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まこらみみらせ  作者: しげしげ
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第一話 「バケツ少女」



第一話 「バケツ少女」




夢にまで見た就職!


ああ、思い起こせば、大学に入れるとは思わなかった、が しかーし! なんと入れたのだ! 入れたとは、大学入試に合格したと言う事で、不法侵入したわけではない! 




オレは この玉村の玉小学校の先生となるため、数日前にここに引っ越して来た。


昨日は自分の勤める小学校も偵察に行ってきた。


小さな古い平屋造りの木造の校舎だった。


そして大小合わせてもかなりの数の川が村中を流れている、まるで 大きな川の中に村があるようだ。


その中を田んぼや畑、民家が点々と建ち並んでいた。


オレは 学校がある方角とは逆に歩いてきた、・・バス通りを来た方へ戻り、あたりを散策していた。


起伏に富んだ平地であり、自然の地形を変えず、壊さず、そのまま利用してきたのが見て分かる。


川を見てみると水面の高さは土手から 二メートル以上も下だったりする、堤防としてだろう。


土手の高さは場所によってまちまで、バス通りと同じ高さだったり、オレの目の高さまで盛り上げている所もあったりする、どれも 水面の深さは二メートル以上を保たれている、大雨の氾濫を考えての事だろう。 


これから当分 世話になるだろうオレの住むアパートの横は バス通りと土手の高さが 一・五メートルほど段差が設けられている。


広い田んぼと 大小 いくつもの川、田園風景が広がり、手つかずの原野や小山が沢山見える。


川に沿ってバス通りがある。


その広い川に 他より少し大きなコンクリートの橋がかかっていて、それを渡って奥へと歩いて行ってみることにした。


オレは東を向いて歩いている、そのずっと奥には鳥居が見える 神社か・・、その周りにいくつも民家がある。


この玉村は 神社やお社を置いて祭られているところがたくさんある。


村は基本的に平地になっているが 荘厳とも取れる2000M級の山々に囲まれ、そこへ行くには 驚くほどの大きな大木群を通り抜けなければならない、・・まるで原子の森だ、・・もののけ姫でも出てきそうな森なんで ちょっと嬉しいかも、・・ちなみにオレは宮崎アニメが大好きなのです、言ってみただけ。


今こうして歩いていて気づいたことだが 玉村は バス通り以外 アスファルト舗装されていない、少し入ると そこは土と砂利、小さな岩を道に埋め込んで造った手作りのような石畳の道である。


鳥居に続くこの道は、最初の橋を入れて数えると 四つほどの橋が架かっているようだ、その途中に お地蔵様か何かをオレは二つ目の橋を渡って少し行ったところ、鳥居へは行かず緩やかに上る左側の道を歩いてみることにした。


その先は 雑草と木に囲まれどうなっているかここからじゃ分からないが、ちょっとした 丘にでもなっていたら 少し高い位置からあたりを見渡せるかもしれない。


歩いて行くその先は丘なのかどうか知りたい、トウモロコシと茄子だろうか? 畑があり、その向こうに民家が建っている、そして古い 板を張り合わせた小さな古い物置小屋がありる、隙間だらけで朽ちているところも見当たる、雑木林へと変わり、緩やかな上り坂も いつしか下りへと変わっていた、村道なのか私道なのか分からない道を歩き 今にも倒れそうな木造の物置小屋みたいな建物が建っている、その横をオレはゆっくり下っていく、・・ちょっと残念だった、そこには美しい丘があるんじゃないかと期待してしまっていたから。


雑木林が木陰を道の上に作り、ヒンヤリした風がそっと吹いている、火照った体には気持ちのいい木陰と風だ。


夏の風物詩、うるさいほどの蝉が鳴いている、ミーンミーンとカナカナカナー・・と数種類の鳴き声で聞こえてくる。


風は涼しく、ゆっくりと東から吹いてくる、森の空気を運んできているのだろうか? その風がとても澄んだ気持ちのいい香りで いっぱい吸い込みたい気持ちにさせてくれる、・・いい風だ。


だが さすがはド田舎なのだろう、今 こうして歩いていて、誰一人すれ違わなかった。


が 物置小屋の少し向こうに人が住んでいるだろう古い平屋建ての家がある、そのあたりからか・・人の声が聞こえた、・・・子供の声?


その声は「おーい! おーい!」と誰かを呼んでいるように聞こえる。


この家から聞こえてくるのか? オレが今 歩いている道よりも一段低いところに立っているその家は 窓越しに中が丸見えだった、・・見ちゃいけない! ああ、でももう遅い、見ちゃった。


建物に窓があったから その窓に目が行ってしまい中が見えてしまった、覗きだ。


窓からは畳三畳、四畳くらいの小さな部屋が見える、その反対側が直接 玄関になっていた。


女の子が玄関から ・・自分の家なんだろう、畳ごしに家族の誰かを呼んでいるのがそこから見える。


昭和時代は 玄関開けたらすぐ畳の部屋が当たり前だったんだろう。


玄関が部屋を挟んで窓、吹き抜けの間取りは、風水なら幸せが逃げていく間取りだ。


昭和時代の家か。


畳ごしに、「おーい! おーい!」と呼ぶ少女、・・歳は小学生の中ごろくらいか。


髪を後ろで束ねたポニーテール、笑顔いっぱいの元気な少女の呼ぶ声に おばさんが奥から出てきた、「のど乾いた―!」と言う少女に対し、「なに!? あんたどこの子っ?」と言ったおばさん。


つまりそれは 知らないお宅で 生意気にも「おーい! おーい!」とその家の誰かを呼び、そして喉が渇いたから 飲み物持ってこいと言う事か。


田舎は 雑音が 蝉の音くらいしかない、だから 窓を開けっぱなしの家からは、人の会話が良く聞こえる。


ここの家の人は 声をかけるその少女を知らないんだ。


女の子は「のど乾いた―!」と 満面の笑顔で 他人の家で言い続けた。


・・ちょっと不安になってきた。


「のど乾いた―」 


「えー!? 何? のど乾いたってぇ? あんたどこの子よ、」と、その家のおばさん。


おばさんは また家の奥へと戻っていった、そして急須と湯呑を小さな お盆にのせ 戻って来た。


「じゃあ、これしかないけど 勝手に飲んだらいいよ。」と、外の"私"にも 聞こえるほど辺りは 田舎らしく静かだった。


今は夏だから冷えた麦茶がいいな、と"私" は思った。


少女は 湯呑を手に取り、少しボケっと笑顔で湯呑を見つめていた。


山下清に似ている、とオレは思った、旅先では 「ぼぼぼぼくは おにぎりが欲しいんだな、だだだだから恵んでくれると嬉しいんだな、と言ったら おにおにおにぎりを恵んでくれる親切な人ばかりだから おっかさんがそう言いなさいと、と、と、言ったんだな、うん。」


おにぎりを手にした芦屋雁之助みたいで、とっても嬉しそうだった。


そしてその芦屋雁之助は 満面な笑顔で 部屋の隅に置いてある 雑巾のかかったバケツに気が付いたようだった。


雑巾のかかったバケツを見て、何がそんなに嬉しいのだろうか? 掃除でもしたいのか? 雁之助は。


その少女は バケツに一層 純真無垢な笑顔を浮かべていた。


純真無垢な少女の笑顔と テレビで見た雁之助のアホ面がオレの脳裏で交差していた。


何か、とてつもなく素晴らしいものを発見した時の子供の目だ! ちょっと頭の悪い子の。


そして、少女は 靴を脱いで、他人の家へ躊躇することなく上がり込んで行った、そしてバケツめがけて進んで しゃがみこんだ! さあ、何をするきだ!? 続きが気になる! 雁之助! 掃除でも始めるか! 否か!


