メイド長。知る
メイド長さん
…ー私は見てしまったのです。聞いてしまったのです。
メイド長は部屋に僧侶を通した後お茶を淹れ、再び応接間に向かっていた。するとちょうど、角を曲がろうとした時に魔王が応接間から出てくる。突然出てきた魔王に驚きメイド長は、咄嗟に身を隠す。
(な、なんで隠れたのでしょうっ!隠れる必要なんて無いはずなのに…)
自分の左胸に手を当て、きゅっと握る。鼓動が早い。部屋中にこの音が響いているのではないかと不安になるくらい大きく跳ねていた。
ふと、魔王とその弟の話し声が聞こえてくる。メイド長は悪いことだとは思いながら、そっと聞き耳を立てた。
「駄目駄目じゃん。兄貴」
「う、うるさい…仕方ないだろう」
「まあ?経験なんて無いんですからねぇ?」
(なんの話をしているのでしょう…二人とも)
「落ち着け兄貴。緊張することはない。…別に僧侶に今すぐ告白しろとか言ってる訳じゃ無いんだ」
(こ、告白っ!?僧侶?えっ……?)
「ん、なっ…!?」
弟はそう魔王に言い、その場から立ち去った。メイド長は会話の内容に固まったままになる。
「魔王様が……」
小さく呟くと足をもと来た方向に向けた。
(ありえない。ありえないわ。そんな、魔王様が………
恋だなんてっ!!)
心の中で叫ぶ。耳を塞ぎうずくまった。
「よりにもよって…僧侶だなんて…………。敵じゃないですか」
思っている言葉を口が勝手に紡いでく。目が熱くなるのがわかった。手が震えてる。
(ああ、こんな感情的になったって、何も起こらないわ)
メイド長は目をこすると立ち上がった。
「おっと…」
目の前には誰かがいた。顔がぶつかりそうに近い。誰かはメイド長より背が高いため胸のあたりしか見えない。
(この…服って)
見覚えがありすぎて顔を上げたくない。恥ずかしいところを見られてしまった…。
しかし、無視するわけにもいかない。
「ご、ごきげんよう…弟さん」
そう言い、一歩下がり顔を上げる。弟はばつが悪いように笑った。
「もしかして…聞いてた?」
頭によぎる。さっきの会話が、ずきんとメイド長の胸に刺さった。
「……そっか。まぁ…ー」
「いいんですのよ。見守るのがメイド長のつとめ…ですからね」
弟の言葉を遮り、精一杯の笑顔をつくるとメイド長は足早にその場を後にした。
(私は魔王様を見守ることしか、出来ないから)
「……はぁ、兄貴…馬鹿だな」




