ一番まで持って行くんじゃねーッッ!!」


「まっまっ待てっ!! 待てよッ! お前っ! なんで怒ってんだッ!?」


「はああああッッッ!?? なんで怒ってんだあっ!? お前が盗っ人だからに決まってんだろッ!! 舐めてんのか、てめえッ!! いい加減にしやがれッッ!!」 と言って サッポロ一番しょうゆ味を 上島から取り返した! そして 緑のカップラーメンと、エースコックのわかめラーメン! それにチャルメラとマルちゃんとなんか分からないカップラーメンも 上島から取り返した!! どんだけ持ってこうとしてんだっ!! このバカはッ!!


「いっこくれよーぉ! なあ、なあ、」悪びれる様子もなしに 「くれだとおおおッッ!?」


「アアッッ!! そーだっ! 思い出したッ! 城島先生っ!!」


上島は 鼻水垂らしてヘラヘラ笑い出したので、なんか余計に立ってきた!


「おっ おいっ! はっ 春の裸の写真があるぞッ!! 見るかッ!?」


はっ 裸だとおっ!!


こいつ またしても 春名先生の、


・・なんて事だ!! こいつホントに持ってんのか!?


「・・へへ、見せてやるって、な、だから オレの部屋に来いよ! いっぱいあるぜ!」 いっぱいあるだとおっ! ・・いっぱいあるのか? ・・どんなやつなんだ!?


ああっ! いやいや、そーじゃないぞっ!


「な、来いって、今から 見せてやるよ、だからカップ麺くれ! その緑のやつ、な。」


・・・・。



オレはとりあえず 上島の部屋に行く事に・・・したかもしれない。


上島の部屋は 一番奥、西側の204号室だ、扉は開けっ放しだった。


「まあ、入れよ。」と言って 横のキッチンで湯を沸かし始めた。


「何してんだよ、入れって、いいもん見せてやっから、・・へへへ。」


上島の部屋は 一見 ゴミ屋敷の部屋に見えたが、・・何かが違っていた。


・・ピンク色!? パステルカラー!?


床は一面 ゴミ袋と食い散らかしたカップラーメンにお菓子の袋が散らばっていた。


「・・汚い」


「なんだよッ! じゃあ 入んなくていいんだぜッ!」


「カップラーメン返せよ。」


「いいから上がれって、奥は綺麗だから、」 奥ってどこの奥だよ、四畳半一間なのによ。


「・・靴は、脱ぐのか?」


「当たり前だろッ! 土足で上がる気かっ!? ソフィーじゃあるまいによっ!」


今日一日 履いてた靴下だから汚れたっていいか・・、だから上島の部屋に上がる事にした。


床のゴミを避けながら部屋の真ん中へと上がり込んだ、つま先立ちで。


狭い!


小さな台所は 玄関入って右手にあり、目の前はベッドが置かれている。


そのベッドの上にはゴミと美少女と思われる絵の描いた抱き枕が転がっていた。


・・抱き枕で何するんだ? ・・ゴミの中で。


フスマは開いていて 中はおもちゃのパッケージを思わせるものでいっぱいだった、手前には お気に入りなのだろうか、手作りの棚が天井まで何段にも備え付けられ、そこに 所狭しとフィギュアが並べられていた、中には 如何わしいものもあるぞ、・・キモイ。


パソコンが窓の右側に一台と後ろにもう一台 対に置いてある、その横の壁には手作りの棚が何段にも備え付けられ、そこにも 美少女のフィギュアがいくつも飾られていた。


壁一面には 美少女系アニメポスターが何枚も貼ってあり、天井にまで貼られてある。


恥ずかしくないのか? こいつ。


ああそうか、こいつとりあえず引きこもりだったっけ、いわゆるオタク、な訳だ、まさに 以前見た アニメの中のオタクと同じだ、"リアル"をお目にかかれた! ・・ちょっと感動!


ああっ! でも汚い! 歩けるスペースすらないじゃないか!


「そこ座れよ!」


「そこってどこだよ。」


上島がカップラーメンに湯を入れ、やってきやがった。


バカがパソコンデスクの椅子に腰かけ、使い古しの割り箸で食べ始めた。


三分待たないのか?


