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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第十八話 「大きくなった人面牛」

秋の香り 印税 川魚 ダムの標高



第十八話 「大きくなった人面牛」





そのあと、オレと春名先生は みずほさんの店で昼食を取る事になった。


今日は日曜日だけど お店は開けてもらってるらしい。


百二十段の階段を降り、鳥居をくぐると 来た道とは逆に歩いて行くようだ。


この道は初めて通る、


「ここの道を真っ直ぐ行くと役場があるんですよ。」と言う 春名先生。


右手に小さくなった川が流れている、山から落ちてきたのか、流れてきたのか、大小 岩が転がりその間を川が流れていた。


「あ、蟹がいる!」 草色した蟹が数匹 岩場にじっとしているのが見える、


「・・沢蟹ですね。この辺には沢蟹やイワナもいますよ!」


"蟹と言うのは 海に近い川などに居たんじゃなかったのかなぁ、海から離れたこんな場所にもいたのか。


この先は 右手に走る沢蟹のいる小さな川は山側へと続いているようだった。


そして 植林をされた公園のような雑木林が続いていてその中を道が続いている。


小鳥の声が近くでたくさん 聞こえてくる、均等に立っている木から、木漏れ日が 日差しのカーテンを作っていた、それは歩く道に木漏れ日のカーテンを作っていたり、遠くに見渡せる木の下に木漏れ日のカーテンを作っていたりする。


風が吹くと 木漏れ日のカーテンは揺れ、鳥が飛び立つと 木の葉が落ちてくる。


とても綺麗な場所だ、季節は秋も深まった頃で 雑草に隠れる鈴虫やコオロギの声がまだ、聞こえてくる、そう言えば あれほど飛んでいたトンボはすっかりいなくなってうた。




この後、おとずれ に行って 二人とみずほさんの店で昼ご飯をとり、帰り道、春名先生のおうちに寄ることになった。


みずほさんのお店では今中の話が少し聞けた。


今現在、今中の家には母親はいなく、何年か前に年の離れた兄が中学卒業とともに 町へ就職した、それ以来、父親との二人暮らしと言うことだ。

母親がいないと言っても 体を壊して町の病院に入院しているだけで、いつかは分からないがいずれは帰ってくるだろうと言うことだ。


「私の家に寄りませんか? しんちゃんのお爺ちゃんが言ってた 綱と木の端くらいはあると思います。」 オレは「え!? いいんですかぁ?」と 行くつもり満々で答えた。



それから 妖怪を部屋から炙り出す方法も手伝ってくれると言ってくれましたので、ちょー嬉しいんですけどぉーっ!


部屋まで来てくれると言う事なんだな! この後だよな! 春名先生のおうちに寄って、その後だよな!


オレは心の中でスキップをしていた!


どーやらオレは 嬉しい時も悲しい時も 空想の世界ではしゃぐようだ、もう子供じゃないと思った頃からずっとかもしれない、と同時にそれではダメだと言う事にも気がついた。


ダメだ! 春名先生が横にいるにもかかわらず、現実を無視して空想の中で春名先生と手をつないでお花畑でスキップしている自分がいる、これが妄想と言うやつなのか、いつもしているじゃないか! なんで今まで気づかなかったんだ? それが妄想と言う事に! 妄想はいけない事だ! 不毛だ! 身にならない!


現実の世界で春名先生と手をつないでお花畑でスキップしなきゃいけないんだっ!


そうこう 妄想していたら春名先生のおうちについた。


春名先生の家の前は 田んぼが広がっていて、稲穂がこうべをたれている、田んぼと春名先生の自宅の間には 小さな用水路が南北に走っている、その用水路にかかっている橋を渡れば春名先生の自宅だ。


こうして見ると、春名先生の自宅は 右に古家らしき建物があり、納屋と言われる建物だろうか? その建物と直接つながっていて左の建物が住居となっている、南側だ。


春名先生は 「たぶん 納屋に 綱とか置いてあるんで取ってきますね。」 と言うもんで、「あ、ぼくも一緒に手伝います!」と言って 玄関から納屋へと入って行った、納屋と言ってもここは昔の台所だろうか? 土間にあたり、"おくどさん"と呼ばれるお米を炊くカマドがある、もう使われていないらしく、上には竹かごなどが置かれていた。


そのまま奥へと歩いて行った。


土間の幅は広くゆったりとしていて、そして薄暗い、土間の隅にはいろいろ古い物が置かれている、目についたのは、井戸が土間の中にあったり、昔の農耕機械だと思うが、太鼓を横にしたような形の物で、U字型の小さな鉄の金具が無数についている、足で踏めばそれが回ると言う物で、・・たぶん脱穀機だろうか?


