魔王様。頼まれる
お待たせいたしました
下を向いたまま席に着く。
「悪かった。」
『いえ』
少しの静寂が息苦しい。
何か切り出さなくては…そうだ、此処に来た理由。確かはなしがあるとか…
俺が切り出そうとして顔を上げる
『貴方に話、というのはですね』
先に僧侶が言葉を発した。
『…頼みがあるんです』
「頼み?」
『はい』
僧侶は何かを考えるようにテーブルの紅茶が入ったカップに目をおとす。
『こんなこと、頼むのも…おかしいと思いますが……』
僧侶はこちらに目を戻し、じっと見つめる。綺麗な桃色の瞳。深く…引き込まれるような……。俺は目を逸らすことを忘れていた。
『どうか、勇者さんに手加減をしないであげていただきたいのです…』
静かに言う。僧侶の瞳はこちらをじっと見ていた。
本気だ。表情は変わらないがきっと真剣に、必死に頼んでいるのだろう。そう思った。
『貴方…魔王は、これまで沢山の勇者を倒し…二度と立ち向かえない程の強さだと伺っています。実際に貴方はとても強かった。でも、何故かはわかりませんが僕だけにじゃなく皆に手加減をしていた。』
僧侶の言葉にどきりとする。
『貴方と戦ったあの時…何故…逃がしてくださったのですか…?それが貴方の策略なのですか?』
鼓動が早くなっていく。理由なんて言えるわけがない…。
『………。勇者さんは強いです。貴方にとっては弱くても、勇者さんは僕達を救ってくれた。とても…強くて優しい勇者なんです。』
少し僧侶の口元が緩んだ気がした。
「お前は…勇者が好きか」
…………何言ってるんだ俺は!?おかしなやつだと思われたに違いない!
俺の口から勝手に気持ちが溢れていた。僧侶は暫く黙っていたがふと口を開いた。
『好き。という感情はよくわかりませんが…尊敬はしています。』
呆気にとられた。思わず口を半開きにしたまま固まる。
こいつも相当おかしなやつだ…… 。表情も変わらないし、感情がわからないだと…
「そう…か…」
会話が途切れ、また静寂が部屋を包む。僧侶は紅茶を一口飲んだ。
「…俺は手加減などしていない。今までもこれからも…だからまた倒しにくるがいい。………その時は、お前らを殲滅してやろう」
『…!ありがとうございます。…首洗って、待っててくださいね。』
使い慣れてない言葉だったせいか少しぎこちなく言った彼女の瞳は輝いているようにも見えた。
◆
「魔王様のこと、どう思う?」
魔王城の外、門前。
僧侶は魔王に宣戦布告をし、帰るところだ。その隣には魔王の弟がいた。
『どう…?』
僧侶はすっかり雨が止んだ明るい空を見上げながら聞き返す。そして暫く考える素振りを見せた後、弟を見る。
『魔王としては…駄目ですね。』
「ふっ…駄目か。そうだよなぁ」
けたけたっと声をあげて笑う。
「…じゃあさ、人…一人の人としてだったら?」
僧侶が少し目を見開いた。
『…人、ですか。そうですね…優しい人だと思います。自分の人格を持っていて、魔王らしくなくて…
』
どこか柔らかい表情をした僧侶に弟はまた笑う。
「そっか。魔王らしくなくて…か」
『…そろそろ帰りますね。勇者さん達が待ってると思うので』
「一人で大丈夫か」
『大丈夫です。』
ふと僧侶の真っ白な髪を風が撫でた。その髪から覗いた桃色の瞳は宝石のような輝きを放っていた。
『おかしな兄弟ですね。』
少し笑った!?
今までずっと無表情だった僧侶の口元は柔らかく微笑んでいた。
ああ…なんか、兄貴の気持ちがわかったような気がする。
「なんであの顔を兄貴に見せてやらないかなぁ…」




