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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第十七話 「未知への一歩」



第十七話 「未知への一歩」




秋晴れの今日は春名先生と出かける! だから嬉しい! 朝は サッポロ一番しょうゆ味にしよう!


アパートの窓を開けるととても気持ちのいい風が・・吹いてくる思ったが 便所臭くてカビ臭かった・・。


窓は締め直した、ここは102号室だった、・・思い出した。


そうだ! 今日 春名先生に会う前に、大家さんに二階に戻りたい事を伝えよう! そうしよう!


オレは服に着替えて玄関を開けた。


朝の九時前、この時間は便所掃除が終わってアパートの周りの草むしりをしている時間だ。


今日もいい天気だ! 朝の空気が驚くほど澄んでいる! ここへ来て二か月以上は経つと言うのに自然の美しさに毎度 感動する。


秋は特に空気が澄んでいるように感じるのは都会でも同じだが、この玉村の澄んだ空気に比べたら天と地の差があると言っても過言なんかじゃない、きっと百年前はどこも美しい空気で満ちていたんだろう、産業革命と人口増加が美しいものを汚してるのか・・、経年による劣化とは違う、人為的によるものだろうとオレは考える。


どんなに土地や空気が汚れていても、直接被害じゃなければ慣れや習慣で、それを当たり前にしてしまう。


多すぎても少なすぎてもダメ、調和が取れてこそ美しく生きられる。


家は住まないと劣化、風化してしまう、だからそこにあるもの、共存する者は正しい、だけど 多すぎても少なすぎても劣化や風化、そして汚れ、汚染と繋がる。


大家さんは アパートの前の木、その向こう側にある花壇と畑、そこで草むしりをしているようだった。


玉村には 用水路が無数に流れている、生活排水などが流れているのだろう、その用水路には水草などは生えていない、水草は水が汚れるとその養分で生きる、だが 汚れすぎるとヘドロが溜まり、自然の浄化作用は崩壊する。


そんな事を考えるオレって・・頭が良いかもしれない。


だけど これもまた調和だと思う、思考は深ければ空想の世界に入り込む、時間も世界の広さも分からなくなるかもしれない、喜びも悲しみも他人事のように感じてしまうかもしれない、心 ここにあらずな訳だ。


"幸せ" は人との関わりや自然との関わりで生まれてくるものだと、この玉村に来てはっきりと再認識した、間違いないだろう、そう どんなにお金持ちでも、どんなに有名でも 安心という自信は得られるだろうが、素朴な思いやりや豊かさが無い人は幸せ薄いかもしれない。


風はすっかり冷たくなっている、


「あら、城島先生! おはよ!」


「あ、おはようございます。」


「今日は 春名と御玉神社の爺さんのとこに行くんだろ? うちの春ちゃんもどーゆうわけかあの爺さんの言う言葉を信じちゃってねー・・、城島先生、どうか春名の目を覚ましてやってくんないかねー、いつか上島のジジイにうちの春が嫁に嫁ぐんじゃないかと心配でね、・・・あの子ももう適齢期を考えると早く結婚してもらいたいんだけど、・・なかなかいい人がいないみたいで・・・、どーだい、城島先生がうちの春をもらってくれないかね? ハハハハ。」


オレはちょー舞い上がったっ!! もちろん喜んでっ!! 本気にするぜっ! 大家さんっ!! だけどハハハハって最後に笑ったの何で!? 軽い冗談てこと?


「春名、お弁当作ってたけどー・・」


「おべっ おべんとうっですかっ!? へーぇッ! 御玉神社行ったあと、どこかでおべんとーッ・・たべるんですかねぇ・・? へへへー、」


「昨日もね、勝尾山に登ったばっかりなのに、・・あの子はほんと 疲れ知らずだよ、ああ! そうそう・・、いつも勝尾山から帰ってきたら、ゴリラを見たって言うのよおー、信じられるゥ? ゴリラよお? 城島先生、」


「ゴリラがいるんですか!?」と オレは 驚いて聞いてみた、


「いるわけないじゃないのー・・、日本よ ここ。」


じゃあなんでゴリラがいるの? て事になるけど、・・大家さんは笑って「それはそーとぉー城島先生 いいの? 春ちゃんと待ち合わせしてるんじゃなかったのー? あの子はいつも早めに出かけるわよ。」と聞いてきた、


「ああっ!! そうだった!」 待ち合わせは 春名先生の家の前の道、神社に行く十字路で! と言う事だった!


オレは焦って部屋に戻り、知らない間に壁にかかっていた壁掛け時計を見た! 「九時四十分じゃないかあーっ!!」 五分で支度だあっ!! 顔洗ってないっ!! 歯も磨いてなあ一いっ!! 寝ぐせがついてるうーっっ!! 


・・・諦めるか・・、いやいやいやっ!! 冗談はさておき、上着はトレーナーでいいや! 財布持った! ハンカチ持ってない! ティッシュ持ってなあぃっ!! どこだっ!? ハンカチィっ!! ティッシュぅッ!! なんでわかりやすいとこに置いとかないんだよッ!!


歯を磨かなきゃっ! タオルぅッ!!


