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まこらみみらせ  作者: しげしげ
14/42

第十四話 「函館太郎の宝物」

(地蔵盆 時期)


(丑三つ時)


第十四話 「函館太郎の宝物」




函館太郎さんはバカであると オレは思うが、本人の前でバカとは言えない。



そのバカであると思う函館太郎さんが 棺桶に閉じ込められて死にかけたと、大家さんから聞いたのはつい先日の事である。


"棺桶に閉じ込められる"とは?


もうその時点で ・・おかしい。・・もう おかしい、すべてがおかしい。 お菓子ではない、おかしいだ。


棺桶は お亡くなりになってから入るもので、生きているうちに入るのは コントである。


函館さんこと、ドラさんは 部屋に中世ヨーロッパの棺桶を所有しているらしい。


そしてそれを寝床にしているらしいのだ。


そんな事を大家さんから聞いたとき、この人と関わっちゃ・・、ほんもの"変な人"だ・・、と そう思ったんだ。


バカだと言う事は分かる。


ただ、・・・バカでも可愛げがあるならいいが、ドラさんは可愛くない。


・・これは つまり、"あぶないバカ"である、 なんか ドラマか映画で似たタイトルがあったな・・あぶないデカ(刑事)だっけ? 一字違いである。


そもそも中世ヨーロッパの棺桶が ここ、日本のど田舎、玉村に存在しいるわけがない。


・・なぜ気づかない? しかも ドラキュラの棺桶が存在しているなら博物館に展示されてるか、国宝級扱いだろう。


ドラさんが信じ切っていた その棺桶は 村の商店街の一角にある骨董屋で売られていそうだ。


それをドラさんが見つけて、なんとか 値切って九百五十三円で手に入れたらしい。


九百五十三円でだ。


今もベッドとして大切に使っているその棺桶を手に入れる数日前の話であるが、まずは そこから話していくことにしよう。



ドラさんは 昨日の深夜、友人である 村長で月輪大五郎さんに 運命の出会いの一部始終を話した。


村長は当然酔っ払っていたが 笑ってはいけないと必死に堪え、話しを聞いていた。


「あの十字架の棺桶は わたしに買われるためにこの玉村までやって来たのだよ! だから一刻も早く買ってやらなきゃいけないんだ!」


「・・・・・なるほろねー、」とろれつが回らないほど飲んでいる村長は さらに、ワンカップを片手に飲んでいた。 


「・・十字架ってーのはドラキューリーさんはあ・・苦手なんじゃアー・・ないのー? ドラさんは 十字架は平気なのかぁ!?」と聞く酔っ払い村長に、「何で 私が十字架が苦手なんだ?」


「え!? だってさあ、・・・ドラさんはドラキューリーの生まれ変わりなんだろ? ・・・だったら十字架も苦手なんじゃないのかなあー・・なんて思っちゃって・・・へへへ。」


「あ・・・苦手だよ・・・十字架・・・、」今、気が付いたのか!?


・・・そして沈黙が続いた。


・・なぜ沈黙?


ドラさんは考えるのを"辞"めていた。


頭を働かせるのは嫌だからだ、働かないと決めたから頭は働かせないのだ。


・・ワンカップを片手に村長、・・・ドラさんは ドラキュラのどこまでを知っているのだろう? と考えたが、村長もドラさん相手に 考えるのを辞めることにした。


「アハハハハハ!!」と笑う! 出来上がってる村長。


突然の大きな笑い声に ビビるドラさん。


「な、なんだ!? なにがおかしい、・・・・」


その時までの ドラさんの収支は 九百五十三円となり 千円の大台に手が届いていたところだった。


骨董屋の話し相手になる事が なぜ棺桶を手に入れる方法なのか、村長には分からなかったが、相手がドラさんなのでどーでもよかった。


村長が思うに、常識からして 使い道のない棺桶のような物を骨董屋が なぜか店に並べて売っていたと言う事になるだろう、それをどーゆー訳かドラさんが見つけて一目惚れをした、と言う事だろう。


だったら 値段はあって無いような物だろうと察した。


「なあ、ドラさん 今持ってる貯金で 骨董屋と交渉したらどーだ?」



ドラさんは 交渉することにした。



そして次の日の 夕方、なるべく明るいうちに骨董屋に行かないと 店が閉まってしまう。


店が閉まってからは、何度 戸を叩いて呼んでも出てこない、代わりに出てくるのは二軒隣りの タヌキおやじだ。


ドラさんは このタヌキおやじが嫌いだった。


「おいっストーカーっ! うっせーんだよっ! どっか行けっ!!」


上半身 裸で下駄を履いて出てくる、そして体臭が強く 加齢臭をはじめ、たばこ、口臭、水虫、屁、パンツの汚れ、わきが、風呂はかかり湯しない、小は湯船でする、足が非常に痒く、暇さえあれば掻きむしっている、手は洗わない、得意種目は にぎり寿司。


ドラさんは体臭より かび臭い、だから まだ タヌキおやじより、ましかもしれない。


ついでに言っておくとしよう、タヌキおやじは 客が来ないから椅子に座って 足の指をかきかき、くにょくにょしていた。


このおやじ、水虫だから素足に下駄を履いている、そして痒いから素手で素足をかきむしり、くにょくにょする。


そこへ客が店にやって来て、・・チラッとその様子を見てしまった、「へいらっしゃい!」と言う掛け声とともに「今日のおすすめは 刺身盛り合わせだよ。」と言われて、ゾッとした。


危険回避の本能と思いやり精神が同時に働いた客が「あ・・道を聞きたいんですが・・」とやり過ごすことが出来た。


これが 村で噂となり 女性陣を中心にドン引きさせた。


・・・まあ、何というのだろうか、・・・人間観察ならぬ、飲食店観察と思って見ていれば やはり見えてくるところがある、"うまい" だけでは 計れない、"うまい" だけでいいじゃないか! 毒さえ入っていなけりゃ死なないんだから! と言い切れる人は どーぞ、"たぬき"でご賞味あれ。


ちなみに 人体に関して、細菌と言うものが繁殖するところにはウィルスも繁殖する、ウィルスは イボなどの出来物や慢性の炎症を起こすと考えられる、だから 家族や子供を"守る"と言う意味では 知っておかなきゃいけない事だと思っている。



話しは戻るが、タヌキのおやじは最高に下品で乱暴で紳士じゃないから、ドラさんは嫌いなのだ。


ついでに オレから言わせれば、ドラさんとタヌキおやじの 分類は同じで、歩く細菌と思っている。


タヌキおやじと鉢合わせしたくないから、店が閉まる前にアパートを飛び出し 骨董屋の前まで駆けて来たのだ!