その他、大きな石臼に、小さな物まであった、木製の古い樽や桶、数メートルはある竹や木の棒が数十本 横に寝かされてあったり、麻の袋が数十袋、布製のシートを上から被せられ置かれている、どれも すごい砂埃がかかっている。


春名先生は 一番奥の 右側の柱にかかっている 綱を取り、「城島先生、これで輪っかを作ってみたらどうでしょうか?」 言うもんで「あ、はい。」とだけ 答えた。


左側には 出入口があって、そこから外の明るい日差しが入っていた。


「後はぁ・・、木の切れ端、炭になってるやつって言ってましたね、」春名先生は そう言うと少し考え込んだ。


「あ、大家さんが アパートの前で良く 何かを燃やしているから、そこに燃えカスが残ってるかもしれませんよ、」とオレは言う、


「・・・・、お婆ちゃんは たぶん雑草と 新聞誌を燃やしてるんだと思います、・・木もたまには燃やすでしょうけど・・」


そお言うと春名先生は さっきのおくどさんの方へ戻って カマドの中を探し始めた。


「あった!」 と言う 春名先生の元気な声。


少し ススで汚れてしまった春名先生の手の平には 二十センチ程の焼け焦げて炭になっている棒切れが握られていた。


「この位の大きさなら玄関にかけても良い大きさだと思いますが、」と 見せてくれた。


春名先生は その他にも ろうそく、お線香を、畳の部屋の奥から持ってきてくれた。


「城島先生、ご自宅には 鏡はありますか? なければ用意しますけど。」


「あ・・、無いです。」 鏡なんて見る事ないもんなぁ、


「・・お爺ちゃん、鏡は大きければ大きいほどいいって言ってたけど、・・持っていける大きさを考えると やっぱり手鏡くらいしかなくて。」


春名先生は 大きめサイズの丸い手鏡を用意してくれた。


それを持ってオレと春名先生は 玉利荘のオレの部屋、102号室に向かった。


春名先生はバス通りを通らず、川にかかる橋を渡った最初の十字路を左に曲がった。


この道はオレも初めて通る、ここからでも行けるのか。


田んぼの脇のあぜ道を歩く オレと春名先生、少し歩くと 二股に分かれて 右側を歩いて行く、左は田んぼで右は 雑草地、盛り上がった地形の上には一本 そこそこ立派な木が立っている、ほんとに少年の心をくすぐられる場所が多い! あの上に登ってみてー! なんて思ってしまう。


その時、


「せんせー!」と 一本立っている 木の根元付近から 「あら! 雨宮さん、何してるの? そこで、」 そう 雨宮メリイだった。


雨宮は 道の先の小川にかかる丸太が数本置かれただけの橋を渡って こちらに走ってきた。


「先生! どこ行くの?」 と言う雨宮メリイに対し、春名先生は 「これから城島先生のおうちに行くのよ。」と答えた。


すると雨宮メリイは 「わたしも行くぅーっ!」と 言い始めた。


オレは なんとか 雨宮メリイの"絶対行く"的な発言を阻止しようとしたが 無理だった。


結局 ついてくることになった雨宮メリイ、まっすぐ歩かない こいつはわざと横の小川に落ちそうになったり、つまづいたりするんだろかと疑ってしまうほどにコントな行動だ。


それが続くと イラッとくる。


「雨宮! うろうろするなっ! じっとしてろ!」


「えー、いやぁ。」 こいっ!!


「フフフフ 雨宮さんて いつも元気があって可愛いですね。」


可愛い!? どこがーぁ!? どのへんがーぁ!? 春名先生は そーおっしゃいますがー、ぼくにはこの雨宮メリイを見守る自信が持てないんですけど!


「雨宮さんて 男の子みたいに活発だから、女の子の遊び相手がいないみたいで、いつも一人で遊んでるみたいなんです。」 一人でも十分 楽しんでるみたいだけど。


「ああ、それは ぼくも思いました、・・いっその事 男子と一緒に遊ばせたらいいんじゃないかなぁ、て思ったりもして」


「私もそれは考えていたんですけど、・・・昭吉君たちに一緒に遊んでもらうようにお願いしたら、始めは遊んでくれたんですけど、そのうちあそばなくなっちゃって・・」


つまりは雨宮メリイは聞く耳を持たないから 男子たちとケンカ別れしてしまうと言う事だ、・・まあ そうだろうと思ってしまった。


そんな話をしていたら 道はまた 二手に分かれ、左側の人一人通れるくらいの道幅を進むことになった。用水路を横手に歩いて行くと、なんとアパートの裏手まで来てしまっていた、道が狭いから 気づかなかったけど こんな道があったんだ、てことは 春名先生もこの道を頻繁に通るって事かな? あ、いや、春名先生は電動(アシスト)自転車に乗ってるから こんな狭い道、わざわざ通らないか・・、大家さんくらいか。