何とか 五分以内で アパートを出る事が出来た! 大丈夫だっ!! 間に合うっ!! タオルがあるっ!! ハンカチはもういいッ!! あああっッ!! サンダルじゃぁンかぁー!! オレは引き返して靴に履きかえたっ! アパートからすぐのとこで気が付いてよかった! 走れなかったからだっ!! オレは白い靴を履いたっ!!


ダッシュだっ!! ダッシュで行けば五分前には間に合うっ!! 走れるっ! 走れるぞっ!! オレは走るのは得意な方だ! 足が速いと言うやつだ! だが走るのは嫌いだ! 小学生の時、クラスメイトに「右手と左手の振り方おかしいぞっ!」と言われた事がある、つまり 走っていると 右手の振りが大きく左手の振りが小さいから「城島ーッ! おまえ どっちむいて走ってんだよおっ!」と 笑われた。


オレの走り方は 少しだけ斜め左向きなのだ。


付け加えて言えば 当時の担任が「お前そのうち 左回りで円を描くようになるぞ!」と クラス一同爆笑された。


あれ以来、走るときは 注意して左手の振りを大きく振るようにして走るようにした、ランニングの時も、体育祭の時も遅刻の時も・・。


のちのちなのだが、後遺症と言うべきだろうか・・、意識をし過ぎたせいなのか、歩いているときに 手の振りと足の振りの速さが違うような時がある、手の振りの方が早く、足の方が遅い、一生懸命 歩こうとする時ほど そう思う。・・気のせいかもしれないが。


だが 今はなりふり構ってられないっ! オレは自分に課したすべての(くさび)を 解き放たいた! 


おおッ!! 走れるッ!! 走れるぞッ!! オレはこんなにも速く走れるのかと自分でも驚いた!! 自分の想像を超えた走りッ!! 気持ちいいッ!! なんて気持ちいいんだっ!! まるで風になったように 周りの景色があっという間に流れていく! オレは こんなに軽く力強く走れる自分に感動しているっ!! バス通りはオレのトラックだっ! 


オレは走った、とても感動した、嬉しかった、楽しかった、走る事がこんなにも清々しく気持ちのいいものだとは知らなかった! いや、知らないはずはない、忘れていたんだ! こんなに力いっぱい走れることを! あっ・・腕が痛い・・、


ああ・・足がもつれる、・・ああ・・


オレは 走馬灯の ちょっと遅いくらいの映像が頭の中を流れて行った! そうだ! 右手を骨折しているのを忘れてたよ、でも左手左足は大丈夫、だからオレは瞬時に右手右足をかばった! ハハハ! それでいいのだ。



時間には十分に間に合った、春名先生は 静かにおしとやかに すでに待ち合わせ場所で待っていた。


オレはとても息を切らして 挨拶をするのが遅れた。


「・・・城島先生、どうしたんですか?」 と春名先生は驚いたように聞くので、「ハアハアハアっ・・何がですか!? ハアハアハア・・」と 聞いてみた。


「・・・転んだんですか? 砂まみれになって・・膝っ小僧をすりむいてる・・、あ! 手のひら 血だらけっ!」


「ハアハア、さっき・・ハアハア へへへ、転んじゃって・・、」  



春名先生は その場で 応急処置をしてくれた。


春名先生のきれいなハンカチを使うなんてもったいない! 「ぼくの」 三日間使いっぱなしの 「タオルで十分です!」 それでも春名先生は 持ってたハンカチを オレの為に使ってくれた。


オレは左手と左足の膝をすりむいていた、ジーパンの膝まで 穴が開いていた、あ! ジーパンの膝に穴が開いてるなんて・・ちょっとお洒落!? 何気に 膝の穴が開いたジーパンをはける! 別にお洒落と思ってやってんじゃないんだけどねーっ! あ、やっぱ お洒落に見えるぅ!? そうかなあー、アハハハハ!


いける! オレはこの穴あきジーパンをはいて お洒落が出来る!


「城島先生・・」


「あっ・は はい!」 考え事をしていた! もったいない! 春名先生が ハンカチ使って オレの手を握ってくれてるのに 何、くだらない事考えてんだよおっ! もったいないだろオッ! 手の感触を味会う 絶好のチャンスなのにっ、もう 半分くらい損したかもっ!!


アアーッ!! オレは自分のマヌケさに 時たま 殺意を覚えるぜッッ!! このアホーッッ!! せっーかくっ 春名先生が手を握ってくれてんのにいーッッ!!


「でも 良かったぁ・・、骨折した所は大丈夫だったんですね・・。」


「え!? ・・ああっ はい、大丈夫です!」 ああ そうだった! 忘れてた、大丈夫だ! ラッキー! 


春名先生の着ている服が可愛い、ジーンズのオバーオールのようなスカート、なんてーの? これ、それに 白のシャツで小さなサクランボの柄が入っている、可愛いんですけど! 今気が付いた!


「城島先生、・・一度 私の家に生きませんか? そこで 傷口の消毒をした方がいいと思うんです。」


春名先生のおうち!? 「・・え! アハハハ! 大丈夫ですよ、・・平気です・・。」と言いながら オレは春名先生のおうちに行く気満々だった。


「そーですかぁ? ・・大丈夫ですかぁ・・?」と 春名先生が言うもんで、ええっ!? 無しなのっ!? 行かないのぉっ!? ええッッ!? 行きたいんだけどぉー! もー・・、と考えていたら、


「私の家にいきましょう!」と 言ったので ヒャッホーゥッ!! と、舞い上がった! 