まだ太陽が燦々と降り注ぐ夏の夕暮れだ。


直射日光を浴びると 死んでしまうなどとは言ってられないのだ。


ちょうどこの日、七月の (地蔵盆)の夏祭りの日だった。


ドラさんは明るいとこと賑やかなとこ、笑顔の溢れる場所が 大の苦手だった。


夏祭りと言っても 田舎の祭りは ・・まして地蔵盆はとても静かだ。


ドラさんには華やかすぎて、もーダメなのである。


商店街の一番奥の小さな広場に 提灯を二十から三十、ぶら下げて (お供え物のスイカやブドウを振る舞うのだ。)



夏祭りはドラさんにとってご縁ではない、だから 話を戻すが、ドラさんは ブカブカの革靴にスーツを着て骨董屋の前で倒れかかっていた。


・・何十年も走ったことがなかったから 貧血を起こし、低酸素状態と脱水状態のため気を失いかけていた。


あ・・気を失う・・


これがなんとも気持ちのいいものだった。


ああ・・このまま気を失ってもいいかも・・。とドラさんは思ったが 棺桶を手に入れるため気合を入れ直し、踏ん張った!


ハア・・ハア・・ハア・・ もう 一年分の汗をかいてしまった。


ガラガラガラガラガラ・・と戸を開けた。


中にいた骨董屋の婆さんと目があった、婆さんはドラさんを見るなり、「チッ」と舌打ちした。


「なんだい、何しに来たんだいっ!」と かなり不機嫌に言った。


「・・・婆さん、・・・そんなに怖がらなくていいんだよ、・・・安心してくれたまえ。」と分からない事を言って婆さんを安心させようとした、が それは当然逆効果だった。


「話し相手がほしいなら、他、当たっとくれ!」


「ハハハ・・強がりだね、・・本当は人のぬくもりが怖いんだね・・。」


「はあ!? 怖いぃっ!? オメーが怖えーよ。」


「・・フフフ、わかったよ・・じゃあ、そー言う事にしておこうか」


「おいっ!! 函館ぇっ!! いい加減にしないと タヌキジジイ呼ぶよッ!!」


「っ!! ちょっ・・あの下品な男は関係ないだろっ!! 今日は値段の話に来たんだ!」


「下品なのは お前もだろ、・・値段てなんの値段だい、・・この棺桶の事かい?」骨董屋は この棺桶を もうタダでもいいから函館太郎にやろうと考えていた。


「わっわたしのどこが下品なんだっ!!? お前はどこを見て物を言っているんだっ!!」


「うるっせーっ!! 函館ぇっ!! たぬきを呼ぶっ!!」と言って 黒電話に手を伸ばした!


「お、おいっ! 骨董屋っ!! 早まるなっ!! 早まるでないっ!! きょうは ただ、その棺桶をいただきに来たのだよ、・・いただこうっ!! いくらだっ!?」


「百万円だっ!!」


ドラさんは 目が点になった、「・・・・・ひやくまんぇぇ・・・」指で数え始めたドラさん、「・・ひー・・ふー・・みー・・」ドラさんの言葉が止まった、動きも止まった、そして少しの沈黙が続いた。


「・・お前は ほんと、アホだね。」


ドラさんは 頭を働かせることを辞めていた。


骨董屋は 大きく一つため息をついた。


「・・・ふー・・・・。見れば見るほどアホ面だねー・・・、これ以上ほっとくとアホが移りそうだわ。 どうだ、五千円で譲ってやるぞ。」


ドラさんは 一瞬ビクッとなったが、また 止まってしまった。


「・・・・・、お前はなに、やっとるんだ!? 心ここにあらずか? その場で居留守か? それとも死んだふりか? 憑りつかれたのか? 何の生き物だ?」


ドラさんは止まったままだった。


骨董屋は黒電話に手をかけ、「・・・タヌキを呼ぶか・・。」と言った。


「ひえーっっ!! 来るぅっ!! 来るぅっ!! きっと来るぅっ!! きっと来るぅーっ!!」 取り乱した。


「・・・やめるか。・・・おい、ハコダテ、その棺桶を買うなら 今がチャンスだぞ、売れるかもしれんぞ、三千円でどうだ?」


「・・ふ、ふざけているのかっ!! 三千円のような大金、持ってるわけないだろっ!! お前はアホかっ!!」一言多い。


骨董屋は黒電話に手を伸ばした。


「フンギェェェェェェェッッッ!!! ペラポッ-ポーッッ!!! プッピラペーッッ!!! ピッピロプーッッ!!!」ドラさんは 恐怖から逃れるためバカになる事を決めた! もともとバカかもしれないが。


「うるさいッッ!! 静かにせぇーっっ!! 売ってやらんぞっ!! そろそろ風呂の薪にでもしようかと思っとったところじゃっ!!」


「風呂の薪っ!!? 棺桶をかっ!!? 燃やすのかっ!!? 何を言うっ!! ババアっ、棺桶は寝るところだっ!! この棺桶にどれだけの値打ちがあると思ってるんだっ!! 薪にするだとおっっ!! だったら 私にくれっ!!」