そこは お前の家なのか? いや 気にするな! 掃除に取り掛かれ! さっきのおばさんが喜ぶぞ!


そして少女は右手にしっかり湯呑を持って しゃがみながら天高くかざした! 右利きなのか!? いやっ! そんな事を言っているのではないではないだろう!


雁之助演じる山下清こと、その少女はバケツに湯呑を突っ込んだっ!  ジャブゥッ!! ジャバ!ジャバ! かき回しているっ! 嬉しそうだっ! 何がしたいっ! 雑巾は使わないのか? 湯呑はもう使えないぞっ!! 喉が渇いたんじゃなかったのかぁっ!? まさかっ!! ほんとに掃除をする気だったのかっ!? いやっ 喉が渇いたんだよな? では遊ぶ前に 出された茶を飲んでからって言う手もあったんだぞ!! 湯呑をバケツに突っ込んだら使えないでしょ! 


使えなくなった湯呑を、汚れているだろうバケツ内のお水をたっぷりと汲み上げた、それを目の高さまで掲げ、それは嬉しそうに 湯呑を見つめていた。


そんなに嬉しそうに見つめているから ふと 思う事があるんだけど・・・飲むなよ。


少女はその湯呑をお口にそっと寄せ、とてもおいしそうに、ゴクゴクゴクと飲みほした。


・・どー言うこと!? ほんとは飲めるの!? いやいや そんなはずない、・・でも ほんとは飲めるの? そんな事はない、あるはずがない、・・ 


あんなに堂々と美味しそーに飲まれると、オレも飲みたくなってくる! ・・飲まないけど。


いやー・・エライものを見てしまった気がする・・。


少女は満足げな顔をして、それは純真無垢な少女のかわいらしい笑顔のまま、お礼も言わず、何もなかったかのごとくそのまま出ていった。


その後の あの子の生末が気になる・・。


バカなのかなぁ? 例えバカでもたくましく生きて行ってほしい。



後で分かったことだが この少女はオレが赴任する玉小学校の年長組で四年生と言う事だった、オレの受け持ちは年少組だ、ホッとした。


あと、バケツに異常なほどの興味を持っていると言う事だったが、なぜバケツに興味を持つのか? ・・そんなの知らないし、どーでもいい、オレは年少組だから関係ないのだ。



歩こう!


こんなに歩いたの何年振りだろう、通学やバイトをのぞけば、高校生以来か? ・・いや 中学生以来かな・・。


田舎の澄んだ空気を胸いっぱい吸い込み、大きく深呼吸をして また、歩き始めた。


いつまでもこんなとこに居たら不審者扱いされてしまうかもしれない。



オレはこの夏 ここへ引っ越してきた城島茂と言う小学校の先生だ。


・・さっきも言ったかな?


この村、玉村に引っ越して来て数日が経つ、時間が止まっているかのようで テレビで見たような江戸時代から続く建物がどっしりと、そして静かにたたずむ景色が ここにはある、素晴らしい!


田舎では、夏も終わりになると、都会ではあまり聞かない ヒグラシの蝉がよく鳴くものなのだろう。


雑草だらけの空き地に迷路のようなあぜ道、等間隔で大きな木から 子どものまだ細い木も立っている、つつじ ハナミズキ モチノキ キンモクセイ 沈丁花、それにクスノキ。


澄んだ小川がたくさん流れている、用水路なのかな? 少し歩くと手作りの橋が架かっていたりするので渡ってみたくなる、少年時代のワクワク感を思い出す。


見上げれば大空にはトンビ、鷹の仲間なんてオレの住んでいた町では見れなかったよな。


なんと素晴らしい田舎風情、日本映画のワンシーンを誰にも邪魔されず見ているようだ。


オレは、そんな田舎にちょっぴり感動していた。


来た道には引き返さず、先を見ると緩やかに下りとなっていたので更に村中をゆっくり探索して見る事にしよう。


ここにも村の端へと繋がるだろう橋が架かっていて その橋には勝尾川の山本橋と書かれていた。


橋は渡らず 砂利のしかれた道から 石畳と思える道が見えたのでその道を歩くことにしてみた。


その道は、人一人が運べる岩や石を所々に敷き詰めた道のようだった、オレは足元に見ながらこの石畳を歩いていた。


この道は このあたりに住む人が生活路として長い時間をかけて石を敷き詰め、ゆっくり造り上げていったんだろうと思った。


オレは目の前に何かを見つけた。


なんだろう、・・ふと 前を見ると、


小さな子が一人、その場でうずくまっていた、


・・あれは・・もしかして・・


オレは近づき、「・・・どうしたの?」と声をかけた。


その女の子はふり向き、顔を上げ、汗をだらだらと流しながら、満面の笑顔でこう言った、「・・お腹 痛い・・。」


・・・さっきのバケツ少女だった。



このオレ、城島茂は今年、26となり ようやく、・・晴れてめでたく小学校の教諭となりました。


・・この夏に。


いろいろ手違いがあっての事だが ここの教師募集は幸運とも言える、よくは分からんが、突然 玉村の村立小学校で採用したいとの通知が届いたのだ。


・・手違いとは、・・説明すると長くなるので しない。


ま そんな事は 私にとって関係ないと思われるので、初登校となる日まで この村を散歩してみようと思ったのだ。


大学行く以外、ほぼ 週末ニートだったので、自分から外へ出て歩くなんて事した事なかった。


ここは田舎だから、だーれもいないから平気なのかなぁ? 実家にいた頃は 近所の目や行きかう人の話し声がオレを馬鹿にしているんじゃないかって不安になったけど・・


ここではそんな事がない!


誰もいない! 人がいる気配はすれども 道ですれ違わない! さっきのバケツの少女くらいだ!


なんだか 少年時代に戻って スキップでもしたい気分だ! ・・しちゃおかなぁ・・、誰も見てないよねー、ルンルン!


ルンルン! ルンルン!


・・さあ、今 オレは人が見て無い事をいい事に 笑顔満点でスキップしたでしょうか? しなかったでしょうか? 答えは! そ・れ・は・!


秘密ぅー! ウフフフフぅ!


今日もいい天気だ。



そして 時間は田舎時間なのでゆっくり静かに過ぎていくのだ。


散歩がこんなに気持ちいいものだなんて、ああ! 何だろう! この充実感! 何もしてないのにこの充実感は!