アハハ、オレは今 春名先生の土間にあたる部屋の 縁側みたいな板の間の上に座っている、この前 お邪魔したときは この背にしている和室だったかな。


中はとてもヒンヤリとして冷たかった。


汗のかいた後なので ちょっと寒い。


春名先生とお母さんが薬箱を持って戻ってきてくれた。


「ころんじゃったのー!? よっぽと慌ててたのねー。」 と笑顔で言う春名先生のお母さんに オレは頼りない男だと思われたかもしれない、小学生みたい! とか思われてたら・・嫌だなぁ。


オレのジーパンは 大きいからブカブカだ、なぜか 服を買うとき 大きめを選んでしまう。


ジーパンの裾をまくりあげて すりむいた膝っ小僧を見てもらった。


・・すね毛がいっぱいで 汚い足を出して、ほんと 恐縮です。


すりむいた怪我なんて 平気だった。


赤い血を見ると貧血をおこす体質だったが平気だった。


「のど乾いたでしょ! 熱い方がよかった?」と 春名先生のお母さんが 冷たいお茶を出してくれた。


ホホホホ! 春名先生も同じお茶を飲んでんのかあ、・・これかぁ、このお茶かあ、うん いい味出てるね! たぶん。


美味しいお茶も飲んだし、じゃあ行きますか! と言う事で 名残惜しいが春名先生のおうちを後にした。



(秋の香り) 秋の装いが見て取れる玉村の景色は 繊細で色鮮やかだ。


オレは 春名先生が持っていた 水色のバスケットを 代わりに持つことにした、水筒は春名先生が持つことになった。


四季折々の 草花がたくさん咲いてて 自然に目に入って来る。

青い花の桔梗くらいは知っているがほとんど 名前は知らない。

小ささな花が 色とりどりに咲き、その他に 食べられる野草、ふきにカタバミ、それにドクダミの葉もみてとれる。


子供の頃 母さんが どこからか採ってきたドクダミをお茶に入れられ 臭くて不味くて飲めなかった記憶がある、入れないでほしかったが、指先の逆むけに気持ちの悪いイボみたいなのが出来て それが野草に効くと聞いて 毎日お茶に入れてくれていた。


そのかいもあってかは知らないが、イボは 中学に入る前に きれいに無くなっていた。


あと、つくしなど食べられる野草もたくさん生っている、幼い少年時代に採って母親に渡したことが 一、二回ほどあった、それを湯通しして食べた記憶が今でもはっきり残っている。


母さんはその時の事を、もうたぶん覚えていないと思うけど、オレは記憶の片隅では 色あせることなく残っていてくれている。


ちょっとした事だけど、子供の頃の そんな小さな記憶がなぜはっきり思い出として残っているんだろうかと、考えてしまうときがある。


この土筆を持って帰ったら きっとお母さんが喜んでくれる、どんな笑顔で喜ぶんだろう? 誉めてくれるだろう? そして楽しくて明るい"何か"が 待っているだ、と筋書きが頭の中で出来上がって 一人でワクワクしてたんだと思う。


・・記憶、と思い出、の違いは 気持ちが入っているか、入っていないかの違いだと思う、思いがあるか? ないか? 願いがあるか? ないか? その逆の立場から 愛されたか? 愛されなかったか? 与えられたのか? 与えられなかったのか? 嬉しかったのか? 感動したのか? 楽しかったのか?


思い出とは、かけがえのない"宝"になる、それは価値、価値観と言う 評価が生まれていると言う事になる。


カッコいいスポーツカーを見ても、綺麗なドレスや宝石を見ても、それに対しての評価が出来なければ、カッコいいか、綺麗か、なんて分からないままだろう。


自分にとっての 本当の評価、値打ちは、社会的な"評価"ではなく、それより もっと深いところにあるものだと思う。


その一つが "思い出" なんだと思う。


思い出で飯は食えないぞ! と言う人もいるが・・、それはそれ、これはこれ、なのである。


他人には価値がなくとも 自分には何よりも価値がある、もし 遠い未来、非科学的でも、思い出をお金で 売り買いが出来るようになっていたとしても、今のオレは 一生 遊んで暮らせる大金で 思い出を売ってくれと言われても、やはり売ったりはしない、断言できる! 貧乏でもいい。


本物の評価や価値は、人が決めたものじゃない、自分が決めたもの・・、いや 大切な人たちと創ったものだ。


・・ついでにお金があればもっといいけど。



オレは 玉村に来て わずか数か月・・、この数か月で オレの壊れかけていた心と精神が 急ピッチで 修復されていっている、気がする。


十五、十六・・十七(じゅうしち)と、わたしの人生暗かったぁ・・たとえどんなに、辛くともー・・、


夢はいつか開くんだなぁ、と思ったよ。


荒れた土に芽は出ない、水が無ければ育たない、花は冬には咲かない、春 花が美しいのは世界が美しいから、ああ・・歌が作れそうだ! 金持ちになれそーな気がする。



何度か通った玉村で一番 西の道。


玉川の分流が流れているその脇に道が造られていて、いたるところに手作りの木製で出来た橋や 人一人が通れるコンクリート製の橋がかかっている、迷路みたいで楽しそうだ! 平太や兄の昭吉たちも こんな橋なんかを利用して鬼ごっことかしているのだろうか? 当然 しているだろう! オレですらこの年でもワクワクするんだから!