「おい、そこ座れよ、汚いけど。」


「ほんと 汚いよな・・。」


「なんだよ! じゃあ立ってろよッ!」


「食いながら喋んな! 口から飛び散ってんだろが、汚い!」


オレはとりあえず 変な事してるだろうベッドに、嫌だけど腰かける事にした。


「おい、どーよ! いいだろ、」


「何がだよ・・?」


「何がだよって、このコレクションだよっ! すんっげーだろ! ここにあるのは ほんの一部だけどよ、どれも初回限定版だったりするんだぜ! 中には知り合いに頼んで 作らせたフィギュアもあるんだぜっ! すっげーだろ! 一品もんだぜっ! どれだかわかるかぁ? 分かんねーだろー、ハハハハハ。」


分かるわけねーだろ! てか、なんで自慢してんだよッ! 持ってて恥ずかしくないのかよッ!? お前の考えてることが わっかんねーよ!


上島は 上機嫌だった。


そして カップラーメンをそれはそれは美味そうに ズルズル ペチャペチャ クチャクチャ ゲプゥッ・・と 不快な音を立てながら食べていた。


だから 軽く言ってみた、「なあ・・上島ぁ、毎回お前が オレのカップラーメン盗んでいくからさぁ・・だから その緑のやつに・・」


「・・・何だよ!? このカップラーメンがどーしたんだよ、」


「・・フッ、いやぁ・・だってお前も 悪いんだぜ、人のカップラーメン盗んだりするから、」


「はあっ! 盗んだんじゃねーよッ! もらたんだよッ!!」


お前にやったおぼえはねーッ!


「このカップラーメンがどーしたんだよおっ!?」


「・・まあ、なんだ、気にせず食えよ、三分待たずにそこまで食ったんだし、」


「気になんだろがよおッ!」


「・・・、犬のうんこ、入れてみた。」まあ、ふつう冗談だって分かるわな。


「犬のウンコだとおッッ!?」


・・冗談なんだけど、信じたのか!? こいつ驚くほど単純なのか!? ・・まあいいかぁ。


「・・犬のウンコの味、どーだった?」


上島は 絶句した!


ほんとに絶句しているっ! 顔が驚きのあまり、面白い事になっているっ!! 笑ってはいけないッ! もっと引っ張らねばっ!!


あ・・箸を落とした、・・マンガみたいな奴だな。


「・・あああッッお前ぇぇッッ!! 犬のウンコ入れたのかああッッ!!? マジなのかあッッ!!?」 冗談だけど、そゆことにしておこう。


「だから言ってんだろ、・・人の物を盗むと バチがあたんだよ! 分かったかぁ! これに懲りたら、」


「あああッッ!!! 何でそんなことすんだよおおッッ!!!」 ぅわっ! 顔がすごい事になってる! 表情、豊かなんだな、おまえ。


「ぅワアアアアッッッ!!! オレは またッ ウンコをッッ!!」



!?


またウンコを? え!? どゆこと? 二回目? うそぉ!


「うわああああああッッ!!!」 と言って 食べかけのカップラーメンをオレの方 めがけて投げつけてきた! が、動きが鈍いのでかわした! ラーメンの汁がベッドの布団の上に落ちたっ! こぼれたっ! ベチョベチョだあっ! えらい事になってなってしまった。


こいつ 残ったラーメンをオレに投げつけるとき、後ろに飾ってるフィギュアにかからないよう躊躇したんだな、で こーなったわけだ。


「うわあああああッッ!!!」 上島は泣き出した!


「お前がそんな事する奴だとは思わなかったああッッ!!! ああああああッッ!!!」


そんな事する奴って、そこまでの付き合いはないだろ!


「なあ、上島、」 上島は パソコンデスクにうずくまって泣いた。


「ぅああああああああんんッッ!!! またウンコを―、何でだよぉー、何でそーなんだよおおッ!!!」


「・・あ あのな、上島、」


「うあああああああんッッ!!」


「上島っ!」


「あああああああああッッッ!!」


「おい、上島ーっ!」 「あああああッッ!!! うるせーッッ!!! お前なんか 嫌いだアアアアッ!!!」 聞けよ!


ああ、なんか逆に腹 立ってきた! うぜーっ!


オレは台所側の壁に飾られているフィギュアを一つ手に取った。


セーラー服にスカートをはいてない、代わりにスクール水着を着ている、服はボロボロ、髪はボサボサ、


・・ちょっぴり笑顔で敬礼している・・、なんで笑顔? なんだこのフィギュアは・・。


・・なぜ!? この状態で ちょっぴり笑顔なんだ・・? 


