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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第十三話 「函館太郎こと、ドラさん」



第十三話 「函館太郎こと、ドラさん。」





これは 私こと、城島茂が ここ、玉村にやってくる 一か月前の事である。



夏 真っ盛りの七月の終わり、みずみずしく澄んだ空気と木と草と土の匂いで辺りはいっぱい、それでも全然嫌じゃない、むしろ その逆で深呼吸を胸いっぱいすればするほど 力がどんどん湧いてくる、田舎はどこもそうだろう。


特に玉村は 標高が高いところにあるからどこよりも空気が澄んでいる、その上 工場や自動車などほとんど走っていないからなおさらだろ、不純物の混じった空気は重く、重力に従い下へ落ちていく。


あああーっ! うれしーっ! と突然腹の底から声を出して 大声で嬉しい気持ちを叫びたくなる子供のような気分にさせてくれる!


体の隅々からエネルギーが溢れてくるような、そんな感じの場所が、この玉村なのだ。


だけど 子供の頃はオレも毎日がそんな風に大きな声で 「うれしーいっ!」と叫びたくなるほどのエネルーギーに満ち溢れていたはずだ。


いつごろからか・・ そのエネルギーは枯渇し始めて、大学時代には終日ニートになりかけていた。


それが とんとん拍子に事が進み、考えてる暇などないくらいの速さで、幸せの扉を開いたと言う感じだった。


ああ・・、まるで 玉村の八百万様が オレを救い上げてくれたみたいだ。


オレは現在、・・・偶然にも 気がついたら小学校の教師をしているのだ! なんて素晴らしい事なんだ!



ま、今はそんな事、どーでもいいけど。


・・では、さっそく本題に入るとしよう。



101号室には 函館太郎さんと言う 未知の生命体がいる。


あれはいったい何なんだ! 自分の事をドラキュラだと言っているらしいが、まず、ドラキュラではない。


・・ドラキュラ、・・もうすでに使いまわされている単語でありキャラではあるから、"ドラキュラ" と何度も書いているうちにちょっぴり恥ずかしくなってくるものではある。


・・・だから 今となってはドラキュラ、と言う言葉より、バンパイア、と言われる方が多い。


つまり!


・・・死語に近い言葉を オレは何度も使っていることになるのだ、ハハハ。


だが! しかーしっ、・・思いつかないんだから、仕方がない、・・これで行くことにする。


そもそも、"ドラキュラ"と言っているのは 函館さんで オレではない。


それ以前に函館さんは ドラキュラとバンパイアの違いを ちゃんと分かっているんだろうか?


・・・まあ、どーでもいい。


ちなみに ドラキュラとは 中世のルーマニアに貴族として実在した人物の名前で、その生まれ変わりと言うなら、101号室の函館さんはただの"人"と言う事になる。





バンパイアとは吸血鬼と言う意味になる。






なので、函館さんは ドラキュラの生まれ変わりなら、貴族であるドラキュラ一族の生まれ変わりとなるので、ただの"人"であって吸血鬼と言っている事にはならない。


・・・たぶんだが、函館さんは 吸血鬼ドラキュラと言いたかったんだと思う。


結論から言うと、・・函館さんは "バカ"である可能性が非常に高い。


交友関係もない他人様を"バカ"呼ばわりするのは 大変失礼に当たるので、本人を前には言いません。




さて、ドラさんの日常だが、



その日、珍しく早起きしたドラさんは お腹がすいてどうしようもなかった。


部屋は 真っ暗で雨戸をしめ切っている状態だ、だが、雨戸の隙間から外の明かりが入っていた。


PM6:00 夏の六時はまだ明るい、ドラさんは とりあえず吸血鬼・・なので 日差しを浴びると死んでしまうと言う事だ。


ドラさんの布団は万年床で、キノコが自生している。


よく寝られるものだ。


その自生キノコを採って生で食う事もあるらしい。だが 普通の人がキノコやシイタケを生で食べるとお腹をこわすので危険です。


ドラさんんは 万年床を そっ・・と、持ち上げて見た・・・、だが そこには 黒カビと どー見ても食えそうにない ピンク色のキノコと 何だかわからない固形の菌糸植物が布団の裏と畳の両方にへばり付いていただけだった。


「・・あー・・」とため息を一つするドラさん、「・・・畳がくぼんでいる・・。」つまりそれは 畳が腐っていると言う事では? ドラさんは 布団の位置を少し横にずらした。


ドラさんのお腹は グーグーなっていた。


「よし決めたぞっ!」と猫背をまっすくにした瞬間、「痛テテテテ・・・」と腰を抑えた。


ドラさんは 腰痛持ちなんです。


痛い腰を軽く トントンと叩きながら 押し入れを開けた、その中には・・・・たぶん 衣類をはじめとした日用雑貨などが押し込められて入れられていた。


もはや それが何なのか分からない状態で 朽ちてしまったのか、腐ってとけてしまったのか、もう モザイクが必要と申しましょーか・・今となっては分からない状態になっていたりするのです。


「・・あった、・・おおー。」と喜ぶ ドラさん、その手にしたものが何かと言うと、・・・トマトジュースである。


・・・あまりにベタなので話すこちらが恥ずかしいが、・・・ドラさんは トマトジュースが大好物なのである。


・・トマトジュースが大好き・・、もう それでいいんじゃないでしょうか。


ドラさんは 賞味期限が大幅に切れたトマトジュースを慎重に開けて・・・そして、それを上手そうに一口飲んだ、ごっくん・・喉を通る賞味期限切れが大幅に切れたトマトジュースをそれはそれは味わい深く美味しそうに飲み込んだ。


ドラさんの眉間が八の字になる、梅干しを食べたかのように口をとんがらし、すっぱそうにする、右利きなのだろう、右手には賞味期限切れが大幅に切れたトマトジュースを握りしめている、・・少し震えている、・・だんだん震えが大きくなる・・・、


・・不味いのか・・?


・・胸に左手をあてている、胸が苦しいのか!?


・・腐っていたのか?


・・泣きそう?


苦しいのか!?


・・何か言いそうだ! 何だ! この展開は、


ドラさんは天を見上げてこうつぶやいた、


「・・・うまい。」


・・天井からクモの巣が糸状となっていくつも垂れ下がっている、・・・その蜘蛛の巣には 殻となった虫の残骸がいくつもくっついていた。


「・・・あの蜘蛛の巣って・・・食えるかなぁ?・・ツバメの巣も食えるって言うし・・・」


・・生まれながらのコントな日常、・・本人は至って普通なのです。


「・・・ああ、・・・なんてうまいんだぁー・・・、あああっ。」


・・もう、いいから早く飲んでくださいよ。


たぶん、飲んじゃいけない、トマトジュースを たっぷり堪能したドラさんは 服を着ることにした。


「フフフ・・・今日はいい事がありそうだ・・・フフフ・・。」と独り言を言うドラさん。


ドラさんは 服を・・・ほぼ一着しか持っていない、・・と言うより あっても原型をとどめていない。


三十年程前のスーツだ、もう 何十年も洗っていない、ある意味ビンテージ、だがそんなの気にしないのがドラさんなのです、


夏は裸で寝る、熱いからだ。


パンツなんてもう何十年、穿いてない、いつもノーパンだ。


それで、いいのだ。


ドラさんはスーツを着て 同じく年代物の革靴を履いて部屋を出た。


「あ、眩しい!」夜の七時を回っていたが 御玉山は 夕焼け色だった。


でも大丈夫、直射日光さえ体に浴びなければ ドラキュラは死なないのだ! と思っている。


ドラさんは ネクタイをしない、苦しいからだ。


ドラさんは 靴下を穿かない、持ってないからだ。


だが スーツを着ることは 紳士のたしなみだと思っている、いわゆる 紳士と言う名の変態なのであります。


「・・年々 靴とスーツがブカブカになっていくなぁ・・、伸びたのかなぁ・・。」何を伸びたと言うのですか? 背、ですか? 服と靴の方ですか?


