メイド長。昇天
メイド長さんだけのため、短いです
美しい金の髪をなびかせ、水色の混ざった灰色の瞳を動かしテキパキと仕事をこなす女性。
この魔王城のメイド長だ。
メイド長の朝は早い。誰よりも早く起きて、メイド達を起こす。その日の役割を伝え、自分の仕事につく。
今日のメイド長の仕事は城内の清掃。開けられた窓からは優しい日差しと暖かい風がカーテンを揺らしていた。ぼんやり外を眺めていたいほど、気持ちのいい天気だ。
(洗濯日和ですね)
くつろぐ考えより先に仕事の考えになる。好きで仕事をしている方の人だから本人はそんな考えになるのも、嫌じゃないのだろう。
メイド長にとって仕事が苦でないのは、ある理由がある。
ーー
城内を見回っていたところ、メイド長は窓ガラスに額を擦りつける魔王様を見た。
(あら、魔王様……。どうしたのでしょうか?)
メイド長は気になり魔王に近付いて声をかける。
「何か、お悩みですか?魔王様」
魔王は少し肩を揺らすと此方に振り向いた。鎖骨につくほどの長さの黒髪はとても触り心地がよさそうだ。魔王はその蒼い瞳でメイド長を見つめる。
「私で良いのなら、相談のりますよ」
「…あっ、いや。何でもない。大丈夫」
魔王は笑顔を作ってみせる。
「そうですか?…まあ、弟さんの方が話しやすいでしょうからね」
少し疑うような表情をしてから冗談ですと笑う。
「うっ…ま、まぁ、そうだな。」
否定のできない魔王を面白そうに見つめる。
「いつでも何でも、私にお申し付けくださいね。」
そう言い、一つお辞儀をするとスカートを翻し足早に去って行った。
メイド長は素早く壁の影に隠れると、両頬に手を当てる。
(わ、私っ、魔王様と、喋っちゃったっ!)
頬を若干ピンクに染めて喜びが顔にこみ上げてきている。今まさに、メイド長は天にも昇る気持ちでいた。
メイド長が仕事を苦に思わない理由はこれだ。つまり、メイド長は魔王の事が好きなのである。尊敬か、恋かは本人もよくわかっていない。
好きな人と同じ屋根の下。それだけで満足だというのに、笑い合いながら話まで出来るとなると昇天してもおかしくない。メイド長は日々思う。
大好きな魔王のためメイド長は今日も働く。
魔王様の為を、魔王様を想いながら仕事をする、それこそメイド長の生き甲斐である。
ーーメイド長が魔王様の異変に気付いてしまうのは少し先の話…。