その夜、私は 自室でくつろいでいた。


田舎は やっぱり涼しい、クーラーなんていらないんだ、電気代が節約できる。


窓に網戸がない。


窓から入ってくる風は 夜が深まれば深まるほど 涼しいものになってくる、山からの風だろう、きれいな山の香りがする、まるで 自宅に居ながら森林浴だ。


私は四畳半一間のアパートを借りた、昭和の青春映画に出てくるほど古いアパートだ。


一ヶ月二万円と安かった、トイレと風呂は共同で毎朝 管理人のお婆さんがトイレと風呂を掃除に来ているようだ。


オレが借りた部屋は二階の一番端で階段を上がって最初の部屋になる、201号室だ。


となりの部屋には 誰か住んでいるみたいだが、挨拶には行ってない。


廊下は北側を東から一号室で四つ部屋がある、玄関は風水的に良くないとされる北向きだが、部屋の窓はその逆で南側に面している陽だまり荘だ。


ちなみにアパートの名前は たしか、玉利荘だ(たまりそう)。


村が玉村と言う名称だから 玉に利益の利、と書いて玉利荘、ふざけてつけたのか真面目につけたのか分からない。


部屋は朝日も入るし、一日中 日差しが入る、"私"は太陽が好きだ、陽気な気持ちにさせてくれる。


たぶんそれはオレの母さんの影響だと思われる、母さんは 一年のうち、晴れていたら季節を問わず 部屋を開けっ放す、洗濯はほぼ毎日して布団を干す、それからパートに出かけ、昼休憩には節約のため家に帰って来て冷ごはんを食べている、行って帰るだけで昼休憩の時間は終わる、よく十五年も続いたものだ。


人生、初めての一人暮らし! 汚いが素晴らしい部屋だ。


築四十五年は経っていそうなボロアパートで、お化けが大嫌いなオレにとって、いわくつき物件で無い事を祈るしかない。



次の朝、


ゆっくり目覚めて 九時ごろに起きた! オレは 自力で早起きしたのだ、実家では昼まで寝ていることがよくあったが こんなに清々しい気持ちで目覚めるのは何年振りだろう。


朝飯は食わない。


腹が減ってないからだ。


散歩に出かける事にした。


アパートの前で、管理人のお婆さんに会った。


「あんた いつから小学校で教えることになるんだい?」


「明後日の九月一日からです。」


「そーかい、この村の子たちは 元気があってみんないい子だからね、いろいろ教えてあげてやってねー。」と あいさつ程度の会話を交わし 横のバス通りを渡り、目の前を流れる 川沿いの道を歩いてみた。


幅は五メートルほどで 草が生い茂り 水は澄んでいた、深いところ青暗くなっていて底が見えない、浅いところには たくさんの川魚が群れをつくって泳いでいる。


釣りができそーだ。


この川は 私が知ってる汚れた川じゃなかった、とってもきれいで、それでいて魚や沢蟹などがいたるところで見られた。


道端には緑の草木が沢山生えていて、色とりどりの野の花が咲いている、トンボにきれいな色した数種類のアゲハ蝶など、動植物が息づいているのだ。


等間隔で立っている木々は オレの知っている桜や(かえで)、柿、栗、イチジク、好きな香りのするキンモクセイなど 少し歩くといろいろな木や花をめでることが出来て、幸せな気持ちにしてくれる。


たぶんこの木々は 村の人たちが植えていったんだろう。


この村は 出来る限り産業廃棄物が出ないように村づくりをしているようにも見える、・・村の自然を守っているのだろう。


子供の頃、爺ちゃんが オレの住んでいる町に遊びに来た時、こんなことを言っていた、「都会の空気は臭い! 鼻がもげそーじゃ!」と 広島弁で。


オレには 都会の空気がそんなに汚れているとか、まったくわからなかった。


この村に来た時、オレは とても感動した、何に感動したのか 自分でもわからないほどに胸の奥を込み上げてくるものを感じた、ここは自分にとって特別な場所になる、・・オレの生涯にとても重要な・・そんな風にも思えたんだった。


だがオレは時に思い込みが激しく、それが大きな失敗へつながる事がよくある。


少年時代は、クラスの女子はみんなオレの事が好き、大人たちはみんなオレをとてもかわいい子と思っている、世界はオレを中心に回っている、オレは運命と言う名の物語の主人公なんだ、道で拾った何かを装着すると変身できる、見えない妖精が見えるはず、スプーンを曲げていずれ空を飛ぶ事も出来るはず・・と。


その思い込みは 日に日に間違った方向へと進み、気が付いたときには一人ぼっちになっていた。


その思い込みも 間違わなければ 自分の人生を大きく飛躍させる原動力にもなるのだと言う事にも気が付いたのだ。


オレはきっと頭が良いんだと思う! 今はバカが目立っているだけで そのせいでオレはバカに見えてしまうんだろう。


・・そう、大器晩成と言うやつなのだろうか。


・・・・・・、


どうせ 成功するんなら 今がいい。


歳をとってから 成功したって嬉しくない! やっぱ若いうちがいいっ! 絶対いいっ!!


女の子にモテるのだって ジジイになってからなんてヤダヤダヤダヤダっ!! 絶対ヤダっ! 今がいいっ!!


・・・・・、



ふう・・なんか疲れた・・・。


オレは その場でしゃがみこんだ、・・・いわゆる 和式のウンコさん座りと言うやつだ。


・・・なぜか こーしている落ち着くのだ。



・・・ここはどこか よく分からない、草木が生い茂る川の側、夏の青くさいほどの草の匂いが立ち込めている。


・・おっ! バッタだ! バッタがいる、・・おお、てんとう虫もいるぞ、・・風が吹くとあたりの草は 風の行く方へ向きを変える、ササササササ・・・


チョロチョロチョロ・・ポチャン・・・川の流れも聞こえてくる、今 魚が跳ねたんだな・・。


・・草の間から 川の流れが見えるぞ、太陽の光でキラキラしている、眩しいくらいだ。


ここには 純粋でたくさんの生命が息づいて生命力に満ち溢れている、それほどにこの村の景色は美しかった。


ああ・・誰かが、今のオレをみたら、きっと野グソをしているように見えるんだろうな、フフフ・・誰も来ないだろうが、そろそろ歩き出すことにしよう。


「あてててて・・・、」 足が痺れた、和式ウンコさん座りは、足が痺れることが難点だ。


今、オレの心は 余裕に満ちていた。


周りにオレを軽蔑する人間たちは 一人もいない! それに大学を卒業し、小学校の先生になったんだからぁっ! アハハハハぁ!


オレは運命の女神さまに導かれ この村へとやって来た! そう 思えて仕方がない。


そしてこの土地には神様が住んでいて、この村を守っているんだと・・、なぜか突然 私はそう思った!


そう、突然そー思ったのだ!


・・自分で自分が何を考えているのか分からない時がある。


そんな時、自分が怖い。


この村は高ーい山々に囲まれ、その麓にはビッークリするほどの巨木が群生しているのだ!


群生だ!


古い木に宿ると言われているのは木霊! きっと この村の大木には言霊がいるはずだ! こんなにでっかいだからいるはずだ! そーくれば獅子神だろう! そんでもってオッコトヌシにモロっ! サンみたいな女の子がいたらいいなぁ・・へへへ。


へへ・・ちょっと、それを言ってみたかっただけー。


ああ! オレは 今 幸せだからなんだろう、道端の雑草さえ、やさしくきれいに見えてしまう。


そんな バカな事を妄想していたとき、


・・ジャバッ!!


と言う 大きな水の弾く音が聞こえた! 魚かな? オレはそう思って 静かにそっと音の聞こえた川の方へと近づいてみた。


するとそこにいたのは、"人" だった。


後姿だった、・・その人は色が黒く日焼けしていて体はとても細くあばら骨が浮き出ていた、・・しかも この人、ふんどしをしている!


ふんどしだ! ふんどしをしているっ! Tバックじゃないよな・・、あんなジジイがTバックなわけないよな、・・いやわかんないぞっ、最近のジジィはっ!