たぶんそれは伸びたのではなく ドラさんが痩せこけて縮んだと言う方が正しいかと思います。


さて、ドラさんは 自身が営んでいる古本屋へ向かうのかと思われたのですが、いつもとは逆方向へ歩き出しました。


・・・ボケた? いえいえ、まだそんな歳ではありません、若年性何とかと言うものかもしれませんが、・・それが本格始動するには医学上、まだ 十年は先の事です。


昨日 何を食べたかも覚えてません、食べてないかもしれません、ドラさんにとって食べたことを覚えているか覚えていないかが重要ではなく、お腹が空いたかどうかが重要なんです、・・それじゃあ動物と同じじゃないか! と言う人もいるでしょう、ですが ドラさんはそこまで深く考えた事がありません。


ドラさんは 村の中心地、商店街の方へと向かいました。


とりあえず 腹ごしらえと 深夜の食事を 調達しに行くのです、賞味期限が大幅に切れたトマトジュースだけじゃ やはり物足りないのでしょう。


ドラさんは 夜の村中を幽霊のごとくスーツを着て徘徊します。


・・何か落ちていないか。


野菜の無人販売所、村営の畑、・・・盗むのではありません、捨てるくらいならオレにくれ! と言う気持ちで頂くのです。


今日は持ち合わせもありませんから いつもの駄菓子屋でお菓子を買うわけにもいきません、駄菓子は 十円で買えるからとっても有難い食料となるのです。


そんな事を考えていたら いつもはとっくに閉まってている骨董屋に明かりがついていて、まだ開いていたのです。


その明りにつられて ドラさんは 骨董屋の玄関先まで、こっそり覗きに来ていたのです。


「・・・ちょっと入ってみたい、・・・この雰囲気、・・・ここは何かある・・・オレと同じ匂いがする。」と そう思ったドラさんは 少しカッコをつけて骨董屋の玄関を開けて中に入りました。


中は陰気くさく、カビ臭い、骨董屋と言うだけあって なんか変な物がたくさん置いてある。


何を描いてるか分からない落書きみたいな絵画やガラス細工に木彫りの熊、黒ずんだ木工品、割れて付け直した壺、切れない模造刀、ゴルフクラブと槍や弓矢、傘、釣り竿、ほうきにチリトリ、鍋、やかん、信楽焼きのたぬきの偽物っぽいの・・ 


偽物つかまされた骨董屋が 本物だと言い張って開き直ってるようだ。


・・食器に陶器、冷蔵庫・・VHSのビデオデッキ・・、おおっ! その横には珍しいベータ仕様のデッキまであるぞ! ナショナルと書いた懐中電灯だっ! 日立と書いたブラウン管テレビも置いてあるっ!! おおっ!! これはソニーの初期型カセットウォークマンだっ! いったいここは何なんだ!?


昭和博物館なのか!? それともリサイクルショップなのか!? ・・・骨董屋、と言えるのか?


だが 時間が頭の中で止まっていると思われるドラさんにとって、昭和は "今"なのであまり関係ありません。


店の奥にいた骨董屋の主人は 店の中へ入って来た ドラさんに気が付いた、店の主人は眉間にしわをよせ、ドラさんを見つめていた。


「・・いらっしゃい・・。」と、ドラさんを見ると不愛想にもとれるような態度で声をかけ、一層 眉間にシワをよせて睨みつけるようにドラさんを見つめた。


店主は 歳が七十の小柄で痩せた人だ、まだ夏なのに ニット帽をかぶり厚手の肌着? のような服を季節を無視して着ていた。


・・だが このお店内は とてもヒンヤリしていて冷房をつけているかのように冷たかった。


そしてカビ臭かった、ヒンヤリした薄暗い場所には幽霊が出ると言うが・・・出そうだ。


店の奥のカウンターテーブルにこちらを向いて座っていた店主は 眼鏡を取り出し それをかけた。


「・・・・、おや、あんた 井上さんのアパートの・・・何てったっけ!? ・・ああ、・・・北海道の演歌の人・・・」


店主は歳のせいもあって近くも遠くも見えない、老眼でした。


店主の言葉を聞くなりドラさんは話し返した、「・・違います、私は・・・ドラキュラです。」


「ああっ!!アハハハハ! あのドラさんかえ! ・・自分の事 "どらくら"とか言っているあの可笑しな人はあ!?」 この人も言葉を選ばない人のようです。


「あんた、恥ずかしくないのかい? 自分で"どらくら"なんて言ってぇー、オホホホホホホ! 面白いわアー! それにしても汚い服を着とるね~、アハハハハハ! 子供たちが言いよった通り、変わった人じゃあのオー! オホホホホハハハハ!」かなりノリノリの陽気な爺さんらしい。



当然かもしれない、・・一見 物乞いにも見えるドラさんは 汚い、臭い、金持ってない、の3Kなんだから、・・間取りを言ってるんじゃないですよ。


店主は座っているカウンターテーブルに身を乗り出し、更に眉間にシワをよせ、じーっと・・ドラさんを睨みつけた。


・・そして「ああ・・、」と発し、ドラさんの視線の先きにある何かに気が付いた、そして店主は自分の座っている目の前のカウターテーブルに置いてある早取りのミカンの皮をめくり始めた。


とたんに周りは ミカンの香りで満ちた、・・あまり匂いを気にしないドラさんは その香りに気づかなかった。


そして ドラさんは店主の座っている左隣の 大きなボックス・・と言うより 西洋風の黒い棺桶に目を奪われていた。


その棺桶をじっと見つめるドラさん。


棺桶の上部正面には 十字架の飾りがつけられていた。


店主はまだ早いミカンを食べ、「すっばっ!」と言った、そして続けてこう言った、


「お客さん・・・、その棺桶に心を奪われましたかな?・・へへへへへ・・」と さも意味ありげな、悪そーな演出がかった喋り方をしてみせた。


映画かドラマの見すぎじゃないのか?


ドラさんは店主に問うてみた、「・・ご主人、これをいったいどこで手に入れなさった、」と ドラさんも 始めから負けず劣らずアニメチックに話をした。


すると店主は ちょっと焦って、思わずこう言ってしまった、「こ、これは・・、えぇ・・と・・・、ワシの古い友人から・・譲り受けた物じゃ、」と。


だか店主の頭の中で 古い記憶から次々と猛スピードで消えていっているなかで、この棺桶の記憶だけは残っているような、感じがした、町のどこかの河川敷で子供数人が棺桶の周りで戯れている記憶だ、それを子供たちを使って軽トラックの荷台に乗せ自分の店まで持ってきた、そしてまた近くにいた子供たちを使いこの場所に立てかけさせたのだ、そしてこう思った、子供はただで簡単に使える労働力だ、ウッシッシッシ。


だが 銭などまったく持っているように見えないドラさんだが、店主の骨董屋としての長年のヤマ勘が "こいつは買うぞ!"と囁くのだ! だが、どー見てもお金など持っいてそうもないドラさんだ。


店主はドラさんに言った、「ヒッヒッヒッ・・、お客さん・・なかなか目の付け所がいい、この棺桶はな・・・、」と、さっきドラさんを軽くバカにしたようなフレンドリーな喋り方に、さらに演出がかった喋り方にしてみた。


ドラさんは まさにアニメのクライマックスで起きる "何だってぇっ!!" と言うようなセリフを言いたいがごとく・・店主を見つめていた。


店主は あまりにノリノリなドラさんに "え!? こいつ まじなの?" と・・軽く悩んでいた。


これは、あれだっ! 期待に応えなきゃいけないっ!! と思った店主は ドラさんにこう言った「この棺桶は わしの古き友、"るーどびっぴ三世"が・・」なんか知っている それっぽいだろう舶来ネームを使ってみた。


「・・るーとびっち三世・・がぁ・・使っていたと言われる棺桶なのじゃよ・・・。」と、だ。


そしたら 「何だってぇっ!!」と宝塚歌劇のようなポーズをとるドラさん!