なぜ 敬礼!?


ま・・マゾ・・? うれしいの? そー言うキャラなの? そーなの?


えええっ!? なんか いろいろ想像しちゃうんだけど・・


「アアッッ!!! 何触ってんだよおおおッッ!!!」 ・・上島が復活した!


「なんだ・・立ち直ったのか。」


「立ち直っただとおおおッッ!!! 立ち直るかあああッッッ!!!」


「うるせーなぁ・・」


「何がうるせーだアアアッッ!!!」


取り返そうと上島はオレに飛びかかって来た! 


「返せーッッ!! オレの那珂(なか)ちゃんだよーッッ!!! をををッッ!!!」


「はあああッ!? 何だってー?」


「オレの那珂ちゃんだよー! を返せーッッて言ってんだよぉぉッッ!!」


「はあっ何だってぇー!?」 


「ふざけてんのかぁぁッッ!! テメーッッ!!」


ふざけてんのはテメーの方だろ。


「はあ!? 何だとお! こいつの首根っこ へし折るぞおっ!」


右手に持った "那珂ちゃんだよー!"とかなんとかを軽く親指で頭のとこを押してみた、すると 「パキ・・」と言う音がなった、「・・あ」


「やアアアッッ めてくれええッッ!! ・・オレの那珂ちゃんだよーに 手を出すなあっ!!」


「・・・・、返してほしければ 犬の真似をしろ。」


「はっ!? ・・な、何言ってんだあッッ!! 犬の真似だとぉッッ!!」


上島の身長はオレより低いので オレが頭上に手を伸ばすと上島の両手は届かない、だから "那珂ちゃんだよー!" も 届かない。


「さっさとしろお! こいつがどーなってもいいのかああ!」 那珂ちゃんだよーの首を更に親指で押してみた、


・・バキ ・・パキ


「あああああああッッッ!!!! 人殺しいいッッ!!! おまわりさあああーんッッ!!! ここに人殺しがッッ・・」 ・・パキ


「あああああああッッッ!! ワンワンワンッッ!!」 上島は どーやら犬の鳴き声を真似したらしい、


「ほら! これいいだろッッ!! 返せよッッ!! 那珂ちゃんをッッ!!」


「・・・それのどこが 犬なんだ!? ちゃんとお座りしろよ!」


「お前ええッッ!!!」


・・パキ


「分かった分かったッ!! 力入れんじゃねー!! ・・これでいいんだろッ!!」 上島は ちゃんとお座りをした、半泣き状態だ。


「やれば出来るじゃんか! よし! 次は・・」


「はっ!? まだなんかやらせんのかッ!?」


「あり前だろッ!」 おまえ、ノリノリだし!


「それとも何か? お前は 那珂ちゃんだよーに対する愛情はそんなものなのかぁっ!?」


「お前に 那珂ちゃんのなにが分かんだよッ!!」


・・パキ


「ああああああッッッ!!! ・・もう、・・や・め・て・くれ~・・ 首がもげてしまうー・・」


いい事 考えた!


「おい、上島! お前は犬だ!」


「ふざけんなッッ!! テメーッ!!」


パキ、ポキ・・


「ゥわああああああッッッっ!! 恐ろし―ィィッッ!! 恐ろし―ィィッ!! 那珂ちゃんが死んでしまうぅぅーッッ!!」


「おい! 上島、こんな汚い部屋じゃ 那珂ちゃんだよーもきっと嫌がってるはずた、そこで お前に任務を与える!」


目の前の壁に 戦艦と一緒に描かれた美少女のポスターが貼ってあったので、"任務" と言う言葉を使う事にした!


「この汚すぎるお前の豚小屋の掃除を 命令する! "かなちゃん"(ではなく、なかちゃんです。) のためにも速やかに 豚小屋の掃除に移るべしッッ!」


上島の顔が 相変わらず変だ! 表情が崩れていると言うのか、母親に叱られた後の 幼児と言うのか、・・これ以上 イジメたらかわいそうな気もしてきた。


だから これは お前の為なのだ!