相変わらず ドラさんの部屋は 雨戸が閉めっぱなしだ。


オレの部屋は 半分開けっ放しだった。


・・あれ? 今日は 便所とドラさんのカビが匂うから閉めたはず、・・また 上島のバカかあっ!! 「城島先生・・どうかしましたか?」


「あ、いえ・・何でもないです、ただ 今日は朝 部屋の窓は閉めたと思ったのに開いていたから、どーしてかなぁと思って、」


「わたしがさっき、開けたけどー。」 と 雨宮メリイ。


「なんでお前が 開けるんだよッ!」 「だって 先生、いるかなぁーて思って、」 いたらどーだってんだよっ!?


「おまえなぁ、オレは お前の友達じゃないんだぞ! 年の近い子と遊べっ!」 部屋は やっぱり二階がいい。


「あ、そうだ! 大家さんに言うの忘れてた!」


「・・何をですか? もし なんでしたら私の方から お婆ちゃんに言っておきましょうか?」と 春名先生が言ってくれたので、お願いすることにした。


「ぼくも 明日また、大家さんには言う事にしておきます。」


アパートの前に回り、玄関の前まで来ると、・・また、戸が開いていた、・・その扉は 風のせいか、少しづつ 閉まっていくとところだった。


なぜ 閉まる!? ちょっと怖い! オレが 玄関先で立ち止まっていると 春名先生が 玄関の扉を ガバッと開けてしまった、「・・あ、城島先生 ごめんなさい、また開けちゃった・・」


ああ、そうだった、春名先生は 扉をつい癖で開けてしまう人だった。


オレはちょっぴりビビりながら部屋に入った、「春名先生、散らかってるんですけど 上がってください。」


と同時に 雨宮メリイが先に上がって行った、「ワアーイ!」


オレは持っていた綱と木の切れ端を 畳の上に置いた、そしてすぐに 風呂場の脱衣所に置いてあるバケツに玉川の水を入れ、雑巾を持ってきて、部屋の掃除を 春名先生と始めた。


雨宮メリイは 何を思ってか、開けた事のない押し入れを ババンッ!と 力いっぱい開けたのである、「おいっ! 雨宮、なんで押し入れ開けるんだよっ!」 びっくりするだろッ!


押し入れの中には 半透明のゴミ袋が 一つ置かれていて、中は 何やら 衣類らしきものが入っているのが見えた。


押し入れには お化けがいなかったのでほっとした、オレは雨宮メリイの大胆な行動に イラッときたりはするが、今回は なぜかその大胆な行動に "何だかすごい" と、関心してしまっていた。


「センセー、これ何―ぃ?」と言う 雨宮に 「何だろなぁ・・オレは 押し入れ使わないから、」 と言ったら 「え!? ・・もしかして 城島先生、今までずっと 押し入れのフスマ、開けなかったんですか?」 と驚くように聞いてきた。


やっぱ、変かな? 「・・ええ、一度も・・」 春名先生は 言葉を失ったかのごとく 驚いたままオレを見つめていた。


・・・・、驚いた顔の春名先生も とっても素敵だ、なんてチャーミングなんだ! こんな綺麗な顔して驚くなんて、めったにお目にかかれないぞ! 「・・・・、城島先生、どかしましたか?」


はっ!! オレはまた妄想していたのかっ! 「はいっ、何でもないです! はいっ、」


「・・城島先生、これから住むお部屋の押し入れはちゃんと 中を確認した方がいいですよ、」と 心配そうに注意してくれた。


「それにしても ・・・何ですか? これ・・、」と言う春名先生に、「何でしょうねぇ・・服のようなものがたくさん入ってますね。」と言うと、「よし! 捨てちゃいましょう!」と 春名先生は その半透明のビニール袋を 手に取って 表へと運び出してしまった。


・・いいのだろうか、何か分からないものを 素手で触ったりなんかして、・・・病気になったりしないだろうか? 呪いがかかったりしないだろうか? 何かの霊に憑かれたりしないだろうか?