・・禿げている! 頭のてっぺんが剥げている、・・周りに残る髪の毛が少し長いから落ち武者にも見える、・・いやっ! 河童だっ! ・・カッパに見えるっ! 本物なのかっ!? 泳いでいたのかっ!? 河童にTバックなのかっ?


あっ!! 振り返ったっ! 気づかれたかっ!? ああっ!!やっぱりカッパだあっ!! 明石家さんま似のカッパだあっ!! こっちを見ているっ!! オレを見ているのか!? なぜ逃げないっ!? オレは人間だぞっ!! 人間様なんだぞっ!!


"もしかすると" と言う言葉が 頭の中をよぎった!


・・オレを引きずり込もうとしているのか? ・・逃げなきゃ・・、


そのカッパは 川の中州へ上がろうとしているところだった、こちらの私に気づき、・・今、オレと河童は数メートルの距離を挟んで見つめ合っているのだ!


・・もしかすると・・、また、その言葉が頭の中をよぎった、


そう、・・もしかすると、ほんものっ!? ・・オレはそう思った! 


オレは冗談で河童ぁ? みたいなー、なんて思ったと思うが、ほんものなのかっ! 本物っているのかっ!?


こっちを見ている、もしかすると人間かもしれないが 本物にも見えたりするその河童は、細い切れ長の目に とんがった口元、やっぱり河童だろ・・? いやいや出っ歯のようにも見える、目つきの悪い日焼けした明石家サンマ似のじいさんにも、見えたり見えなかったり・・。


あっ! そんな事を考えていたら そのカッパは川の中へと一瞬にして潜って行った! ・・いなくなってしまったではないかっ! 人間に見つかった蛙が一瞬のうちに水の中へ潜るかの如く素早い動きだった! 凄いっ! 凄い動きだ!


・・あの河童、浮かんでこない、・・この川は深いのか? 足が付かないほど深いのか?


あの河童は何処へともなく消え去ってしまった。



まあいい、オレは川で泳いでいる河童を初めて見た、都会は すべてドブ川となっていて泳げるものではない、たまに飛び込むバカがいるみたいだが。


・・田舎には 本物の河童がいるのかもしれないな。


それにしてもどこまでものどかな田舎景色、田園風景、オレは また、空を見上げて大きく深呼吸した、青いお空を飛んだら目が青くなるのだろうかぁ・・、トンボの目は、そもそも青だったっかなぁ? そんなことはどーでもいいのだ。


人がいない、すれ違わない、見当たらない、都会暮らしはもともと性に合わないと思っていたから ここでの教師採用は やはり幸運だった。


何もないところではあるが、また それがいいところだったりする。


あるのは そこそこ大きく綺麗な川に見渡す限りの田んぼ、田園風景だな。


それですべてが揃っていると言えるのではないのか? 人間は あまりに贅沢になりすぎているのではないのか? ほんとになくてはいけないものって、贅沢品なんだろうか? では、何があれば すべて、なんでもあると言える便利な世の中と言うのだろうか?、テレビがあるから? 冷蔵庫があるから? ネットがあるから? 家から徒歩で駅があってコンビニがあるから? だから都会は便利だと言うのか? だから不自由なく暮らせると言うのか? ほんとにそうなのか?


まあ、そう考えると都会って便利だよね、・・やっぱ、・・こうして改めて考えてみても 改めるまでもなく、便利だよね、ほんと。


・・だけど 人間が多い、怖い人が多いし、意地悪な人が多い、・・それはヤダな。


オレは 時間を忘れて よく妄想する、改めなければいけない。


今 歩いている道は川沿いの土手の小道で 右に川があり、左手にバス通りを挟んで田んぼが広々と広がっていた。


ひとつ向こうに 小さな小屋が一つ立っている、そしてさらに先には 民家が一、二軒・・。


その向こうもまた田んぼで 山に囲まれた まさに孤立した村なのだな。


都会の騒音はまったくなく、聞こえるのは 蝉、ヒグラシに小鳥のさえずり、小さな鈴虫の音、小さな風の音。


やっぱり 私は 田舎がいい、田舎が大好きだ、とても落ち着く。


・・ああ、腹が減った、・・どっかに吉野家かコンビニないかな・・


・・フフフ、 何もないじゃないか。


ええーっ、どこで買うのぉ? どこで牛丼食べるのぉ? ええーっ!! うっそぉーっ!! ええーっ!? 


・・オレは 真剣に考え、途方に暮れていた。


・・今までは 弁当とカップラーメンがあった、


・・が もうない。


オレは日差しの下、暑くなったので歩くことにした。


少し歩いていると 小学生くらいの少年 三人と出会った。


この村に来て すれ違うのは 大人より子供の方だ。


「こんにちは、」とおれは 三人の少年に声をかけた。


小学生でまだ高学年くらいか、・・もしかするとオレの生徒になる子たちかもしれない。


この少年三人は 目をキラキラさせ、小声で"おい誰だ? どっから来たんだ? 町から来たんじゃないのか? えーっ! 町ーっ? 都会から来たのかぁっ!"と 三人で話していた。


・・オレは今、自分の小学生の時の事を思い出していた。


友達 数人と遊んでいたとき、青い目をした外国人に声をかけられて、・・"おお! 外人だぁ! ハローハロー! 握手! 握手!" と、その外人さんに握手を強要した事を思いだとていた。


面倒くさい子供だと思われていたんだろうなぁ・・、今だから分かる。


・・だか、オレは青い目の外国人ではない! ・・そんなカッコいい者じゃない、・・たぶん きっと・・ほんの少し 不審者扱いされているような感じだろう。


・・なんか 凹むので 話を急いで進めることにした。


オレは この少年たちに「食事が出来るお店か、コンビニみたいな店が この辺にないかな?」と聞いてみた。


少年たちは 少し考えて、「コンビニって何?」と逆に聞いてきた。


コンビニを知らない、・・田舎、だからなのか? オレはちょっぴり感動していた。と 同時に説明すんのめんどくせー!とも思った。


少年たちは「食事出来るとこなんかないよ。」と言った。


そしたら もう一人の少年が「タヌキは?」と言っていた、そしたら「うぇーっっ!! おまえっ タヌキなんかで食ったりすんのかよ? あのおっさん、鼻くそほじりながら飯作ってんだぜっ!!」と言っていた。


オレは "たぬき" と言う名前を忘れないようにしっかり覚えておくことにした、"たぬき"へは絶対 行かないためにだ。


「おっちゃん、この辺で 飯 食えるとこなんてないぞっ!」と一人の少年が言った。


おっちゃんて、・・オレの事なのかな? 子供から見れば やはりおっちゃんなのか?


「腹減ってんのか? なんなら うち来るか? ソーメンあるぞ!」とまた その少年が言った。


"うち来るか?"と、子供に言われてついていく 大人はいない。


チリンチリン、


その時、何かの鈴の音がした!


自転車のベル?


「あなたたち、どこか遊びに行くの?」と若い女性の声がした!


オレはすぐにその声の方へ目をやった、


ああっ!! 美人だっ!! 美人だっ!! 美人がいるっ!! こんな田舎で、しかもこんな美人と遭遇してしまった!


若いぞっ!! 若いっ!! オレと近いっ!! 歳っ!!