店主は思った、"それって軽いジョークなの!? それとも まじ!?" わからない! とりあえず手元にあるミカンを食べることにした「すっぱっ!」 眉間は八の字になり口元は肛門のような汚いものなっていた。


段々と折り重なったシワとシワ、どこが目なのか分からない つぶれた目元、ウンコが出てきそうだと連想させてしまう小汚い口元・・。


だがドラさんにはそのヘンテコな表情がとても新鮮に思えてならなかった。


・・なぜ新鮮に見えたのか? ・・それは知らない。


ただ、これだけは言える! ドラさんは 何十年と言う長い時を経て現実逃避をしてきたのだ!


浮き世離れでは収まらない風格、もはや世捨て人、頭の中は異世界が広がり そこの住人なのだ! ・・・いや、もしかすると治療が・・・、・・ああ! そうだ・・・・、よそう・・考えるのは。


なぜ現実逃避をしてきたのか?


・・もう、そんなのどーでもいいじゃないですか。


「ご主人!」とドラさんの男らしい、声優さんが喋っているような一言が聞こえた。


店主は突然の声に驚いていた、・・心臓がドキドキしていた、何を考えているかまったくわからないドラさんなので、一見 地味で不愛想に見える骨董屋の主人ではあるが実は陽気でフレンドリーな性格のため、掴み処がなく困惑していたのだ。


「な・・なんじゃ?」と骨董屋。


「ご主人の・・古き友とは・・・、もしや ルーマニアの方ではござらんか?」と ドラさん、時代劇風に聞いてみた。


「え!? ・・・なにぃ・・? ああ! そじゃよ! なるにあ国のるーどびっち三世じゃよ、・・・四世じゃったかな? まあ、どっちかじゃ、・・おまえさん知り合いかい?」骨董屋は 最近テレビで見た ライオン丸が出てくる洋画が頭の中で 行ったり来たりしていた。


ドラさんはまた 棺桶を見つめて何やら秘めた思いを口にした、「・・・いや、・・・知り合いとい程ではないが、・・・とても懐かしのだよ・・。」と言った。


「は!? ・・その棺桶がか!?」


「・・・ああ・・、そうだ。」とても哀愁深く言ってのけた。


「では、買っていかんか? ・・安くしといてやるぞ、・・・今を逃すともう手に入らんかもしれんぞ、」と骨董屋はその気にさせようと言葉を選んで喋った。


ドラさんは 世捨て人だが、心は今、異世界から戻って考えていた、


・・・そう、金がない。


ちょっと焦っていた、金がないと言う事は 棺桶を買えないと言う事になる、・・でも、欲しい、・・じゃあどーする? 盗むか? ・・いや、ダメだ! それは泥棒だ! ・・仮に盗むとしてどーやって盗む・・・? ・・一服盛る・・・、死ぬかもしれない、・・もし死んだらオレは死刑になってしまう、・・そんなの嫌だ! ・・だけど かなり年取ってるから死んだっていいかなぁ・・そんな問題じゃないっ! ・・ではどーすると言うのだ?


天才と言われた(異世界で。)頭脳をフルに働かせろっ! ・・働くのは嫌だっ! オレは働かないと決めたのだ! すなわち考えないのだっ!


骨董屋は ドラさんを見つめていた。


ドラさんは 今、何も考えていなかった。


骨董屋さんは ドラさんの顔を見て思った、"間の抜けた面だ。"と。


「・・・・、なにボケーっとしとるんじゃ?・・・買わんのか? ・・・男なら欲しい物は必ず手に入れろっ! ・・チャンスは一度きりじゃっ! 好機を逃すなっ! 人生の宝石をみすみすドブに捨てる気かっ! 原石を見抜く目を持てっ! お前の眼は節穴かっ! それとも目が曇って何も見えんのかっ! 白内障かっ!? 今は日帰りで帰れるぞ! あっという間じゃ、 驚くのぉ・・ 最近の医学はあ。」


ドラさんは骨董屋の言葉に感銘を受けていた、・・なんて素晴らしい事を言うんだ、この人は。


「・・あなた、もしやどこかで 本を出されていたりなんかしませんか?」ドラさんは 若い頃、本を出すのが夢だったんです、ですがその夢は叶わなかったんです・・、バカだから。


ですが 現在、異世界では出版しているのです。


「・・? なぜじゃ?」


「あなたは とても素晴らしい事を わたしに教えてくれた、」


「白内障手術か? あっという間に終わって、しかも痛くないぞ、・・なんだお前さんもそろそろか?」


「・・はくない? 何ですかそれ、・・そのはくない何とかではなく その前です!」


「前は老眼かのぉ・・、わしはもともと近視じゃったからのぉ・・それが年取ったら、」


「ああ、ちょっと、老眼の話をしているんじゃない、・・・ほら、さっき言った言葉、・・・チャンスは一度きりとか、・・・」


「・・そんな事 言ったかの・・ああ、・・それがどーしたんじゃ?」


「・・・・・・。」


少しの間 沈黙が続いた。


ドラさんは思った、名言は年寄りには必要ないのだろう、なぜなら 老い先短いからだ。


だが、老人の持つその知識は素晴らしい! 

  

その知識を笑ってドブに捨てているのが老人なんだ。


名言、と言う知識を持っていても 使える未来が年寄りにはない!


老人にとって価値ある物とは何なのだろう、・・ふとドラさんは思った、知識でもなく、お金でもなく、金銀財宝なんかでは当然ないだろう、・・では何なのか?


・・たぶんそれはきっと "話し相手なのだろう" と、ドラさんはそう思った。


老人にとって、"今"が財産なのだろう! つまり 死への旅路に恐怖する老人には話し相手が必要なんだと! そして私なら その役目が果たせる! この私の経験と知識ならこの老人をあの世に葬ってやることが出来るのだと!


ものすごく 無礼千万なドラさんに思えるが、相手の気持ちになって考える事では秀でていると異世界では思っている。


「買います。」


「なに? 決めたか、そうか、・・では値段交渉と行こうか?」


「・・・・、お金はない。」


「・・はぁ? では持ってくればよかろう、」


「・・家にもない、・・・だから、」


「・・・・なんじゃ、」


「・・・話し相手になりましょう。」


骨董屋は よく分からない事を言うドラさんに ちょっぴり イラッときていた。


「・・・話し相手? ・・なんだい、それは?」


「・・・ふ、・・・分かりませんか? ・・直球過ぎたかな? ・・では、こうしましょう、私がこれから毎日 この時間に来てあなたとお話ししましょう、・・これでどうですか?」


骨董屋は カッコつけているドラさんに 周りが見えないバカなんだと思っていた、それと もういいから早く帰ってほしいと考えていた。


「・・・・、おい函館太郎、・・・なんでわしが毎日 お前と話しをせなならんのじゃ?」


「ハハハハ、・・・あなたは分かっていないんですよ、自分の本当の気持ちを、・・・私があなたの渇いた心に潤いを与えましょう! ・・・明日、また来ます、・・では 失敬する。」


と言って ドラさんは 宝塚歌劇を思わせるような、とても下手くそな、・・恥ずかしいポーズを堂々と決めながら店から出ていった。


骨董屋は かなりイラッと来ていたが、すっぱいミカンを食べて心を落ち着かせた。


そして 店の戸締りをして風呂入って 寝ることにした、最近はどうも食欲がわかないのだ、今日は特に食欲がわかないので、もう寝ることにしたのだ。


骨董屋は、次の日から 店は明るいうちに閉めようと思った。


だから 次の日も、また次の日も、・・ドラさんは骨董屋の前で 「わたしだ、話しをしに来たぞ! 開けてく!」と言う大きな声で骨董屋の主人に呼びかけていた、だが骨董屋は一度も出てこなかった。