精神年齢が低いとか、そんな風に考えないでほしいんだけど。



「城島先生、」 その時 春名先生が話しかけてきた、「あ、はい・・」 オレの方から話題を作って話をしなきゃと考えているんだけど、・・どーも女性と話すのに抵抗がある。


「城島先生、何だか楽しそうですね、田舎は好きですか?」


「え、はい、・・田舎って言うか・・、この玉村のいろんなところが、・・好きかなぁって、ハハハ。」


「この村は 川や用水路がたくさん走ってて、不思議だと思いませんか? ・・なぜ 川や用水路を町のようにまとめないのか、って思ったことないですか?」


「あ、・・はい、それは以前からずっと思ってました、ぼくなりに 川の流れを自然のまま残そうと村中で協力しているのかなぁって思ったりして、」


「ええ、そうなんですよ! ずっと昔から そうしてきたんです。」


玉村の先人たちは、自然のままに残す事は 自然そのものを尊重する事で 美しい村を作るためには必要な事だと考えてきたのだ。


人間主体の共存は、共存とは考えない、それは日本と言う国は 古来より "八百万信仰" だったためで、玉村は それを今でも忠実に、そして前向きに考えてきたのだ。


玉村の 土地には 神様が宿り、農作物を豊かに実らせる、稲穂にも神様は宿り、その米つぶ、一つ一つにも 神様が宿ると考えてきた。


草や木はもちろんのこと、東西にそびえ立つ東の勝尾山と西の御玉山にはとても大きな霊的な力が宿るとされている。


そして この二つの霊山から豊富な水が湧きでていて村中を流れている、一つを勝尾山の勝尾川、もう一つを御玉山の玉川となり、どちらも透明度の高い、カッパの小田さんが言うところの 日本最後の"清流"となるのだ。


この勝尾川と玉川には 鯉やフナなどをはじめとして 在来種であるアマゴ、イワナ、アユ、(他)などが たくさん生息している、川を覗けば 小田さんをはじめ、何か魚が泳いでいるのが見て取れるのだから。


この二つの清流、大雨のさい、何度か氾濫したことがあったそうだが、川の流れを変える事はもちろんの事、堤防などを設ける護岸工事などはせず、代わりに 生活用水などを流すための用水路を設けたのだ、当然ながら 用水路の許容限度は自然の洪水の比ではなかった。


玉村から下の岩田村での洪水が近年になって問題となっている。


岩田村の洪水の原因が 上流にある玉村が原因だとは考えられないが、噂でダム建設の話も出ているとも春名先生は言っていた、そしてその事をとても心配していたのだ。


「だけど それは 噂であって本当ではないんでしょ? ・・こんなきれいな玉村を・・」 もし、その話が本当だったら オレも嫌だ! 絶対に嫌だ! この玉村がダムに沈むなんて絶対に嫌だッ!! せっかく公務員になれたんだぞっ! 小学校の先生になったんだからっ!! 絶対に嫌だッ!! なったばっかだぞっ、もーッ!!


「でも 大丈夫ですよ! 玉村はダムにはなりませんよ!」


「そーですよねっ! みんながそんなの絶対 許さないだろうし!」


「うん、それに 都市につなぐダムなら他にもあるから。」と、春名先生は言う。




この玉村の始まりは "神様との共存"を考えて造られた村のようだ、誰が最初に始めた事なのか分からないが、それが村の理念になっている。


そのため川の流れを変えずに用水路を造り、不便にならないように橋をいたるところにかけたのだ。




水車が 大小 いくつも見られる、手作りの小ぶりな水車から 直径三メートルほどの大きな水車まである。


村の水車は主に 川の水を持ち上げ家庭用として運ばれている他、ごく一部だが 水力発電としても使われているようだ。



「何だか川に架かる橋がたくさんあって迷路みたいですね。」と 言ってみた。


「そうでしょー! 私も子供の頃から この迷路みたいな道が大好きで よく鬼ごっことかやりましたよ! 夏休みなんて朝から晩まで走り回って 気が付いたら夏休みが終わってた、なんてこともありましたしね、フフフフフ。」


「楽しかったんですね、子供の頃。」


「ええ、とっても!」


たぶん 春名先生の子供の頃と ほとんど景色は変わっていないんだと思う。


今歩く この道も 幼少時代の春名先生は 無邪気に笑顔いっぱいで 通り抜けたんだろう、何十回・・いや 数百回。


秋晴れの 透き通る空の下、玉川の分流を右に歩く、その向こう側は細長い畑があり、その回りにたくさんの枯れてしまった彼岸花と思われる枯草がある。


そして そのまた向こうに雑木林が広がり、そして御玉山へとお山が続いている。


反対側は道を挟んで田んぼが広がっている。


分からないほどの緩やかな傾斜が続き 御玉神社へとつながっている。


小さな田んぼでは 稲が全て刈り取られて、水も抜かれていた。


秋の冷たい風は 近くの木々をゆっくりと揺らし、サラサラサラ・・と葉の擦れる音、そして メキ・・メキ・・と木がきしむ音、空のどこかでは甲高い小鳥の鳴き声が聞こえてくる。