「・・・・、かなちゃんて誰!? ・・そんな子、いたっけかなぁ・・」 とりあえず 無視する。


「一刻も早く この豚小屋をきれいにしろっ! 上島五等兵ッ!」


「え!? ・・五等兵!? 五等兵なんて ねーよッ! なんでそんなに下なんだよッ! 上等兵とかあんだろがよッ! 五等賞に聞こえるだろッッ!!」


こいつ、食いついた! 兵隊ものに関心があるのか、戦艦と一緒の美少女のポスターが貼ってあるからな、あと、マイク持って歌ってる アニメのアイドルポスターも貼ってある。


「さっさと掃除しろって! 豚小屋の主よ! かなちゃんか、那珂ちゃんが泣いてるぞ! だから 十秒以内にかたづけろ! さもなくば 首をへし折るっ!」 と言って、このフィギュアが目に入らんかあっ! 的な態度を取ってやった。


「十・・、九・・、」


上島は「分かった分かったッ!!」と言って 散らばっているビニール袋と 大なり小なりのゴミをかき集めた。


「はーちっ! なーなっ! ・・さんにーいち!」 「あああッッ 間、飛ばしてんだろッ!! ちゃんと数えろよッッ!! もおおーッッ!! 早えーよッ!! もっとゆっくり数えろよなぁっ!!」 


そして 十秒は とっくに過ぎたが寛大な処置を取ってやることにした、ありがたく思いなさい。


集めたゴミは 玄関横に全部 出しておくように命令した。


埃が立つので 窓は開けて部屋の中の空気の入れ替えもしてやった。


「ま、とりあえずはかつたづいたな。」


上島は ちょっとやつれて不満タラタラの顔でこちらを睨み付けていた。


「・・・・、おい、もーいいだろ、那珂ちゃん返せよ・・」


「ああ 分かった。」と言って 窓の外に向かって、


「おい! 犬の上島! 返してやるから ワンワンと言って拾って来いっ!」 と言ってオレは 那珂ちゃんだよーを二階の窓から 外に向かってほうり投げた!


「あああああああッッッ!! あああッッ!! 信じらんねッッ!! 信じらんねええーッッッ!!」


実は投げ捨ててはいないのだ、投げ捨てたふりをしただけなのだ、ちゃんと 左手に持っているのだ、へへへのへ。


「アハアアアアーンッ!! アアアアーンッッ!!」 あ・・玄関を飛びたしていった! 気持ちの悪い叫び声とともに。


・・遠くの方で「那珂ちゃーんッッ!! 無事でいてくれーッッ!!」 と聞こえてきた。


・・バレなかったのか? 出て行ってしまったぞ、ちゃんとここに持ってるぞ!。


・・やりすぎちゃったかな、


・・まさか こんな子供だましに引っかかるとは思わなかったし、


・・なんだろ、あいつ


もしかして、・・素直、なのか? 疑う事とか、しないのか?


たしか大家さんも言ってたなぁ、「新平ちゃんは ええ子だったんだけどねー・・最近は子供に帰っちゃって、おもちゃばっかり」


とかなんとか。


・・おもちゃって、フィギュアの事だったのか。


・・て事は、村中で 上島がフィギュアで遊んでるって事を知っているんだな。


・・村公認だ。


あ・・ 窓から上島が草むらン中を必死になって探してる、


・・何か 独り言言いながら必死になって 探してる。


・・必死さが ここからでも伝わってくる。


オレは今、投げたと勘違いさせたフィギュアを右手に持って 上島の野良仕事を上から眺めていた。


「おいッッ!! このヤロおおーッッ!! どの辺になげ・・」


・・オレの右手に気づいたようだ。


さすが、獲物を狙う変質者のごとく鋭い!


アパートの階段を近所迷惑を考えもせず、ドンドンドンッ! と上がってくるのが聞こえる。


重量オーバーだ! 上島、アパートが壊れてしまう、ちょっとした地震だよ。


ガタっ、バンっ、 あ、玄関に上島 到着。


ドンドンドンドン・・ そのうち座が抜けるかもしれない。


「ハッ!! ・・・おれの・・・那珂ちゃんだよー・・、」


オレは上島に 那珂ちゃんだよーを返すことにした。


「・・ああ、お帰りぃー、那珂ちゃんだよー。・・ほんと 良かったなぁー、もー大丈夫だからなぁ、オレが一生 お前を守ってやるから。」


気持ちの悪い独り言だな。


・・頬ずりしている、涙ぐんでいる、よっぽど大事なんだな、


・・キモイんだけど。


「おいッ!! 城島ッ! ・・・ここに置いてるフィギュアはすっげーっ値打ちがあんだよッ! 分かるかぁっ、城島ぁっ! 艦これ好きにとっちゃあ 数万円は下らねーしろもんなんだよッ! この那珂ちゃんだよーはっ! ワンオフの一品ものなんだよッ!! 名前を伏せた原型師が小遣い稼ぎでヤフオクに出した 幻の一品物なんだよぉッッ!! 本来なら世には出ねーしろもんなんだよぉッッ!!」


