第二話 第四章~そしてヨトゥンの And of jotunn~
ふみづきのふつか ふぇーりー・ぐりゅっく・まるうーる・こんとーる ごさい
ついに、あんじんぞくとかいじんぞくのたたかいがおわりました。
これで、わたしもこのにっきをかくことができるようになりました。
あと、ふしぎなひとにであいました。
たぶん、みやこでうわさになっている<かみなり>とかいうひとです。うわさとはぜんぜんちがくて、なんかかっこよかったです。
‥‥‥‥。
なんかかくことがなくなったのでおわります。
ついしん 「ぴーえす」ってどういういみ?
おわり。
(フェーリー・グリュック・マルウール・コントール、5歳の時の日記より抜粋)
文月の二日 フェーリー・グリュック・マルウール・コントール 十六歳
この日が来ました。ついに、今日の朝、地上へ下ります。
<雷>さんを探しに行きます。会って話をしたいです。
言いたい事がたくさんありますが、まずは、
「ありがとう」
って言いたいです。
ああ、もう行かなきゃ。
私の日記もここでストップ。
また、書く日が来るといいな。その時は、きっと‥‥‥。
おわり。
(フェーリー・グリュック・マルウール・コントール、十六歳の時の日記より抜粋)
そこは、瓦礫が散乱していた。
新しい土地を確保するために、古い建物を壊したのだろう。
その上を、一人の少年が歩いていた。
神成だ。
彼は、思い出していた。
屋上で、ヨトゥンに遭遇し、ボッコボコにやられ、挙げ句の果てには家までよくわからん魔法を使って送ってもらった時、渡された。
【夜八時、廃ホテル『クォーター』まで来い】
日本語で書かれた紙切れを。
「来たぞ、どこだ!」
神成は、大声で叫ぶ。
直後、弾丸が一瞬にして、神成の頭上を通りすぎた。
「そこから動かないで、一歩でも動いたら撃つ」
上を見上げると、崩れかけのホテルの三階に当たる部分に、赤色の髪の女が居た。
「あんたに用はないんだ。早くあのクソジジイを出せ」
「それは命令の中に無い。命令は、『目標』を撃つだけ」
女は、一つ間を置くと、
「あなたがその目標‥‥‥。OK?」
そして、撃つ。
女は、容赦なく撃つ。弾丸は、神成がいた場所へと飛ぶ。
しかし、神成はいない。
「‥‥‥クッ」
女が小さく呟いた。
最初に、『ロックオン』をしておけばよかったと思った。
女は、見失った目標を探すために、再びスコープを覗く。
一方、神成は‥‥‥。
「ちょちょちょっと待って、怖っ!いきなり撃ってくるとか怖っ!」
走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥。クソッ!奴にだって弱点はきっとあるはずだ!」
そういえば、ここに来て最初に撃たれたとき、違和感を感じた。
何かが違う。
何かが違う。
何かが違う。
何かが‥‥‥。
「あれっ?」
何かに気づいた。
気づくのが遅すぎた。
‥‥‥ザザ‥‥ザザザザッザザザザザザザザザザザ!!!!!!