骨董屋は ドラさんをちょっぴり恐れていた。


それは 昔、若い頃 自分の子に見せていた日本昔ばなしに出てくる "耳なしほういち"や"琵琶法師" の妖怪に ドラさんの行動が似ていたからだ。


妖怪とストーカー、合体すればホラーだ。


これが一週間ほど続いたので、骨董屋から話を聞いた、"たぬき" の店主、ビクターを挟んで 二軒隣の食堂"たぬき"のおやじが玄関先に出てきて、「お前はババァ相手にストーカーでもやってんのかっ!?」と怒鳴られた。


このタヌキのおやじ、太っている頃の大橋巨泉を小汚くして、黒縁眼鏡を外し、無精髭を生やして、肝臓でも悪いのかと言うくらいの土色の顔色で、目の周りはそれ以上にどす黒く、ものすごく可愛くないパンダのような、アニメでよく見かける人の言葉を喋る性格の悪そうなタヌキのような、それでいて、痩せているのが当たり前で、太ってる人はまずいない落ち武者のような髪型と風貌、そして何より ドラさんの体重の三倍はあるだろう タヌキおやじだ。


ドラさんは ビビった、「スッ、ストーカーッ!? ・・誰がだっ!! わたしはっ! 年寄りの話し相手になってやろうとっ!」と言い訳すれども、ドラさんは とっても傷ついていた。


・・なぜ 自分がストーカーと間違われたのか、まったく理解出来なかったのだ。


・・それと たぬきのおやじが言ってた、「ババア相手に・・」って・・・それって、あの骨董屋の老人は、爺さんではなく、婆さんだったのか!?と ドラさんはショックを受けていた、・・悪い事をした、わたしはてっきり爺さんだと思っていたのだから、・・だから今度 骨董屋に謝ろうとそう思った。


ドラさんは諦めなかった!


これからも婆さんには話し相手が必要だから 暇を見つけては行く事にしようと思った。


毎日暇だが、ストーカーと言われるのも嫌だから 二、三日置きに行く事にしようと決めた。


・・どーしてもあの棺桶が欲しい! あれは 私に見つけてもらうために あの店にあったのだ、運命を感じた! だから 出来るだけ早くあの棺桶を手に入れようと思った。


そのためには あのお婆さんの冷たく閉ざした心を 雪解けのごとく溶かしてあげなくてはいけない、それが出来るのは わたしだけなのだ、そう考えたドラさんだった。


ドラさんは 次の日、誰かの畑になっているイチジクを 手に持てるだけ持って自分のお店に持って行った。


イチジクは まだ熟してない、皮をむきにくいので 皮ごと食べようと思った。 


ドラさんのお店は田んぼの真ん中にあり、バス通りに面していた。


そこに一坪ほどの小さなお店を手作りで建て、そこに古本を地面からべた積みしていた。


ここの場所は舗装道路のすぐ脇で、誰の土地とも考えず、あちらこちらに散らばっているトタンや田んぼの脇に積み重ねられている 二、三メートル程の丸太を持ってきたりして建てたのだ。


誰かの持ち物とは 一切 考えなかった。


このお店が開店して 早、半年が過ぎようとしていた。


みんな親切で 「なんでこんなとこに掘立小屋が建ってんだ?」と土地の持ち主である春名先生のお父さんと 「・・ああ、たぶん 函館さんじゃないかなぁ・・」と言う春名先生、「最近 ちょっとした物が田んぼや畑から無くなっとるが、ありゃあ・・」と言う 大家さんである春名先生のお婆さん、「・・ちょっとくらいなら大目に見てあげて。」と言う春名先生。


「畑泥棒も もしかして函館さんかしら、」と言う 春名先生のお母さん。「・・きっとお腹が空いてたんだと思う、・・函館さん ガリガリだもん。」と言う春名先生。


「・・そうだ! 何か作って持っててあげようかな。」と言う 春名先生。


こんな会話の次の日の夕方、春名先生とお母さんは 手料理を数品 持って、函館太郎のアパートを訪ねていた。


トントン・・


戸をノックする音が聞こえて 十数分ほど経ってから 函館さんは 寝ぐせのまま不機嫌そうに 玄関を開け 出てきた。


春名先生とお母さんは 十数分も待たされ、居ないみたいだから帰ろうかと考えていたけど、嫌な顔一つせず、とっーても親切な爽やかな笑顔で 手作り料理を函館太郎に手渡した。


今まで見たこともないような 豪華な 肉じゃがや里芋の煮つけに 卵焼き、そしてさんまの塩焼きに 函館太郎は 我を忘れてヨダレを垂らして受け取った。


「おぼんや食器は玄関先にでも出しておいてくださいね、明日でも取りに来ますから。」と言う春名先生のお母さん。


なぜ、この二人の女性が わたし(函館太郎)に 食事を作って持ってきてくれたのか まったく分からなかった。


その夜 ドラさんは、昔 町で見かけた 写真に 数々の料理が写っていたのをヨダレを垂らしながら見ていたことを思いだしていた。


いつかは きっと、・・そう考えていた事が 今! 現実としてよく分からないが、目の前で突然、玄関先で起きたのだ!


よくは分からん事だらけだが 日ごろから 良い事はしておくものだと心から そう思った。


ドラさんは 万年床の上に その手料理を置き、手を合わした。


そして 土下座をし、目に見えるかどうかの小さな虫たちが這いずり回る畳の上に額をつけ、その手料理を崇め奉った。


「ああ! ありがとう! ・・そしていただきます。」と言って その、まだ温かい手料理を食すことにした。


・・何十年ぶりだろうか、・・・こうして 真っ新な割り箸を・・ぱきっ、と二つに割るのは、・・・だから割り箸と言うんだな、と感心していた。


・・どれから食べよう・・・、肉じゃがの肉を 箸で掴み・・・、記憶の彼方で残る 町のコンビニの深夜のゴミ箱で眠る 焼肉弁当を思い出していた。


「・・ああ・・ 何十回は通ったよなぁ・・、あのコンビニ・・・、お巡りさんとも友達になったっけぇ・・。」


ドラさんは 肉を肉じゃがへと戻し、里芋を箸で掴もうとした、が、滑るのだ、・・生意気な里芋だと思って「お前は最後に食ってやる・・・へへへ」と言って 別の料理を物色し、そして ドラさんは 子供の頃 友達から恵んでもらった卵焼きを箸で掴んで 目の前で、まず・・目で味わった!


「・・・ああ、懐かしい。」ふと 卵焼きの中に 何か入っていることに気が付いた! 「!! なんだ、これはぁっ! ・・変なものが入っているっ!! ・・・あの女二人ィっ!! ・・毒でも、」と言った瞬間、それが緑の野菜に(ホウレン草) 白と赤の(ベーコン)だと 分かった、「・・・食い物じゃないか・・」と すぐに反省した。


ドラさんは食にうるさかった、・・・万年床にキノコが自生してようが、天井の蜘蛛の巣、もはや白い綱がぶら下がって見えていようが、畳の網目の隙間に小さな小さな 赤や黒の虫が這いまわっていても気にはしない! だが、食だけは許せなかった! 駄菓子屋のスナック菓子などは 腐らないし湿気っても食える、何よりコストパフォーマンスだ! 安い!


だが これは何だ! このご馳走はあっ! 生まれて初めてだ!! 迷い箸で小一時間、すっかり冷めてしまったあったかい手料理。


だが どれから食するか、肉じゃがは母の手料理と 街頭のテレビジョンで言っていたのを思い出した、だが さんまの塩焼き、社会人としてアルバイトをしていたときに 食堂の弁当箱の残り物にさんまの塩焼きが半分残っていたのを思い出した、あの食感は実にほろ苦く、香ばしかった! 里芋は後で食うと決めた、残るは 卵焼き! なぜ、卵焼きの中に緑の野菜とお肉が入っているのだ!? 不思議でならない、・・卵焼きとは 黄色一色ではないのか!? ・・・不思議でならない!


あんまり 悩んでいたら、とっても疲れたので 少年時代の思い出! 卵焼きから食することに決めた!