こうして歩いているだけで 目に入る景色も音も 素朴で清らかだ、とても静かだ、それは愛おしくも感じてくるほどに。


幼少時代の尽きない話と それと御玉神社のちょうど上にある 総池と呼ばれる池の話しを 春名先生としたりした。


その総池、そこの"主"と呼ばれる 巨大な鯉の話、その他 御玉山の中腹にある "御影池"の人魚伝説など、いろんな言い伝えが この玉村には存在する、春名先生はそれを笑って話す。


どれも信じがたいファンタジーだが この玉村ではそれもありえる話として受け取れてしまう、根拠がなく、科学的説明のつかない事柄も、それを実際に見て経験するとどんなバカげた話でも信じてしまうものだと思う。


春名先生のそんなおとぎ話を子供の頃のように胸躍らせて聞いている自分がそこにいる事に、これまた感動していた。


オレは今、忘れかけていた子供の頃のワクワク感を取り戻していた、大人になって酸いも甘いも噛み分けられるほど、年月が経つとは言えないが、早くも社会人になる前に "人生の落伍者"となる条件を満たしていたと思われるオレにとって まさかこんな形でやり直す事が出来るなんて思いもしなかった。


それまでのオレの心は疲弊し、汚れ、焦燥感と無気力と恐怖心に縛られていた。


この玉村で過ごす 一日一日、そして一時間、一分、一秒に至るまでがオレの心を癒してくれる、そして失ったと思われるオレの青春、いろんな経験をもが、今のこの時間に訪れてくれている! これが青春!? そうなのかっ!? こんな風に感じて喜べる、高揚感! そうか! これが青春というやつなのかっ!


とかなんとか 思っている次第なんだけど、ほんと 幸せを実感している! 未来に希望が持ててしまう! ああ、生きるとはなんと素晴らしき事なのだろう!


オレは 春名先生のファンタジックな話の中の 御影池の人魚伝説に聞いてみた、「アンデルセン童話に出てくる人魚は みんな"海"ですけど、・・玉村の人魚伝説は "池" なんですか?」と言うと 「ええ、池なんでよー!」 明るく笑顔で答えてくれた。


もう オレとしては "池" でいいや、と思った。


春名先生と一緒に歩くこの秋の小道、道端の雑草や野の花たちは背が高くなく、謙虚に道を開けてくれているようにも見えてくる。


体が軽い、暖かい、ほんわかする、目についた小さな白い花をつけた 少し背の高い花が風に揺れるその一瞬一瞬がスローモーションのようにはっきりと見える、風が静かに吹いているのが頬や首筋を通して分かる、午前中の優しい日差しは もうお昼かな、と思わせるように頭の上にあった、春名先生の歩く足音が良く聞こえる、ジャリ・・ジャリ・・ジャリ・・ジャリ・・ 乾いた土の道は素晴らしい、人の手が加えられていないから 自然の神様が創っているようにも思えてくる。


アスファルトやコンクリートは人の手で造られ、木や花、雑草などの居場所を奪い取っている、便利な世の中とはそれでいいのだろう、・・でも オレは嫌かな。


目の前に 小さな橋がかかっていた、


玉川の分流が二手に分かれ東から南へ斜めに川の流れが続いている、その斜めに走る川の橋を渡ると 神社へ続く分流から西側は御玉山へ続く雑木林が広がっていた。


その時、ガサガサ・・ と言う音が聞こえ、同時に 目の前の雑草が揺れた!


何かがいるんだ! 犬!? いや ここは玉村、狐? タヌキ? イタチ? ・・蛇は嫌だな!


オレと春名先生は立ち止った、と言うより オレが立ち止ったから 春名先生も止まったのか。


道端の雑草は 神社へ続く 分流の河川敷の脇、その下は 川へと続くから オレと春名先生はその方を そっと覗いてみた・・。


すると雑草の茂みの中から 河川敷へと 何かが飛び出した!


「あ、キツネ!」と言う 春名先生。


そのキツネは 途中 こちらを振り向いて また神社の方へ続く 河川敷を走り出して行った。


「キツネですねぇ・・、」


「お散歩してたんですね。」と 可愛らしい事を言う春名先生、「あのキツネは 稲荷神社のお狐さんかなぁ・・?」と オレが言うと、春名先生は キョトンとした顔で 「・・ただのキツネじゃないですか? フフフフ」と 笑われた。・・恥ずかしいッ!