そして撃たれた。
一瞬だった。どこから飛んできたかもわからない銃弾が、神成の左足を貫いた。
骨と肉がめり込む音が、神成には確実に聞こえた。
痛みは、後からやってくる。
「がっ、がああああああああああああああああああっっぁぁぁぁぁあああぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!」
「私が近づくの、気づくの遅すぎた」
いつの間にか、女が立っていた。
神成が地面に倒れる。
女は、あの長いスナイパーライフルではなく、手のひらサイズの黒光りする拳銃を持っていた。
「‥‥‥なぜ、そこまでする」
拳銃を神成に向けたまま、女が聞いた。
「聞きたいか?」
神成は、倒れたまま顔を女に向ける。
「聞きたいか?」
「‥‥‥ああ」
「あの『ヨトゥン』とかいうクソジジイに脅されてんだよ。【ここに来い】って手紙を渡されてな」
「脅し?」
「ああ」
「うちの妹とうちの居候が今、死にかけてる」
「ここに来ないと死ぬってさ。今もベッドで唸ってるだろ」
「‥‥‥」
「わからないか?大切な人を護りたいって気持ちが、わからないか?」
女は、拳銃を構えたまま、哀しい目をした。
「わからない。私には、わからない。わからないんだ。わからないんだよ!」
女は続ける。
「私は、記憶がない。ヨトゥンに拾われた時からしか‥‥‥、十二歳のころからしか記憶がない。母も、父も知らない。兄がいたのかも弟がいたのかも、姉がいたのかも妹がいたのかも‼」
女は、赤い髪の女は、泣いていた。透明の液体が、目から落ちてくる。
「だったら‼」
神成が、言う。
「‥‥‥だったら、家に来い」
そして、地面に手をつき、立とうとする。
女は、慌てて拳銃を向ける。
「家に来い。教えてやる」
足を撃たれている神成だが、気にしなかった。
「な、何を‥‥‥?」
女の涙は、止まらなかった。
「全部だ。母と父はさすがに無理だが、兄なら俺がやる。妹なら、俺の妹がいる。姉なら、居候だがフェーリーがいる」
ついに、神成は立った。
「来い」
女は‥‥‥。
「‥‥‥わたしを‥‥‥。わたしを、『家族』として‥‥‥、見てくれるか‥‥‥、いや、見て‥‥‥くれますか?」
涙で、神成の顔が見えなかった。
しかし、わかった。
彼が、屈託の無い笑顔をしていることに。
そして、女は安心して、
「行かせると思ったか?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
確かに、そう言った。
最初は、女の声だとは思わなかった。
しかし、間違いなく女の声だった。
女は、驚いた顔だった。
そして、異変があった。
女の目が、青色の目が、急に黒くなった。
その目は、一切光らなかった。
「わしが、『裏切り』対策をしないと思ったかのう?」
「ま‥‥‥さか、お前‥‥‥」
女は、淡々と答え、
「そうじゃ。あんたが探しているヨトゥンじゃ」
黒い目を神成に向け、拳銃を構え直した。
「‥‥‥ふざけんな、勝手にそんなことをして!お前は人をバカにしすぎだ!」
「人をバカにして何が悪いかのぉ。わしは、ただ、『鉄槌』を下すだけじゃが」
女は、女ではない言葉を一度止めると、
「それに、自分の心配をしたらどうじゃ?」
そう言って、思いっきり、神成の腹を殴った。
メガゴギッ!!という音がした。神成の腹からだった。
「カッっっ‥‥‥ゴホッっ‥‥‥ぐっ!」
神成の口に、赤黒い液体が溢れる。
女は、話を続ける。
「大体、わしが盛った毒に引っ掛かったのはあんたたちじゃないのかね?」
「知るか‥‥‥グゲゴフッ!」
「まだ殴られるかい?三人ともゆっくり死ぬぞ?」
ふざけるな、と思った。
何もしないで、死んでられっか。
神成の目に、力が入る。
まずはここから逃げる。そのあと、また作戦をたてればいい。
反撃の、始まりだ。
『なあ、知ってるか?』
唐突に、少年は口を開いた。
先程までサンドバッグにされていた少年だったが、まだ生きていたのか。
女の中に埋め込んだ魔法『自動意識』が発動し、意識を女に移したヨトゥンは、少年が言葉を発していることに気づいた。
「なんじゃ、まだ生きて―――――」
『魔術の発動の仕方だがよぉ、二種類あるらしいな』
ヨトゥンの言葉を遮り、少年は続ける。
『フェーリーが教えてくれたよ。〔確定魔術〕と〔不確定魔術〕って言うらしいな』
「‥‥‥まあ、そうじゃな。例外はあるがの」
不思議な会話だった。立って少年を見下ろしている、爺語を喋る女と、血だまりの中で倒れている少年の、会話。
『やり方だが、頭の中である程度の準備をするんだってな。例えば、ここからここまでを爆発させようかな‥‥‥っていう感じで』