ドラさんは 卵焼きを一口 食べようとしたら、落っことしてしまった、・・・大丈夫、落ちたところは 布団の上だから! そう思ってホッとしたら それを手で掴んで 口の中にほおり込んだ!


・・・むしゃむしゃむしゃ、・・・・、ムシャムシャムシャ・・・。


ゴックン・・・。


「あああっっ!! うまああーいっっ!! なんて美味さだあッッ!!」と 自分でも驚くほどの大声で喜びを表現した!


「おおおーっ!! 米だっ! 米が柔らかいッ!! なんて美味いんだあっ!!」 米は炊いて食べる事を思い出した!


それからは もう手あたり次第に料理を口に入れた! 「美味いっ!美味いっ! 生きてて良かったあっ!!」


あっという間に 春名先生とお母さんの手料理は ドラさんの胃袋へと詰め込まれた、と同時に 吐き気に襲われるドラさんだった! 「・・ぅぅぅ・・吐きそうだ・・・何でだ? ・・・気持ち悪いぞ!・・・あっ、胃が痛いっ! 苦しいっ!!」


ドラさんの主食は生野菜と季節の果物、駄菓子、・・・つまり 調理された料理は もう何十年と食べてなかったので お腹がビックリしてしまい、料理を受け付けない体へとなっていたのだ!


その後 のたうち回るほどの腹痛と下痢で 三日三晩寝込んでしまっていた。


やっと体が回復したかと思いきや、春名先生とお母さんの住む家に 深夜に文句をつけに行ったのだ、「お前の持ってきた 食いもんに毒を入れてたなぁっ!! そのせいでオレは死にかかったんだぞっ!!」とこんな具合に さんざん文句を言って帰っていったのだ、酷い事を言うドラさん、逆恨みもいいとこだが、その帰り道、絶妙なタイミングで 梶山と出会い、「あの女っ! お前の女だろっ!! 井上の娘!」と言うドラさんの言葉に 梶山は至福のひと時を味わったのだ!


"お前の女!" その言葉が頭の中、全てを埋め尽くしていた! 梶山は酔っ払っていた、上機嫌だった! 天にも昇る気持ちだった!


が、それも束の間、一部始終をわざわざドラさんが説明すると、梶山は 鬼の形相と変わり、「てめーっ!! 春にそんなこと言いやがったのかあッッ!!!」と ドラさんも 二人が"いい仲"と勘違いしてたんなら 彼氏を怒らせてしまうとは考えなかったのか? ・・そこまで気が回らないのがドラさんなのですが。


その後、ドラさんは梶山の手により 目の前の田んぼにほおり込まれてしまったのだった。


そしてすぐに 梶山は春名先生の家へ飛んでいき 「春っ! 函館のバカにはちゃんと言っといてやったからなっ!」と わざわざ深夜にもかかわらず報告しに行ったのだ、そして それを聞いた春名先生は 梶山に「え!? なにを!?」と問いただされ、二人でほおり込んだ田んぼまで見に行ったのだ、春名先生と一緒に夜道を歩けたことが嬉しかった梶山は上機嫌だった。


田んぼにはドラさんは見当たらず 倒れた稲とあぜ道にドラさんが這い上がったろう痕跡があった。


「梶山くん! 力任せになんでもしてたら いつか大変なことになるわよッ!!」と こっぴどく春名先生に怒られた、だが 梶山は 春名先生と深夜にずっと一緒にいられることが嬉しかった、だから 春名先生の忠告は頭に入っていなかった。



函館太郎は 相変わらず 都合の悪い事はすぐに忘れて、自分の創り出した"異世界"へと帰ってしまうのだ、そして 夜のお城に住み、ワインを飲みながら読書するのだった。


ドラさんは 現実世界では下戸である。


そして今日も ドラさんは 城の自室でワインを飲みながら読書をするのだった。


現実は 田んぼの真ん中あたり、掘立小屋の中で 汚い古い本に囲まれて 神社にあった ろうそくで読書をしているのだ。


ドラさんの目は近いところは良く見える、遠いところは良く見えない、そして 多少暗くても ドラキュラの血筋のせいか 近くならよく見える。


夏も初めの頃、蚊がよく耳元を飛ぶため うるさい、そして 痒い、ドラさんは 古本にアフリカの原住民が泥を体に塗って 日焼け防止にしていると書いてあったのを思い出し、横の田んぼで泥をすくいあげようとしたら、田んぼに落っこちてしまい、泥だらけになってしまったのだ、だが これがとても気持ち良かったのだ、どんな風にかと言うと まず とてもヒンヤリして気持ちいいのだ、そして蚊に刺されない! ドラさんは大発見をしてしまったのだった!


蚊に刺されず涼しい!


それ以来 ずっと田んぼの泥を体に塗りたくって 読書をしているのだ。


服が汚れるため 脱ぐことにした、そして ハンガーにスーツをかけ、体中に泥を塗るのだ、乾いたらパリパリになって気持ちいいのだ。


・・パンツは穿いていない、靴下も履かない、いわゆる全裸だ! 全裸で泥を顔や体に塗りたくって ろうそくの明かりで読書をするのだ!


異世界では 中世ヨーロッパを思わせる古城の一番高い階にある部屋、自室で月明かりの下 ワインを飲みながら読書をしているのだ。


妄想力では誰にも負けない。


自分は幸せなんだ! と考えればとっても幸せになれてしまう、ある意味 便利な能力なのだ。


そのため 異世界以外で 友達が出来た事は 一度もない、断言できてしまう。


だがっ!!


それも 今、終わりを告げようとしているのだっ!


友達いない歴、この世に生を受けて以来ずっとだ! 断言できてしまうっ!


そう・・あれは ついこの前、さっき・・、驚くことに 深夜の 自称古本屋の店の前に人影が立っているではないかっ!


「ギヤああああっっっ!!!」と 悲鳴を上げる!!ドラさんっ!! それと同じくして「ウアアアアアッッッ!!!」と驚く人影っ!! 人影は全裸でフリチンで泥だらけのドラさんを見て驚いたのだ! なんなんだっ! こいつはっ!!


そしてびっくりしながらもこの人影はなんだっ!? と思う ドラさん! ・・まさか客ではないだろう、こんな深夜に! と考えるドラさん、ちゃんと分かって深夜に店を開けていたドラさん!


その時、何かが焦げるにおいがした、・・・これは紙が焼けるような・・、そして 白い煙が 目の前をゆらゆら上がっているように見える、・・・ろうそくの明かりは 一層明るく周りを照らしていた、・・と思っていたら、


「おいっ!! なんか燃えてるぞっ!!」と言う 外の人影! ・・燃えている? 「ああああっっ!!!本がっ!!!本がっ!!!」と必死に 燃えているところを両手でパンパン叩いて火を消そうとしたら、一層 火は燃えあがってしまった!!


「ああっ 何やってんだよっ!!」と 人影が中に入って来て一緒に火を消してくれた! 火は二人の力で鎮火することに成功した!


だが 犠牲になった古本たちは数冊にも及んでいたのだ、「ああっ!・・まだ 読んでなかったのにぃー・・・」と残念がるドラさん。


「おいっ!! なんだよっ!! なんで泥だらけなんだ!?」と言う 元人影、その元人影は 歳は五十前後、白の半そでカッターシャツに黒っぽいスラックス、靴は白のランニングシューズだ。


丸い黒縁の眼鏡に ちょび髭をはやしていた。


・・ドラさんはフリチン丸見え泥だらけ状態のまま、スタートダッシュする陸上選手のように硬直したまま半立ち状態で顔だけこちらを向いていた。


説明しよう!


ドラさんは 異世界からいきなり強制召還されたため、こちらの世界の出来事に理解が出来ていなかった、・・もとより出来ていない人だが、一般人より自意識過剰でなければ自我を保てないのだ。


そのため、現在 自分を取り戻すために、心の鎧と強靭な鋼の剣をどこに置いたか、考え中なのである。


目に見えないその心の鎧がないと ドラさんは赤子のごとく ハイハイしかできなくなるのだ!