「はっ、棺桶は もともと焼くか埋めるかのどちらかじゃっ!! お前はバカかっ!! バカにやるくらいなら薪にする方がいいわっ!」


「!!?・・・・、どこにバカがいると言うんだ? どこにもいないっ!! そのバカに棺桶を渡す気かっ!? ババアっ! お前はバカかぁっ!?」


「バカはお前だっ!!」


「何だとおーッッ!! 天才と言われたこのわ」長くなるのでここで締めます。



骨董屋は 本当に薪にしようかと考えていたが、三日以内に金を持ってきたら売ってやると、ドラさんに言った。


値段はまけて、千五百円だ。


三日後の夕方、日が暮れるまで待ってやる、もし その時間までに持ってくることが出来なかったら こいつは 火炙りにする、と骨董屋は言った。


ドラさんは燃えていた、棺桶の代わりに燃えていた。


「三日だな、・・三日後の日が暮れるまでにちゃんと戻ってくる! 私は約束を守るっ!!」そう言って骨董屋を後にした。


ドラさんは 骨董屋を後にした。


昔 読んだ "走れ メロス"を思い出していた。


「・・安心しろ! 私は お前を裏切らない。」



そして三日後・・


ドラさんは 来なかった。


忘れていたのだ。


骨董屋を後にした三日前、アパートの帰り道、走って帰ったら 途中 酸欠になって横の田んぼに落っこちた。


そして泥だらけになったことで このまま自分の古本屋さんに行こうと強く思ったのだ。


田んぼの泥は 冷たくって とっても気持ちが良かった。


そして そのまま、三日間、ずっと掘立小屋の古本屋さんを通常通り 営業していた。


棺桶の事はすっかり忘れていた。



一週間後 棺桶千五百円を思い出したドラさんは もともと青い顔が いっそう青くなった。


だが それを思い出したのは深夜の(丑満つ刻)だっため、「明日にしようかな・・」と 決め、次の日の夕方、駆け足で骨董屋に向かった。


骨董屋に入るなり あるはずの棺桶が そこには無かった。


ドラさんは 泣き崩れた、「ウアアアアー・・ン、オレの棺桶がぁ・・」


ドラさんは九百五十三円を持っていた、月輪大五郎さんこと村長が来てくれれば千五百円になっていたかもしれないのに、なぜ 来ない!?と 逆恨んでいた。


村長が来なかったことが一番悪く、骨董屋との約束は棚に上げて考えていた。


だが 棺桶は 薪になる一歩手前で焼かれずに済んだ。


家の裏庭に無造作に置かれていたところを骨董屋の一言で見つけることが出来たのだ。


ドラさんは 骨董屋に九百五十三円をわたし、念願だった 棺桶を手に入れることが出来た。


骨董屋は 九百五十三円を手にしたとき、胸が締め付けられた。


歳ではあるが、心筋梗塞などではない。


こいつはバカなりに この銭を手に入れるのに苦労したんじゃないかと、そう考えたのだ。



問題は帰り道、どうやってこの重たい棺桶をアパートまで持って帰るのかと言う事だった。


「おいっ! 骨董屋っ! 買ってやったんだから、アパートまで持ってこい!」と言いのけた。


骨董屋は ドラさんめがけて すっぱいミカンを投げつけ、バカにつける薬はないと、心から思った。


そして塩をまいた。



ドラさんは 引きずって棺桶を持っていくことにしたが それでは棺桶が傷ついてしまう、ではどーする? 他にいい方法はないか?


そしてひらめいた!


玉川に浮かべて 船のように乗っていけばアパートまで行けるじゃないかと、ドラさんは玉川に棺桶を、落とした。


運よく 壊れなかったが、隙間や穴が開いていたりしたので 水が中に入ってきてしまっていた。


乗ってアパートまで行く事は断念した。


沈むからだ。


泳いでいくことも考えたが ドラさんは泳げなかった。


とりあえず穴は 草を詰めて塞ぎ、なるべく浸水しないようにした。


上流にあった事が幸いした、棺桶は 川の流れに乗って下流へと下ってくれた。


二股に分かれている分岐点で、アパートとは逆の方へ 棺桶が流れて行ってしまった。


ドラさんは焦った! ただちに棺桶を元に戻さないと、玉川に飛び込み、溺れてしまった。


しかし、偶然にも 小田さんが 夜の鯉漁を素潜りでやっていた、そのおかげで ドラさんは小田さんに助けてもらい、その上 棺桶までも一緒に、アパートの前まで誘導してくれたのだ。


そして 玉川から棺桶を引き上げるのも小田さんは手伝ってくれた。


ドラさんは非力の上、腰痛持ちで 使えない奴だった。


七十を超えている細身の老人とは思えないくらいの力で 棺桶を土手の上まで引っ張り上げてくれたのだ。


ドラさんは 礼も言わずに「家まで頼む!」と言ってのけたので さすがに 小田さんも カチンときた。


棺桶は土手の斜面 約一・五メートル 小田さんの手によって、滑り落とされた。


「あああっっ!!! 何やってんだっ!! 傷つくだろがっ!!! ボケッッ!!」


小田さんは ドラさんを無言のうちに川へと引きずりこもうとしたが、浅瀬で溺れかけて 泣き喚いたので逃がしてやった。


ドラさんは 世の中 下品な奴ばっかりだっ!! もっと繊細に出来ないものかっ!! と言ってのけた。


ドラさんは 非力で腰痛持ちなので 十センチ動かすのに一時間もかかっていた。


朝になり・・・


陽が昇り・・・


小鳥たちはさえずりはじめた。


東の勝尾山から朝日が差した。


ドラさんは 酸欠、貧血、脱水状態で気を失いかけていた。


これが癖になるほど気持ちのいいもので、このまま気を失ってもいいかな、と思っていたところ、目の前が明るくなってきたので、自分は夜でも明るく見えるようになったんだ、フクロウのような目を手に入れたんだ! と そう思った。


だがすぐに これが 朝の日の光だと分かった。


だか、それ以上考えるのを辞めていた。


その時 アホ面のドラさんは ちょうど 勝尾山の方を向いたままつっ立っていた。


勝尾山は村の東側にあり、夏の朝日は その勝尾山の左肩から昇ってくるのだ。


ドラさんは何十年振りかに 朝日を拝んだ。


「・・・・ああ、心が洗われるようだ・・・。」と小さくつぶやいた。


その時 ラジオ体操に行くため 藤原孝子と竹下チエがバス通りを歩いていた。


土手の下、東を向いて朝日を浴びているドラさんを見た二人、「・・・あの人、太陽の光にあたっちゃうと死んじゃうんじゃないの?」と竹下チエが藤原孝子に聞いた。


「・・うん、・・私もそう聞いたけど、・・・・朝日 見てるね。」


本当に死ぬわけではないドラさん、行きかう子供に声をかけ、「おい、手伝え!」 少しすると大家さんがやって来て 「おい、ちょっと手伝ってくれんか?」と言って、手伝わせた。


子供たちは ラジオ体操があるからと、途中で抜けた。


「ラジオ体操などしなくていいわっ! 手伝えっ!!」と自分勝手な事を言うドラさんに 大家さんが切れた、「あんたっ!! 人に手伝ってもらっといて、なんだいっ! その態度はっ!! 礼の一つも言わないのかいっ!!」


ビビるドラさん。


大家さんもあきれて アパートの掃除の準備をしようとしたら、「何で 手伝わないんだ? 手伝ってくれ!」と 手伝うのが当たり前の言い方をしたので 大家さんはまた切れた。


「それが 人にものを頼むときの態度かいっ!! ちゃんと頭を下げて頼むんだよッ!!」


ドラさんは 更にビビった、なぜ ドラさんは 大家さんにびびるのか? それは かなり昔の事になる。


ドラさんは村の子供を叩いてイジメていた、その頃から 弱いものには めっぽう強い、ドラさんは、「人の顔を指さして笑うなッッ!!」と そこにいた子供たちをこづいて、憂さ晴らしをしていたのだ。


そのとき孫の危機に駆け付けたのが 大家さんだった。


つまり 頭をこづかれ、いじめられていたのが 幼き日の春名先生だったのだ。


オレは ドラさんに怒りを覚えた、どーしてやろうか?