「著作権を無視して 小遣い稼ぎをしたって事か・・?」


「はっ・・・、いやっ・・・そーじゃなくて、・・えっとー、あのだな、・・オレが言いたいのは ・・そこじゃなくて、・・この那珂ちゃんは世界でたった一つしかないと言う事なんだよ、・・つまりだな、この 那珂ちゃんだよーを欲しがるユーザーは日本全国にいると言う事なんだ! 分かるだろっ、その値打ちが!」


「そんなの分からない、・・お前の部屋には そー言った違法な物がたくさんあるよーだな、て事はわかった。ガサ入れが必要なんだろうな。」 ・・オレは今、とても嫌な人間かもしれない、


・・だけど、


「うッ・・・お前、また そんな事言うのか、」


「・・で、結局はどーなのよ・・、」


「な、なにがだよ・・」


「はは・・何がって、パソコンの中の・・あれだよ・・、処分したのか、」 ああ・・オレは 自分で言ってて恥ずかしい、


求めているのかぁ!


「何をだよ、・・・あ、ははーぁん、・・あれか、春の裸の写真か? え、そ-なんだろ、・・・ああー、どーしよっかなーぁ、おまえ 那珂ちゃんだよーを 弄んでくれたからなぁ・・へへへ―」


やっぱこいつは腹が立つ!


上島は パソコンデスクの椅子にふんぞり返って座った、


椅子がギシギシメリメリ音を立てていたからいつ壊れてもおかしくないと思ったので、ちょっぴりハラハラする。


上島は 那珂ちゃんだよーを パソコンの上に置き、腕組みをして短い脚を組んだ、ぎりぎり組める肉付きだ、いや ちょっぴり無理がある、・・ああ ちょっぴりではなかった、かなり無理がある、足を組む意味があるのだろうか? 小さなお相撲さんのようだ。


上島は 更にふんぞり返して座りなおした、椅子が壊れそーだ、ハラハラドキドキする。


オレは 今、ふと思った、上島を少し後ろに押すだけで椅子が壊れるんじゃないかと そー思ったのだ。


だから ちょっとだけ、人差し指で 上島の肩を 軽く押してみた。


「・・・? 何だよ、」と言う 上島。


次の瞬間、


ガタアアーンッッ!!! と上島の座っていた椅子は壊れ、背中から倒れ込んてしまった!


・・思った通りだった。


上島は 後頭部をパソコンデスクのテーブル部分に打ち付けた、そのはずみで、テーブルの上に置いてあったフィギュアが・・、那珂ちゃんだよー が、下に落っこちてしまった!


そして 那珂ちゃんだよーは軽く、コロコロー・・と転がり、そして 那珂ちゃんだよーの右腕部分と思われる・・腕が、コロコロコロー・・と転がって行った。


ああ・・、壊れてしまったんだ、とオレは冷静に思った。


そして その那珂ちゃんだよーは 運悪く・・、今 起き上がろうとする上島の手の平によって・・「何すんだよッ! じょ・・あ、」と言った瞬間、もう遅かった、バギッ!! と完璧に 壊れる那珂ちゃんだよー がそこにあった。



「アアアアアッ!! ゥワアアアアアアアアッッッッ!!那珂ちゃぁーんッッッ!! ウアアアアアアアッッッッ!!」


叫びまくっていた。


うるさい。


そーだ! もうここに居たってしょーがない、


よし、帰るか。


オレは 無言のまま、上島の部屋を後にした。


・・それにしても 少し 残念だった、春名先生の裸の写真をあいつは 本当に持っているのだろうか?


もし持っていると分かったら・・・、何枚か・・欲しい・・ あ、いや違う、ちゃんとしかるべき態度で接せねばならないのだ。


と、思った。


その日の夜、


上島は 夜遅くまでわめき散らしていた。


ここは 田舎で周りに 民家はないなので ソフィーさんをのぞいて近所迷惑となる事はない。


また今夜も インスタントラーメンだ、春名先生の・・・、写真があるって言ってたから行ってみたけど、・・・あいつの部屋なんて 行くんじゃなかった。



次の日の朝の事だ、


オレは 顔を洗いに行こうとしたとき、上島の部屋の方角がえらく騒がしかったので ふり向いてみると、


ッ!?