・・それはつまり、現実世界のありとあらゆる毒気から自分自身の清らかな精神を守るための自己防衛機能が働いているからなのである。


・・簡単に言えば 心に壁を作っているのだ。



数十秒・・・沈黙が続いていた。


ドラさんは 腰が痛くなってきたので、正座することにした、・・・フリチン泥だらけのまま。


「・・・なあ、・・・なんで泥だらけなんだ?」と言う そのちょび髭の男。


「・・・いらっしゃいませ。」と言う フリチン泥だらけで正座し、おもてなしをするドラさん。


「・・ああ・・あんたぁー、あれだろ、函館さんだろ。」と言う ちょび髭の男。


函館太郎と言う名前に 神経質になっているドラさん。


「・・・函館太郎は死にました。」と、分からない事を口走ってしまうドラさん。


「・・ひっく、・・まあ・・いいや・・」と言って 入口に積み重ねられている古本の上に腰かける、ちょび髭の男。


「!! どこに座ってんだっ! お前はっっ!!」と怒り出す フリチン泥だらけで正座しているドラさん。


「・・・? ええ・・・ここ・・だけどぉ・・」とちょび髭の男、この男、どーやら酔っ払いらしい。


「ここだけどじゃないわいっ!! 本の上に腰かけるとは何事じゃっぁ!! バチば当たるでっ!!」と、興奮すると数種類の方言を使い分けるドラさん。


ドラさんは 本から知り得た知識で 方言は元より 英語、フランス語、イタリア語、中国語、アニメ言葉など 幅広く、浅く浅く使い分けることが出来るのだ、


・・と自分で思っているのだ。


「うえー・・、吐きそー・・・」と言って今にも吐きそうに顔をしている ちょび髭の男! 酔っ払いなのだ!


「おいっ!! 吐くんなら外に行けっ!! 店から出ろっ!!」と言って立ち上がろうとしたドラさん! その瞬間、「あああっ!!」と言って山積みにしている古本へ倒れてしまった! 足が痺れたのだっ! 


ドラさんの背よりも高く積み重ねられた古本は一斉に崩れ始めた!


一番上に置いていた とても分厚い、黄色い色した電話帳が ドラさんの脳天にうまい具合に"ゴッツン"と一番最初に落ちてきた!


そしてドラさんはそのまま倒れ、沈み込み、次から次へと規則正しく落ちてくる古本の下に コントみたいに閉じ込められてしまった!


気持ちがいいほど 見事に崩れきっていた。


埃があたりを舞っていた。


ちょび髭の男は 掘立小屋の外に逃げ、無事だった。



ちょび髭の男は 掘立小屋の中を見つめていた。


・・・動くかな? と考えながら、そして 今日は何だか久しぶり刺激的な夜だったと 帰る準備に取り掛かろうとしていた。


・・お酒を飲んだ後は、体を動かしたくない、・・疲れるからだ。


・・助けに入る? 誰を? 函館さんを? と、考えているちょび髭の男は この函館太郎と言う男と友達になりたいとも考えていた。


とりあえず 声をかけることにした「・・おおーい・・大丈夫かぁー・・、函館さーん・・、」と 小さな声で聞こえないように、まるで 積極的に助ける気などさらさらない態度で助けようとした、助ける意思はあったんだ! それに酔っ払っていたからよくおぼえてないなぁ・・、なんて既成事実を作って 後で言い訳できるようにしてだ。


・・なにやら、小屋の奥で もぞもぞと動き始めた!


「おおっ!! 生きていたかぁっ!」と 助ける気などないと言う態度で 声をかけた。


そして 何も聞こえないふりをして そー・・っとその場から立ち去る事にした。


「たす・・けて・・くれ・・・」と言う 瀕死の状態を思わせる、助けを呼ぶ声が聞こえてきた。


ちょび髭の男は どこか遠くへ行っていなくなっていた。 


あたりは静まり返り、田んぼで鳴く ゲコゲコゲコ・・と言う蛙の大合唱が聞こえるだけだった。


「た・・す・・け・・・て・・・く・・・・」と もっと 瀕死の状態と思わせれば助けてくれるのではと考え、言い方や声色をコロコロ変えて 数時間も助けを呼び続けていた。


「たすっ・・・け・・て・・・く・・・」


・・女の声を思わせる喋り方にしてみた、


「ああ・・助けてぇ・・誰かぁ・・助けてくださぁーぃ・・」


・・だが、誰も助けには来てくれなかった、ちょび髭の男は とっくに帰宅していたし、あたりは田んぼが広がる田園地帯なので 蛙しかいなかった。


明朝、小鳥のさえずりと共に ドラさんのすすり泣く声が聞こえていた。


「ヒック・・ヒック・・、オレは今まで何もしてこなかった・・・、学校だって出ていない、・・・まだ 引きこもりだとか、オタクだとか、ニートなんてお洒落な言葉すらなかった時代に・・・オレは、・・・暗いところが好きだった・・・、言ってみたら 時代の最先端を行っていたのかもしれない・・・。」


スズメが可愛く元気に チュンチュン、チュンチュン、と鳴いていた、そして アーホー! アーホー!とカラスも朝から鳴いていた。


玉村のカラスは 朝に強いらしい。


「・・・ヒック、・・・ヒック、・・・ああああっ、・・情けないっ! ・・・・オレはこんなところで埋もれてよかったのかっ! ・・いやっ、違う! オレは絶対 世に出て日の目を見る運命だったのだっ! ・・・ああっ・・なんて事だ、・・・こんなところで終わってしまうのか・・・。」


ドラさんは もう誰も助けには来ない、そして オレはここで命果てるのだ! そんな風に考えていた。


たぶん、死ぬ気 満々のドラさんだけど ほんとに死にそうだったら 臭い演技に体力は使わないだろう。



本棚はない。


本当だったら 文庫本サイズの小さな本に埋もれたからと言って動けないほどではない、だが ドラさんには始めから体力がないのだ、そのため動けないのだ。


電話帳が頭に落ちてきたが たんこぶが出来たくらいで 何て事はなかった。


が、しかし 古本があまりに重たくて身動き取れないのがダメなのだ!


「ああ! もうダメだっ!」と そう持った瞬間、突然 左手に激痛が走った! 「いでえええーッッ!!」 



「えっ!? 誰かいるよ!」と言う 子供の声が聞こえる、この声の主は 六年生の藤原孝子だった。


激痛の走るドラさんの左手は、古本の山からかろうじて外に出ていたのだ。


それを見ていた 藤原孝子と、一緒にいた一年生の竹下チエが 道端に転がっていた ソフトボールくらいの大きさの石を 気味の悪い泥だらけの人間の腕見たいの物に投げつけたのだった。


竹下チエは 驚いて藤原孝子の後ろに隠れた、そして 藤原孝子は「・・誰かいるんですか?」 と怯えながらに聞いてみた。


「おいそこの子供っ! ここから出してくれっ! 出してくれたら 好きなだけ古本をやるぞ! ・・ああ、たしかマンガもあったぞ! 持っていけ!」と 希望の光が見えてきたドラさん!


・・助かる! 助かるかもしれない! 神は私を見捨てなかった!


藤原孝子は焦っていた、大人に知らせなきゃ! だけどこの辺に大人はいない! 走って大人を探しに行っても時間がかかる! じゃあ、どうしたらいいのっ! 藤原孝子は考えていた! 一瞬 脳裏にこんな事が浮かんできた、・・たぶん この人は あの函館太郎さんだ、と。


そしてこう思った、学校に遅れちゃう、チエちゃんもまだ一年生だし・・、とこんな感じにだ!