春名先生は 可愛い笑顔で戻ってくると 「さ、始めましょうか!」 と言って どこからか持ってきたほうきで部屋を 掃きはじめた。


「先生! わたしも何か手伝う!」 と言う 雨宮メリイ、「じゃあ 雨宮さんは 私がほうきで掃いた後、雑巾がけしてくれる?」 「はああーい!」 「バケツはそこよ、雑巾はちゃんと絞るのよ!」 「はああーい!」 と言って バケツの置いてある所に行き・・しゃがんだ、


・・オレは 初めて雨宮を見かけた時の事を思い出してしまっていた、ああ、何てことだ・・、雨宮メリイがバケツを見つめている、・・しゃがんでいる雨宮メリイの後姿に オレは目が離せないでいた、・・雨宮! 飲むなよ。


「雨宮さん! 雑巾絞るのよ、その後 こっちに来てちょうだい。」と言う 春名先生に 雨宮は 「・・このバケツ欲しい。」と振り返り そう言った。


「ダメよ! そのバケツさんは このアパートの用具入れが "おうち" なの、勝手に持って行っちゃかわいそうでしょ。」


雨宮は 春名先生の言葉に、いやいやだが従った、オレは驚いた、雨宮は 辛うじて聞く耳を持っていた、そうか 話せばちょっとは分かるんだな、未来は明るいぞ! みたいに思えてきた。



「春名先生、すいません、こんな事まで手伝わせちゃって・・」


「いいんですよ! お部屋を隅から隅まできれいにしましょ! それから邪気除けのおまじないをはじめないと。」 


雨宮はほとんど役に立たなかったが 人一倍 働いたかのような顔をしていた。



春名先生は 正座をして 持ってきていたトートバッグからロウソクと線香、マッチ、手鏡、それに御玉神社の参道脇に立っている 木から青葉を一枚、 同じく 霊山の湧水、500mlのペットボトルに入った水を取り出した。


「城島先生! さっそく お爺ちゃんに教わった "おまじない" を始めますね。」


「はい。」 オレも正座した。


ついでに雨宮も 正座した、お前は なんでいるんだ?


春名先生は 小皿を三枚 取り出し、その一枚をハンカチを敷いて その上に置いた、そして ペットボトルの水をなみなみ注いで 御玉神社から取ってきた 葉っぱを一枚、その上に浮かべた。


そして 次に、マッチに火をつけ 四、五秒ほどつけたまま待って、ロウソクに火をつけ 小皿の上に立てた。


線香はロウソクの火から移し、もう一枚の小皿の上に線香立で線香を立てた。


春名先生は立ち上がり、開けっ放しの窓を少し閉め直した。


御玉神社の あの爺さんが言ってた事以外にも "やり方" を心得ているみたいだ。


玄関の戸は閉めた。


そして 春名先生は また、正座した。


「・・城島先生、足は崩してもかまいませんよ。」と言うと、雨宮メリイが 嬉しそうに足を伸ばした。


「あ・・はい、」 おれも足を崩し、あぐらをかいた。


「先生! これからどうなるの?」 と 大きな声で聞く雨宮メリイ、「どうもならないわよ、・・それと今は 私と城島先生がお話をしているの、雨宮さんは静かに見ていてちょうだい。」


「はああーい。」


なんだ ちゃんと聞く耳を持ってるじゃないか、と改めて感心した。


「・・このまま お線香が消えるまで待ちます。もし このお部屋に "憑き物"があれば 水の上に浮かべた木の葉が ゆっくりと回ります。


「・・はい。」


春名先生は それから黙ってしまった。


雨宮も 恐ろしいほどに 葉っぱを見つめ黙りこくっいた。


沈黙が続く、


ちょっと 間が持たない、これは 落ち着かない、春名先生と二人っきり! ではない、・・雨宮がいる、なんで お前がいるんだよっ! オレの部屋に女性が来るなんて 凄い事なんだぞっ!


・・沈黙が続く。


お腹が グー・・ となっちゃった。


すると 雨宮が 「フフフフ 先生お腹がなったぁ・・」と 小声で言ってきた。


ああ・・恥ずかしい、オレは 無視することにした。


・・・、


・・また グー・・てなっちゃったらどーしよー、


「グー(腹の虫)」


「プププ(笑)」 また、雨宮に笑われた、・・なぜ オレの腹は こんな時になるのだろう、いつ いかなる時も オレは 笑われるきっかけ作っているような気がする。


その時 春名先生の肩が揺れた! オレは 春名先生の方にやった、春名先生は 少し 目を見開いて下を見つめていた。


葉っぱが動いている!


水に浮かべた 葉っぱが ゆっくりとゆっくりと 回っていた。


驚いた、窓や玄関は閉めている、隙間風もなく 葉っぱが動くなんて・・磁石? そんなわけないよな、あれは"鉄と磁石"に反応する、これは葉っぱだから。


じゃあ、まじで妖怪!? 悪霊!? なんで回ってんの!?


葉っぱは ゆっくりと右回転している、風以外に考えられる事は 振動などで動きが変わる場合もあるが、玉村で振動の原因なんて 思い当たらない。


鳥肌が立った!