驚いたことに化物!! 妖怪らしきものが上島の部屋の扉を開け 中に入ろうとしていたのだ。


なんだ!?あの不気味な姿は!?


こんな朝っぱらに、無数の黒い塊のような、


気味が悪い、初めて見る不気味な姿をしている、人の形をしているが、真っ黒い姿であったり、腰から上がなくそこから手が生えて、その間には 毛がたくさん生えているものや、頭と思わしきものの下に小さな体と手と足がついてあるもの、足と言っても片方の足に 家畜の蹄が付いていたり、犬なのか猫なのか、人間の顔なのか、体なのか、どちらとも見てとれる姿の者、その姿は どす黒く、あざのように 青黒かったり赤黒かったりする、


ゾッとする!

そう思った瞬間、そいつらは オレに気が付きこちらを見つめてきた!


オレは さらにゾッとした!


体が変だ、異常に冷たく感じて、電気が走るように鳥肌が立っている!


恐ろしい!


そいつらはオレの方に身構えるように立っていた、その下、そいつらの足元からは 黒い虫のような小さなものが オレの方に向かって進んで来た、中には長細く蛇のようにクネクネと体をよじらせ オレの方に向かって進んで来るやつもいる! ・・だんだんそれは早く動き出し、オレの足元へとやって来た、


動けない!? 体が震えて動けない!


(もや)が!


オレの体から 黄色く光る靄が 波を打ち、流れ出しているのが見えるっ!! 御玉神社の爺様が言っていた、オレの精気を餌に集まって来たんだ!


黒い虫や蛇は オレの足に飛びつき上って来た!


気持ち悪い!


その後を続くように不気味な姿の妖怪たちが一斉にこちらへと寄って来た!


そして それらはさらに勢いづきこちらへ向かって来た!


どおしたらいいだっけ!?


どおしたら!


風・・?


そのとき、


後ろから暖かい、気持ちのいい風が そっと吹いてくるのが分かった、


と 同時に


「じょーしまー、あんなの寄せたらあかんえ」と 耳元で誰かの喋る声が聞こえてきた!


とっさに オレは後ろをふり向いた!

体が動いてくれる、


オレのすぐ後ろには 小さな女の子が立っていて、オレを笑顔で見つめていた。


着物を着ている、赤い着物だ、おかっぱの髪型に


・・ああそうだ! この子、春名先生に似ている! 美少女だ。


その少女は 少し照れくさそうに「へへー・・じょーしまーぁ あっちが居てやるえー、」と言って オレの周りをゆっくりと一回りした。


その時、さっきまでいた あの不気味な妖怪のようなものはすべていなくなっていた。


・・体が軽い、心地のいい風が吹いてくる、なんだろう、さっきの不気味な感覚から、今は何かに感動するように体がゾワゾワとしている。


いい匂いがする、春を思わせる四季の香り、花の香がする、なんて清々しい春の陽気なんだろう。


今は秋だけど。


オレは 今、何でもできると高揚している!


なんだこの高揚感は!? むやみやたらと高揚してくる!


なぜだろう、さっきまでの恐怖心は消え去り、何もなかったかのように、ただ朝の気持ちのいい日差しに包まれている。


とても幸せな気持ちでいっぱいだ!


「・・きみは、誰・・なのかな?」 と 赤い着物を着た その小さな女の子、北元くらいの少女に聞いてみた。


「あっちかえ? ・・ ・うーん、みけつぅ」


「え!?・・みけつちゃんなの?」 変わった名前だなぁ、


そー言えば、


・・今中の言っていた たそがれさんの話しに ミケツさんて言っていたような。


校長先生もたしか、偉い神様とか、


この時 この美少女の正体をオレは知らなかった。


だが、この女の子を神様だとは 誰が想像できるだろうか。


アニメ好きなら 「流れからして そんなの当たり前だ!」 と言われそうだが、


まあ、たしかに年老いた小汚い御玉神社の爺様より 美少女の方が言いに決まっている。


最近の需要と言いましょうか、TPOと申しましょうか、お狐様も 神様も 世間のニーズに応えているのだろうと思う。


だってそーでしょ?