「・・どーしよう・・」と言う 藤原孝子の悲しそうな声に 竹下チエが「・・もう、学校に行こう。」と元気に明るく普通に言った。


竹下チエは一年生にしてとてもしっかりしていた、竹を割ったような 淡泊で冷淡な性格だった。


それが聞こえた ドラさんは、


「おいっ!! ちょっと待てっ!! ・・・おまえらっどこの子だっ!! 人が助けを求めているのにそのまま学校へ行く気なのかぁっ!! マンガは欲しくないのかっ!? おまえらっ!! さっさと助けろっ!! 早くしろっ!!」


竹下チエは言った「助けてほしかったらちゃんとお願いしなきゃダメなんだよぉっ!」と。


「・・・なんだとぉっ!! 大人に逆らうのかッ!! 早く助けろって言ってんのが分からんのかあっ!!」 大人げないドラさんは 自分の事しか考えた事がないのだ。


そして、藤原孝子は "危険" と判断して その場を立ち去る事にした。


賢明な判断だ、竹下チエは 言った「ねえ、おねえちゃん、・・あの人 妖怪?」賢明な判断だと思う。


最近 子供たちの間では 妖怪がちょっとしたブームになっていた。


「おいっ! 聞いてんのかっっ!! さっさと返事しろっ!! マンガ やらんぞっ!! 面白くてしょうがないぞっ!! 捨ててもいいのかっ!! 嫌なら早く助けろッッ!!」


もうそこには誰もいなかった。


藤原孝子と竹下チエは 通学路でもある バス通りの玉利荘に立ち寄り、大家さんで春名先生のお婆ちゃんに 「変な人が汚い本の中に埋まってる!」と 教えてあげた。


そして そのあとすぐ、お婆ちゃんはドラさん救出に向かうのであった。


救出されたドラさんは 全裸で泥だらけだったので さすがの お婆ちゃんも ドン引きする事となった。



そして数日後、


すっかり元に戻ったドラさんの古本屋さんは 通常通り気ままに営業していた。


埃だらけの古本は縦に上手に、積み上げられその間に 収まるかのようにドラさんは佇んでいた。


ドラさんは 田んぼの泥を体に塗る事が 非常に気に入ったみたいで、毎晩 素っ裸で田んぼの中に入りご機嫌で体中に泥を塗りたくっていた。


・・まるで 銭湯の湯船につかりながら タオルで体をゴシゴシ洗っているマナー違反者のごとく嬉しそーに、浸かっていた。


「あははは! これは 体の垢も落ちているに違いないぞ! 大発見かもしれんな。」何が大発見なのか 分からないが、とにかく嬉しそーだから 良しとしよう。


そして 泥が渇くまでお店の前で 立っているのだ。


・・じー・・っとただ、立っているのだ、ドラさんは 小一時間、ニコニコしながら 案山子のごとく じー・・っと立っているのだ。


その間 いろーんな事を考えたりする、 例えば 「我慢に我慢を重ねて本を読むと とても幸せになる! これは我慢と言うものに解き放たれる解放感によるものなんだっ!」 または、「さあ かかって来いっ! 鉄壁の防御を誇るこの俺様の体に風穴を開けてみろっ! 血を吸ってみろっ!! 蚊っ!!」とか・・こんな感じで ほとんど意味を持たない事は言うまでもない。


「よし! もう渇いたかな!?」と言って 店の中に積み上げられた古本と古本の間にすっぽり収まるのだ、そして まだ読んでいない古本を手にする・・・そう、異世界への扉は 今、開かれるのだ!


・・・ろうそくの明かりは良かった、・・ある意味いい匂いもした、とくに消す時がいい、あのろうそくの香り・・。


だが 今はもう ろうそくはない・・。


かわりに、ごま油を小皿にとって 毛糸に染み込ませ、火をつけるのだ。


ドラさんは 木の棒と藁を使って火を起こすのがとても上手だ、もはや達人と言っても過言ではない、原始的なやり方で 木と木をすり合わして、その摩擦で火をつけるのだが、あっという間に藁に火が移り炎と化す、それをそっと・・ごま油の皿から ちょこっと出ている毛糸に付けるのだ。


この時 ドラさんの呼吸は荒く、額からは大粒の汗がぽたぽたと落ちていた。「ハアハアハアハア・・、・・辛い仕事だ・・、目まいがする・・。」火を起こすことを言っているのだ。


「あああ! 汗で せっかく乾いた泥が また濡れてしまうではないかぁっ!! ・・・まあ、いいかぁ・・。」と言って古本の間へ そっと・・入り込む、崩れないように。


だが ごま油は 煙が出る、だから目がショボショボしてしまう、しかも ちょっと美味しそうな匂いがするからお腹が空く。


だが それもドラさにとっては敵ではなかった、慣れてしまうのだ! 玉利荘の自室のように!


ドラさんは 読書タイムに入る、この上ないひと時が始まるのだ、この時呼んでいたのが "星の王子様"の絵本だった。


絵本を読むのだ、この絵本に字はない、ドラさんにしても 初めての経験だった、字がない本は。


だが、この本にはまってしまったであろうドラさんは、その絵本を見ながら 想像を超えた 妄想が広がり、あたかもそこに絵本の世界が存在しているかのように見えてくるのだ。


想像を超えた妄想はドラさんの得意とするところ! 現実と空想の区別なんてつかなくったって いいのだ! 幸せなら。


何時間も、ずーとその 絵本を見ていた。


泥で表情が分からない。


「よおっ!」その時 突然誰かの呼ぶ声が聞こえた!


ドラさんは トリップ中だったので ひっくり返るほどに驚いた! と同時に腰をちょっとばかし痛めてしまった! 「イデデデデデェ!!」


「アハハぁ・・ごめーん、驚かしちゃったぁ?」この男は 先日も訪ねて来た、そして見捨てて帰った ちょび髭の男だった。


「ねえ、ここ古本屋さんだよねぇ・・、」 ドラさんはまだ トリップから戻れていないようだ、腰を抑えながら ちょび髭の男を見つめていた。


顔から渇いた泥が ポロポロ落ちていた。


「あんた、なんで泥を塗りたくってんだ?」 ドラさんは蘇った! 


このちょび髭、今回も ご機嫌にお酒を飲んでいるようだ。


「・・だ だれだっ!! おまえはっ!!」


「ああ・・そうだ、自己紹介してなかったな、私は 月輪 大五郎(つきのわだいごろう)と申します、・・ヒック、・・・以後よろしく! ヒック・・・お控えなすってっ!」とふざける ちょび髭こと 月輪大五郎。


つられて お控えなすってをポーズでとるドラさん。


「あははっ! あんた ノリがいいねー!」


そんなつもりはさらさらないドラさん。


「なあ、ここ 古本屋さんなんだろ? ヒック・・こんな汚いのに 売れるかい?」


「どこが 汚いと言うのだっ! ほとんど汚れてないだろっ!」と 月輪大五郎さんに指をさして怒鳴りつけるドラさん。


ドラさんに衛生上の問題は難題となるので 分からないのです。


「・・ああ、あはは、・・そうだな、よく見るとそんなに汚れてない、」と言って 手前に積まれている手に取りやすい古本を手にとってみた。


月輪大五郎さんは 酒を飲んでいてもちゃんと理性が働く社会人なのです。


「えー・・何だろ、この本はぁ・・」とよろめきながらも ちゃんと立っていられる月輪大五郎さんだが また、古本の上に腰を下ろして座り込んでしまった。


「アアアーッッ!!! お前ッッ!! 何度言ったら分かるんだあっ!! 本の上に座るなと言ってるだろがあッ!! 本を何だと思っているんだあっ!!」とまた 指さして怒鳴り散らすドラさん。


「えー・・だってさあ・・、立ってるの疲れちゃったよお・・、どこに座ったらいいんだよお・・」と 自分本位で返事をする月輪大五郎さん。


「どこって・・・そりゃあ・・地べたに座るとか、・・それが嫌なら・・」と何でか 真面目に答えるドラさん。


「もう、ここでいいじゃん!」と古本の上に座り続ける月輪大五郎さん。


ドラさんは 困っていた、座るとこがないならどこに座ればいいのか? 難しい事を言う奴だ、と。


「ほほー・・これはなかなか レアじゃないか、」と言う月輪大五郎さん。


「これいくら?」と聞く 月輪大五郎さんに ドラさんは焦っていた。


まさか 買うつもりなの? と、なぜなら今まで 一度も売れなかったから、と言うより 一人として客は来なかったからだ。


ドラさんの胸は高鳴っていた、いくら・・・? え!? ・・値段!? 何それ!? 