オレは 春名先生を見つめた!


「先生、葉っぱぁ・・動いてるよぉ、」と 言う雨宮に 「・・そうねぇ、もう少し 見ててましょ。」と 答えた。


それから 間もなく線香は 燃え尽き消えてしまった。


春名先生は 「よし!」 と言って 立ち上がり 窓を開けて 部屋の空気を入れ替えた。


「・・春名先生、・・これで 終わりですか?」 とオレが聞くと・・


「キャぁっ!」と 春名先生の悲鳴が聞こえたっ! 何だっ!? 春名先生の悲鳴っ!? これが 春名先生の悲鳴かぁ! オレは頭の中で 春名先生の悲鳴を 再現してみた! "キャぁっ" だっけ!? へへ・・、


・・ああっ! オレはまた、妄想をしていたっ! 現実を無視してっ! 妄想で欲求を満たそうとしているッ! 仕方がないッ! 手に入らないんだからッ! 妄想は癖だっ! 妄想癖だッ! これ以上進むと危ない奴になるかもしれないッ! いやっ! もうなっているかもしれないッ! そんなはずはないッ! 黙っていれば分からないッ!


「先生 だいじょーぶぅ?」と オレより先に春名先生の元に駆け寄り、声をかけた雨宮っ!


オレが今しようとしてたのにィ、これじゃオレは 何もできない、頼りない、ダメな男みたいじゃないかぁっ! そーなのかぁっ!


・・・負けたっ!


「ウッキィー・・」


何だ!? 変な鳴き声が聞こえると思ったら、窓に顔面を挟まれた 変な猿がいるではないかっ! 


「ウキキキキぃ・・」 痛たたたぁ・・ にも聞こえる。


「はっ 春名先生っ! ・・こいつは何ですかっ!? 猿ですかっ!?」 と言ったら、


「・・・・小野さん、」と 答えた。


え!? 小野さんなの?


オレはこの時 初めて リアルの "猿化"した小野さんを見たのであった。


小野さんは 窓を開け 中に入ってきた、


あっ! 下駄を履いているぞっ! 猿が下駄を履いているッ! ああっ!! メガネをかけているッ! 目が悪いのかッ!? それにしても 小野さんにそっくりだっ! 春名先生が見間違えるのも無理もないッ! と、この時はそー思っていた、あと少し 本人だと分かるのに時間が必要だったのだ。


春名先生は この猿を見て、とっさに 「小野さん」と 言ってしまったが 本人は 人違い、ならぬ 猿違いでした。と認めた。


この猿、玉村に 時々出没すると言われている 小野さん似のチンパンジーと言う事で 村では知られていた。


当の小野さんは 社交性がほとんどないため、そんな 自分似のチンパンジーが村にいるなど これっぽっちも知らなかった。


窓から入ってきたそのチンパンジーは、畳の上と気が付いたのか、下駄を脱いで 揃えて隅に置いた。


まるで人間らしい行動だ。


そして そのチンパンジーは ゆっくり春名先生のそばに近づいて行った。


その顔は とてもいやらしい笑顔を浮かべ "へへへ、" と笑っているかのようにも見えた、しかも 猿だから 全裸だ! とりあえずモザイク処理が必要だ!


何だろう・・生臭いと言うのか、イカ臭いと言うのか、・・ それ以外に興味がないと言うような変態じみた雰囲気をかもしだし、それはまさに猿! モザイクが だんだん大きくなってきた! これはいけないッ! オレは とっさに 「おい猿っ! 春名先生に近づくなっ!」 と 雨宮より先に 頼りになるところを見せた! オレは ちょっと満足し、雨宮に "どーだ! 凄いだろ!" と、よく分からない自信に満ちていた。


雨宮は オレを見るなり "そーか!" と何かに気が付いたような笑顔をオレに返した、オレは その笑顔を見て、"え!? なに?" と思った。


その時 猿は オレの方を見ながら、指を指してきた、その表情は とってもいやらしく 人を軽蔑しているかのような目つきでオレに何かを言ってきた、「ウキキキキ、ウキキーキ、キキウッキ!」 すると 雨宮が「先生の悪口言ってるみたぁーい! ハハハハハ」と 笑いやがった!


それにつられて 春名先生も 笑いをこらえて 「雨宮さん! 危険だからさがって!」 と言って 雨宮を引き寄せた。


猿は 雨宮メリィを睨みかえした! 


猿は 雨宮と春名先生の元へ 一歩、また一歩と近づいて行った!


「おい猿っ!」 危険だッ! 春名先生が危険だぁっ! どーするッ!? オレはとっさに 「おい猿ッ! バナナがあるぞッ! バナナだっ! 美味いぞ! バナナだっ!」


「えー! バナナあるの~?」 と、雨宮メリィ、お前に言ったんじゃねーよッ! 