女性は ファンタジーと現実の境界線が分かりにくい! と、男のオレは思う。


野生のキツネと言う事か、痩せたキツネに見えた、そのキツネの走って行った河川敷は 大きな岩がゴロゴロして川幅はすぐに狭くなっていった、そして鳥居がすぐ側まで来ていて、東の方角を向いて建っていた。


そのまま オレと春名先生は鳥居を曲がり石畳の階段を上って行った。


以前 春名先生と来た時、その時は気づかなかったけど、ここに 石畳の橋がかかっていて、その下を川が流れていたのだ、この辺になると 川の流れが分からなくなるほどに大岩の間を川の水が流れている。


あの時は 夏の終わりだったから 蝉の鳴き声と雑草の青くさい匂いを感じながら汗だくになって登ったんだった。


でも気持ちのいい汗だったと覚えている。


春名先生と参道の階段を上りながら、"オレは ここに何しに行くのだろうか?" と一瞬考えた。


"お祓い"だろうか? 人面牛と言う 異様な"もの"を見てしまったから。


そうこう考えていたら 百二十段を上り切ってしまった。


登り切ったすぐ目の前にも鳥居があり お社へと石畳は続いている、目の前には神社らしいお社が建ち その賽銭箱の置かれているはずの場所にあの 爺様は寝そべってこちらを見ていた。


賽銭箱は参道の脇に無造作に置かれていた。


前に見たときも驚くほどの 巨大な頭に不満タラタラな目つきでこちらを見ていた、なんだか一瞬にして オレの心も 不満タラタラな気持ちに満たされてしまう、なぜだろう?


・・ん!? 何だ、この臭いは? 動物園の匂いがする、・・臭い。


春名先生は オレより先に早足で 爺様の前まで行って挨拶をした。


「こんにちは、神様。」と 笑顔満点でだ、春名先生に笑顔満点で挨拶してもらうなんて、なんて贅沢な爺様なんだっ! と オレはちょっと怒りを覚えたぞっ!


春名先生は 爺様に、・・湯気が立っている熱いお茶を水筒から手渡した。


寝転がっていた爺様は あぐらをかいて座りなおし、熱い茶を飲んだ、「あっつうーッッ!! 熱いだろがっ!! わしは猫舌じゃあといつも言っておろーがっ!!」 「あ、こめんなさい、そんなに熱かった!?」と春名先生は 爺様の持っている水筒のコップを受け取り、フー・・、フー・・、とした。


「はい、これで 少しは冷めたと思いますよ。」と また 爺様に手渡した。


「始めからそーしておればいいんじゃ!」と 言う爺様、この爺様だけどっ!! 見てるだけで イラッとくるんだが。


この爺様、オレを見るなり 「なんだ! お前はっ、その悪そーな目つきはアッ!!」 と、言いやがった! お前が言うなああーッッ!!


「お爺ちゃんっ! 何言ってんのっ、もー、」と慌てて間に入る春名先生、だけど オレはこの爺様が苦手だ、何を考えてるか分からない、どーやって話しをしていいのか分からない。


「ああーッッッ!! おまえぇぇぇーッッ!! 何やってんだあッッ!! もったいねーッッ!! ああッッ!! もっいねーッッッ!!! バカだろおおーッッ!! お前ええッッ!!」


「な、な、何がですかっ!」 慌てるオレ。


「お爺ちゃん! もー、静かに話してっ!」と ちょっぴり怒る春名先生。


「うん、分かった。」


ジジイは大人しくなった。


「ねえ、上島のお爺ちゃん、」


「ん、なんじゃ?」 神様じゃないのか?


「今日はね、城島先生の事で相談があって・・」


「おい、春! なんか持ってきたのか? 食いもんか? 食わせろ!」 春名先生が喋ってんだろがっ!


とりあえず 春名先生はオレから水色のバスケットを受け取り、ジジイの横に座って 中に入ってあるだろう・・お弁当を、その弁当を、・・・ジジイに、・・・!? ええー!? オレと一緒に食べる弁当じゃなかったのおーっ!? まーじぃー? じゃあ 今朝、大家さんが お弁当作って待ってるよ! って言ったように思うけど・・、爺様の弁当作って待ってたのかぁ!?


「はい、どうぞ。」と言う 春名先生、箸も使わず 素手で弁当に手を突っ込む、なんてガサツな食い方だ! しかも手を洗ってないッ! 爪に垢が溜まりまくっているっ! 汚ねーッ! なんで平気なんだっ、こう言う奴って!


「おいおまえっ! 食え!」と このジジイ、爪に垢が溜まりまくった手で オレにおにぎりを手渡そうとした! 「おいっ! どーしたっ! ほらっ、食えっ! 春が作った握り飯が食えんと言うのかっ!?」 む・・無理だ・・、オレには無理だ・・、この汚いらしい爺様の手渡すおにぎりをもらってしまったら・・、後には引けなくなる・・、春名先生には悪いけど・・ 「お前は 春が作った握り飯が食えんと言うのかっ!? お前は この娘の真心を踏みにじるとでも言うのかぁっ!?」


そんなつもりはないっ!! 「い・・いや、・・あの、・・今は・・」 「なんだ!? 今は春の作った握り飯を食えんと言うのかあっ!? さいてーな奴だなー!! お前はっ!!」 このジジイっ!! ワザとじゃないのか!? ワザとやってんじゃないのか!?


「お爺ちゃん! これはお爺ちゃんに作ってきたお弁当だから、城島先生はいいの。」


「なぜじゃ!? なぜいいのじゃ!? どーしてじゃッ!? では お前が食うか?」と その穢れてしまったおにぎりを春名先生に手渡そうとした! ああっ!! ダメだッ!! 受け取ったらダメだッ!! もしっ! それを受け取ってしまったら!! もう・・春名先生では・・なくなってしまうッ!! かもしれないっ!