こっぴどく怒られたのが 今よりずっと若い 大家さんさんだった。


そして今、大家さんが怒ったことにより 忘れていた昔の記憶が蘇えった、炎天下の下、田んぼのあぜ道で正座をさせられ一時間も説教された事をだ。


ちなみに こづかれていたのは春名先生だけではなく、あの梶山もだった、ちょっと嬉しかった。


大工の源さんから聞いた話では このドラさん 女の子である春名先生まで何度もこづいたらしいが、梶山と違って泣かなかったらしいのだ、それどころか 当時から非力だったドラさんめがけて飛び蹴りを食らわしたらしいのだ、ドラさんは 当時 小学三年生で九歳の女の子に蹴られて、その反動で田んぼに落ちてしまい、溺れかかった! が、田んぼは浅いので溺れなかった、何やら幼い春名先生に向かって罵倒を吐くドラさんに、幼い春名先生は助走をつけてドラさんの顔面めがけて二度目の飛び蹴りを食らわしたのだ。


田んぼの中で大の男が 九歳女児と取っ組み合いのケンカをして、そして負けたのだ。


・・いやー・・ここまで来ると源さんの話も 盛っているようにも聞こえてくるが、あの春名先生がそこまでするだろうか? まして年端もいかない子供が 当時から大人だったドラさんに、こづかれたからってそこまでするだろうか?


春名先生の噂は いろいろ聞く、


男の子と混ざって 川遊びをしたり、セーラー服着たまま バイクで田んぼにダイブしたり、・・あと、最近では 迷彩服を着て勝尾山でサバイバルしているとか、その勝尾山にヒバゴンがいて荷物持ちをさせているとか・・どれも、あの穏やかで優しい春名先生からは想像がつかない。



ドラさんは 大家さんに怒られた事で子供のように泣いてしまった、トラウマを持っているのだろう。


「うえぇぇーん、うえぇぇぇーん、」


大家さんはまさか泣くとは思っていなかったのだろう、ちょっと驚いた、と、同時に哀れみの表情に変わっていった。


大家さんはドラさんをなだめた、それから この棺桶は自分たちじゃ持てないから、後で男の人を連れてくるから もう少し待ってちょうだい、と言ったら素直にうなずいた。


そして朝の仕事を手伝わされることになったドラさん、「あの・・大家さん、私は 日の光を浴びると死んで・・」


「生きてるじゃないの、・・バカみたいなこと言ってないで次は便所掃除手伝いなさい!」


「・・そ それが人に物を頼むときの態度・・かね?」


「いいから、便所を掃除しなさいっ!!」


ドラさんは しぶしぶトイレ掃除を手伝った。


トイレ掃除と言えるものではなかったが 大家さんはとても嬉しかった。


外で子供たちの声が聞こえたから 覗いてみると、ラジオ体操から帰って来た子供たちだった。


さっきの藤原孝子と竹下チエが 男の子たちを連れて来てくれたのだ。


「あんたたちちょうどいいところに来た! 棺桶を部屋に運ぶの手伝っとくれ。」


棺桶は大きく 玄関からは入らなかったので 南側の窓から入れることにした。


何十年、開けていなかった雨戸はなかなか開かなかった、雨戸を無理に開けようとしたので 壊れて外れてしまった。


「何やってんだっ! おまえたちっ!! 雨戸を閉めれなくなったじゃないかっ!!」と 男の子を怒鳴るドラさん。


「良かったじゃないか、これで部屋にひざしがはいるじない。」


「わたしは日差しがだいっっっきらいなんだっっ!!!」


大家さんは一喝した。


「仕方ないだろ、痛んでいて開かないんだから!」


ドラさんは大人しくなった。


「・・・はい。」


部屋の窓もなんとか開け、中を見た大家さんはビックリ!


天井からの無数の蜘蛛の糸、それが絡み合って玉を作り、紐状となってぶら下がっていた、死んだ虫の死骸、どす黒く変色した壁、朽ち落ちたフスマ、赤や白のキノコ、元は白だったが茶色と黒とグレーの混じったまだら模様の布団。


人が住む部屋には見えなかった。


「なんだ? 何をそんなに驚いているんだ?」


「・・・・、あんた ほんとにここに住んでんのかい?」


「あたりまえだっ! 私の部屋だっ!」


女の子たちは 五メートルほど後ろに下がり退避した。


男の子の中でも「うわっ! きったね、・・オレ 無理だよ・・、こんなとこ入んの」と松岡ことまっつんは 中に入るのを拒否した。


他の男の子もかなり引いていたが、積極的に手伝ってくれた。


こうして 子供たちのおかげで ドラさんはなんとか棺桶を101号室に入れることが出来た。


大家さんは子供たちに礼を言って「今日のお昼にお婆ちゃんのとこにおいで、お昼ご飯を一緒に食べようか。」とみんなを招待した。


ドラさんは 不潔なので招待されなかった。


そして大家さんに 部屋の掃除をするように強く、言われた。


が、結局はしなかった。



ドラさんは嬉しかった!


何しろ ずっと欲しかった棺桶なんだから。


ドラさんは 棺桶の蓋? 扉を開け、中に入ってみることにした。


すっと馴染んで落ち着くドラさん。


「ああ・・この日を来るのを・・どれだけ 夢見て待ち望んだことか!」とかなんとか独り言を言いながら 棺桶の寝心地を楽しんでいた。


「体が痛い、・・直接 板の上に寝るのは無理だ、・・そうだ布団を敷けばいいんだ。」


ドラさんは まだら模様の布団を棺桶の中に入れ、もう一度 棺桶に入って寝心地を確認してみた。


「おおっ!! いい感じだ! これなら寝れる!」


ドラさんは 扉を閉めて寝ることにした。


風呂は入らない、体の汚れは気にならないからだ。


そっと 静かに 棺桶の蓋? 扉を閉めてみることにした。


中は真っ暗になった。


「素晴らしいっ!! この暗闇っ!! さいこーっ!! ヒャッホーゥ!!」と テンションが上がりまくった!


ドラさんは 少しの間、夢見心地を楽しんだ。


「ワンダフォー!」


棺桶の中は涼しかった、が だんだん熱くなってきた、その上 息苦しくもなって来た。


「気のせい、気のせい。」と 始めはそう思った。


やっぱり気のせいじゃなかったので 棺桶から出ることにした。


「ふうーっ! ・・外は涼しい!」



考えた、なぜ 中は息苦しく熱いのか?