猿は バナナの誘いにも目をくれず、春名先生の元へと近づき・・、チューをしようとしているようにも見えたので、「おいッ 猿ッ!!」と言って オレは猿の腕をつかんだっ! 「先生っ! 危ないっ! 猿は怒ると危険ですよッ!」 と、教えてくれた。


だが オレは それ以上に このいやらしいッ、チョーッ腹の立つ事する 猿が許せなかったっ! だからオレは 掴んだ猿の手を 思っいきり後ろへと引っ張った! 猿は壁にぶち当たって立ち上がり 「キイイイーッ!!」と 奇声を上げながら オレに飛びかかって来た! 猿はオレの目の前で口を大きく開け 噛みつこうとしたッ! 鋭い牙っ! 噛まれたら ただじゃすまないっ!


「城島先生ーぃっ!!」 と春名先生の美しい声っ! と同時に 噛みつくのをやめた猿は また、春名先生を見つめて 近づこうとした。


オレは 素手では何も出来ない事に気が付いたっ! だがこの部屋には何もない! 小さなテーブルしかないッ! だがテーブルは折りたたんで部屋の隅に置いているッ! 置き場所を取らない便利なテーブルだっ!


その時 突然 猿が立ち止り おびえた表情 丸出しで オレの方を振り向いた!


・・・やっと 分かったのか・・? オレの怖さを・・? と 思ったが、どーやら違うようだ、


春名先生の表情が オレの後ろの何かに驚いている!


・・なんだ!?


と振り返った瞬間、


そこには 見た事のないような化け物がオレの背後にいて すぐ側でふり向いたオレの目を下から覗き込むように オレの目を見つめていた!


その眼は 大きく 赤ん坊の頭くらいあり それが こっちを見つめていた!


そして大きく口を開け 異常なほど長い舌をオレの足、ふくらはぎから太もものあたりを舐めていた! と同時に 何やらオレの体から たれ流れている、それは 黄色い・・あっ! オレは また やっちゃったのかぁ!? 春名先生の前で お漏らしをををッッ!!


恐ろしいッッ!! 恐ろしいッッ!!


体から 力が抜ける、目の前が 歪んで見える、日の光が分からない、オレは 気を失うのか! また 恥をさらして・・終わってしまうのか・・


「先生っ! それ何ぃ!?」 と 真っ直ぐその声はオレの耳に聞こえてきた!


・・雨宮の声、・・それ 何って・・、オレは 雨宮の方を見た、


雨宮は 少し笑っていた、その時 オレの頭の中が すっきりと晴れて行くのが分かった、体から熱く 力が湧いてくる、


・・大丈夫だ!


オレは 自分の足元を もう一度 見た、


黄色い色は お漏らしじゃない、オレの体から 何かわからない黄色い(もや)のような光がこぼれているように見えた、そして その靄を この大きな 不気味な・・こいつは・・、


そうだ こいつは 以前、学校からの帰り道に見た あの"人面牛"だ!


こいつは オレの体から 何かは分からない 黄色い靄の光を 舐め、吸っていた。


オレは 御玉神社の爺さまが言っていた 何かを思い出そうとしていた、


・・あれはたしか、


"お前の生家は、お前が垂れ流した精気を餌に集まっているかもしれん" とか言っていたか、


だが 以前見た時よりも ずっと 大きいようにも見える、あの時 前に人がこいつを引いていたが、その人間は見当たらない、


「城島先生! 離れて! こっちへ来てください!」と言う 言葉に 振り返えると、あの猿が 春名先生に抱き付いているではないかあッッ!!


と 思った瞬間、人面牛は 大きな体を動かしオレの前に出ようとした、オレの部屋は こんなデカいものが入るほど広くないが・・透けているのか!? 壁がない!?


その時、春名先生が用意してくれた "綱"と"炭になった木の切れ端"が目に入った!


これを使えば何とかなるのか!?


「城島先生! こっち!」と言って 春名先生が オレのそばに近寄ろうとしたが、あの猿が春名先生にしがみついて思うように動けないでいる!


玄関の扉が開いている!? 閉めたはずなのに!


外からの光が湾曲して見える!? 影になっているところに何かいる!? なんだッ!? その影のようなものは玄関の外からも現れた!


オレの腹の回りに 不気味な巨大な目が こちらを見ながら 黄色い靄の光を舐めている、恐ろしい! 恐ろしい! 足の力が抜ける、心臓が脈打つ音だけが だんだん大きく早くなる、頭がくらくらする、呼吸は荒くなっていく、


「雨宮さんっ!!」と 春名先生の大きな声とともに 雨宮が こちらに近づき この得体のしれない 不気味な化け物に触れようとしているのが目に入った!