「あ、先生。」一人の少年が言った。


見た感じだが オレと歳は近いぞ! 結婚しているんだろうか!? ママチャリではないっ! 子供はいないかも!! と言う事は、独身っ! いやっ、焦るなっ! オレは顔に出るタイプだっ! 美女を見て ハァハァハァ・・してたら完全に第一印象で嫌われてしまうっ!! 冷静になれっ!オレっ!!


あっ!! 今、先生と言ったぁっ!? 先生?! 誰が? え!? この少年たちが こちらの美人を見て、"先生" と? 何っ!! それはどー言う事だっ!! つまりっ! 先生と言う事なのかっ!! 落ち着け、オレっ! 「ハァハァハァ・・」 先生にもいろいろある、塾の先生、幼稚園の先生、病院の先生、ヨガの先生、インドの先生、カレーの先生、あやとりの先生、のび太の先生、漫画の先生、のりすけさんといささか先生、先生は先生でもいったいどの先生と言うのだっ!! 是非っ! 小学校の先生であってほしいっ!! それ以外の先生だったら絶対っ!!イヤだっ!!


どうかっ、結婚していませんようにっ!! 「ハァハァハァ・・」


若い女性だ! この村に来て初めての女性だ! ・・他にいたかな?


「・・・・・、」女性が無言でオレを見ている! ・・オレの事カッコいいと思ってるのかな?・・へへ。


「センセー、このおっちゃん 腹減ってんだってー! だからオレんちでソーメン食うかって言ってんだけどさぁー」今っ! 先生と言ったっ! 間違いなく言ったっ!! じゃあっ何の先生と言うのだっ!!


だが、そこのガキっ! さっきの素麺の子っ! おっちゃん、おっちゃんと言うなっ! 耳に残るっ! オレもそんなお年頃なんだろうかと改めて考えさせられるっ。


「あらそう、素麺もいいけど、"おとずれ"なら美味しいわよ。」と言う ママチャリに乗って迷彩柄のジャケットに可愛らしいポシェットを肩から斜めにかけていた笑顔の素敵な女性、同じ小学校の先生だったらいいなぁ!


「ハァハァハァ・・あ、あの・・」ずっと黙っているのも失礼だ、何か喋らないと、なんだか顔が火照ってきた、私は照れ屋さんなのか!?


「・・さっき 先生ってこ・・」と まだ喋ってるのに、このガキが「タヌキはダメだよ、鼻くそ入りだから、」と割って入りやがったっ! 子供たちが笑い出している、オレが喋ってんだろがっ!!


「せ、先生ってさっき・・」とオレがさらに割って喋ろうとしたら、「先生さぁー、さっき昭吉(しょうきち)がそこで野グソしてたんだよぉーっ!ハハハ」と言った瞬間、笑う子供たち。


そんなことわざわざ報告するなっ!


無視されているっ! 二度までも居ない者呼ばわりかっ! いやいやまてまて、物事は悪い方へ考えてはいけません、まして子供の野グソの話なのだから。


都会で野グソならどこで!? と、聞きたくもなるが田舎ならどこでしようがいいのだろう。


「この辺の方じゃないですよね?」


「えっ!?」美人に話しかけられた! オレの後ろには誰もいないっ! 振り返って確認したっ!


「あっ、はい "ぼく"は、ここへ先生として赴任してきました、城島と言います。」


"ぼく"って子供っぽかったかな? だけど "わたし" じゃあ、使ったことないから恥ずかしいしっ!


「あぁ、やっぱり そうじゃないかなーて思ったんです、城島先生ですか? (たま)小学校の?」


「あ、はい そうです、先ほど」「おっちゃん、ほんとは先生だったのかぁーっ!?」このクソガキっ! 喋ってんだろがっ! "ま"を考えろよっ! まぬけぇっっ!!


「こらっ! 山岡くん、おっちゃんとか言っちゃダメでしょ。」


「えー、なんでー?」山岡ぁー! 黙って聞けよっ!


「私も 玉小学校で年長組の担任をしています、井上 春名といいます、これから一緒の 学校ですね、よろしくお願いします。」


ああっ!! おんなじ小学校の先生だったあ!! ヤッホーっ!!やったあーっ!! すごいぞっ! すごすぎるぞっ! 忘れていたこの感じ、あの高揚感! すべてがまた、オレを中心に世界は回っているんだっ!! また、オレを中心に世界は回り始めたんだあっ!! そんな気がするっ!!



そんなこんなでぇー、こちらの美しい女性は 井上春名さん、春の名前と書いて春名かぁー! 春はいいよねー、暖かいし、花がたくさん咲いてるし、蝶々は飛んでるし! ・・今は夏だけど。


「城島先生のお住いは・・この先の、」と聞く井上春名先生、オレは今 井上春名と言う名の美人と一緒に土手を歩いてます。 エへへへ。


ちなみに さっきの少年三人は 素麺を食べに帰って行ったようだ。


だ・か・ら、


二人っきりぃ・・アハ。


「は、はい! お住いですか? えぇーっと・・あ、あそこの ・・その アパートです、・・・汚いところで狭いんですが、ぼくにはちょうどいいかなあって・・。」


「・・・・、アパート・・ああ、やっぱり、"玉利荘"?」


ああ、そー言えば そんな名前だったかな。


「・・ええ、玉利荘・・たしかそんなふざけた名前だったと思います、・・ハハ。」


「・・・・・、そこ 私のお婆ちゃんのアパートなんです・・・。」


え!?


・・お婆ちゃん・・・・? 毎朝 風呂とトイレの掃除をしに来る・・・あの お婆さん・・・、てことは 孫っ!?


「え!? ちょっと待ってください、て事は あのお婆さんの お孫さんになるんですか?」


「はい、そうです。アパート借りるとき、大家の名前は井上だったはずです、フフフ。」


はっ! たしかに・・いの・・うえ・・、だっような・・、・・見たような・・見てないような・・・


「あそこのアパートでしょ?」 指をさして確認する。


・・あそこって・・かなり、向こうなんですけどぉ。


私と井上春名先生は一緒に アパートの方へと歩くことになりました。


・・あ、子供三人も ついてきてる、声が聞こえたので振り返るとついて来ていた。


アパートは土手に沿った道と舗装された道の反対側にあって、もう目の前まで来ている、間違いない。


「お婆ちゃぁーんっ!」と おっきな声で呼ぶ 井上春名先生、声がとっても大きいから、耳がクワーンてしてしまっている。


玉利荘と言う名前を・・"オレ"はふざけた名前と言ってしまった! ・・ふざけているのは"オレ"と言う事でお願いします、なにとぞ。


川の土手は バス通りより大人の胸 一つ分高くなっている、そこから玉利荘へ降りる下りの道を自転車で降りていく井上春名さん。


オレもそのあとをついてバス通りに出た、・・この下りのあぜ道には自転車で通ったタイヤの跡がいくつもついていた。これはほぼ、井上春名さんの自転車の跡だと思われる。


「あんれぇ、春名ぁ、どこか行っとんたんかぁー?」大家さんは 一斗缶で焚火をし、雑草を燃やしていた。


今日は お昼近くまで掃除をしていたのか、アパートの前にいた大家さん。


井上春名さんのお婆様ですか、なるほど。


ちなみにだがアパートの周りにある田んぼは 井上家の田んぼだそーだ、周りの田んぼ、と言われても見渡す限り田んぼなんだが・・、大地主なのかな?