頭を働かせた! だが 働かないと決めたドラさんは 考えるのを辞めた。


小一時間、考えなかった。


何やら どこかで 小さな小さな、ゴソ・・ カタ・・ カリカリ・・と変な音が聞こえて来たので我に返った。


「あ・・・そうだ・・・・棺桶だ!」と また最初から 寝てみることを始めだした。


さっきの、ゴソ・・ カタ・・ カリカリ・・とは 同居している 何だか分からない虫の発する音なのですが ドラさんは そんなの気にしないのです。


なぜなら、もう何十年も前からの音なので、生活音になっているからなのです。


「ああっ!! 息苦しいっ!! 暑いっ!! なぜだっ!?」


と、また考え始めたのだが、考えない事にした。


そして 小一時間、考えなかった。


何やら どこかで 小さな小さな、ゴソ・・ カタ・・ カリカリ・・と変な音が聞こえてきたので我に返った。


それを何回か繰り返していたら、夜になってしまったので、自分の お店、に行く事にした。


とっても眠い、寝てないからだ。


おまけに腹が減っていた、家には何もないので外で調達することにした。


いつもの事だ。


「何か落ちてないかなぁ・・」と考えながら日が暮れた夏の夜を歩いていた。


いつものように 歩くコースは頭に入っている、忘れたりはしない、だから 考えなくてもいいのだ。


玉村の夜空は美しい、満天の星空だ、二千メートル級の 御山から下りてくる風はとても清らかだ。


だが、ドラさんにとっては どーでもいい事だから考えた事はない。


ドラさんは 季節に香る 野菜や果物の匂いを嗅ぎ分けられる 特殊能力みたいなものを備えている、花の香りは分からない。


クンクン・・「・・ああ・・ブドウだ! ぶどうの匂いがする! 熟している!」と言って その匂いのある方へと歩いて行く。

 

ブドウ畑だ、よく生っている、もうじき、収穫だろう。


ブドウをゲットしたドラさん。


そして いつもの散歩コースに戻り、玉村商店街前バス停で必ず おしっこをする。


ジョロジョロジョロジョ・・・ジョロ、ジョロ・・ジョロジョロジョロ・・・


最近、出が悪い。


すっきりしたところで また 歩き出す。


こんな夜にでも たまに人とすれ違う、目が合う、すると ドラさんは急に不機嫌になり、吠えまくる。


ドラさんは 自分の大切な時間を邪魔されるのがとても嫌なのだ。


その時、道に何やら落ちている、ハンカチだ、誰かが落としたのだろう、きっと落とした人は困っているはずだ、ドラさんはそのハンカチを拾って帰る、持ち主には返さない、拾ったら物は自分の物だからだ。


だから ドラさんの部屋の中には たくさん拾ってきたものが ゴミのように放置されている、その他 拾った大切なお金は アパートの周りに穴を掘って埋めている、お金は土に埋める。


土に埋めると安全だと思うからだ、それに埋蔵金みたいで興奮する。


土に埋めた その貯金&埋蔵金の九割以上が 掘り返されることはない。


埋めた場所が分からないからだ。


ドラさんはこうして 自分のハウス・・お店にたどり着く。


そして朝日が昇る前にアパートへ戻る。


そう・・棺桶があるのだ!


心 ウキウキ ハッピーだ!


さっそく顔桶に入る、田んぼの泥は 振るえば落ちる、風呂には入らない、嫌いだからだ。


ドラさんはジェントルマンの証し、スーツを脱ぎ ハンガーにかけ、どこかその辺にかけた。


そして棺桶に入った。


もちろん 裸だ。


やっぱり扉を閉めてこそ 棺桶なのだ! と思う。


「ああ・・そうだ、空気穴を開けなきゃいけないんだった・・。」 気の徹夜でそれを考えた。


ドラさんは 「よっこしょー・・。」と嫌々 棺桶から腰をトントン叩きながら起き上がった。


さっき、どこかの納屋で のこぎりを借りて来たのだった。


その のこぎりで 棺桶の横に窓をつけようと考えていたのだ。


だが どーやって? ドラさんはのこぎりを手に 考えていた。


考える事を辞めたドラさんは 小一時間ほど ・・止まっていた。


「あ! ・・・何してたんだっけ?」


ドラさんは思い出した、のこぎりで棺桶を切り始めた。


何も考えずに。


ギ・・・・コ・・・・


のこぎりは 引けなかった、そして 押せなかった。


「どーやって切るんだっ!? 使えないのこぎりめっ!!」


のこぎりを腐敗した押し入れに投げ捨てた。


「痛てっ!」 肩を痛めてしまった。


「あーっもおうっっ!! どいつもこいつも使えない奴めっ!!」自分の事を言っているのか?


ドラさんはふてくされた。


だから 「もういいっ!! 寝るっ!!」と言って 棺桶に入った、そして扉を閉めた。


「・・・ふうぅぅー・・」と一息つき、眠りについた。


そして少し経つと「寝苦しい・・息苦しい・・暑いよー・・」と言い出した。


始めから分かっていた事だが、ドラさんには学習能力がない。


「ああもおおーッッ!!」と言って 棺桶の扉を開けようとしたら なぜか開かなかった。


「・・・・、あれっ!? 開かないぞっ!」


ドラさんは 焦って必死に扉を押したが開かなかった、「・・・なぜだ? なぜ開かない?」


ドラさんは知らないが 演劇部の練習用の棺桶は セットなどを納めるため、南京錠がかけられるように 留め金が付いていた、その留め金が、上手い具合にかかってしまったのだ。


ドラさんは不安になった。


怖くなってきた。


もしかしたら一生出られないかもしれない、こんなとこで 一生を過ごすなんて嫌だっ!! ドラさんは強く思った。


中は暗いし、狭い、動けない、寝返りはうてる、足も延ばせる、・・ああ、快適だ、だけど 暑いし息が出来ない! このままでは窒息するっ! 死んでしまう!


悲しくなってきた。


「うええぇーん・・うええぇーん・・誰かぁ・・助けてー・・怖いよー・・・」誰も 来るはずがない、この二十年ちょっと、春名先生とお母さん、大家さん以外は誰一人 訪ねて来なかったからだ。


「うええぇーん・・ヒック・・ヒック・・」しゃくりあげて泣いていた。


ダメだ! 早く出ないと! ドラさんは必死に考えた! だが 考えるのを辞めていた。


・・小一時間も経たないうちに我に返ったドラさん「苦しっ!! 苦しっ!! 息苦しいっ!! 息が出来ないっ!! あああっっ!! 動けないっ!! あああっっ!! ああっっ!! アアアアッ!!!」ドラさんはパニクっていた「うわあああっっ!!! ハあああッッッ!!! ヒィィッックションッ!!」ゴツンっ!「アアアッ!! アハハハアッッ!!アアアアッ!!!」