春名先生は 前に出ようとするが 小野さんがしがみついて思うように動けなかった! そのまま倒れ込み 「雨宮さんっ! こっちに来てっ! 戻ってっ!!」と言いながら 小野さんを振りほどこうと必死だった!


突然 巨大な化け物はオレの体から離れた、どお言う事だ!? 


「先生、これすごーいっ!」と言って その 人面牛と思われる巨大な化け物を、雨宮メリイは両手で触り 抱き付こうとせんばかりの行動を見せた!


この 化け物は 逆に触れられる事を嫌がっているのか!?


化け物は 雨宮メリイを避け、見つめていた、雨宮はつっ立ったまま、この化け物を 同じように見つめていた、人の顔に近い この人面牛は首を伸ばし 雨宮に近寄ろうとした、


「雨宮さんっ!!」 春名先生は叫んだっ!


その時!


何を思ったのか雨宮メリイは 近づく 巨大な顔面に 自分から 両手を伸ばし その顔面に抱き付きに行った! しかも笑顔でっ!!


その瞬間、大きな地震が起きたのか足元と 目の前が大きく揺れ、ぱっと周りが明るくなった! それと同時に 人面牛と思われる化け物も、玄関から入ろうとする不気味な影も すべて消えていなくなっていた。


何が起こったんだ!?


太陽の光を感じる、風がある、玉村の 草花の香りが運ばれてくる、・・それと一緒に 便所臭い、カビ臭い、オレは 状況が把握できた、あの何かわからない感覚の中で起きた不気味な出来事は 終わったんだと、元に戻ったんだと思った。


「先生・・、さっきのおっきい犬は どこ行ったのぉ?」 と聞く 雨宮メリイに 犬? と思いつつも、「・・・・、家に帰ったんじゃないか・・。」と 答えた。


恐怖は オレの心と体を縛り付け萎縮させているが、この雨宮メリイの声に なぜだか、少しずつ安心を取りもとしつつあった


オレはあの 人面牛は 雨宮をとても嫌がっていたように見えた、・・いや、雨宮を嫌がっていたんじゃなく、触れられることを嫌がっていたのかもしれない、どちらにしても オレと春名先生は 怖いもの知らずの雨宮メリイに救われた形となった。


怖いものを知らない・・、と言うより、怖いものが"分からない" だろう 雨宮メリイ、オレは この出来事の中で 二度、雨宮メリイに救われた。


「えー! もーおー! 家ってどこぉ? どこに家があるのぉー?」 いつも 面倒くさい奴だが、もしかすると 雨宮メリイもまた・・、玉村の神様に選ばれ、呼ばれたのかもしれない。


宗教家は "縁" を神様の導きによるものと解釈するところがあり、一般人からすると それらの会話に "重い" と、感じるから敬遠されてしまうものだが、その事を 口に出して言うか言わないかは 宗教家のコミニケーションのよるところだろう。


春名先生は 抱き付く小野さんを振りほどき、雨宮メリイの元に駆け寄った、そして 小野さんも後を追いかけ 春名先生の腰にしがみついた、


このバカ猿がっ!!


この猿は あの 化け物たちとは違うのか!? 今もこーして 腹の立つ事を春名先生に堂々としている、一緒に消えないのか?


この後、少しの間 この出来事について 話し合った。


春名先生は すぐに冷静さを取り戻し、まるで 日常的な出来事のように、笑顔を交えて話していた。


あの化け物は いわゆる、玉村で呼ばれている "妖怪" の(たぐい)で、"人の精気" で寄って来るものと言う事だ、つまり 御玉神社で あの爺様が言っていた "お前の生家は、お前が垂れ流した精気を餌に集まっているかもしれん" と言う意味は、オレ自身が 家や家族に 不幸の種を蒔いていたと言う事になる、その種は 人の発する、もしくは うちにあると言われる "精気"を餌としている、つまり オレの体のまわりから見えた あの 黄色い(もや)の光が 精気と言われるものと思われる。


スーパーサイヤ人の あの光も精気なんだろうか?