・・結婚する人は玉の輿だあーね。


井上春名さんは さっきの少年たちと話していた"おとずれ"と言う名のお店で、お昼をご馳走してくれると言ってくれた、なんてやさしいんだぁー、美人だし、明るいし、笑顔がとても素敵だ。


とくに あれだ、この肩から掛けてある小ぶりのポシェットが女性らしくって可愛いんだっ! オレはポシェットフェチだったのか? そうと言えば昔っからポシェットを肩にかけてる子が好きだったような・・、右肩から右腰じゃダメ! それじゃあショルダーバッグになってしまう。


やはり右肩から 左の腰への斜めがいいっ! 左から右でもいいが ポシェットでなければ可愛さ、女性らしさを見て感じないっ!


ショルダーバッグとは 物を入れる、実用性重視の可愛げがないただのバッグだ。


井上春名先生の乗っている自転車は 今、よく見かける電動アシストの自転車だ、・・ちょっとしたぜいたく品・・かな。


井上春名さんはアパートに自転車を置いて、歩いて"おとずれ"まで行こうと言う事になった。


・・ああ、・・歩く、とはデート・・みたいなものだろう。


そして その途中、村で唯一の商店街を教えてくれると言っていた。


朝の散歩で歩いていた、村の南ではなく、商店街や役場は 村の北側、村の奥にある。


バス通りを北へ、そして並行して走ってる川沿いの道を歩き橋を渡った、昭和の中頃につくられただろう古いコンクリートの橋、村のマイクロバスが一台通れる幅だ、狭いが この幅は昭和時代の市町村における規格幅だろう。


そう言えば バス通り自体に対向車線はない、道幅はそれなりの広さではあるが道路上には白線が引かれていないし、横断歩道も一旦停止も、何も書かれていない。


ちなみに このバス通り以外は 何の舗装もされていない生活道で土の地面だったり 雨などで道が削れてしまったりした場所には砂利や岩を埋めて平らにしてある、その他にも"あぜ道"のような人一人が通れる小さな狭い道がたくさんある。


空き地や丘のように盛り上がって出来ている小山などにもその小さな道は無数に存在する、ちょっとした迷路のようで どこに繋がっているのか? とワクワクしてしまう、少年の心をちょっぴりくすぐられてしまう。


井上春名さんと二人で歩き、ドギトキしながら緊張を悟られないように冷静を装いここまで、とっても嬉しく歩いてきた。


オレは生まれてこの方、女の子と二人っきりで歩いたことがない、当然、デートもしたことがない、断言できる! だから何だと言うのだっ! オレの青春は二十六歳となった今っ始まったのだっ!


・・正直 あまりの緊張状態が 長く続いているせいだろうろ・・、普通に歩けなくなっているかもしれない、・・オレの右手と右足が同時に前に出ているような気がする・・。


井上春名さんが オレの顔を覗き込んでいる! ・・そして笑顔を浮かべこう言ってくれた、「・・今日は暑いですね。」と。


・・オレは今現在、・・たぶん普通ではないくらいの汗が頭のてっぺんから滝のように流れているかもしれない、・・Tシャツが汗だくだ、・・きっと絞ったらコップ一杯分はあるかもしれない。


歩いてきた道はここで二手に分かれてる。


夏の澄んだ空気と眩しいくらいの太陽の日差しがあたりいっぱい、元気に見せてくれる、誰もいない田舎の素朴な道、・・誰もいない、・・誰もいない、と言う事は・・それはつまり男にとって! ・・・ハッとオレは気が付いた! 右手と右足が同時に出ていることをだっ! これはいかんっ! ただちに元に戻さねばっ!!


「右に行ったら 玉神社があるんですよ。」と井上春名さんが カワイイ女性らしい声で話してくれた。


「・・左はいろんなとこへつながってるわ、・・小学校にも行けるし、村営の畑とかにも行けるんです。」そうなんですか、もう一回 言ってくれませんか? 言葉が右から左へ通り抜けていく感じ・・聞いてませんでした。


「商店街はこのまままっすぐ、あそこ 橋を渡ったらすぐのとこなんです。」


オレは歩く速度は井上春名さんに合わせることにして、手のふりだけを意識するようにした、右手右足が同時に出ないように・・。


どうやらなんとか緊張を悟られないように歩けているみたいだ、・・手の振りが足より速く振っているような気もするが、・・・男ならあまり細かい事を気にしてはいけないのだ!


そして気がつけば商店街と思われる所までやって来ていた。


アーケードはない、・・村で一番の繁華街と言う事だが、・・とっても静かだ、・・無人の、・・廃墟・・のような、いやぁっ! そんな失礼な事を考えてはいけないっ!


周りには他の場所よりとっても民家が多い! たぶん人が住んでいる! ・・みたいだけど十軒はないかなぁー、・・商店街と言われるお店は・・数軒。


「この道は村のメインストリートみたいなものなんですよ、商店街の向こうに バス停があって、その向こうが終点になるんです。」と井上春名さんが商店街のお店だろう、その奥を指さし、教えてくれた。


「そーなんですか。」と 変な声で返事をしたオレ。


バス通りは続いていたんだ、てっきりアスファルト舗装が終わっていたからただの道だと思っていたけど。


井上春名先生は商店の入口手前からお店の紹介をしてくれた。


「ここが 商店街の入口で・・」と、井上春名さんが教えてくれたのだが、どこからが入口なのか分からなかった。


「一番角で、左のお店が骨董屋さん、」村に骨董屋があるのか? 誰が買うんだろう?


「その向かいの右側のお店が駄菓子屋さん。ジュースの販売機も置いてあるし、公衆電話とかも置いてるからとても便利ですよ。」・・便利・・、駄菓子屋が?


それから、駄菓子屋さんの横が ケーキ屋さんで不二家さんです、フフフ。」と小さく笑って教えてくれた。


こんな所にもあのペコちゃんでお馴染みの不二家があるのか。


さっきから目には入っていたが、お店の前に不二家のペコちゃん人形が置いてある、しかも二体。


まじかで見たら ・・ちょっと迫力があるな、二つも置いてあると。


だか、これはこれですごい! 一店舗一つじゃなかったのか? 始めてみた、ダブルペコ! いやっ、もしかするとペコちゃんとポコちゃんじゃないのか? ・・どーでもいいけど。


オレと井上春名さんはそのまま商店街のメインストリートを奥へと歩き始めた、道には川砂利を敷き詰めてある。


・・不二家のお店の前を通るとき、中の店舗を見たらペコちゃん似の人が二人立ってこちらをニコニコしながら見ていた、・・目があった、ドキドキした。


犬は飼い主に似ると言うが、ペコちゃんの持ち主はペコちゃんに似るんだろうか。


「不二屋さんの向かいで、骨董屋さんの横が中古レコード屋さんです。」


中古レコード? ・・さっきから思うんだけど、・・誰が買うんだろう、・・生活必需品より中古レコードなのか? 骨董屋の方がいいのか?


その中古レコード店に犬が飼われている、耳が茶色い白い犬だ。


あ・・、茶色いたれ耳で白い犬、どこかで見たことあるようなぁー・・、古いレコードプレーヤーに向かって音楽聞いてる犬で、・・音楽機器メーカーのイメージマスコットだったんじゃないかなぁ・・昭和を思わせるような絵柄、・・たしか その犬の名前はぁー・・


井上春名さんがその懐っこい犬の頭を撫でた、「よしよし、かわいいねー、お座り! ビクター!」


そうだっ! ビクター犬だ! いやーっ思い出したっ! なんだか懐かしい感じがする! この犬、そっくりじゃないかっ!