「ええーっ! お爺ちゃんの手、汚れてるからいらなぁーい」 春名先生は ふつーに断った。


何だか どっと疲れる、オレは要領がふつーに悪いのかなぁ・・。


「お前は垂れ流しじゃのー! 迷惑な奴じゃ!」 オレに言ってるのか? 何を言っているんだ? ・・漏らしたことを言っているのかな!? ・・まじ!?


「変な奴がウロウロしておるわ! お前のせいじゃ! お前はバカだ! 本当にバカでアホだ! たまに お前ほどのバカをお目にかかれるが 珍しいわっ!」


「な、何がですかっ! オレが何したって言うんですかっ!?」 何なんだよッ! このクソジジイッ!! ほんとっ! 頭にくるっ!!


「お爺ちゃん、城島先生に 分かるように教えてあげてちょうだい、・・ね。」


「わしはこいつが嫌いじゃっ! なんで分かるように教えてやらにゃならんのだッ! フンっ!」と 子どもみたいにデカい顔がよそっぽを向いた! その風圧で春名先生の髪が なびいた。


春名先生は 一つ大きくため息をついた。


「おい、春! ため息はいかんぞ! 穢れた奴を呼び寄せる!」


「・・お爺ちゃん、」


「神様じゃ。」


「・・神様、どうか 城島先生に説法を説いてください、お願いします。」と ジジイの隣に座る春名先生は 小さく頭を下げた。


「・・・・なら、お前! お前は わしに何ができる? ただで教えを乞うと考えておるのか?」


「お爺ちゃん!」 「神様じゃ。」


「・・神様、私が神様にお布施をします、・・何がいいですか? いま、欲しいものはありますか?」 と言う春名先生、


「欲しいものなど 何もないわ! ・・お前は 今まで通りでよい。」


標準語と方言を適当に使っている このジジイは何かを考えていた。


「・・・そおじゃなー・・、そこのお前、」爺さんは オレを見て言った、「お前、・・この村の本当の住人になる気はあるのか? この村を最後まで見届ける気はあるのか?」


と 爺様は 普通にちゃんとした事を言ってきた。


「この村の住人になるなんて・・・ずっと住むって事ですか?」


「あたりまえじゃ、この村に骨を埋める気はあるのかと聞いておるのじゃ。」


「・・・まだ 分かりません。」と 正直に答えた。


オレは 教師になるためにこの 玉村に来たんだから、それ以上の思いも義理もない、まったく知らない土地に来て すべてが手探りなんだ、教師の仕事も、一人暮らしも、何もかもが初めてなんだから、・・骨を埋めるって・・、


そんな事、口先だけでは答えられない。・・ああ、オレは ほんとーに要領が悪い。


この爺様だって 話の手順を間違えている、ただ 取り繕った話に 真剣に答える必要なんてない。


すると 爺様はこんな事を言った、


「・・わしがお前の代わりに応えてやろう、」


あっけに取られた!


「お前は この村にずっと住むことになる、・・ずっとじゃ。」


!?


なんでそうなる!? オレの人生だぞ! 何 勝手に決めてんだ! 未来の事なんて誰も分からないんだから!


・・それともなにか、未来を予言する事で自分は神だと言う事を アピールしたのか? 胡散臭い。


「・・お前、今まで些細な不幸が続いておらぬか?」


「・・些細な、ですか? ・・人面牛は見たことがあります・・。」


それ以外、続いてたかな? あんたの孫がオレの部屋からカップラーメンを盗んだりした事かな?


「・・・なんじゃ、その人面牛とは?」 知らないのか!


「まあ、そんな事はどーでもいいわっ!」 いいのか!?


「わしの言う 些細な不幸とは もっと以前からじゃ! 家族やお前自身に 災いは降りかかってはおらんのか?」


「お爺ちゃん、」 「神様じゃ。」


「・・神様、あんまり 怖がらせることは言わないで。」


「お前は何を言っとるんだあっ! 過去に起きた事実を直視し、今後に生かせ! と言っておるんだッ!」 唾が飛んでるッ! このジジイッ! 春名先生にかかるだろッ! 穢れてしまうっ!!


「おい、春!」


「はい、」


「・・この男、自分を安く見ておるな! こー言う奴は 大変だぞ、必ずと言っていいほど不幸を招く!」


・・安く見ている!? オレって高いのか!? 高価なのかぁ!? 上等なのかあっ!? えーっ! そーなのかーぁ!? へへへー


「だけど 玉村の神様が城島先生を導いたんじゃないですか? ずっとこの村に住むことになるんでしょ。」


爺様はオレの顔を睨みつけ、こう言った 「お前は自暴自棄の傾向がある、すぐに諦め逃げ出す事を考える、周りが悪い、仕方がない、言い訳を出来る環境を作る、だから 真剣に考えようとはしないのだ!」


なんだか もっともらしい事を 偉そうに言いやがる! だけど、思い当たる節もある。


「お前・・、このままだと家族の誰か・・、お前の事を一番に考える者が、身代わりとなって不幸を背負う事となるぞ。」


"身代わり" と言う言葉に北元を思い出した、北元が不幸を背負えば、母親が身代わりとなる事を望むだろう、あの時 最悪を招いていたら、母親は一生 悲しみ、不幸を背負い続けた事だろう、だけど 身代わりになったのは・・、夢か(うつつ)か幻か、オレだったのかもしれない、


・・なぜ、オレが・・?