「そうじゃ、そういう『枷』を用意せんと、日常生活に支障が出るわい」
『そして、一番の重要ポイントが『キーワードと一文章程度の詠唱』。合ってるか』
「ああ、合っとるぞい。そのフェーリーというのは賢いのー」
『詠唱の途中に、その魔法一つ一つに決まっているキーワード‥‥‥、例えば【炎上】とかな。‥‥‥を言えば、魔法は起動し、最初の準備で決めたことが発動するんだろう?』
「しかし、そのキーワードを聞いただけで魔法名を当てる輩が現れよった。大変なんじゃぞ」
『そうか‥‥‥、
では、今魔法を発動出来るな?』
最初は、ヨトゥンにはわからなかった。
しかし、少年の『なあ、知ってるか』からここまで、よく考えれば魔法として使える。
頭が、危険信号を出している。
キーワードが【炎上】の魔法名は‥‥‥。
『ザステリアアアアアァァァァァァァァァァァッッッッッ!!』
廃墟で、大きな焔の爆発が起こった。
ヨトゥンは、廃墟のホテルの一室のベッドで目が覚めた。
『自動意識』は、『オーディン』の精神から途切れていた。
つまり、オーディンは死んだ。
あの少年が、殺した。
「‥‥‥やるじゃないか、小僧‥‥‥‼」
誰もいない部屋で、老人は一人、小さく笑った。
その日、永友恂之介は、自分の家に帰っていた。
学校が終わったあと、塾へ直行し、今日習った場所をしっかり復習したので今は満足していた。
帰りの電車で自由化型携帯を起動すると、ニュース欄に載っていたニュースが気になった。
『廃墟で謎の爆発―――科学的に証明できず』
「ふーん、この町にも分からないことはあるんだな」
駅を出て、神成家の前を通った。
しかし、電気はついていなかった。不思議に思うと、
「あっ、あなた、神成さ‥‥‥お兄ちゃんの隣の席の人ね」
そこに、紫蘇野神奈がいた。
「あれ?神奈さん。何やってるんですか?」
神奈は、一度うつむいたが、こう言った。
「ごめんなさい、ちょっと、一緒に来てくれる?」
神成は、ホテルのロビーだった場所へ入った。
そこに、ヨトゥンはいた。
「やあ、やっと会」
そこで、彼の言葉が止まった。神成の体が左右非対称だったからだ。
まず、左腕が無かった。
そこから、赤黒い液体が流れ出ている。
二つ目に、左目が無かった。
そこから流れる液は、まるで涙のようだった。
しかし、少年は、立っていた。
しっかりと、ヨトゥンを見ていた。
ヨトゥンは、
「バカが。あんな至近距離で、『デージュ四』の魔法を使うからじゃ。ああ、言っておくが『デージュ』とは、魔法の、言わばレベルじゃ。全部で六つに分類されるぞ」
笑った。バカにした。
それだけだった。
それだけしか、言えなかった。
直後、
ヨトゥンの右腕が、飛んだ。
右腕が繋がっていた場所からは、神成と同じように血が出ていた。
「は?」
ヨトゥンの、口からだった。
それだけしか、言葉として聞こえなかった。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああがファは画がはあはあfhっがうあhkjgsjshsjskdgdkAJFHDKSJSHDGHNSHSVSVVSVDSKAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ヨトゥンは、左右非対称になった体を歩かせた。
よく見ると、それは神成とは違うところがあった。
右目が紅い。
それは、神有島で伝説になった男の、魔法を発動した姿ではなかったか?
神成は、右手に持っていた刀、『雷神蕾刀』を|左手に持ち変えた。
‥‥‥左手?
よく見ると、左腕から光が生えていた。
いつの間にか、血が止まっていた。
それをヨトゥンが確認すると同時に、金色の範囲が二人を包む。
そして、少年が、口を開いた。
「誰が何と言おうと、この範囲内」
目が、ヨトゥンを睨む。
「俺が神だ」
ヨトゥンは覚えていた。昔、そんなセリフを目の前で言った男がいた。
彼は、<雷>と呼ばれていた。
ヨトゥンは、神成が、ナイフを下に、銃口と同じ向きを向いて付いてる拳銃を向けたところで、見えなくなった。
ただ、これは覚えている。
「あの世で、釜に焼かれてろ」
そんな、少年の言葉を。
えー。
どうも、五月雨度巳です。
ええ、言いたいことは分かりますよ。
すいません。スッゴク期間が開きましたね、三章と四章が。
三章、二月に書き終わったんですけど、四章がねぇ。
誰が悪いって私ですねすいません。
次はチョロっとエピ書いたあと、科学(国立東宮柁高等学校)サイドを書きたいです。
ヴェヌスタも出ますよ~。
それでは。
ヴェヌスタの能力は何なのか!?
蜂操る能力でないことは確かです。
五月雨度巳