「・・そ、・・そ それは・・・あ・・それ・・・」かなり動揺してしまっているドラさん。


「これ買うよ、・・いくら?」


かう・・? カウ? 飼う!?・・・買う・・? 


月輪大五郎さんは 気を利かせて「・・じゃあ 三百円でどうかなぁ?」


ドラさんは後ろにのけ反りひっくり返って驚いた! 「さんっ!!ささささんっっ!!・・」と同時に腰が痛かった、が それよりも「さささささんびゃ・・・」最後まで口にすることが怖かったドラさん!


「・・少なかった?」と月輪大五郎さん、この時 ドラさんに対し、きっと現金は持ったことがない、・・いや、もしかすると もう何年も百円玉すら見たことがないんじゃないか? と面白半分に考えていた。


月輪大五郎さんは 座ったままズボンのポッケに手を突っ込み 小銭をジャラジャラと出した、その一枚が 手のひらから落ちてしまい 古本と古本の間に落ちていくのがドラさんの目は見逃さなかった! シルバーだった!? てことは 五十円!? いやっ まて、百円かもしれんぞっ!! ・・落としましたよ。なんて言わない! 落とす奴が悪いのだっ!! 後でオレ様がいただくとしよう!


すくっと立ち上がった 月輪大五郎さんは よろよろと二、三歩 ドラさんに近づき、今読んでいた 星の王子様の絵本の上に小銭を置いた。


「あー・・はい、・・三百円でいいかぁ、・・いいよな、と言って 星の王子様の絵本の上には 百円玉三枚と 五十円玉一枚と、一円玉が三枚置かれていた。


合計で・・・ドラさんは計算した、天才コンピューターと言われた(異世界で。)頭脳を駆使して計算した! ざっと 353円だっ!! 答えを導き出したドラさん! ざっとじゃなくても353円だ。53円 多いぞ、・・そして こう考えた 黙っておこう、と。


ドラさんは生まれて初めての商売にドキドキ胸が高鳴っていた。


・・大金持ちだっ!! 心の中でそう思った! そして 古本の間に入り込んだ 銭をたせば ざっと400円は超えるぞ! もう、まさに天国に上るような気持ちはとこの事だっ! とドラさんは思っていた。


ドラさんの顔からすべての泥が剥げ落ち、そこから青白い顔がゴマ油の日に照らされ 不気味な笑顔がみてとれた。


さすがの月輪大五郎さんも 今までお目にかかった事のない 笑顔に酔いが半分ほど吹っ飛んでしまった。


もちろん 月輪大五郎さんが帰ったそのすぐ後、腰が痛いのも忘れて 古本の間に入り込んだ銀色らしき小銭のありかに手を突っ込んでまさぐり探すのであった。


電話帳をなぜそんなとこへ置くのかわからないが、絶妙のタイミングで、それは落ちてきた! もちろんドラさんの脳天にだ! と、同時に積み上げられた古本は一斉に崩れ落ち、ドラさんはまた、古本の中に埋もれてしまったのだった。



そして 二人はこれを機に仲良くなっていくのである。


この月輪大五郎さんの正体は なんと 玉村の"村長"でした。


なぜ、村長がここに!? なぜ、ドラさんの店・・掘立小屋に!? なぜ、古本を買ったのか!? なぜ、ドラさんと友達になりたいと思ったのか!? なぜ、古本に埋もれているドラさんを見捨てておうちに帰ったのか!? 別に深い理由はありません。


ただ、この月輪大五郎 村長は 酒を飲むと人が変わり、とても陽気になるのです、ですが次の日には何も覚えていないのが困ったところです、そしてまた、酒を飲むと飲んだ時の過去の記憶が呼び覚まされるそうです、・・何て言うの・・、一つの体にもう一人の人格が存在しているって言うの? 二重人格? ・・みたいな? ・・・そんな感じの人なのです。


唐突ですが ドラさんの去年の年収は "120円"です。


が 今回 古本が300円で売れたので、・・それと"黙っていやり過ごした"事により400円以上は確実! との事。


その日の朝にまたも春名先生のお婆ちゃんに救い出されてしまったドラさん! しっかと握りしめて決して放さなかった銀色のお金、・・そー・・と手の平を開けてみたら、何やら見た事のない お金でした。


「ああ・・おもちゃのお金なんて握りしめて。」


それは 銀色のお金、ではなく メダルコイン(どっかのアミューズメントの。)でした。


踏んだり蹴ったりでした。


それでも、今まで手にしたことのないようなあるような、大金を一夜にして手に入れたドラさんは とても気が大きくなってしまっていたのです。


「当分の間、遊んで暮らせるぞ!」とドラさん。


それじゃあ今と変わらない。



村長ではある月輪大五郎さんの 年収はX00万、役場に勤めている職員は 村長を含めてたったの四人になります。


その中に 梶山もいるのですが、その仕事内容は多岐にわたり、路線バスの運転手から、郵便配達、農作物の収穫と梱包に出荷と 村の雑務を一手に引き受ける一番大変な仕事となっているので・・若い人は嫌がります。


一見して公務員は楽だと言いますが、この玉村ではとっても大変なのです、そんな"特殊"な所なので、高卒の梶山でも職員になれたのです。


そーゆー所なので、・・・そーゆー事にしといて下さい。



その後も時折 月輪大五郎さんこと、村長さんはドラさんの古本屋さんに手土産を持って訪れては ドラさんの胸を高鳴らせるのです。


この玉村でお酒が飲める場所は 一か所しかありません、そう カラオケ喫茶"おとずれ"なのです。


この店のママでみずほさんは とても料理が上手なので 「みずほちゃん! 手土産! お願いね!」と 人格が入れ替わった村長こと、月輪大五郎さんは みずほさんに ちょっとした小料理を包んでもらい それをドラさんへの手土産にするのです。


ドラさんは なんでこんなにも他人の自分に尽くしてくれるのか全く分からなかったが、とってもとっても親切な人なんだと思ったそうです。


ですが ドラさんは 調理済みの料理はお腹を壊すので、この前の手土産に持ってきた焼き鳥は 横の田んぼでジャブジャブ洗ってから 目を輝かせて食べるのです! 「んーっ!! うまいっ!! こんなうまいもの食べたことないっ!! うまいっ!!」


村長こと月輪大五郎さんは ドラさんのエキセントリックな不可思議な行動に 酔いが半分覚めてしまうので ワンカップを四つ用意して持って来た。


そのうち一つをドラさんに飲ませたところ、気分が悪くなり冷汗が出てきて頭がガンガン痛くなってきたのだ、「貴様あーっ!!・・あいててて・・・、頭が痛い・・、貴様ぁっ! ・・一服盛りやがったな、・・何の恨みがあって この私に・・・」


「アハハハハ! ・・ドラさん、あんた 下戸だな! アハハハハハ、飲めねーのかぁ、」と言う 村長さんに、「・・この恨み…晴らさでおくべきかぁ・・、」 ドラさんは時代劇バージョンで喋っていたが いたって真剣なのです。


また、適当に古本一冊を300円で買ってあげたら、「あっ!! また、買ってくれるのか!? あんた、えらい金持ちなんだな!」と上機嫌になるので、面白いなーと思うのである。


そして 村長さんは朝目覚めると 昨夜の記憶が全くなく 枕元に置いてある 古本を見て「わあっ!! ・・なんだね!? この汚い本はっ!!」と言ってゴミ箱に捨てるのであった。





第十三話 「函館太郎こと、ドラさん」   つづく。





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