表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックシェルフ

幸せと不幸せ


「お前は今幸せだ」


突然告げられた言葉に、少女は不機嫌そうな顔をし、次いで呆れた顔をする。


「いきなり何?頭がおかしくなったの?…ああ、君は元から頭がおかしかったわね。愚問だったわ」

「何を言っているんだ、馬鹿女。オレはまともを通り越して天才だ。…仕方ない、愚かなお前にもわかるようにオレが解説してやろう」

「天才通り越して馬鹿の間違いでしょ。…はいはい、勝手にすれば」


少女がさらに呆れた様な顔をすると、少年は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうだった顔を更に不機嫌そうに歪めたが、すぐに元の少し不機嫌そうな顔に高慢そうな表情かおを被せる。


「オレは天才だと言っているだろうが。…まず、お前が幸せだと断定する為には、幸せという事象を規定しなければならない。それはわかるな?」

「そりゃあ、そうでしょうね。幸せがどういうものかわからなければ、私が幸せかは分からないわ」

「では、幸せとはどういうものかわかるか?」

「は?…そんな事、突然言われてもわからないわよ」

「では、不幸ならどうだ?」

「え、あー…突然、事故にあって大怪我をする、とか?」

「ああ、それは不幸だな。では、仮に健康を損なわれている状態は不幸なのだとしよう。なら、字面からして、不幸とは幸福ではない状態、というう事であるから、不幸ではない状態…つまり、健康だという事は、幸福だという事になる」

「…何か、無茶苦茶な理論展開が行われたような気はするけど…確かに、健康に過ごせる、という事は幸せな事かもね」

「納得がいかない、という顔だな」


少年はニヤリ、と意地の悪そうな笑みを浮かべる。少女は眉間にしわを寄せたが、すぐ鼻を鳴らして答える。


「健康な事が幸せだと主張するのは病人や元病人位じゃない」

「ああ、そうだ。そして、それは当然の事だ。人間は比べることでしか物事を判断できないからな」

「そうかしら?」

「そうだ。比べていないつもりでも、比べているものだ。例えば、正解、基準、過去の記憶…それらと同じか、違うか、それを比べているにすぎない」

「…じゃあ、君は、幸せは不幸せと比べるから幸せという事になるんだ、とでも言いたいの?」

「その通りだ。少しは頭を使う様になったようだな、馬鹿女。…人は、不幸な目にあってこそ幸福を知るし、逆もまた然りだ。最初から幸福を知らなければ、自分が不幸だとは思わない。それは"普通の"事だからな」

「人を馬鹿馬鹿言うなって言ってるでしょうがこのバカ。…で、結局どういう事なの?」

「不幸がどんなものか知った上で現在を不幸だと思わないのなら、お前は今幸せだ、という事だ」

「…面倒くさくなって色々はしょったでしょ」

「何故なら、"幸せでない状態"は不幸とは限らないが、"不幸で無い状態"は大抵幸せだからだ」

「…いや、それはどうだろう」

「では聞くが、"不幸でなく、幸せでない状態"とはどんな状態をいう?」

「え、そんな事突然言われてもわからないわよ」

「"退屈な日常"だ」

「…。…退屈でも日常を送れるのは幸福だ、とでも?」

「否。日常を退屈だと言えることが幸福だという事だ」

「…あー…成程、"不幸ではないという幸福"ってわけね…」

「そういう事だ。だから、お前は今幸せだろう?」

「…そりゃあ、確かに不幸って程の事はないわね。そういう君はどうなの。幸せ?」

「オレは幸福だ。何故なら天才であり、他者より優れており、恵まれているからだ」


少年は全く幸せそうでない顔で言いきる。少女はそれを胡乱な眼で見ていたが、暫くして小さくため息をつく。


「ああそう、それはよかったわね」

「お前も、オレを言葉を交わせて幸せだろう」

「巫戯けるなバカ」





多分、日常の一コマ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