店の主人は犬の名前に付けてるのか! どこからもらってきたんだ? このそっくり犬はっ?


井上春名さんは また歩き始めて、「このお店、みんな ビクターさんて呼んでるんです。」・・それ以上何も語らないのは 本当の店名は知らないと言う事でいいのだろうか。


店名でもなく、店主の名前でもなく、犬の名前で呼ばれてるのかぁ、ビクターさんは。


「それからぁー・・・ビクターさんの隣は食堂で、たぬきって名前なんです、・・たぬきですよぉ、面白いでしょ、フフフ。」なんだか楽しそうに教えてくれる井上春名さん。


さっき 子供たちが言ってた "たぬき"って、この店の事なのか? ここにあるのか? あの "はなくそ" はっ!!


「城島先生も お腹すいたら ここで食べてもいいじゃないですか?」と、井上春名さん! もう オレの事を城島"先生"って呼んでくれるぅー!


「お腹すいたら?」マジで言ってんのかなぁ? ・・・ほんとは美味しいの?


「あの・・井上先生は よく来るんですか? たぬきには?」


「いやあっだぁーっ!! 行きませんよぉー! もうー・・」


・・・・・・・・・・・・・・・。


え? なに? どー言うこと? それで終わり? 説明なし? 続きの説明はないの? オレには勧めて井上先生は行かないの? どーして?


「あー、雨宮さん!」と誰かに気がついた井上春名さん。


? 雨宮さん? 知り合いでもいたのかな?


「あそこにいる女の子、私の生徒なんです。」


・・どこかで見たような・・、歳は小学生の中ごろくらい、髪を後ろで束ね、ポニーテールとしていたその少女は、左手に小さな買い物カゴを持っていた、お母さんに頼まれてのお使いかと思われる、えらいえらい。


ん!?


あれ? ・・やっぱりどこかで見たよーな・・昨日、会ったかな・・。


その女の子はある店の前で男性主人に「お刺身下さいな。」と声をかけていた。


「お嬢ちゃんねー・・・」と、店の男性主人は言った。


「お刺身下さいな、・・二人前で。」とまた続けざまに女の子はその主人に言った。


「いやっ、困ったなぁー・・・ハハハ・・」と、店の主人は再度言った。


何が困ったと言うのだろう?


「お刺身、下さいな。」と満面の笑顔で 休む事なくリズミカルに三度、その女の子は男性主人に言った。


・・そうだっ! 思い出したぞっ! 昨日のバケツ少女だっ! オレは半歩後ずさった。


「あのね、お嬢ちゃん うちには残念なことに 刺身は置いてないんだよー。」と、店の主人は三度 困ったように言った。


井上春名さんは少女のそばまで来ると その少女に声をかけた。


「雨宮さん、お使い? えらいわねー。」


「あ、先生、」


「雨宮さん、魚は魚でもみんな干からびてるでしょ? ここは乾物屋さんですよ。」そうだったのかっ! オレは"バケツ"の事で頭がいっぱいだったから気づかなかったっ! 乾物屋だったのかっ!!


「いや、干からびてるんじゃなくて・・春ちゃーん」と店の主人は春ちゃん!? と、顔見知りのごとく親しげに声をかけた、・・田舎だしな。


だが、この少女は井上春名さんの言葉なんてお構いなしに「お刺身下さいな、二人前で!」と大きな声で 店の男性主人に言った! 先生に見られているから張りきったのだろうか? 満面の笑顔だ!


昨日のバケツの水を飲みほす時と同じ満面な笑顔だっ! なんか恐ろしやーッ!


・・たぶんこの子は人の言う事をまったく聞いてないのではなかろーか?


「お嬢ちゃん、刺身なら うちの隣の店だから、あっちで買いなよ。」と店の主人はきっぱり言った。


「お、さ、し、み、下さいなぁーっ!」と さらに大きな声ではきはきと女の子は言った! 満面の笑顔でだ! 先生に見られているから張りきっているのかな!?


だけどな、声を大きくしたら伝わるって問題じゃないぞっ! 耳が遠い爺さんに話するんじゃないんだから。


「あのねー お嬢ちゃん、お刺身は 隣の店だって! 分かった?」 店の主人は頑張って教えた!


「お刺身下さいなーっ!」 そして少女も頑張って言った! 


一方通行なのか? この子はっ! それとも聞く耳を持たないのか? 耳が遠いのは爺さんじゃなくてお前の方なのかっ!?


「てかねー、お嬢ちゃん・・・乾物屋さんだから、おじさんの店は、」ほんとに困った様子の男性主人だった。


「お刺身下さいな。」満面の笑顔だ、疲れ知らずだ! こんなに夏なのにっ、汗一つかいていないっ! 女優なのかっ! それともバカは疲れないのか!?


「いや、だからね、刺身はお魚屋さんなのっ! 隣の店なのっ! 分かった?」 こんな山奥の村にも魚屋さん!


「お刺身下さいな。」まだ言うか? 隣だって言ってんじゃん! いい度胸してるな!


「違うんだってばぁーっ、うちには乾物しか置いてないんだよー・・てか、お嬢ちゃん、刺身の意味わかってるー? 乾物買いに来たの? ええっー!? まずはそこからなの? ちゃんと覚えようよー、刺身の意味ー・・・」


その少女は 氏名 雨宮メリイ と言い、歳は九歳、小学四年生となる。


この雨宮メリイさん、結局 何を買いに来たかと言うと、アジの干物らしい・・と言う事で決着がついた。


干物を買いに来たのか? 刺身を買いに来たのか? もう今となってはこのまま アジの干物でいいんじゃないの? と言う半泣き状態の乾物屋主人の"意見"で一件落着と言う事に相成りました。


ちなみに私は 年少組の担任となる予定なので 四年生であると言うのならあの子の担任になる事はない。


・・とてもホッとした。


短ーい商店街には 他に豆腐屋、お肉屋、金物屋、などがあった、が お肉屋さんなどは土日しかしないそうだ。


井上春名さんとさらにさらに先へと歩いて行った。


民家がちらほらあたりにあるだけで 人っこ一人歩いていない、道の脇には等間隔で木が植えられていて木陰を作っていた。


眩しいくらいの夏の午後の日差しと 木陰を作る木々のコントラストはとても涼しげで見ているだけでも穏やかなオアシスを連想させる。


田舎というものは素晴らしい、日向を歩いてていると汗はかくが ジトっとした感じじゃない さっぱりしていて ときおり吹く風は懐かしさを感じさせる匂いが混ざっている、田舎の香りと言うべきか。


都会はアスファルトの照り返しで熱風と化した風が吹く、息苦しくも臭い、生物が腐ったような、それでいて化学薬品を混ぜ合わせた もう何がなんだかわからない変な匂いが漂う都会とはえらい違いだった。


あー・・そうか・・私は田舎が好きだったんだ、学生の頃から 教師になろうと決めて嫌いな勉学を志たんだ!