カタ・・


「・・あ、」 棺桶の扉の上部、顔のあたりになるが、そこが窓になっていた。


さっきパニクって ついでに、くしゃみをした時に頭突きをしたら その窓が外れたのだ。


「・・・・・・・・、」


気づくのが遅いドラさん。


「・・え? ・・開いてる、」と言ってその窓にもう一度 頭突きを軽くしてみた。


「痛いっ!! もおおっっ!! 痛いだろっ!!」と窓に八つ当たりをするドラさん。


その窓は外れて棺桶の上に乗っかる感じで不安定にグラグラ揺れていた。


と 思っていたら窓がドラさんの額に落ちて来た、カタン・・「おうっ!!」


外れた窓はドラさんの顔の上で止まっていた。


「どけよッ!! 邪魔だよッ! あっち行けよッ!! もおおッッ!!!」


ドラさんは なんとか腕を顔に持ってきた、「・・へへ、手が使える、・・もうお前は 私の言いなりだ!」 棺桶に言っています。


ドラさんは 四角い窓を自分の顔の上から 左側に落とした。


「ふうう・・・。」これで一息つけると思ったドラさんは 安心したのか眠ってしまった。



・・小一時間が経っただろうか。


耳元で ブーン・・と言う音が、沢山聞こえて来た。


ブーンブゥゥーン・・ブゥウゥゥーン・・ブブゥーン・・ブ・・・ブウーン・・「うるさあーいっ!! 眠れんじゃないかあっ!! ああっっ!! 何だっ!! 蚊っ!? 蚊なのかっ!!? どーやって入って来たっ!? クソオッ!! 生意気なあっ!!」


昨日の朝、棺桶を部屋に入れるために 南側の雨戸と窓の両方を壊してしまっていのだった。


「そうか! それでかっ! あのガギィィッ!! よくも壊してくれたなあっ!! 許さんぞおおッッ!! 恨んでやるウッッ!! 祟ってやるウッッ!! ああんっ! うっごっけっないよぉッッ!!」


外から入る蚊は 窓から沢山入り 棺桶の周りに集まっていた 何十匹、夏も始まったばかりなのでお腹を空かせた 蚊、たちは一斉に棺桶の窓から中へ入って行った。


腕を思うように動かせないドラさんは なすすべなく餌食となった。


「あっち行けっ!!あっち行けっ!! もうっ!! あっち行けって言ってるだろっ! なんでわからないんだっ!! イヤぁーッッ!! もう来ないでーッッ!! ・・クソっ! ・・ああそうだっ! わたしには不思議な力あるのだよっ!! 怖いだろっ!! えいって言えば魔法が使えるのだっ!! だからあっち行けっ!! えいっ!! えいっ!! ええーっっいっ!! ・・えいって言ってんだろっ!! 魔法を使う合図だよ!! このバアーッカっ!!」 蚊に言ってます。


「痒いぞ! 痒い! 痒い―! ああ痒いっ!! ああっ!! あああッッ!! アアァ・・モオオオッッ!!! 痒いよッ!!」ドラさんは痒みと戦っていた! 身動きが取れない暗闇と戦っていた! 「もう!無理っ!! もう無理っ!!」諦めるのも早いドラさん、そして絶望と戦った。


「ヒィィィーッッ!! 痒ぅーっ!! 痒ぅーっ!! もう嫌あっ!! 許してぇーッ!! なんでも言う事聞くからあっ!! ごめんなさあーぃ! ごめんなさあーぃ!」


ドラさんは 泣き出してしまった。


「ウエエーン・・ウエエーン・・ヒック・・ヒック・・シクシク・・(ノД`)・゜・。」


小一時間、戦っていた。


「さすならさせー! もう 私は逃げないっ!! どこからでもかかって来いっ!! 好き放題に刺しやがってぇっ!! 刺したければ刺すがいいっ!! 私はどこにも逃げたりはしないっ!! アハハハハっ!! 屈服などするものかあッッ!! アハハハハハハハッ!! ・・ん!?」 と、その時 おしっこがしたくなった。


ドラさんは考えた、どこでするの? それ以上は考えなかった。


そのおかげで 一瞬、尿意を忘れることが出来た! が、これは生理現象なので すぐに思い出した。


「はっ! おしっこがしたいっ! ・・・え!? どこでしろと言うのだ!?」ドラさんのトイレは 基本 外である、がしかし、外に行けない事に気が付いた。


「ではどこで おしっこをしろと言うのだ?」


と、考えていたら、考えるのを辞めて、数分たった。


「あれっ!? おしっこがしたいっ!! もう我慢が出来ないっ!! あああっっ!! 何て事だった!! ・・・・、なんて事だっ!! このままでは漏れてしまう!! 漏れてしまうぞっ!! それでもいいのかあ!? 嫌だっ!嫌だっ!!嫌に決まっている!! アアッッ!! 漏れるぅぅっっ!!!漏れ!漏れっ!!・・・あ・・・。」


あたりは静まり返り 蚊の音だけが鳴り響いていた。


ドラさんは漏らした。


全部 出し切った。


すっきりした。


すっきりしたら安心した。


・・もう 漏らすことはない。


だんだん冷たくなってきた。


涼しくなってきた。


・・お漏らしもたまにはいいものだ、思い始めるドラさん。


蚊の飛び交う音にも慣れてきた・・ような気がした。


ドラさんの全身は蚊に刺されまくり腫れ上がっていた。


痒みにも慣れてきた・・ような気がした。


私は順応性に優れている、多くを望まない、そこにあるものを食し、そこにあるものを着、そこにあるものに敬意をもつ、私は 自然と共にあるのだ、いつからか 人間たちは自分をすべての支配者と考え、そこにある全てのものを使い捨てにしてきた、・・・そう、人間とは欲の塊なのだ! それを満たすためならすべてを破壊してでも手に入れようとする、そこに大きな間違いがあるのだ。


眠くなってきた、私を眠りに誘うの何なのか・・? やはりこの棺桶か、素晴らしきかな棺桶は。


お腹が痛くなってきた。


グルグルグルグルルゥ・・・ギュルギュルルルル・・・


下痢かな・・・?


・・ウンコがしたい。


なぜだ!? なぜ 今頃 ウンコなのか!? もう 二日か三日か四日か・・出ていなかったはず、なぜ今頃・・・


「よいしょ・・あ、」ドラさんは棺桶に閉じ込められていた事を思い出した。


「・・・開かない・・、アアッッ!! まずいぞッッ!! 開かないッッ!! なぜ開かないんだッッ!! アアッッ!! アアッッ!! ハッ・・ハッ・・」ギュルルルル・・ピー・・・プス・・「アアッッっ!! いかんッッ!! いかんッッ!!! このままではッッ!! 漏らしてしまうっ!!」 ドラさんは基本、野グソである。


プス・・「ダメだあッッ!! アアッッっん・・・」プズ・・ズュ・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」匂いが・・・、臭い・・・、これはウンコの香り・・・てことは・・・ちょっと漏れた・・・・。


グルグググ・・・キューゥゥ・・・ブリ・・・「あ・・・」


ブジュジュゥ・・ブリッ・・


「もうダメだ! ほんとにもうダメだ! よく耐えた! わたしよッ! 君はよくやった! もういいじゃないか・・仕方がない、・・ハハハ そうだよ、・・気にするな、ウンコ漏らしたからってなんだってんだ、・・ウンコはみんなする・・どこでするかの違いじゃ・・あぁぁぁ・・」ブシュージュボジュル・・ピー・・プ~・・