いや・・この爺さんに言われなくても ずっと思っていた事だ、・・一生 母親に苦労かけて生きていくんだと。


「おい、お前 名は城島と言ったか・・?」 


「・・はい。」 オレの名前を言った、おぼえていたのか・・。


「この村では 見えないものが見える時がある、子供たちは 妖怪だとか妖精だとか、騒いでおるが お前が見たのは・・人面牛か? ・・牛なのか? 酪農は岩田村で行われておるが・・、昔話しの中に こんな話がある、"人の肉を食わして育てた牛は死んでからも人の肉を食いにやって来る"と・・、百年ほど昔は 人より牛の方に値打ちがあるとも言われていた事も巷にはあった。

人の皮を被った獣が幾つかうろついておるのが分かる、お前が呼び寄せたのかもしれん。」


「オレが呼び寄せるって・・、」


「お前は 自分で自分を壊している、壊れた傷口から "精気"が垂れ流しておる、それを"化け物"が吸いにやって来るんだよ。たぶん お前の言う "人面牛" と言うのは 人の因果によって作り出された化け物だろう、そいつは お前が垂れ流す精気につられ やって来たのかもしれんな。」


いわゆる妖怪と言う 非科学的な存在に話しの筋を通しているが どこまで信じていいのか難しい、この爺様の言う 空想話も 信じざるをえない、オレにはとても説得力がある話にも聞こえてきた。


この爺様は 付け加えて こうも言った、「家畜の首にかける"綱"を用意し 輪っかを作れ、綱の先端には炭となった木の切れ端を結び付け、玄関に張り付けておけ、そうしておけば 牛の化け物は家には入ってこんようになる、だが すでに入り込んでおるなら話は別じゃ、」


玄関の戸が 少し開いていることがよくあるが、・・・まさか 妖怪が部屋に入っていたりする? 最近 よく、悪夢を見ている気がする、寝苦しく 何度も夜に目を覚ますことがある、気のせいかもしれない、なんでも 霊や妖怪と言った非科学的なものを理由にするのは精神衛生上良くないが、今のオレにとっても むしろやるべきだろう。


その他、この爺様は 家に入り込んでいる 化け物を燻りだす方法も教えてくれた、それと 一番大事な事は "精気を垂れ流さない事" だと教わった、では その精気を垂れ流さないようにするにはどうしたらいいのか、と尋ねたら、


「気負いしなければいいんじゃ!!」 と怒鳴られた。


意味わかんないんだけど。


それから 手のひらに乗る、木の切れ端を"お守り"だと 渡された。


「これはわしの体臭が染みついた 徳のあるお守りじゃ!」と言って 爺さんは脇の下や首筋、その他 股の間の特別汚いところに擦り付け、「ほれ、これでオッケイじゃ! 受け取れ!」と言って オレの目の前にその汚い物を差し出した。


・・・オレは迷った、もし受け取ってしまったら、オレは 二度と元に戻れないような気がしたからだ、だが、春名先生が オレの横で笑顔なんだが、オレがおかしいの!? ・・オレはとても意地悪なの!? ・・分からない! とても汚い! 恐ろしい! 普通に思うオレの方が間違ってるのッ!? ああっ! どーしたらいいのだッ!? 触ってしまったらすべてが終わってしまいそうな気がするッ!


「ほれ! 受け取れと言っておろうがっ!」 


・・もし、受け取ってしまったら・・、もし、触れてしまったら・・、オレは・・、


「城島先生、お爺ちゃんのお守り、ご利益あるんですよ、・・ちょっと汚いけど。」


えっ!? 受け取ったことあんの!?


・・オレは、・・オレは、・・・泣いてしまうかもしれない。


だが、・・オレは受け取った。


もーいい・・。


爺様と 春名先生の話しがこの後、少しの間 続いたが、・・やたらオレの悪口を間に挟んで言っていた。


・・オレはもう 燃え尽きたよ、真っ白になっちゃったよ。


「頼りなさそうな男だ!」 かもしれないな、「簡単に騙されそうなバカな男だ!」 その通りですよ、「ほんとは頭、悪いんじゃないのか?」 気にしてますけど。「友達とかいない 寂しい奴なんじゃないのか?」 なんで分かるんですか? 「こんな奴と夫婦になったら 一生 苦労するぞ!」 ああ・・・もう止めて・・、「何も知らずに年取ったら遊び人になる!」 そーなの?


一通りの話を終えた春名先生とオレは帰る事になった。


鳥居に向かって歩いていたら 爺様が最後にこんな事を言ってきた、「おい、お前の生家は、お前が垂れ流した精気を餌に集まっているかもしんな、」 この時は まだ半信半疑だったからこんなバカげた話しは突っぱねてたのかもしれない、それに人の事を始めからバカにするような人の言う事なんて素直に聞けるかっての。



・・つづく。



第十七話 「未知への一歩」







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