この玉村に至っては どのような理由があって霊的な憑き物が存在し、尚且つ見えやすい土地柄である事なのか、明確な根拠と言うものはないが

一度 それらの(たぐい)をこの目で見てしまうと 信じざるをえなくなる。


しばらくしてから 雨宮メリイは春名先生に送られ帰って行った。



実際に 非科学であろうが霊的な存在を信じている人は少なくないと思う、そのほとんどは 思い込みかもしれないが 中には オレのように 疑う余地なく この目で見て触れられた感触があるのなら 信じてしまうものだ。


世界中どこでも 先祖に手を合わせ話しかけるものであり、敬うものである、そして 神様を信じたり、悪魔的な何かを恐れたりする、これらに対して 小バカにしたり、軽んじて解釈できるうちは きっと若々しくエネルギッシュなのだろう。


人はいずれ老いて死ぬ、長い人生の中で必ず 一度や二度は死ぬよりもつらい不幸を経験するかもしれない、中には乗り越えられない人もいる。


狂気と隣り合わせの時、生死を超えて物事を考え始める、それが 神がかりな "領域"なのだろうと思う。


そう言った 宗教的な(ことわり)を 順序立てて理解していく者は稀だろう、未知の世界を健全に開拓できる者は 教祖になれるかもしれない、そしてお布施と言っては大金が転がり込むだろう、ガッポガッポと儲かる事 うけ合いだ、オレも いずれはガッポガッポと儲けて左うちわな生活を手に入れてみたい。


・・なんの話しをしてたっけ?


思い出したくないほど 不気味で恐ろしいものだったが・・・、今夜 どーしよう。


恐怖心は 心を囚われてしまう。


それは 自由ではなくなると言う事、歴史を見れば 独裁者の恐怖政治や、大衆の間では 暴力や脅し、現代にもあって心の病気などは この恐怖心が大きくかかわるものと考えられる。


目に見えた化け物、未知の出来事、


まるで対処を知らなければ オレの心は囚われとなるのだろう、


だが、オレには なぜか自信が持てる何かを感じ取る事が出来る、


・・何かとは?


分からない。


まあ、いいとする。


だが、あれら 化け物たちは 人の持つ精気を糧として 寄ってくるようだ、爺様の言ってたことで 「気負いしなければいい」と言っていた、つまり 気負いしなければ 憑き物や妖怪の類は寄り付かないと言う事だ。


"気負い"とは、心が負けない事、折れない事、腐らない事、いじけない事、ふてくされない事、これら総じて ネガティブにならない事だと言う。


春名先生が 最後に 「城島先生のご実家には 玉村で取れた季節の野菜と果物を送っておきます。」 と言っていた。


土地の(さち)を送ると言う意味なのだが、幸運を外から家の中に入れると言う意味で、厄除けの意味もあると言う事だ。


つまり 始めから春名先生は "厄除け" の方法を知っていたようで 今回の爺様へのお目通りは オレ自身に経験らしきものを積ませる主旨があったようだ・・計画的と言う事になるのかな。


でも今回の 出来事は春名先生にとっても 想定外だったらしく、「こんなにいっぱい妖怪さんを見れたの生まれて初めて!」と、 ・・嬉しそうに言っていた。


どゆこと!?


楽しかったの? 感動したの?


えー! 分かんないんだけどおー!


そう言えば 春名先生には 黄色い靄の光が見えなかった、だからなのか 妖怪たちは春名先生に近づこうとはせず、オレの方へ寄ってくるようだった、それは 雨宮メリイも同じだった、それどころか あの牛の化け物は雨宮メリイを怖がっているようにも見えた。


・・これはつまり、恐怖を知らない、いじけない、ふてくされない、気負いをまるでしない 雨宮メリイを恐れると言う事は・・、あの化け物たちは 雨宮メリイのような 人間から 自分たちの精気、もしくは 存在理由すらを "逆"に 吸い取られてしまうのではないだろうか?


恐るべし! 雨宮メリイ。



オレは よく ウンコさん座りをする。


足に力が入らず 疲れるからだ。


その時 いつも オレは気負いしていた。


目には見えなかったが あんなときは 妖怪のような類が オレのそばにいて精気を吸っていたのかもしれない。


この精気を吸い続けられればどうなるのか?


今までの 自分自身の経験から、すぐに死ぬと言う事はないようだ、だが つまづいてこけそうになったり、遅刻したり、仲間外れにされたり、ぼったくられたり、電車に轢かれそうになったり、鳩の糞が落ちてきたり、カラスがバカにしたり、・・これらの運の悪さもあの妖怪のせいかもしれない。


・・違うかな?


運気が悪い時、とことんまで 悪い事は続く、


まるで それを続ける事で 心が折れて気負いし、そのたびに精気が垂れ流れ、妖怪と言う憑き物たちは 流れ出た精気を糧とする、


妖怪は 餌となる人間に纏わりつき、事あるごとに不幸を呼び寄せ、精気を餌にする、


場所によっては "悪霊"の仕業や"怨念"によるところと解釈されているのかもしれない。



いま、オレが分かる事は ここまでだ。





第十八話 「大きくなった人面牛」









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