「・・・・しちゃった・・・・・。」


ブリリ・・ブリブリブリリ・・ピュー・・ププ・・プ~・・ぷす


あー・・すっきり・・気持ちいい・・・フー・・・。


出ちゃったものは仕方がない・・・ハア・・・。


「・・・この状態で ウンコかぁ・・・、こんな経験 なかなか出来ないぞ、・・・ハハハハ、まるで赤ちゃんだな、・・何十年ぶりだ! 寝ウンコは? ・・・・くっさーっ!! 臭いっ!! ウンコってこんなに臭いのかっ!? アアッッ!! ダメだッッ!! この臭さっ!! 死にそーだっ!! なんでこんなに臭いだよッ!! クソーッッ!!」


ドラさんは 棺桶の窓から口を外に出して 呼吸していた。


スーハー、スーハー・・スーハー・・ 「ちょっと休憩・・」ハア・・ハア・・「くっせーッッ!! くっせーッッ!! ああくせーッッ!!」 スーハー・・スーハー・・スー・・「ああ、疲れる・・、 くっせーッッ!! このままじゃ死んでしまうぅッ!! どーしよッ!! どーしよッ!! 自分のウンコの匂いで死んでしまうのかぁぁー・・」


ドラさんは 生死の境を彷徨っていたような気分だった。


それから 小一時間が 過ぎた。


疲れたので、もう寝ることにした。



時計はない・・・。


以前、ボンボン時計を持っていた、昔からあった。


あの ボーン・・ボーン・・と言う音が 心臓に悪い、それにチッチッチッチッ・・と言う音が気になる、だから庭に埋めたのだ。


小さな小さな、ゴソ・・ カタ・・ カリカリ・・と言う音は気にならない。


・・深くは考えないでほしい。



ドラさんは 眠りに落ちた。


そして夢の扉を開いていた。


・・ああ、


・・・いい香り・・・。


たくさん ウンコが落ちている、ああ・・宝物があっちにもこっちにも・・いっぱいだ・・、いっぱい 拾って帰ろう・・部屋にいっぱいいっぱい飾ろう! ・・忘れていたよ・・部屋を飾ると言う事を・・・ああ・・何て事だ・・・私は幼少の頃、たくさん 何かがお部屋に飾ってあったのに・・、今は何もない、こんなにすっきりしちゃって・・・。


そうだ! 部屋に入らなければ庭に埋めよう・・花が咲くかもしれない。


ドラさは 不思議な夢を見ていた、夢と言うのはそーいうものだ。



ドラさんは 二日間ほど、棺桶に閉じ込められていた。


飲まず食わずで 二日だ、当然だろう・・生死にもかかわる。


・・最初にドラさんを見つけたのは 大家さんだった。


早朝、ソフィーさんから どこからか異臭がすると聞かされ、101号室の扉を開けたら その部屋からだった。


・・101号室、函館太郎の部屋。


大家さんは あまりの臭さに恐れをなした。


体から血の気が引いた、慌てて部屋の中に飛び込んで「函館太郎っ!! 函館太郎っ!!」と叫んだ!


部屋中に ハエが 何十匹と飛んでいた。


クモやゴキブリが数匹、目についた。


これはいつものかび臭さではない、尋常ではない臭さだ、生き物が腐敗するときの・・・


「・・まさか、・・・函館太郎っ!! あんたっっ!!」


目の前には あの棺桶が置かれてあった。


「・・・ああ・・あんた、ほんとにこの棺桶で・・・」


大家さんは棺桶の上部に窓があることに気づき 恐る恐る近寄って 中を確認しようとした。


そとから ソフィーさんの声が聞こえた「大家さん! ドラさんは!?」


大家さんは答えずそのまま中を ゆっくりと覗き込んだ!


髪の毛、・・顔!?


その顔は膨れ上がり誰だかわからないほどだった。


これは 死んだ後に見られるかもしれないと言う・・


・・目が開いている・・・目が合った!! こっちを見た!?


「函館・・お前なのか・・?」


「大家さん・・・」


「うわああっっ!!」大家さんは 腰が抜けるほど驚いた!!


お化け!? 化けて出た!? 函館太郎ならありえる!?


「あのーぅ・・大家さん・・、ここから出られなくなっちゃってーぇ・・・へへへ・・。」


大家さんは 心をおちつつかせた。


「おい、あんた・・誰だい!? 函館太郎かい!?」


「そーだよ、私に決まっているだろっ! とにかく ここから出してくれ!」


「死んでないんだね? 生きてるんだね?・・酷い匂いがするんだが・・何の匂いだい・・?」


「生きてるよッ!! 勝手に殺すな! ・・ひどい匂いってなんだ・・? そんなに匂うか?」


ドラさんの鼻は麻痺していた。


それどころか とても味わい深い匂いだと思い始めていた。


いわゆる スルメいかのように 噛めば噛むほど味が出るように、匂いにも"それ"があるのだろう、納豆は臭い、だが美味い! 体にもいい! もう何十年と食べていない、があれはいい! 腐っているから臭いのは当たり前だが、納豆は臭いのか? 臭くないだろ。(腐ってはいません、発酵しています。)


それと同じなのだ、臭い中にも味わい深い香り、と言うものがあるのだ、それが ウンコの匂いかもしれないのだ。


今、ドラさんは とても穏やかだった。


まるで 悟りを開いた感じなのだ。


煩悩を捨て、強欲を捨て、ただ あるがままに垂れ流す。


これすなわち、自然の流れの中に生きている、自然と共に生きている、大自然と同じ時間の流れに生きているのだ! ・・いや、生かされているのだ。


ハエがたくさん飛んでいる。


腹は空いてない。


喉が渇いた、水が飲みたい。


事情を理解した大家さんは 自分ではどおにも出来ないので 応援を呼ぶことにした。


「ちょっと待っといで! すぐ誰か、呼んでくるから!」


大家さんは 久しぶりに走った! 小走りだ! いや、歩いている? とにかく急がなければ!