もし、この玉村に 金髪の天使が舞い降りて 英語で喋られたら、何言ってるか、ソフィーさん以外は みんなわかんないよ、(フランス人だけど。)「時と場所を考えてくんないとぉー、何しに来たの?」て、クレームがでちゃうよ、ほんと。


「おい・・じょーしまぁ・・」


なっ!? 


その声は! 赤い着物の美少女ではないッ! なんと悍ましい声だ!?


振り返ると 上島がそこに居た!


「なんだ、お前か、」


上島は ものすごく! やつれていた。



「その子は誰だ? さらってきたのか・・?」と言う 上島。


「お前じゃねーのにッ! そんな事 するかっ!」と言い捨ててやった。


後ろから可愛い声で、「あれ、・・ほおておけば病気になるえー」と その着物姿の 小さな可愛らしい少女が言った。


「・・ハハハ、そーだね、だけど バカは病気になんてなんないんだよ。」


と、教えてあげた。


「はあ・・何だとおーっ!」 上島はかなり疲れているようだった、よっぽど かなちゃんか なかちゃんか知らんが ショックだったのだろう。


それと、犬のうんこ。


「・・・・もーいい」と 上島は トボトボ自分の部屋に帰って行った。


いま、気が付いたんだが、あいつの背中に 黒い靄がかがっている、・・・あれは確か、今中の背中に見えた黒い影と同じ・・?


それと もう一つ 気が付いた事・・、


以前は 直視すると消えていた あの黒い靄も 今、はっきり見て分かる。


「えーのかえ? こころのちーと、食われとーえ、」 え!? こころのちーと・・ なに? どゆ意味? 可愛い喋り方だなぁ、どこの方言だろ、それに この子はいったいどこの子なんだ? 赤い着物とは物々しいがぁ・・、


「・・そおか? これはあっちに作ろーてくれた 特別の装束なんえ。」


「・・え!?」


今、オレは喋ったかな・・? 


「喋らへんえ。」 と少女は言った。


オレの体中が ぞくぞくっとした、


・・まさかとは思うが、この女の子、


エスパーなのか!? さいこきねしすなのか!? テレパシーなのか!? 気づかないうちにオレは喋っていたのか!?


「城島センセ! おはよ!」と 大家さんの声が下の階から聞こえた。


「あ・・おはようございます。」 大家さんは バケツを持って 二階の通路にいるをオレを見上げていた。


もう一度 女の子の方に目をやると、その女の子は 消えて居なくなっていた。


鳥肌がたつ!


・・夢!? だったのか? ほんの一瞬、目を離した瞬間だったのだが あの赤い着物の少女はいなくなっていた。


・・やはり あの女の子も 神がかりの存在なんだろうかと、この時はそお思った。


そこには もう誰もいない、


・・さっきの悍ましい "何かたち"の気配も まるでなく、いつもの朝に戻っていた。


体のゾクゾクが まだ続いている。


大家さんは この赤い着物の少女には、気づかなかったようだ。


それにしても 次から次へと 不思議な事が 起こりすぎている、非科学的な現象を 現実のものとして考えてしまうと言う事は、いらぬ事まで考えてしまい、社会生活においてはいろいろと支障が出てくるだろう。


だけど シックスセンスみたいに 死んだ人の霊が見えてしまうと言う 日常が 常にお化け屋敷状態と言う訳ではない、恐怖心は 心を委縮させてノイローゼにしてしまう。


だが オレの今見ている玉村の 妖怪と呼ばれる類のものには 一定の条件が揃えば 目に見えてしまうようだし、寄せ付けない方法もあるのだから。


そして、この玉村には 春名先生のように不可思議な類に対しての先駆者いて、それらの対処のしかたもある。


御玉神社の爺様が言っていたように オレの心の弱さが 妖怪の類を引き寄せ、オレを始め、一番近くにいる 母さんや家族に 何らかの形で(わざわい)となって現れる。


オレは高校生くらいからだろうか、その頃から 何かに気負いし始めて 浪人中や大学時代には それがピークに達していた。


だから爺様は 「お前の事を一番に考える者が、身代わりとなって不幸を背負う事となるぞ」 と、言っていた。


たぶんきっと、母さんの事を言っているのだろう。


妖怪を近づけないようにするには どおしたらいいのかと 爺様に尋ねたら、「気負いしなければいいのじゃっ!!」と 大きな声で怒鳴られ教えられた。


その爺様の言っていた通り、オレの心が 恐怖や不安、疑ったり、ふて腐れたり 自暴自棄になったり、ネガティブな感情を抱くとき、あの 不気味な妖怪たち、人面牛や虫のように這う黒い影、人の形を留めない赤黒いものたちが オレの側へと近寄り、目に見える存在となるのだろうと思う。