将来何になりたいかと高校の担任に聞かれて、「・・・・小学校で先生みたいな・・」と自信なく言ったら「・・・、おまえの偏差値じゃ無理だ。」と普通に言われ、少しして 鼻で笑ったあの担任の顔が今でも忘れられない。


・・だんたん腹が立ってきた、・・くっそーっ! あの教師ィっ!! オレは絶対 あんな教師になんかならないっ! 始めから人の事を見下し、目をかける生徒とそうじゃない生徒をはっきり分ける! ・・オレ一人を馬鹿にするならまだいいだろうっ! 懇談の日だっけ、 確かにオレは出来が悪かったよっ! ・・だからって・・オレの親にまで見下した態度には心底 腹が立ったっ!!


・・ああ、よそう・・嫌な事を思い出すのは・・、機会があれば そんな嫌な出来事もいずれ話す時も来るだろうし・・。


・・忘れていたけど、オレは都会の喧噪が嫌いだった、高校生ともなると 男子は大人の遊びに興味を持つようになる、・・酒、たばこ、麻雀、パチンコ、踊りに行く夜の店にナンパ、・・オレは それらがすべて性に合わなかった、・・だから 友達もいなくってしまったのかなぁ・・、まあ それだけじゃないだろうが、自分から人を避けていたところも多々あったな。


そうだ"オレ"は田舎で坊ちゃんしたかったんだ・・・、芥川りゅーのすけみたいに。(ちなみに坊ちゃんは夏目漱石です。よく 先生になれました。てへ。)


なーんだ、そうだったんだよぉー、忘れてたぁ、覚えた事を忘れるのは得意です、テレビの再放送、何回見ても新鮮です。


「雨宮さんて 面白いでしょ、ちょっと天然がかってるんだけど、勉強とかよくできるのよー。」と井上春名さんの声が突然聞こえてきた。


また考えごとをしていた、これはよくないな、せっかく井上春名先生が一緒に歩いてくれてるのに、無言でいるなんて誤解を招く原因にもなる! と言ってるぞばから考えてるじゃないかあーっ! おおーっ止まんないっ! 想像とは想像を生み続けるものなのかあーっ! オレはきっと早くして呆けるタイプだっ! 


「城島先生・・・?」はっ! いかんいかんっ! これでは変な奴だと思われてしまうっ! いやっ大丈夫だっ! 雨宮メリイを"変"と思わないんだから大丈夫だっ!


「!?・・フフフ、城島先生ったらちょっと変。」えーっ!? なんでーっっ!?


「えっと ハハ・・あ・・はい、何でしたっけ・・?」考えごとは一人で居るときにエアフレンズとしよう。


「雨宮さん、とくに算数が得意なんですよ。」


ええ!? あいつが? それに ちょっと天然がかってるって言ってるけど ちょっとなんですか!?、一線越えてるように見えるのはオレだけ!? あれは 頭に聴診器あててもおかしくないレベルじゃないのかな?


「かわいいでしょ? 雨宮さん。」


・・かわいい・・? 誰が? 何が? とれが? 例えばどんなところがぁ?


・・やっぱり雨宮メリイの事を言ってんだよね、・・あぁ、初め知らない人の家で 茶をくれとかなんとか・・あの一瞬だけ無邪気な子供と思い かわいいな、とも思ったなような・・気もするが・・、いやいやいやー・・ インパクトありすぎ! ディープすぎて・・・


"可愛い"という言葉すら忘れていた。


そもそも可愛いとは 小さくて柔らかくて純真無垢で汚れを知らないことを "かわいい" と、言うのではないのか? バケツの水を満面の笑顔で そりゃあおいしそーに飲んだような・・、記憶が定かではないが・・


なおかつだ! 十歳にもなろう子が刺身と干物の区別がつかず「お刺身ください、二人前で。」と引くことを知らない買い物の仕方! あげく乾物屋のおやじが半ベソかいて隣の魚屋を呼んできてついでに刺身も持ってきた!


それでもあの子は 「お刺身下さい、二人前で。」と、更にそー言ったんだ!


・・乾物屋に 刺身をくれなんて ちょっとした冷やかしにもなる、が 相手は子供だ。


カワイイを通り越し、恐怖すら感じた! 横でやりとりを見ているだけでも心が折れそうになる。


それを考えると乾物屋が気の毒だ。


また 明日から胸を張って商売に勤しんでもらいたい。



「・・あ 雨宮メリイ・・、てご両親のどっちかが外国人だったりするんですか? 色白だし・・名前もメリイて・・」


「ああ、ご両親は二人とも日本人ですよ、・・・ふつーの。」


「・・そうなんですか。」


「・・だけど 雨宮さんも二年前に町から こっちの 玉村に引っ越してきたんですよ。・・・なんでも 向こうの学校ではイジメにあってたみたいで・・」


あの雨宮メリイが? イジメられてた? いじめてたの間違いでは? ・・さっきみたいに乾物屋を悪気なく無邪気にイジメてたのではないの? 


"イジメ" 社会問題となっているあれね。


「町の学校ってひとクラス三十人もいて一学年で四クラスもあるんですって、いわゆるマンモス学校なんでしょうね。」


・・マンモス・・? ヘビーブーム世代の言葉か。


「・・あ、でも都会なら三十人学級は普通ですよ、ぼくも 小学校は三十人ほどでしたし三、四クラスだったと思います。」


「ええっ! そうなんですかっ!? すっごい! 大都会だったんですねぇ、」


「いやっ、大都会って言う訳じゃないですよ、ハハハ ・・普通・・て言うかぁ・・。」


てか、井上春名先生は地元だろうから、ここの小中学校を出ているのはわかるとして・・高校はどーだったの? 教員免許持ってるはずだから教育学部も出てるだろうし。


「私のは、全校生徒あわせても 二十人・・ちょっとですからー・・・。」


「ああ・・なんだかのどかだなー・・ハハ。」


まずいなあ、都会風吹かせちゃったかな。


「あそこです!」


井上先生が指さす方を見ると 目の前にまた 橋が架かっていて 川の向こう側、竹藪を背に一軒の家が西を向いて建っていた。


「城島先生、この橋を渡らないと"おとずれ"にはいけないんですよ、ここから 少し道が狭くなるけど。」


じゃあ、村のメインストリートはここで終わりなのかな。


橋を渡る手前、右手に川の本流らしき川があり、そこにも橋が架かっていた。


そしてその本流の橋の向こうにある建物は・・役場? 昭和3、40年代の建築様式の古い建物が建っていた。


大きな板に白いペンキが所々剥げかけてそこに黒字で・・玉・・ 村 役場と・・手書きで書いているように見える。


目の前の橋を渡ってすぐ右に曲がりまた川沿いを歩くと、井上春名先生おすすめの "おとずれ"が すぐそこに見えてくる。


玉川は美しく、深く、その深いところは青く見える。


「・・それにしても きれいな川ですね、」


「あ はい、玉川て言うんですよ、・・ちょうどあそこ、」と言って おとずれの店の前の本流を指さし 言った。


「川の真ん中に中州になった小さな島があって・・ちょうど今、夏の季節には、男の子たちが中州の島にあがって遊んだりするんですよ、海賊ごっこなんかやって、・・私も子供の頃はよくここで泳いで遊んでました。男の子たちと一緒になって、フフ・・懐かしい。」


「へえー! そうなんですか? 活発な女の子だったんですねー。」



井上春名さんの少女時代は どんな子だったんだろう、そんな話をしていたら、もうお店の前についていた。




第一話 「バケツ少女」 おわり




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