ドラさんは 微笑みを浮かべていた。


棺桶の小窓の中から その微笑みは見えるはずだが、薄気味悪いので見ない方がいい。


大家さんに呼ばれてやって来たのが 大工の源さんだ、パチンコはしない。


「くっせーっ! なんだっ!? この匂いはぁっ!! ・・それに何だ? このハエの多さは・・・」と入口の手前で躊躇した。


大工の源さんは 六十を過ぎたばかりの大工の棟梁だ、だが 今は ほとんど大工仕事はしていない、村で早々隠居しながら昔の客からの大工仕事や、村の家々の修繕などをしている。


少し遅れて大家さんがやって来た。


「あんた、あの棺桶を開けてくれないかい?」


「・・婆ちゃん、なんだよ、この匂いは? ハエがすげー飛んでんだけど・・・、まさか・・」


「大丈夫! さっき生きてることは確認したから 大丈夫だよ! そんな事より、早く あの棺桶を開けてくれないかい? 函館太郎が 閉じ込められてるんだよ!」


「わ 分かったよ・・、救急車は呼んだのか?」


「え!? きゅうきゅう・・」 そんなものは一度も呼んだことがありません。


「・・はぁぁ・・ハコダテぇ・・、好きで閉じ込められてんじゃないのかぁ?」 大工の源さんは ドラさんがあまり好きではないようだ。


「そんな訳あるかねっ! ほらっ! 早く どうにかしておくれっ!」と 履物を脱いで大家さんは先に部屋へと上がっていった。


源さんはかなりためらい 靴を脱いで上がる事にした、その時点でかなり 機嫌が悪くなっていた。


「ここに閉じ込められてんだよ、どーやったら開けられるかねぇ?」


「・・・・いっそのこと焼き場に持ってこーか? ちょうど棺桶だし、手間、省けるし・・。」


「何 ふざけてるんだい! 函館が死にそーなんだよっ!」


「分かったよ・・開けりゃぁいいんだろ? ・・しょーがねーなぁ・・。」


と 大工道具の入った手提げ入れから (金槌)をだした。


そして 棺桶を金槌で ドンドンと二回叩いた。


「おいっ! 叩くなっ! 棺桶が壊れるだろっ! 丁寧にやれっボケっ!」


源さんは 金槌で棺桶を強くたたいた。


ドンっ!! バリ・・ 棺桶に穴が開きました。


「アアアアアアアアアッッッッッ!!! おまえぇぇぇっっっ!!!何てことしやがったんだぁッッ!!!」と ドラさん。


「棺桶がぁぁっっ!!棺桶がァッッ!! アアアアッ!!」


「ちょっと源さん、ダメだってなるべく壊さないようにしてくれなきゃあ、」


「ヘイヘイ・・」


「おいコラっ!! 源っ!! 今度やったら承知しないからなぁっっ!! 分かったかあッッ!!!」 と相変わらず自分の立場が分からないドラさん。


源さんは かなり頭に来ていたが 大家さんの手前、棺桶を開ける方法を探してみた。


鍵がついてあるだろう付近を見てみると 留め金がついていた、それを人差し指で外した。


そして 源さんは棺桶を開けてみた。


ギギ・・ギィィィー・・ パタン!


「丁寧に開けろって言ってるだろっ!! 壊れたらどーすんだっ!!」


そう、ドラさんは裸体で、とっても汚かった。


ハエハエカカカ・・・垂れ流していた、尋常じゃない姿に 軽く笑顔だったドラさん、不気味だった。


源さんはその姿に絶句した。


大家さんは 朝からお風呂を沸かして ドラさんをお風呂に入れようとした。


ソフィーさんは内心、絶対反対だと思った。


ドラさんは お風呂を嫌がる子供の用に 「私はお風呂が嫌いだっ!! いやだいやだっ! 入りたくないっ! 風呂に入るくらいなら 死んだ方がましだっ!!」と、嫌がった、・・なぜそこまで嫌がる。


仕方がないので 源さんが表の井戸水で直接 水浴びさせた。


ソフィーさんは とてもホッとした。


「おいっ! ハコダテぇ、逃げたら お前の棺桶をぶっ壊すからな。」と言われ、素直に水をかけられるドラさんだった。


「・・棺桶を壊すんじゃないぞ・・、・・いいかぁ・・絶対、壊すなよぉ・・」 村の井戸水はとても冷たい、源さんが井戸水を汲み上げ、ドラさんが使うバケツに入れ替える、汚いから直接触らせない、ドラさんが 指定された場所からは動けない、「一歩でもそこから動いたら棺桶を壊すからな。」と 素直に アパートの前の庭に立たされ、裸で棒立ちだった、源さんがドラさんをいじめているように見える。


ドラさんは 水の入ったバケツを持ち上げる事が出来なかった。


「どんだけ非力なんだよ! お前はっ! ちゃんと体を ゴシゴシしろよっ! ただ かけてるだけじゃ落ちないだろ! 汚れっ!」


「どーやってゴシゴシするんだよぉ・・もー、」と ちょっぴりふてくされているドラさん。


「手があんだろっ! 手がっ! 両手を使えっ! ボケぇ! ほらよ! 流せ!」


「・・そんなに急かすなっ・・うまく洗えないだろ・・、」


「お前っ 今動いたなっ! 一歩 そこから動いたなっ!」


「動いてないっ! ・・気のせいだっ! 何を言っているんだっ!! バカだろっ!」立場が分からず一言多いドラさん。


「バカはお前だッ!! 頭に来たっ! 棺桶壊すっ!!」


「うあぁぁーん! 壊すなって言ってるだろーっ!」 泣き出すドラさん。


「・・・冗談だ 泣くな アホ。」


その後だが、


大家さんをはじめに春名先生、ソフィーさんたちが ドラさんの部屋を片付けてあげる事になり、腐敗の進んだ部屋は想像を絶する悍ましいものとなっており、掃除と修繕に三日ほど要した。


畳はダメになっていたのでフローリングとなった、壁や押し入れはむき出しのままとなり 建築用合板を貼り合わせただけのものとなった。


天井は湿気とカビで波打ち下に落ちていたりした、その天井を修理するときに 天井裏のわずかな隙間に、イタチの親子が住んでいて 子どもは数匹、母親の後をついて逃げ回っていた。


ドラさんの部屋の天井裏に住んでいたんだから病気になんかなっていないだろうか?と 女性陣達は心配していたが、源さんがイタチを追い回すのを見て安心した。イタチの赤ちゃんはとてもかわいく元気だった。


病気にならずここまで大きく成長していたことは喜ばしい事だ。


だが、イタチは天井裏や押し入れ、壁の裏などの隙間で巣を作り、おしっこや糞をするので 建物が傷み悪臭がする、イタチのおしっこは乾くととても臭いのだ。


・・ドラさんも臭い。


こうして ドラさんのリフォームは無事 終了し、今は静かに以前と変わらず暮らしている、窓とカーテンは閉めっ切っているため すぐにカビ臭くなっていた、これでいいのだ。



ドラさんとは そもそも何者か?


ポッと出の村人その一人です。


・・流れから察するに 以前から玉村に住んでいたと言う事は分かります。


ドラさんのご両親は? 少年時代は? 最終学歴は? いつから こんな感じなの? 等々、知りたいでしょうか? 別にいいですよね、知らなくたって。



つづく。




第十四話 「函館太郎の宝物」





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