それら、妖怪の類たちがオレに近づくとき、腰のあたりから 黄色い(もや)のようなものが出てくるのが見えるんだ。


あの黄色い靄が、"精気" なんだと思う。


つまり、あの妖怪たちは、“精気“を糧に存在しているという事だ。


オレに起こる この超常現象は 日常がお化け屋敷のシックスセンスなんかではなく、玉村の土地に古くから根付く因果や何らかの摂理に準じたものだと思われる。


これは 日本全国に伝えられる 八百万(やおよろず)信仰の原点になるのではないかとも、思えてくる。


さっきの少女も・・・


とても可愛らしい少女だったが 禍々しい不気味な物なんかではなく、


むしろその逆だった。


・・もしかすると たそがれさんのように 神格化された存在なのだろうか?


あの子は自分の事を"みけつ"と言っていた、


"みけつ"とは 今中の話しから、たそがれさんが 「みけつ様はいずこにあらすかね」とかなんとか言っていたと言うのなら、あの女の子は かなり位の高い神格とならないか?


・・いや〜、だけど、まるっきり子供だよぉ、


偉い神様ってーのは、ふつう大人だよね、お爺さんじゃなかった? やっぱり状況にあわせてTPOなわけ? 少女な訳?


ヨーロッパなら背中に白い翼をつけた金髪ねーちゃんだし、日本なら パンチバーマであぐらかいてるおじさんだし、インドなんかだったら 象のかぶりもんつけてる性別不詳の怪しい感じの人だったりするもんね、


ヨーロッパにパンチパーマのおじさんが現れたら「あんた誰?」って事になるし、やっぱ、需要と供給? ニーズに応えないと これからの時代は元より、信仰が成り立たないのだろう。


・・あの少女が 現れた時、オレの心と体は とても大きな安心感と高揚感に満ちていた。


・・それは温かく、明るく、そして・・


・・何て言うのだろうか、母親の持つ何かに似ているような・・・、自己犠牲をはらっても信じている包容力のような、


・・"絶対愛" のようなもの、信ずるに値するもの。



そんな感情を、オレは 年端もいかないあんな小さな女の子に感じてしまったのか、



変態だろうか。


ただ 今の段階で考えられる事は この玉村には禍々しい妖怪と、神々しい神格が同時に存在していると言う事だろう。


それらの中で 禍々しい妖怪たちは人の精気によって集まり、それを糧とする。


そして 妖怪に取りつかれたものは 気力を失い、体力も失い、自暴自棄へとなり、いずれ 身の破滅を招くものと思われる。


誰にでもあることで、妖怪と言うものは 本当なら目に見えないもので、存在しないものとされている、だが 気負いすることで、悪い事を考えたり、ふて腐れたりする、


その兆候として、オレはいつもウンコさん座りをしてしまう。


・・きっとそんな時は 妖怪がオレの回りに集まり オレの精気を吸っているのだろう。


そして 妖怪はいつもオレの後をつけ回し、"気負いする"時を待っているんだ。


餌をくれる者が誰か知っているように 後を付回す、


憑りつくのだ。


いずれは自分の身の回りには 禍々しい妖怪たちで溢れかえっている、そして悪い事は続く、と言うような悪循環が繰り返される。


オレは この玉村で見た事、聞いた事、体験した事の中で 妖怪の類が不幸を招く 負の連鎖を招くものとして考える。


憑き物は本来なら目に見えるものではないが、昔からお祓いや、お守りと言った魔除け行事として、いるかもしれない、またはいるもの、存在するものとして考えられてきた。


そして、その本来なら目に見えないのが当たり前な 妖怪や、邪や魔と言ったものが、この玉村では多くの村人たちに見られているという事だ。


神社、仏閣、古来から日本人はそれらに対し、尊敬と崇拝の思いに手を合わしてきた。


いわゆる、グレーゾーンな事柄だが、これからのオレの人生はそれらがすべてクリアに見えて行くんだと思われる。


そしてオレの人生は、死ぬまでそれらと関わりを持つ事になるだろうと思われる。


見てしまったのだから。




第十九話 「上島コレクション」





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